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大仏

 ある年の春頃の話。


 長男が2歳になった頃に、近くのハウジングセンターで何やらイベントがあるとの情報が。


【〇〇ハウジングに”い〇い〇ないばぁ!”の”ワン〇ン”がやってくるよ!!】


 と言うチラシが家のポストに入っていたのだ。


 いつもなら完全にスルーして、即、廃品新聞コーナーにINするのだが、今日は何を思ったのかハタと思い出す。


 そう言えば長男は〇ンワンが好きでいつもテレビの前で踊ってるじゃないか――と。

 チラシを片手に妻の元へと急ぐ。


「なぁ、今度の土曜に〇〇ハウジングにワンワ〇が来るらしいぞ」


「どこの犬? 〇〇さんちのハナちゃん?」


「……は? 近所の犬が〇〇ハウジングに勢ぞろいするイベントってなんだよ! ちげーよ!いな〇いな〇ばぁのワンワンだよ」


「えっ?ほんとに?」


「ホントさね! ホレっ、これを見よ!!」


「………ホントだ! 長男も大好きだし行こっか!」




 というわけで次の土曜日。

(妻の天然発言はあえてスルーする)




「なにコレ…………」


「なんだろうな…………」


 〇〇ハウジング到着まで、目算で約500メートル。

 車に乗ってるので、移動には1分もかからないはずの道のり。


 私と妻は甘かったのだ。



 そして何より知らなかったのだ。



 ワ〇ワンの人気を。



 普段は人影もまばらで、車も数台しか止まっていない駐車場がすべて満車。

 それどころか、ワン〇ン見たさに集まる子連れの人だかりと車で道すらも大渋滞。

 ショーが始まる1時間前でこの有様である。


 こえぇ……

 ワンワ〇効果こえぇ……


 妻と私はフリーズし、ただただ車が進むのを待った。




 ようやく動き出し、駐車場に停められたのはショーが始まる10分前。

 いつもより遠くの駐車場から長男を背負って走りに走って、ギリギリ間に合うが激混み過ぎてカオス。

 知らない夫婦達の間をすり抜けて何とか見える位置までたどり着く。


「「みんな~! こ~んに~ちわ~!! いつも元気なワン〇ンで~す!!」」


「おぉっ、間に合ったぞ! あ、ワ〇ワンだ! ほら見てみ? 実物だぞ!」


 何とかたどり着いてショーに間に合ったことに興奮する私。

 隣にいる長男に見てみろよと声をかけた時だった。


「……………」


「………なにしてるん?」


「……………」


「いや、だからその………」


「……………」


 瞑想するかのように安らかな顔で目を閉じ、じっと身動きすらしないのだ。


 あれ?寝てる?


 そう思って名前を呼ぶと、なにか悟りでも開いたかのような澄み切った声で、「はい……」と返してくる。


 寝てはいない。

 ならなんで?


 目の前で繰り広げられる楽しいショーなど一時の夢にすぎぬとばかりに、目を閉じて瞑想する長男。

 ショーの間ずっと瞑想をしている異様な長男。

 その謎の行為は結局終わりまで続いた。


 ごった返す人もまばらになり、帰るかと思った頃にようやく長男が現世に帰ってきてくれた。

 そこで、私と妻はそろって同じことを聞く。


「ショーは楽しかった?」


「楽しかった!!」









































「ウソこけ!!!!!」






 それ以来、ショーの類は一度も行っていない。


 うちの長男に大仏様が降臨するから。

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