お気に入りのキャバ嬢誕生
「今日は、一段とハードな営業だったな……」
うちの系列店では、2月に1度、地元紙発刊のスポーツ新聞に広告が載る。その日は、大体が週末の土曜日に設定されており、お客さんが普段の週末よりも、遥かに多く来店する。
しかも、そのスポーツ新聞に広告が出る日は、系列店全ての店、キャバクラもヘルスもイメクラも何もかも全ての店で、遊びに来てくれたお客さんは【指名料金が無料(最初の1セット・場内指名除く)】と言う、イベントも同時に行われる。
週末プラスイベントのコンボで、キャバ嬢も大変だが、それ以上に、男性スタッフも大変だ。
休憩もろくに取れない。タバコ1本吸う時間、ジュース1杯飲む間すら与えてくれないぐらいに、インカムに指示が飛び交う。
そして、お店の繁盛と比例して、幹部社員が担うべき仕事の1つである【付け回し】が地獄の責めのように感じるぐらいに、ハードになるのだ。
「あ~あの時に、チョキかパーか迷ったんだよなぁ……」
俺は、営業前に店長と大村マネージャーとの3人で、ジャンケンをして、1人負けをしてしまい、一番ハードになる、付け回しに決まってしまった。
大村マネージャーがお店全ての営業を統括する司令塔。
店長が、伝票係。俺が付け回しと言う配置で、今日のイベントに臨み、乗り切った。
うちの店の店長は、ものすごく公平な人で、店長であると言う立場等を利用して、楽な配置に自分を自分で決めて置く。等の行為を嫌う人だ。今日も2番目に負けた店長は、2番目にハードになる、伝票係に自分から就いた。
そう言うところが、男性スタッフ全て、キャバ嬢の多くに、慕われる由縁なのだろう。
今の俺の目標であり、必ず追い抜かなければいけない存在だ。
「まぁ……これも良い経験が出来たと、プラスに考えるしか無いよな……」
そして、今日も俺は、いつものようにボードを使い、今日の付け回しの、1人反省会を始めようと思い裏の更衣室に、ボードを取りに来た。
まだ、閉店間もない時間だったからか、更衣室の中には、数人のキャバ嬢が残っていて、キャバ嬢同士が、今日のイベントきつかったね~等と、おしゃべりをしていた。
「みんな、お疲れ様、みんなが頑張ってくれたから、イベント無事に終えられたよ、ありがとう」
俺は、残っているキャバ嬢達に、労いの言葉を掛ける。
半分は、お世辞のご機嫌取りなのだが、キャバ嬢の機嫌を損ね、嫌われたりしたら、とにかく仕事が、非常にやりにくくなる。
お世辞1つで済むなら、いくらでもお世辞ぐらい言える。
『あっマネージャー、お疲れさま~、マネージャーも付け回し大変そうだったね、でもマネージャーってキャバ未経験でうちの店に来たんだよね?』
残っていたキャバ嬢達の中で、一番順位が高い、アカネがそう声を掛けてきた。
「そうだよ~何もかもが初めてだったから、最初は、てんやわんやだったよ」
『でも、マネージャー、未経験だったのに、もう付け回し完璧じゃん、私は、店長や大村マネージャーより、マネージャーの付け回し方が合ってて、やりやすいよ』
「そう? それはありがとう、何よりの褒め言葉だよ本当、俺もアカネの事が好きだよ、アカネは本指名があっても、文句言わずに、フリーに着いてくれるから」
キャバ嬢の中には、指名が今後取れるか不明なフリーのお客さんに着く事よりも、本指名してくれているお客さんの横に座り、売り上げを増やす事や、繋ぎ止める事を主軸に置いているキャバ嬢も存在する。そんなキャバ嬢は、フリーに着けようと、本指名のお客さんの席から抜くと、露骨に文句を言ってきたりするキャバ嬢も居る。
『だって、新規のお客さん捕まえられるかも知れないチャンスじゃん? 後、やっぱり男性スタッフが居てくれるから、私達も仕事になってるんだから、協力出来る事なら協力しなきゃね』
俺は、アカネの言葉に、ちょっと泣きそうになってしまった。
そして、このアカネの為なら、俺が出来る事ならしてあげようと思った。なにせ、キャバ嬢は、ワガママを絵に書いたような子の方が多いのだ。アカネのような子を、蔑ろに扱ってはダメだ。
俺は、アカネの側に寄り、アカネの肩に手を置いて。
「嬉しくて、泣きそうだよ、ありがとうアカネ」
そう言うと、アカネは、恥ずかしそうに顔を赤らめていた。
その後、アカネ達から離れ、ボードとマグネットを取り出すと、店の表に移動しようとした。
別に更衣室で、反省会をしても良いのだが、何分ここだと、着替え等をする、キャバ嬢なんかも居て、着替えを覗く為に居るなんて、勘違いをされる可能性もあるからだ。
『あれ? それって店長が作った、付け回し覚える為のヤツだよね? もう付け回し覚えてるマネージャーが、何でソレ使うの?』
アカネの疑問に答えてあげる。
「あ~なんか、付け回しをした日は、これ使って反省会するのが、クセになっちゃってるんだよ」
『へ~そうなんだ、マネージャー真面目だね、ちょっとここでやってみてよ、私達、見ててもいいでしょ?』
「まぁ別に見られて困る事はしないからいいけど、見てても楽しくないよ?」
俺は、アカネにそう言ったのだが、アカネ達は、どうやら興味しんしんらしい。早く始めろ。と、目で訴えて来る。
「それじゃ、先ずは……今日は、開店と同時に3人組のお客さんが来て……5番テーブルに着いた」
そうアカネ達にも分かるように、声に出しながら、黄色のマグネットを5番テーブルに3つ置く。
「アカネとマユミが本指名で……残りのお客さんは、フリーだったから、ルイを着けた……」
そう言い、赤いマグネットを、同じテーブルに置いた時に。
『えっ、えっ、ちょ……ちょっと待ってマネージャー!』
ビックリするぐらいの更衣室どころか表にも聞こえるような、大きな声が響き渡った。
すみません。引っ張ります(笑)