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天才魔法使いは自由気ままに旅をする  作者: 背伸びした猫
~5章~ メノード島
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天才魔法使い、人間と魔族のハーフを知る

 その日の夜、魔法の練習ついでに狩った食べきれないほどのサイズの魚たちはいつかデルガンダ王国でやったようにアイラの料理になって街の人々に提供された。どうやら、魔族には奴隷や孤児と言ったものはあまりないようだが、魔族と人間のハーフという特異な種族がおり、ひどい扱い受けているらしい。それを知った僕は、アイラの料理をアイテムボックスに入れてそちらへと向かった。案内役に魔王様からはレルアさんを借りている。魔王様にやたら信頼されている様子で、僕が人間であることを知っても嫌悪感を示さなかった数少ない魔族の一人である。



「すみません、妹を助けてもらった上に食事まで……」


「気にしないで下さい。僕はここに居られる時点で凄い感謝しているので」



 そう、当たり前のように僕はこの街に居座っているが、よくよく考えてみればかなりの異常事態なのだ。種族の異なる戦争相手を招き入れているということは、それが発覚するだけで間違いなく騒ぎになる。そんな大きすぎるデメリットを承知の上で魔王様は僕の滞在を許してくれているのだ。それは僕が人間であることを知った魔王様の部下もしかりである。



「それはそうと、ずいぶんと距離がありますね」


「まぁ、種族ゆえに仕方ないとしか言えないのですが、私たちの姿を見るだけで避ける者もいるほどですし」


「……あれ? 妹さんかなり城から近いところにいたと思うんですけど……」


「妹はそういう性格でして……。時々興味本位で街の方をこっそり見に行ったりしているんです。姉としては危ないので止めて欲しいのですけれど……」



 姉って大変なんだなぁ。アイナのようなよくできた妹ならば話も変わってくる気もするが、あの子はあの歳でしっかりしなければならないような状況だったので、どちらがいいとは一概には言えない。



「着きました」



 こう言っては何だが……いや、言うべきではないのかもしれないけれど、簡潔に言うのならば少々小汚い場所である。家らしきものは建物……というより布でできたテントと言った方が正しそうだ。



「皆を呼んでくるので少し待っていてください」


「そんなに急いでいないのでゆっくりでいいですよ」


「お気遣いありがとうございます」



 呼んでくると言っても、僕らに気が付いた子供や、警戒心剥き出しの大人がテントの中からちらちらと顔を覗かせている。……エリンに角を片方にしてもらった方が良かったかなぁ。……いや、こういった集団なら見知らぬ顔がいれば不自然か。

 レルアさんが声を掛けてようやく出てきた人たちに食べ物を配る。……と言っても、大きめの鍋や皿ごと持ってきたので、器は自分たちのを使ってもらうことになるのだが。僕はと言えば魔法で鍋を置けるような土台を作ってその下に火を出したり、机といすを作ったりした。そんなのを数か所に、それぞれ少し離して設置しておいた。

 お味噌汁や煮魚などの魚のうまみを利用したからお刺身などの魚を生で作ったものまでいろいろある。こうして見ると、アイラの料理のバリエーション凄いな。最初の街であったのがアイラで本当に良かった。本人は毎度「素材と調理道具のお陰」なんてことを言っている。だが、料理が出来ない僕でもわかる。絶対それだけじゃこれは無理だと思う。



「この料理はリク様が?」


「いえ、僕は料理できないですよ。全部アイラ……あの小さくて大人しいほう女の子が作ってます」


「あんな小さいのに凄いのですね……」


「後、様付けなんてしなくていいですよ」


「いえ、魔王様のお客様ですから」



 なんか違和感があるので、その後も止めてもらうように言ってみたが、様付けの方が接しやすいと言われたので大人しく引いておいた。

 そんな会話をしながら、テントを見ていてふと思った事を話してみる。



「僕、一応旅人なので魔法でテントぐらいなら作れますよ? 多分、あれより頑丈なの」



 自然と「一応」と言う言葉が出てきて悲しくなったのは内緒である。



「それはありがたいのですが……。恐らくそうなると生意気だ、なんて言われるのが目に見えていますから」



 なんだろう、この雑な扱い。デルガンダ王国やストビー王国では奴隷ですらそこまで酷くなかった。むしろ、雇い主が親切でそれほどひどい扱いを受けていない者がほとんどで、それに文句をつける者なんていなかった。

 さて、それはさておいてそれは目に見えてはいけないということかな、多分。それなら……。



「地下に空間を作るとかならどうですか?」


「それはありがたいのですが、時間がかかるのではないですか?」



 細部までこだわったらかかるかも。でも簡単な物ならすぐに出来るので、試しに作ってみることにした。それが決まって立ち上がった時、僕のもとに一人の少女がやってきた。



「お兄ちゃん、この間はありがとう!」



 この子は僕がエリンに角を付けてもらう前に助けた魔族だったはずだから、レルアさんの妹だろう。



「どういたしまして」


「今日は角付いてるんだねっ」ニコッ


「こらっ」


「いたいっ。お姉ちゃんやめてよっ」


「それは内緒って言ったでしょ!(小声)」


「はっ! そうだった……(小声)」



 レルアさんの妹はそう言いながら口を両手で抑える。

 ちょっと焦って周りを見てみたが、食料が足りていないのか、目の前の食事に夢中でこちらを気にしている者はいなかったのでセーフ。……多分。



「リク様、先程の話、私たちのテントで作ってみてくれませんか?」


「いいんですか? 上手くできるか分かりませんよ?」


「大丈夫です。作るのに時間がかかるような場所ではないので」



 そう言ってくれたので遠慮なく、テントを張っている場所の地面に地下へ続く階段から作ってみた。崩れるといけないので、後でエリンを連れて来て手伝ってもらうことにしよう。まぁ、僕としても壊れないように工夫はするけれど。……土を圧縮して固くしたらどうにかなるかな?





 私は目を疑った。凄い勢いで地面の形が変わって行く。階段を下りながら壁を触ってみると、まるで石でも触っているような硬さでした。ここの土はそんなに硬くなかったと思うのですが……。

 ある程度下へと行くと、ソラ様はそこに直方体の空間が作られました。



「ここ、何人で住んでいるんですか?」


「私と妹だけです」



 そんな話をした後、二つのベッドのようなものが地面から盛り上がった。……今度お給料をもらったらちゃんとした布団でも買ってみようかな……。

 その後も簡単な小物を置く窪みを作っていき、瞬く間に不思議な空間が出来上がっていった。……今更だが、人間は魔法を使うとき詠唱しないのだろうか。人間は私たちが思っているよりも深い知識を持ち合わせているのかもしれない。



「後何か欲しいものありますか?」


「いえ、これで十分で――」


「お部屋もう一つ欲しい!」



 そんな妹の要望に嫌な顔一つせず、リク様は作業を続けてくださった。



「扉はどこら辺がいい?」


「う~ん、あっちがいい」



 そんなこんなで妹の部屋が完成し、流れで私の部屋まで作ってもらってしまった。



「でもこれでは空気が通らないのではないですか?」


「それもそうですね。その辺はエリンにお願いするので少し待って――」


「空気が通るようにすればいいのですね?」



 リク様が全て言い終わる前に、突然空中に現れた不思議な陣からとても小さな少女が現れる。



「……何でここに?」


「ほら、魚って甘くないじゃないですか。途中で飽きてしまったのでここの様子を魔法で覗いていたのです」


「エリン、僕もう少しプライベートな空間が欲しいんだけど。……いや、その前にその姿でここに来ちゃダメでしょ」


「忘れてました」



 エリンと呼ばれる少女が、私たちとそう変わらない少女の姿に変化する。この子は確か、リリィ様を攫った幹部を特定した少女だ。……ちょっと状況が分からなくなってきた。



「これでいいですか?」


「遅いから! 二人とも固まっちゃってるし」



 リク様から黙っておいて欲しいと言われたので黙ってはおくけれど、いつか聞いてみたいものである。



「分かった! 内緒にしておく!」



 ……妹には後でもう一度きつめに言いつけておこう。

 その後、エリン様によって各部屋の天井に不思議な陣を描いた。が、その陣はスッと消えてしまった。





「これでドラゴンの体当たり程度では壊れないと思います」


「す、凄いですね、エリンさんは」


「いえ、リクが元々強度を高めておいてくれたお陰です。私一人ではここまでは出来ません。出来て国直属の魔導士程度の魔法では壊れない程度にです」



 これは謙遜しているのだろうか。

 その後地上に出てみると、いろいろな所から人間と魔族のハーフの者が集まってきていた。その人数を見たリク様は、やはり全員分を作るのは時間がかかると思ったのか、この地下のことは黙っておいて欲しいと言われた。



「お姉ちゃん、ちゃんと秘密にするんだよ?」



 妹にそんなことを言われたが、心配なのはあなただと言い返したい。リク様に迷惑をかけないためにも、妹にはちゃんと言っておかなければ。

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