キャバクラの存在意義
初めてキャバ嬢の方から、相談を求められた事に、素直に認められてるんだな。と言う思いが込み上げて嬉しかった。
アカネに、先導されて着いたファミレスには、いつもアカネの周りに居る、お馴染みの顔ぶれがほぼ揃っていた。
席に座り、店員にドリンクバーを注文した後、ドリンクバーに行き、コーラを持ってきてから、俺は、同じテーブルに並ぶキャバ嬢達を見回した。
「アカネに相談を持ち掛けられた、アカネだけに話して、アカネがみんなに話すと、又聞きになり、間違って伝わると思い、みんなの前で話し合いをしようと思う、みんなはそれで大丈夫かな?」
そうみんなに声を掛けると、全員が頷いて了承してくれた。
「アカネから少し聞いたけど、もう少し本気でキャバクラと言う仕事をしてみたい、そう思ってくれた事に、まずは、みんなに俺から【ありがとう】と言う言葉を送りたい」
そう言ってから、席を立ち、彼女達に向け、頭を下げた。
彼女達は、頭とか下げないで、座って。等と口々に言っていたが、俺の素直な気持ちを伝えずには、いられなかった。
「さてと……アカネからは、自分達がもっと上位に、そしてもっと指名を増やし、もっと売り上げを増やしたいと悩んでると聞いてるけど、それで合ってるかな?」
アカネ派閥とも呼べるべき彼女達が、一同に頷き、間違い無いと言う意思を俺に示してくる。
「それじゃ、みんなが持ってる悩みを、1つ1つ聞いてあげてもいいんだが、時間が掛かってしまうと思う、だから、先ずは俺の考えを聞いて、それから、疑問が合ったりした時、個別に答えてみようと思う」
そう宣言してから、コーラを1口飲み、喉を潤す。
「先ずは、自分達の今、置かれてる立場、キャバ嬢としてのランクを上げるって事について、今、ここに居る中で一番ランクが上なのは、アカネだな」
「他のみんなは、ハッキリと言うと申し訳ないが、似たり寄ったりと下の方で、停滞してる」
彼女達は、自分達のランクをきちんと把握しているのだろう、苦笑いを浮かべていた。
「この、ランクを上げるって事の答えは、簡単だ【もっと接客を質の良い物にして、もっと指名や売り上げを増やせば、ランクは勝手に上がる】まぁ、その答えを実行する方法が、イマイチ分からないんだから悩んでるんだよな」
「みんなが抱えてる悩みってヤツは、きっとキャバ嬢なら誰もが1度は悩んでる悩みだと思う、うちのNo.1のエリカやNo.2のルイだって、みんなと同じ悩みを持ったはずだ」
彼女達は、俺の話を真剣に聞いてくれている。俺も彼女達の想いに答える為にも真剣に話さなければ。
「みんなに、俺から質問だ【キャバクラってどんなところだ? なんでお客さんはキャバクラに来るんだ?】」
俺から逆に質問があるとは、予想もしてなかったのだろう、彼女達は、最初は沈黙を続けていたが、暫くしてから、ポツポツと自分の考えてる答えを話し出した。
楽しいからかな? 可愛い子が沢山いるから まぁ概ねそんな感じの答えだ。
「俺は、キャバクラと言うところに、お客さんが来る理由を【キャバ嬢、つまり君達だな、君達と擬似恋愛が出来る空間】だからだと思ってる」
キャバクラとは、ただの女の子と一緒にお酒を飲むと言う場所では無く、もっと、お客さん達に近い存在と、楽しく話をしたり、話を笑顔で聞いてくれたりしてくれるから、キャバクラに来るんだ。
クラブのように厳選されたホステスが居る。そのホステス達は、クラブと言う物が持つ【高級感】に阻まれ、お客さんが距離の差と言う物を嫌でも感じてしまう。
それじゃ、キャバクラよりも距離が近いはずの、スナック等に行かずに、キャバクラに行くのは、キャバクラに行けば、必ず若い年齢の、しかも容姿の良い女の子に確実に会えるからだ。
お客さんの大半は男性だ、どうせなら、若い可愛いキレイな女の子と一緒の時間を楽しく過ごしたいと思って当然だ。
そして、クラブ等には無い近い距離感と言う物が、もしかしたら、飲み屋で働く女の子と客と言う関係から、もっと深い関係にさせる事が出来るんじゃないか? そう思わせる。
お客さんは、キャバクラで働くキャバ嬢に知らず知らずの内に【恋】をして、好きになった女の子、しかも行けば必ずどんな時でも、とびっきりの笑顔で迎えてくれて、女の子にウケの良くない、つまらない話でも真剣に聞いてくれて、決して否定したりバカにしたりされない。
そんな女の子達を好きにならない男性はそうそう居ないだろう。
お客さんは、キャバ嬢を飲み屋で働く女の子と言う風に見てはいない。お客さんは、キャバ嬢の事を、自分の彼女。もしくは、彼女にしたい女の子。口説いてる女の子。そう見てるんだ。
だから、お客さんは、キャバクラに酒を飲みに来てる訳では無い。キャバクラで飲み屋の女に接客して貰いに来てる訳でも無い。
お客さんは、キャバクラに、自分が好きになり【恋】をしている相手に会いに来てるんだ。
俺は、彼女達に、俺が考え思うキャバクラと言う物の存在意義を、語って聞かせた。
『木村マネージャーすごい! すごいよ! 私……目から鱗が落ちたみたいな気分だよ、みんなもそう思わない?』
アカネがひどく興奮したように、周りの仲間達を、見回しながら、そう言っていた。
アカネの言葉を受けて、みんなも、しきりに。
そうだよ! 木村マネすごい! そうだよ、あのお客さんの態度とか私の事が好きなんだなって思う態度してるもん。
等と、俺の言葉に色々と思い当たる事が合ったのか、同意をしていた。
「だから、お前達がまず一番最初にしなきゃいけない事は、売り上げを増やす為に、お客さんにお金を使わせる事じゃない! お客さんがまた来たい、ここに来れば必ず会える、楽しい時間を過ごせる、そう思って貰う事なんだ」
「おいおい、アカネ……お前何泣いてんだ?」
『だって……私……今までそんな事考えた事すら無くて、マネージャーの話聞いてる、そうなんだって、お客さんって私達に恋してるんだって……実際にお客さんと一番近くに居るのは、マネージャー達よりも、私達なのに、そんな事も分からなかったって思ったら……』
そのアカネの泣きながら言った、自分の思いを聞いた、仲間のキャバ嬢達も、目に涙を浮かべていた。
「泣くなよ、ほら、お客さんがキャバクラに来る理由が分かっただけだぞ、それだけじゃ、指名も増えないし、売り上げも上がらないぞ、次は、それじゃ具体的にどうするのか? って話なんだから、泣いてないで、手帳でも出して、メモの準備でも始めろ」
そう言って、俺はすっかりカラになったグラスを持ち、ドリンクバーへと向かう。
「よし! いいぞ! 彼女達は絶対に化ける!」
と言う確信と共に。
この距離感と言う物の操作をアイドルでやると
『会いに行けるアイドル』が出来上がります(笑)