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天才魔法使いは自由気ままに旅をする  作者: 背伸びした猫
~6章~ リントブル聖王国
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天才魔法使い、新たな国に足を踏み入れる

 国を囲う壁は異常ともいえるぐらい高かった。何をこんなに警戒しているのだろうか。少なくとも、弓矢程度で超えられる高さではない。

 門に近づくと、左右に二人の人間が立っていた。



「すみません、デルガンダ王国から来たんですけど……」



 ストビー王国から来たと言うと、あの何かを測る水晶が壊されたことが伝わっていると怪しまれるかもしれないと言うのはルカの弁だ。こういうことに限って言えば、ルカはかなり優秀だ。



「あぁ、身分証は持っているか?」


「はい。これですよね? 僕しか持ってないんですけど……」


「その中で一番実力のあるものが持っていればそれでいい」



 へぇ。よく分からないけど、皆も一緒に通れるらしい。

 兵士に身分証を見せたら簡単な説明をしてくれた。



「この国は中心に行くほど身分の高いものが住んでいる。その区切りの関所で身分証を見せれば中に入れるから、あとはそこで話を聞け。お前のランクなら……城の一歩手前まではいけるな」



 その後も話を聞いて、そこが普通の人間がいける限界だと知った。どうやら城内に入れる者は限られているらしい。

 と、そんな感じで命令口調ではあったが細かい説明までしてくれた。

 そして、国に入った僕らは目を疑った。他の国にも貧しい地域はあった。だが――。



「ひどい……」



 ルカがそう呟いた。建物は強風が吹けば飛びそうな冒険者が使っているテントの劣化したようなものだったし、着ている服はかなりの薄着で局部だけ隠しているようなものがほとんどだった。



「リク様、取り敢えず街の中心に行ってみた方がいいかもしれない」


「そうだね。まだこの国について何も分かっていないし……」



 分かっていないから、彼らを勝手に助けていいのか迷った。もしかしたら何かの罪人だったりするかもしれないし。でも、もし何もしていないのにこんな扱いを受けているのなら、この国に対して温厚に接せる自信は僕には無い。

 街の中枢への入り口はそう遠くはなく、30分ぐらい歩いたら着いた。シエラが文句を言ってくる気もしたが、流石にこの状況を見て口を塞いだようだ。

 ここにも異常なほどに過剰な壁がそそり立っている。



「向こう側に行きたいんですけど……」


「では身分証を見せろ」



 ここの兵士は命令口調が標準にでもなっているのだろうか。

 ここも先程と同じように、身分証を見せた僕らは難なく中に入れた。



「凄い変わりようだね」


「さっきの場所とは全く違う」



 ルカとシエラの言う通り、先程の場所とは異なり、王都……とまでは行かなくとも、普通の街位の喧騒がそこにはあった。ここで立ち止まっていても何も分からない。そう思って相も変わらず命令口調の兵士に身分証を見せて次の場所へと進んだ。

 するとそこには、王都にも勝るほどの喧騒があった。



「お兄ちゃん、少しお腹空いてきた」


「それもそうだね。どこかで休もうか。……エリン?」



 エリンの顔色があまり優れていないことにそこで気が付いた。体のほとんどが幻影なので、見えているのは幻影なのだが。



「いえ、先程から何か寒気のようなものが……」


「少し休む?」


「はい……すみません」


「別にいいよ」



 エリンにそう言われたので、人目に付かない所に行ってからポケットの中へと戻ってもらった。

 今まで体調が悪くなるような事なんてほぼ無かったんだけど。いや、寒気って言ってたかな。精霊しか感じ取れない何かを感じていたとか? だとしたら一体……。



「主様よ」



 シエラの珍しく真剣な顔に僕は嫌な予感を感じた。



「何?」


「この下、かなりの数の人間がおるのじゃが……」



 下と言われると地下でもあるのだろうか。いやでもかなりの数って……。少し気になるから調べてみようと思って、僕はエリンが休んでいることに気が付く。魔法で無理やり穴をあけるとかなら出来なくもないけど、この国には何があるか分からないのでそれは止めることにした。



「取り敢えずエリンが出て来るまでは置いておこう。もしかしたら地下に何かあるだけかもしれないし」


「ご飯食べるついでに誰かに聞けばいい」



 そんなアイラのアイディアを採用して僕らは適当なお店に入った。



「主様、これはお腹いっぱい食べてもいいのかや?」



 この国に入ってすぐの場所を見てからしばらく静かだったのに元に戻ったな。その方がこっちも気持ちが楽になるから、今はそれが凄くありがたい。暗い雰囲気のままだとどうにも調子が出ないし。まぁ、こんな状況でもシエラはシエラ。シエラだし仕方ない。

 そんな僕の考えに納得いかなかったのか、シエラが反論を始めた。



「ちょっと待つのじゃ主様よ。妾だって何も感じなかったわけではないのじゃ。少なくとも最近は人間と接する機会が多かったからの。じゃが、妾の腹の虫が――」



 ブレないなぁ。まぁ、初めての場所で旅で来たら楽しむところを警戒しなきゃいけないとか言うよく分からない環境にある現状、食事が唯一の楽しみなのかもしれない。そう考えるとシエラの気持ちも1割ぐらいなら分かる気がする。



「やっぱりシエラさんはシエラさんだね」


「シエラだから仕方ない」



 シエラはそんな言葉を聞いて不満そうな顔をしているが、多分誰が聞いてもルカとアイラの言葉が間違っているとは言わないと思う。

 適当に注文をして、料理を持ってきてくれたおばさんに話を聞いてみる。



「すみません、ここらへんって地下に何かあったりするんですか?」


「地下かい? そんな話は聞かないけれど……」



 じゃあやっぱりこの下に人がいるのは少なくともこの辺の人は知らないことなのか。もうなんか本当に嫌な予感しかしない。



「あ、あと、あっちの壁の向こうって行ったことありますか?」



 そんな僕の言葉に、おばさんは何を言っているんだと言った顔を向けてきた。



「中に入ったら出てこられないんだから知っているわけないだろう?」


「「「……え?」」」


「おっと、すまないねお兄さん方、私そろそろ仕事に戻らないと。ごゆっくりどうぞ」



 そんなタイミングで帰られると気になって仕方ないが、周りを見てみるとお昼時のせいかかなり混んでいたので何も言えなかった。



「ねぇ、お兄ちゃん。大丈夫かな」


「エリンの転移魔法があればどうにか――」


「リク様、エリンは今休んでいる」



 まぁ、最悪力づくで帰る……とは何と無く言いたくなかったので言わなかった。多分そんな状況になっている時点で碌なことになってないと思うし。

 この国には退屈させられることはなさそうだなぁ。勿論悪い意味で。

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