発表
おれの異動が決まり、来月からは新しい職種の店に変わる。
どんな事が起きるのか、少し不安もあるが、楽しみでもある。
とは言っても、たったの2ヶ月の事だ、きっと慣れて来たかな? なんて感じる頃には、また異動だろう。
そんな新しい出発の事を思いながら過ごしていたら、あっという間に今月も今日で終わりだ。
キャバ嬢達の混乱を避ける為に、ずっと異動の事を黙っていたが、今日の閉店後の月末ミーティングの後、知らせる予定だと店長が言っていた。
キャバ嬢達は、怒るかな? 祝福しながら送り出してくれるかな? 泣かれたりするんだろうか?
まぁ……この業界、人の出入りは激しい方だ。みんなも、キャバ嬢が男性スタッフが店で働き始めるのも、辞めて行くのも何度も目にしてるから、大丈夫だと思いたい。
そして、ちょっと複雑な思いのままに、閉店時間を迎えた……
今日は、月末なので、男性スタッフだけでは無く、レギュラーとして店に出ているキャバ嬢達も、ミーティングに参加する。
何故なら、毎月末には、今月の売り上げの発表と、それにより変動した、店のキャバ嬢としての順位発表があるからだ。
粗方の掃除を終わらせた、男性スタッフの手により、店中のヘルプ用の丸椅子が集められ、並べられていく。
そして、着替えを終わらせたキャバ嬢達が順に思い思いの椅子へと座り、ミーティングの開始を待つ。
その間に、店長と大村マネージャーと俺の3人は、手分けして素早く今日の分のキャバ嬢達の売り上げや、指名の本数なんかを、計測して、各々の売り上げに加算する作業に没頭する。
漸く今日の分の売り上げを計測し終え、それまでの売り上げに加算した、キャバ嬢達の【成績表】が完成した。
店長が紙の束を片手に持ち、キャッシャーボックスから、店に出ていく。
『いや~待たせちゃってごめんね』
そう言いながら店長は、キャバ嬢達の対面にあるテーブル席のソファーに座った。
俺は、店長を先に行かせ、キッチンに行き、自分の手でグラスにコーラを注ぎ、片手にコーラ、反対の手に、3つ重ねた灰皿を持って、店長の左隣に座る。
店長の前と、大村マネージャーの前に、灰皿を1つずつ、テーブルの上を滑らせて、置くと、店長と大村マネージャーから、小さな声で『ありがとう』と言われた。
ジャケットの裏のポケットから、タバコとライターを取り出し、タバコに火を点け、肺に煙を流し込みながら、店長が話し出すのを待った。
『それじゃ、今月の成績の発表から始めます』
店長のその言葉に、対面に座るキャバ嬢達が、居ずまいを正して、店長に注目した。
『先ずは、各指名ボーナスの受賞者から発表します、本指名ボーナス、エリカ、アカネ、ルイ、マミの4名』
店長の発表の後に、幹部と男性スタッフ一同は、受賞者達に向けて、大きな拍手を送った。
受賞者達、本人は、自分がどれだけ本指名を、今月に受けたのか、しっかりと自分達でも数を数えていたのだろう。特に驚くでも無く名前が呼ばれた事を、黙って受け止めている。
『次に、場内指名ボーナスの受賞者を発表するぞ、場内指名ボーナス受賞者は、アヤとユイ』
またしても起こる男性スタッフ達からの大きな拍手。
そして、先程のキャバ嬢達とは、違い、今名前を呼ばれた2人は、自分の名前が呼ばれるとは、思ってなかったようで、非常に驚いていた。
『ほらほら、場内指名ボーナスぐらいで、喜ぶんじゃないぞ、来月は、本指名ボーナスの発表で名前を呼ばれるように頑張らなきゃな』
大村マネージャーの言葉に、アヤとユイは、大きく頷いた。
『それじゃ、TOP10の発表に移るぞ~』
いよいよ、月末に行われる、ミーティングの最大の目玉が発表される。
『今月のNo.10はユイ、おめでとう』
男性スタッフ達が拍手で祝福を贈る。
『今月のNo.9はアヤ、おめでとう』
そうやって、順に名前を呼んでいく。順位を上げた者、順位を下げてしまった者、皆それぞれ色んな表情を浮かべ、自分の順位に納得していく。
『今月のNo.4……ここからは売り上げバックマージンも発生してるから、売り上げ金額も一緒に言うからな、今月のNo.4はマミ、売上高106万7,500円、おめでとう』
初の売り上げバックが貰える事になったマミは、嬉しすぎたのか、泣いてしまった。
マミの今月の給料は、ざっと計算しても、60万円を越える、嬉しいだろうな。
『今月のNo.3はルイ、売上高270万6,000円、おめでとう』
ルイは、思ったよりも売り上げを上げられなかったのか、少し悔しそうな顔を浮かべた。
『今月のNo.2はエリカ、売上高316万0500円、おめでとう』
店長の発表により、全男性スタッフもキャバ嬢も、少しざわつく。ずっとNo.1だったエリカの牙城が崩されたからだ。そして、TOP3の中には確実に名前が入っていると、みんなが思っていた、まだ名前が呼ばれていないキャバ嬢に、注目が集まる。
『今月のNo.1はアカネ、売上高344万8,700円、おめでとう、アカネおめでとう、お前が今月のNo.1だ』
ミーティングに参加している、アカネを除く全ての者が、No.1になったアカネに向けて、大きな大きな拍手を贈る。
ざわつきが収まるまで俺は新しいタバコに火を点け、すっかりと温くなったコーラを飲んで待つ。
その後、各マネージャーと店長からの話しが済み、男性スタッフの代表である1人のチーフからも、気になった点、気付いた点などの発表が終わった。
店長が、大きく手を、パンパンと叩きみなの注目を集めた。
『え~本来なら、これでミーティングは終わりなんだが、ここでみんなに、もう1つ大事なお知らせがある』
そう言って俺に視線を送ってきたので、俺は席を立った。
『ここに居る木村マネージャーだが、今日を持ってこの店から違う店へと異動する、これは本社の意向でもあるし、本人の希望でもある』
店長の言葉の後に続き、俺は深く頭を下げた。
頭を上げると同時に、No.1の発表の時とは、比べ物にならないぐらいの喧騒が店内を包んだ。
『はいは~い! みんなちょっと静かにしような! 今から木村マネージャーが話をするから!』
店長のいつにない大きな声で、ざわつきが静まる。
「え~みんなさんと、一緒に仕事をしてきましたが、本日を持って、この店から離れ、新しい店へと移ります、これは会社の命令でも何でも無く、俺の意思により決まった事です」
キャバ嬢達からは、何で? どうして? 辞めないで! 等の悲鳴にも似た叫びが出ていた。
「俺も、みんなと離れるのは、辛い、だけど俺はもっともっと、この風俗業界ってヤツを知りたいんだ、その為には、1つの店にずっと居ちゃ、望みは果たせない、それに、俺は、もっともっと出世もしたい! この店1つでは到底満足なんて出来ない!」
「俺のこの気持ちは、お前達なら、理解してくれるよな? 1つでも上の順位に、1,000円でも多くの売り上げを、そうやって仕事を頑張ってる、お前達キャバ嬢なら、俺がもっともっと出世したいって気持ちも解ってくれるよな?」
最後の方は、キャバ嬢達に向けてのお願いのような形になってしまった。
そして、キャバ嬢達の中に座っている、アカネが俺に向けて拍手を贈ってくれた。
その拍手は初めはアカネ1人しかしてなかったが、アカネの次にルイが、エリカがマミがアヤがと、どんどんと連鎖していき、いつしか、男性スタッフや、店長に大村マネージャーすらも、俺に拍手を贈ってくれていた。
「それに、別に会社を辞める訳じゃ無いからな、店が変わるだけで、別にお前達に、2度と会えないとかじゃないから、後、何かあったら電話してこい、同じ系列の店で働くキャバ嬢の悩みや相談なら、喜んで聞いてやるから」
その後……アカネ達に囲まれて、何で黙ってた等、散々怒られたのは、語るまでも無い。
これにて、第2章キャバクラ編が終わりになります。次からは、第3章セクキャバ編が始まります。
後、この次にひょっとしたら、裏話その3を投稿するかも知れません。まだ少し投稿するには、文字数が少ないので、あくまでも【未定】です。




