34.掌中の珠
※ 文章の終わりにイメージイラストがあります。
図書館を後にしたリオンとリックが向かったのは、神殿内にある応接室。そこは、奇しくも祝祭の際に、リオンがルイス達と休憩のために使っていた場所だった。扉の前に辿り着くと、リオンは僅かに緊張した面持ちで深呼吸をした。
「大丈夫?」
「二月ぶりだから少し緊張はするけど、平気」
案じるリックに対し、リオンはドアを真っ直ぐ見据えると、二回ノックをした。それに対し、バリトンボイスが中からそれに応じた。その声に、リオンは意を決したようにドアを開き、リックと共に応接室へと入っていった。
応接室には、ソファーに腰かけた一人の中年の男性。彼はリオンの姿を見るや、菫色の瞳を細め立ち上がった。その際に、一つに結った灰青の髪がさらりと揺れる。
「二月ぶりだな」
「お久しぶりです、お義父様。今日はご足労いただきありがとうございます」
そう言って、リオンはドレスの裾を少しつまみ上げ、優雅に腰を折った。その後ろではリックも無言で騎士の礼を取った。そんな二人に彼は困ったように苦笑を浮かべながら言った。
「そんな畏まらなくても構わない。君は初めて見る顔だが、ディオス卿であっているかな?」
「ご挨拶が遅れまして申し訳ありません、レスターシャ公爵閣下。リック=ディオスと申します」
「カイン=レスターシャだ。娘の護衛、感謝する。今後も頼りにしているよ」
「身に余る光栄に存じます」
リックが略式の礼で応じれば、彼――カインは満足げに頷き、リオンを振り返り言った。
「立ち話もなんだ。お茶を飲みながら話そう。謹慎中のクリフェード卿のことで話があるのだろう?」
カインの言葉にリオンは一瞬、ギクリと体と笑みを強張らせたものの、それ以上は態度に出すことなくソファーに腰かけた。その横でリックがカートの上でお茶をサーブし始めれば、カインは不思議そうに問いかけた。
「エマ嬢はどうしたんだ?」
「彼女には今、ルイスの看病をお願いしているのです」
「クリフェード卿の怪我はまだ良くなっていないのか?」
「怪我は良くなったそうなのですが、それとはまた別のようで……」
そう言って、リオンが助けを求めるようにリックを振り返れば、それに釣られるようにカインもリックを見る。そんな父娘から視線を向けられたリックは、手を止めカインを見て言った。
「クリフェード隊長の怪我は完治いたしました。ですが、季節の変調で体調を崩しまして、今は医務室にお世話になっているところです。明日には普段通りの生活に戻れるそうです」
「そうなのか……。ではこのあと、彼を見舞うとしよう」
そうカインが告げれば、リオンは驚きに目を見開いて彼をマジマジと見つめた。そんな彼女の反応に、カインは戸惑った様子で問いかけた。
「どうした?」
「あ、いえ、その……。お義父様は、ルイスに対しご立腹だったのではないかと思っていたので……」
「なるほど。それで珍しく文まで寄越したのか」
「それは、その……」
苦笑を浮かべたカインの返しに、リオンは酷く慌てた様子で言葉を濁し、気まずそうに視線を伏せた。そんな中、リックが二人に紅茶をサーブすれば、カインはそれを手に取った。一口飲み、満足げな様子で舌を潤せば、カップをソーサーに戻し静かに言った。
「私個人としては、クリフェード卿に対し怒りなど抱いてはいない。君を守った騎士に感謝こそすれど、祝祭での不敬など些末なことだ」
「では何故、彼の謹慎について了承なさったのですか?」
「それは私が公爵であると同時に王弟であるからに他ならない。王位継承権を放棄してはいるが、私の発言一つで貴族社会は愚か、王家の威厳にも影響を及ぼしかねない。それらを鑑みた結果の判断だ」
カインは国王と同じ菫色の曇りない瞳を、まっすぐリオンに向けてそう言った。静かなその目に、リオンは膝の上に置いた両手に僅かに力を入れ、緊張した面持ち言った。
「個人的には感謝を覚えている相手であっても、それはどうしても、ですか?」
「クリフェード卿には悪いことをしたと思ってはいる。が、彼なら恐らくこちらの真意も汲んでくれていると思うのだが、どうだろうか、ディオス卿?」
「ご推察のとおりです」
そんなリックの回答に、カインは一つ頷くとリオンを見た。すると、リオンは小さく息をついて言った。
「やはりルイスとリックの言った通りだったのですね……」
「そうだったのか?」
「ええ。二人から権力を持つ者としてのあり方について教わり、私のしようとしたことが我が侭であったことは理解していました。文を出した後のことでしたので、お義父様にはご迷惑を……」
「月巫女様っ……!」
僅かに焦った様子でかけられたリックの呼び声に、リオンはキョトンとした様子で彼を振り返った。しかし、その理由はカインの咳払いと彼の言葉によってすぐに判明した。
「二人からということだったが、クリフェード卿は私が文を貰った時点で謹慎に入っていたと記憶しているんだが。確か謹慎中、クリフェード卿と君は会えないのではなかったかな?」
「えっ?! あ、いえ、そのっ! 謹慎前に聞いた話で……」
カインの言葉に、リオンは自分の失言に気付き、微かに顔色を失いながら慌てて弁解をした。そんな彼女の様子に、カインは苦笑を浮かべながら言った。
「それでは話のつじつまが合わないだろう? 正直に言いなさい。彼に会いに行ったのだね?」
「う……。その、はい……」
「全く……。あまり二人に迷惑をかけるものではないぞ」
「申し訳ありません」
小さなため息と共に呈された苦言に、リオンは体を縮み込ませて俯いた。そんな彼女の様子に、カインは顎に手を当ててじっと見つめたあと、思案顔で問いかけた。
「もしかして、彼のことが好きなのか?」
「えっ?!」
思いがけないカインの言葉に、リオンはガバッと驚いた様子で顔を上げた。その顔は熟れた林檎のように真っ赤に染まっていた。彼女は一拍置いた後に、ハッとした様子で視線を彷徨わせると、助けを求めるようにリックを振り返った。そんな彼女に、リックが困ったように苦笑いを浮かべれば、カインが再び口を開いた。
「ここには私とディオス卿しかいない。ディオス卿、近くに他に人はいるかね?」
「いえ」
「だそうだ。だから隠さずともいい。カマをかけてみただけだったんだが、その様子からするに彼のことが好きなのだろう?」
もはや疑問形ではなく、確信を持った確認の言葉に、リオンは体を強張らせた。そして彼女は、しばし逡巡した後、一度大きく深呼吸をして口を開いた。
「好きです」
たった一言の肯定と共に、彼女が浮かべたのは、柔らかく幸せそうな微笑み。頬を染めたまま微笑む彼女に、カインもまたふっと微笑みを浮かべて言った。
「しばらく見ないうちに強くなったな」
「いえ、そんなことは……。私は間違えてばかりですし、リック達を頼らないと何もできない弱い人間です」
「リオン。人は一人で立てるものではない。人を信じ、頼ることもまた強さだと覚えておきなさい」
気落ちした様子で視線を落としたリオンに返ってきたのは、そんな厳しくも温かな言葉。その言葉に、リオンが思わずと言った様子で目を見開いて顔を上げれば、そこには真顔で見つめるカインの姿。目を瞬かせながら彼を見つめたあと、リオンは震える声で言った。
「お義父様、今、名前を……」
「近くに人がいないのならば構わないだろう? 神官長達は口五月蠅いし、どこで誰が聞いているかわからなかったから避けていたが、親が娘の名を呼ぶのは当然の権利だ」
ふんっと小さく鼻から息を吐きつつ、カインはふんぞり返りながら堂々とした様子で言い切った。そんな彼にリオンは戸惑った様子で言った。
「それでしたら、今までもルイスやライルに確認してくださったらよかったのでは?」
「……まぁ、その、なんだ。二人とも良くも悪くも騎士の鑑という感じでなかなか、な」
「リックはそう見えないと……?」
「お前の無茶に付き合うほどの騎士がこの程度のことで動じはしないだろう?」
確信に満ちた視線をカインがリックに向ければ、彼は微笑みでそれに応じた。そんな二人の様子を呆けた様子で見つめていたリオンだったが、そっとカインを振り返り言った。
「お義父様、ありがとうございます」
そう言った彼女は、今にも泣き出しそうな顔をしつつも、心底嬉しそうに微笑んだのだった。
***
陽が南西を通りすぎ、徐々に空が赤みを増していく頃のこと。ルイスの病室では、未だにルイスとエマの談話は続いていた。
「ところで、一つ聞きた……」
ルイスが問いかけようとした矢先のこと。彼は言葉途中で口を噤み、エマに目配せをした。それを受けたエマが頷き返せば、扉の外にコツコツと小さな足音が響く。それは徐々に近付くと二人のいる部屋の前で止まり、僅かに間を置いてノックの音が室内に響いた。
それに対し、ルイスが返事をすれば、扉を開けて入ってきたのは、灰青の髪に菫色の瞳の男性。彼が『失礼する』と一言告げて入れば、ルイスとエマは驚きに瞠目した。扉の閉まる音が響き、その音を聞いた二人は、硬直が解けるや否や口を開いた。
「カイン様?!」
「レスターシャ公爵閣下、何故、あなたがここに……」
慌てて立ち上がったエマと、困惑した様子で問いかけるルイスに、カインは朗らかに笑いながら言った。
「クリフェード卿が体調を崩してここにいると先ほど娘から聞いてね。見舞いに来たのだよ」
「お心遣い感謝いたします」
背筋を正し、頭を下げるルイスを一瞥すると、カインはエマを振り返り言った。
「エマ嬢も一月ぶりだな。変わりないか?」
「お久しぶりです、カイン様。私はこのとおり変わりありません。カイン様もお変わりないようで何よりです」
親しげに声をかけたカインに対し、エマは両腕を胸の前で上下に重ねて頭を下げた。その様子――特にエマの多少砕けた敬語に、ルイスは微かに訝しげな顔浮かべた。しかし、カインに椅子を勧めるエマも、彼女が譲った椅子に腰かける彼も、ルイスのそれに気付いた様子はなかった。
そんな中、カインはルイスに微笑みかけながら言った。
「君とはずっと前からこうして話をしてみたかったのだよ」
「私と、ですか?」
思いがけない彼の言葉に、ルイスは戸惑った様子で問い返した。そんな彼にカインは一つ頷き、傍らに控え立つエマを振り返りながら言った。
「彼女から聞いているよ。だいぶ前から娘と交流を持ってくれていたこと。そのおかげで今の娘がいるということも」
「え……」
「ああ、身分がどうこうと言う気はない。ただ礼を言いたかっただけなんだ」
緊張で僅かに体を強張らせたルイスに、カインは苦笑しながら言った。そんな彼の言葉に、ルイスは目を瞬かせながら言った。
「礼、ですか……?」
「君がどこまで知っているかは知らないが、昔の娘は人から促されても笑みすら浮かべない人形のような子供だった。私が娘を養女とした五歳のときにはすでに、だ」
「そうだったのですか?」
「ああ。全く神殿で一体どんな教育をしたらああなるのか、甚だ疑問で仕方がないくらいだったよ」
当時を思い出したのか、僅かに眉を寄せつつ、カインは小さく息をついた。そして、僅かに視線を落として言った。
「それをどうにかしようと、私も独り身ながら動いてはみたんだがな。うまく行かず、当時まだ半成人になったばかりの彼女に、娘の話相手兼侍女として入ってくれないかと頼んだんだ」
カインの視線を追うように、ルイスはエマを見上げた。そんな彼に、彼女はしっかりと頷き、カインの言葉を是とした。
「彼女のおかげで多少は改善したが、それでも今ほどではなかった。そんな中、ある時を境に、娘が少しずつ自分から話をし始めた。そのときほど驚いたことはなかったよ」
そう言って、カインはルイスを真っ直ぐ見つめた。そんな視線を受け、『まさか』と言わんばかりに目を見開いたルイスにカインは言った。
「君とディオス卿が娘と交流を始めた頃の話だ。それ以来、目に見えて表情も出るようになって、娘が初めて自然と笑ったときはとても嬉しかったものだ」
「そう、でしたか……」
「だから君にはずっと礼が言いたかったんだ。祝祭で娘を身を挺して守ってくれたことと合わせて、本当に感謝している」
感謝の言葉と共にカインは、両膝に手をついて深々と頭を下げた。そんなカインの行動にエマは驚き固まり、ルイスは僅かに慌てた様子で両手を挙げてそれを左右に振ろうとした。そこへカインが頭を下げたまま、悔しげに続けて言った。
「だというのに、そんな君に罰を与えることになり申し訳ない」
そんなカインの言葉に、ルイスは驚きに目を見開いた。そして、あげた両手を下ろすと、静かに言った。
「当初は解任案も出ていたと団長から聞きました。現状の罰を代替案に、それを取り下げてくださったのがあなただとも。ですから、この場を借りて私にも言わせてください。ご助力いただき、本当にありがとうございました」
そう言うと、ルイスはベッド上で正座をして深々と頭を下げた。そんな彼の言葉と声音に、カインは顔を上げると安堵の笑みを浮かべた。そして、ルイスが顔を上げれば、カインは世間話をするかのように言った。
「フローレス卿の件が内々に処理されて以降、エマ嬢の報告に君の名が上がらなくなって心配していたんだが、杞憂だったようでよかったと心からそう思うよ」
その言葉に、ルイスとエマは僅かに全身を強張らせた。しかし、カインがそれに気付いた様子はなく、彼は柔らかく微笑んで言った。
「クリフェード卿。今後も娘を傍で支えてやってくれるか?」
「もちろんでございます。力不足な面もあるかとは存じますが、私にできる限り尽力いたします」
騎士の礼を略式で取り、真顔でそう宣言したルイスに、カインは満足げに微笑んだ。そして、彼は声量を抑え、続けて言った。
「それと今から言うのは私の勝手な願いだから、聞き流してもらって構わないんだが。将来、娘の伴侶として寄り添う相手が君であればいいと、私は思っているよ」
「え……?」
「父親としては、今は難しくとも、いずれ月巫女としての役目を終えたら、娘には幸せになってほしいと思うのだよ」
そう言って微笑んだカインの顔は、貴族としてのものではなく、子を思う一人の親の顔だった。そんな彼の顔と言葉に、ルイスはただただ戸惑った様子で、顔を紅く染めてしどろもどろな返事を返した。が、カインはそんなルイスの様子を見て、実に嬉しそうに微笑んだのだった。
そうして、言いたいことを言ったカインは、見送りを断った上であっさりとその場を後にした。カインがその場に留まっていたのは、四半刻に満たない僅かな時間。しかし、嵐のような彼の唐突な訪問に、病室にはしばし唖然とした様子のルイスとエマが残された。
そうしてしばし沈黙が降りた後、徐に口を開いたのはルイスだった。
「思いがけないところに、お前の記憶の証人がいたな……」
「そうね。というか、この一年弱の間、よくカイン様との会話で齟齬が出なかったものだと思うわ」
「本当にな。内々で処理されたと仰っていたところを考えると、気を遣われていたのかもしれないが……。こうも粗が目立つと、全く認識できなかった自分に腹が立ってくるな」
呆れと怒りがない交ぜになった様子でルイスがそう言えば、エマは何とも言えない苦笑いを返した。そして、椅子に腰かけ直す彼女に、ルイスは静かに問いかけた。
「さっきは公爵の手前聞けなかったが。昔のリオンが人形のようだった原因、お前は知ってるのか?」
「憶測にはなるけれど、あの子が出会って間もない頃に言ってたの。『何をするのものダメって言われるからやらない』って。だから、恐らく……」
「神官長達があれこれ制限をかけた結果、行き過ぎて消極的を極めるに至った、か……」
ルイスは額に手を当てて、一度長嘆息を吐き出した。そうして、そのまま頭を掻くと、今度は小さく息をついて言った。
「公爵の言質もあるから信じはするが、未だに全く想像がつかないな」
「念のため言っておきますけど。木登りだとか脱走だとか、無茶し始めたのはルイス様が護衛になってからの話よ?」
「……ちょっと待て。それはさすがに嘘だよな?」
エマの言葉に、恐る恐ると言った様子でルイスが問いかけた。そんな彼にエマは背筋を伸ばし、すまし顔で言った。
「事実です。ルイス様が護衛になる前までは、私以外とも多少話をするようになった程度だったもの」
「木登りも脱走も、護衛騎士に就任して一月と経ってなかったはずなんだが……?」
「それはたぶん、リオンが無意識で甘えてたんじゃないかしら。記憶がなくても、ルイス様なら向き合ってくれる、見つけてくれるって」
からかいの色は一切なく、真顔で告げられた彼女の言葉に、ルイスは目を瞬かせた。やや間を置いて頬を染めると、照れくさそうに頬を掻きつつ、視線を逸らして言った。
「あー……その、なんだ。あと、もう二つほど聞いてもいいか?」
「どうぞ」
「たまに伯爵家の娘としての用事で席を外していたのは、公爵に会うためか?」
「ええ。リオンとの面会とは別に、報告のために月に一度ほどね。手紙だと検閲が入るから、全てなんて書けないもの」
そう返したエマに、ルイスは納得した様子で頷いた。そして、彼女の目を真っ直ぐ見ると、続けて問いかけた。
「もう一つ。なんでエマは十歳なんて年齢でリオンの侍女になったんだ?」
そんな彼の質問に、エマは少々困ったように苦笑を浮かべながら言った。
「公爵様からの依頼で断り切れなかった、というのが正直なところね」
「そもそも、どうして伯爵家のお前に白羽の矢が?」
「昔、悪名高い何人かの貴族の子息方と関わることがあって……。私に関わったあと、彼らが次々更生したのだとか。だからリオンのことも、私ならどうにかできるんじゃないかと、そう思われたのだそうよ」
肩を竦めながらエマがそう回答すれば、ルイスはじと目で彼女を見て重ねて問いかけた。
「更生って……、お前何したんだ?」
「大したことは何も。私は少しだけ働きかけただけで、その後の未来を選んだのは彼ら自身ですから」
「未来……?」
彼女の言い回しに、ルイスは訝しげに反芻した。彼の言葉に対し、エマは僅かに逡巡した後、一つ深呼吸をすると、真っ直ぐにルイスを見て言った。
「ルイス様は、先見の巫女というのをご存じですか?」
「一般常識程度には。月神がオストの守護神なのに対し、全ての大地を守護するのが太陽神。その太陽神の加護を受けた巫女、だよな?」
「そうです」
そう言って微笑むエマに、ルイスはさらに続けて言った。
「月巫女が祈りの力に特化してるのに対し、先見の巫女は名前の通り、先見に特化しているんだよな。確か八年前まではこの国にも、長年神殿に仕えていた方が一人居たはずだ」
「ええ、そのとおりです」
「だが、それが何だって言うんだ? まさかお前がそれだとか言わないよな?」
ルイスが軽い口調でそう言えば、エマは苦笑いを浮かべて言った。
「先代の言葉をお借りすれば、私が彼女の次代に当たるのだそうです」
そんな彼女の言葉に、ルイスの翠緑色の瞳は驚愕に見開かれたのだった。
 




