ある風俗嬢の告白(ユキの想い)
難産でした……(吐血)
あの後、ずっとはしゃいでいたユキの勢いに乗せられて、お祝いだぁ~と二人で、焼肉を食べに行った。
今は、ユキに腕まくらをして、俺の胸の中で、静かな寝息を立ててるユキの温もりを感じていた。
ユキが身じろぎを、始めた、寝返りでも打つのだろうと思った俺は、ユキの頭の下を通して、ユキの柔かな体を抱いていた手を緩める。
『……太郎ちゃん起きてる?』
抱いていた俺の手の温もりが消えた事を感じ取ったのか、ユキは目を覚ましたようだ。
「起きてるよ、ごめんな起こしちゃったか?」
ユキは、俺の胸の辺りにあった自分の顔を、俺の顔がある辺りまで出してから、小さく頭を左右に振った。
『あのね、太郎ちゃん……ちょっとだけ、お話を聞いて欲しいの……』
「あぁ、何?」
そう言ったきり、何も言い出さないユキ、静かな静寂に包まれた部屋に、俺とユキの呼吸する音だけが聞こえる。
沈黙に耐えられなくなり、ユキに声を掛けようとした時に、ユキが静かに話を始めた。
『あのね、太郎ちゃん、私ね、ヘルスで働く前に、キャバクラではたらいてたんだ、自分では頑張ってたつもりだけど、全然人気も出なかったけど……』
初耳だった。ユキもキャバクラでの仕事の経験があったんだ。
『それでね、その時に働いてたお店の店長がね、その店のNo.1の子に、その……太郎ちゃんが店長さんから聞いたような事をしてたの』
「そっかぁ」
『それで初めは、女の子を利用してる店長も、利用されてる事にも気付かないNo.1の子も、どちらも嫌いだったんだ……だけどね……』
俺は静かに何も語らず、ユキを抱き締める腕に力を込めた。
『私も、キャバクラからヘルスって、風俗嬢って仕事を続けて行く内に、良いか悪いかは別にして、そう言う事も必要な事なんだって気付いたの……』
『それでね……きっと太郎ちゃんも、いつか近い内に、そんな事が必要になるだろうなぁ……って思ってたの、太郎ちゃんのお店の店長さんから太郎ちゃんが聞いた、もう1つの方法なんて、太郎ちゃんに聞くまで知らなかったしね……だから、そう言う事が、太郎ちゃんに必要になったら、その時は、そう言う事が必要になる業界で働いてる私は、太郎ちゃんが、そう言う事をしても、絶対に怒らないで、許してあげよう……その時に私が邪魔になったら、ちゃんと聞き分けて別れてあげようって……そう考えてたの……』
ユキの告白に、驚いた……そこまで俺の事を考えていてくれたなんて……
『だけど……太郎ちゃんは、店長さんの言ってた、もう1つの方法を自然と選んで、成功させたんだよね?』
そう俺の目を見つめ、問い掛けてくるユキに、俺もユキの目をしっかりと、見つめ返し。
「あぁ……あぁ、成功させたよ」
『それじゃ、私……太郎ちゃんと別れ無くていいんだよね? ずっと今と同じまま、太郎ちゃんの事を好きでいていいんだよね?』
「当たり前だろ、何を言ってんだよ、俺が仕事の為にユキを捨てるなんて事を選ぶ訳が無いだろ、ユキは俺の大事な、愛する人なんだから」
俺の言葉を聞いたユキは、自分の感情を抑えられなくなったのか、堰を切ったように、声を上げて泣き始めた。
『よかった……よかったよ……怖かった……怖かったんだよぉ、いつ太郎ちゃんが……私に……別れてくれって言ってくるのか……怖かった』
そう言いながら泣き続けるユキを、2度と悲しませるものか! そう決意しながら、しっかりと両手で抱きしめ、ユキの頭を撫で続けた。
『太郎ちゃん……もう1つ聞いてもいい?』
しばらくは、泣き続けていたユキが、落ち着いてきた頃に、そう聞いてきた。
俺は、ユキの顔を見ながら、静かに頷いて答える。
『太郎ちゃんは、私のような風俗嬢と付き合う事に抵抗は無かった?』
「抵抗かぁ、まったく無かったな、と言うか逆に、ユキが俺なんかで良いのか?って思ったな、ほら、ユキはとっても可愛いから」
そう答えると、ユキは、ニヘっと微笑んだ。
「何で、そんな事聞いたんだ?」
『うん……だって私は、風俗嬢だから……私の仕事は、男の人の前で裸になって、それだけじゃ無く、男の人に自分の体を使って、色々するから、普通の男の人なら、嫌がって当然だと思うから……何で、私のような風俗嬢と、付き合ってくれたのかな? って』
「そうだなぁ……抵抗が、まったく無いって断言は出来ないが、ユキが風俗嬢だから嫌って事で嫌だと思う事は無いな、ユキが選んだ仕事なんだから、俺は風俗嬢のユキを好きになったからな」
『そっかぁ……ありがとう太郎ちゃん……』
「ユキ、ちょっとだけ俺の話も聞いてくれるか? ユキの持ってる疑問の答えになってるかは、俺にも分からないけど」
そう言うと、ユキが頷いた。
「ユキに告白される少し前に、お店に、障ガイを持ったお客さんが来たんだ」
『あぁ……うん、たまに来てたね、私も着いた事あるよ、普通の人と変わらなかった』
「そうだな、ちょくちょく来てたみたいだな、その時に、付き添いをしていた、男性のボランティアの人と話す機会があったんだ、その人は【風俗で働いてる人全て、中でも風俗嬢の人達を尊敬している、感謝している】そう言ったんだ、俺には最初、何でなのか分からなかった」
「その人は、俺にこう話してくれた……障ガイを持って生まれた彼等も、健常者と同じ人間なんです、同じように喜怒哀楽があり、同じように人を好きになる、そして……同じように性欲もあるって」
「だけど、その性欲を解消させる方法は、今の社会の中では、たった1つしか無いんです、そう言ってた、その唯一の方法が、こうやって風俗店に来る事なんですって……彼等は、人から好奇の目で見られたり、差違の目を向けられたりする事もあります、でも、風俗店で働く人達は、風俗嬢の方達は、絶対に彼等を、そんな目で見ないで、健常者と何1つ変わらない、同じお店に来てくれる【お客さん】として扱ってくれます、風俗嬢の方達は嫌な顔なんて絶対に見せずに笑顔で彼等に接してくれます、そして同じ【お客さん】として彼等の持つ性欲の解消の、お手伝いをしてくれるんです、だから、私は、風俗嬢の方達全てを【尊敬して感謝しています】そんな話を聞いたんだ」
ユキは自分達が、人から尊敬や感謝されていると言う事実を初めて知ったのか、目に涙を浮かべ、俺の顔を見続けている。
「なぁ……ユキ……人がする仕事ってやつは、どんな仕事でも必ず【誰かの役に立ってる】って俺は、思ってるんだ、だけど人から【尊敬】される仕事は……そうだなぁ……【政治家】【警察官や消防官】【医者や看護師】【自衛隊の人】そのぐらいじゃないかな? そんな、人に尊敬してもらえる仕事の中に、ユキが仕事としている【風俗】が入ってるんだ、それってスゴい事だと、俺は思う、だから、風俗嬢だから嫌だなんて俺は、これっぽっちも思わないな」
俺の話を聞き終えたユキは、涙を流しながら、うん! うん! と言い続けた。
俺はそんなユキの事を、もう1度強く抱きしめた……