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天才魔法使いは自由気ままに旅をする  作者: 背伸びした猫
~5章~ メノード島
75/120

天才魔法使い、メノード島に辿り着く

※2018/10/09:誤字を訂正しました。

 僕らはメノード島の街の片隅、人気の少ないところに転移魔法で移動して、エリンに姿を変えてもらってから人通りの多いところに出た。エリンが見た目は普通の魔族の女の子で、実在しない部分が一人だけ異常に多いのが不安だったりする。



「……ここ本当にメノード島?」


「私達の街と対して変わらない」


「食べ物の方は見たことないのもあるようじゃな……(ジュルリ)」



 ルカとアイラは自分達が住んでいた場所と大して変わらないことに驚いているが、シエラは通常運行だ。



「それで最初はどこに行くの?」


「魔王様に会いに、かな。お昼過ぎに行くって言っちゃったし」


「転移魔法で行きますか?」


「いや、いいよ。門番には話しておく、みたいなこと言ってたし」



 そう言えばエリン以外は僕がこっちに来てから何が起こったのか知らないのか。ならばと思い、説明しながら妙に大きい城の方へと向かう。陛下と王女には悪いけど、デルガンダ王国やストビー王国のものよりも遥かに大きい。こちらに来るときにちらりと見えたリントブル聖王国となら張り合えそうだが。





「――ってなことがありました」


「エリンさんの魔法を見破るなんて本当にすごいんだね、魔王って」


「魔王というより魔族が凄いのかも」


「あれは少し油断しただけです。次は見つかりません」



 犯罪っぽい魔法を強化されると、素直に喜べないのは何故だろう。



「クックック。所詮羽虫は羽虫でしかないと言うことじゃな」


「私は何処かの変態脳筋トカゲの結界のようにいざという時に役に立たないよりはずっと良いと思いますが。役に立たないよりは」


「何故二回も言ったんじゃ? 言葉の使い方も分からんのかや?」


「私は何処かの頭の悪そうな方のために、わざわざ大切な事を繰り返してあげただけですよ?」ニコッ


「ほう? ちなみにその頭の悪そうな方というのは誰のことかや?」ニコッ


「それは勿論――」


「はい、着いたからその辺で終わり」



 二人のこんな下らないやり取りもなんか久しぶりな気がするな。

 それはさておき、目の前には明らかに人が通るには過剰なサイズの門、左右には強面の門番が二人……だったのだが、その表情はすぐに柔らかくなる。



「魔王様のお知り合いですよね?」



 顔と言葉遣いが合っていない事に違和感を感じながら(失礼)、僕のことに一目見ただけで気づいたことに驚く。



「なんで分かったんですか?」


「魔王様が自分と同じかそれ以上の力を持っている者が自分を訪ねてくるからと言っていたので、すぐに分かりましたよ」



 なんという雑な説明。これで襲撃者だったらどうするつもりなのか。……返り討ちにするだけか。確か実力を示すのに手段は問わないとか言ってたし。じゃあ門番の意味無くない? と思ったが、話を聞いてみると主に魔王様の身内の護衛が目的とのこと。なるほど、やはり襲撃者だったら色々問題な訳だ。

 そのまま連れられるがままに奥へ進んでいくと、これまた無駄に大きい扉の前にたどり着いた。



「魔王様はこの先でお待ちです」


「え、あ、はい。ありがとうございます」



 扉に圧倒されて妙な返事になってしまったが、許してほしい。

 扉の中に入るとこれまた無駄に広い空間にかなり先……100メートルぐらい先に背もたれの部分が見えないぐらい高い椅子が見える。……ここの天井何処まであるんだ。奥の方は暗くなっていてよく見えない。



「りくー」



 僕の声を呼びながら向こうからテトテトと走ってくるが距離がありすぎて中々こちらまで辿り着かない。

 仕方ないのでこちらからも軽く走って飛びついてくるリリィを受け止める。



「りくおそいっ!」


「いや、そんなことないと思うけど」



 事実、昼食を食べてから割とすぐに来たのだ。昨日言ったのはお昼過ぎだし別に遅いということはない。

 やがて、リリィが走ってきた方向から二人の魔族が近づいて来る。一人は魔王様だが、もう一人は……。それを聞こうとしたところで、魔王様が先に口を開いた。



「これリリィ、あまり引っ付くではない。リクに迷惑だろう」



 何て言いながら僕の方に物凄く鋭い目線が飛んでいているのは気のせいか。僕がリリィを離そうとしたとき、魔王様の頭を誰かが叩く。



「いっ! 何をするのだ!」


「それはこっちのセリフです! リリィがあんなに楽しそうにしているのに邪魔をするつもりですか?」



 と、魔王様を圧倒しているのは気品のある奇麗なドレスを身に纏った、魔族の女性だった。そういえばどことなくリリィに似ている気がする。



「始めまして、私はリリィの母親のサリィと言います」


「こちらこそ初めまして、旅人(?)のリクです」



 自分で旅人と名乗るのに違和感を感じてしまったのは内緒である。



「それで、そちらに隠れているお嬢さん方は?」


「え?」



 言われて後ろを振り返ると、僕の服を掴んで後ろに隠れるアイラとルカ、つまらなさそうにそっぽを向いているシエラ、魔王様を警戒してか妙に身構えてやたら周りをキョロキョロとしているエリンの姿があった。

 ……人間と魔族が手を取り合える日は遠いのかもしれない。



「魔王様、サリィ様に――」


「サリィでいいわよ」


「――サリィさんに私たちのことは?」



 サリィさんが少しむすっとした気がする。その時の顔は完全にリリィと同じそれだった。というか王族相手に呼び捨てとか勘弁してくれませんか。……ルカとリリィはこの際考慮しないものとする。



「ちゃんと話しておるから心配せんでも大丈夫だ」



 それなら姿を偽装しておく必要もないだろう。



「エリン、魔法解いてくれる?」


「……分かりました」



 エリンが魔法を解くと、サリィさんがまぁっと驚きの声を挙げたが、魔王様とリリィは一度見ていたので、大それた反応はしなかった。



「リク、この間の話は向こうの王には話してくれたか?」



 そう言う魔王様の視線はずっと僕にしがみついているリリィの方に向いている。なので、軽く抵抗するリリィを地面に降ろしてから答えた。



「ちゃんと話しておきましたよ。そのことなんですが――」


「そう言ったお話なら向こうの部屋でお茶でもしながらいかがですか?」


「それもそうだな。そちらの緊張している者たちも少しは落ち着くだろう」



 後ろで怯えている二人を見て多分魔王様が近くにいる間は元に戻らないような気がしたが、そうですねと相槌を打っておいた。

 僕らは案内された方向へと歩き出した。途中でリリィが僕の手を握ってきて魔王様の視線が飛んできたのでそっと目を逸らす。



「えへへぇ」


「そ、そういえばここは何でこんなに広いんですか?」


「威厳を保つためもあるが……挑戦者を迎え撃つというのが一番の目的だな」


「魔王になりたいものがここに挑戦しに来るのですか?」


「そういうしきたりだからな」



 どんな手もありみたいな話を聞いてたからてっきりどこででも狙われるものだと思ってたが、僕の勝手な思い込みだったか。

 それはそうと魔王様、そんな恨めしそうな顔でこちらを見ないでください。後ろの二人が余計に怯えてしまいます。



「リリィ、楽しそうね」


「うんっ!」


「」イラッ


「「」」ビクッ


「あなた! やめなさい!」


「分かったから頭をたたくのをやめてくれ!」



 シエラは相変わらずつまらなさそうだし、エリンはずっと警戒している。こんな状態で大切な話なんてできるのだろうか。

 そんな不安を感じながら僕らは案内された部屋へと入った。

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