天才魔法使い、人間の領域から出る
『――っ! 全員掴まっておるのじゃ!』
リントブル聖王国に近いところに差し掛かった時、下から無数の魔法が飛んできたが、シエラがアクロバティックに避ける。捕まれと言われても、シエラの背中って凹凸がほぼないので僕が魔法で風を出して全員をシエラの背中に押さえつけるようにする。
それにしても報告早すぎるだろ。あの勇者どんなスピードで移動したんだよ。
「シエラ、結界じゃ無理?」
『妾の結界は飛びながらじゃ無理じゃ』
そういえば今まで移動しながらシエラが結界使ってるところ見たことないな。あれか、張った結界はそこから動かせないとかか。
それはそうと、気のせいかアイラの顔色が悪いように見える。声を掛けようとも思ったが、今はそれどころではない。
「リク、私がやります」
「じゃあ頼んだ」
「任せてください」
魔法が飛んできている側と僕らの間に巨大な魔法陣が現れる。
「おぉ」
それでもお構いなしに魔法はこちらへと飛んでくる。それを見てエリンがにやりと笑ったのが視界に入って、物凄く嫌な予感がした。その表情は悪役と言われれば納得できるようなものだった。
結界の中へと吸い込まれるように入っていった魔法は威力が数倍になって元の場所へと帰っていった。
「ちょ、ちょっとストップ!」
「なぜですか?」
そんな顔で首をコテンと傾げても許されない。皆が容赦のなさにドン引きしていたが、リリィだけが「すごーいっ!」と感心していた。
「何してんの?」
「放ってきた魔法にリクの魔力を上乗せして、魔法を放ってきた場所に向かって返しただけです」
止めようとしたが、それから魔法が一切飛んでこなくなったのでそのままにしてもらった。
そんなこんなあったが、海に出てからは何事もなく進めた。僕らがふぅと一息つく。
「リク、少しお伝えしたいことがあるのですが」
「何?」
「デルガンダ王国とストビー王国がリクに全面降伏したそうです」
「へぇ……は?」
降伏って敵対してる相手に向かってすることだよね? 敵対とかした記憶ないんだけど。
「「リク様(お兄ちゃん)、何したの?」」
「何もしてない」
すぐに人を疑うのは良くないと思う。というか一緒にいたんだから何もしてないの知っているだろうに。
「りくがなにかにかったの?」
「う~ん、勝ったというより勝負もしてないのに相手が負けましたって言ってきた感じかな?」
「……うん?」
ちょっとリリィには難しかったかな。
「それでエリン、それってストビー王国からの連絡?」
「はい。何でもリクが魔族を庇った事を知ったリントブル聖王国がデルガンダ王国とストビー王国に協力してリクを抹殺しようとしたらしいのですが――」
人間の世界全域で指名手配ですか。僕の居場所が無くなってしまった。
「デルガンダ王国とストビー王国は全面降伏を申し立てたそうです」
「正しい選択じゃな。主様に手を出しても返り討ちにされるのが目に見えておる」
「リク様だけじゃなくて、シエラ相手でも同じことになったと思う」
「お兄ちゃん、エンシェントドラゴンと精霊王連れてるもんね。もしかしてこの世界の最大戦力じゃない?」
世界の最大戦力とか言うパワーワード。話を聞けば聞くほど自分が危険人物みたに聞こえるのは気のせいか。
『事実主様は敵対したらこれ以上ない危険人物じゃろう』
「りくはあぶなくないよ?」
リリィはいい子だなぁ。なんとなく頭を撫でておく。さっきから胡坐をかいた僕の膝の上にちょこんと座っているのですごく頭を撫でやすい。
「えへへぇ」
「「……」」
なんだろう、この変な空気は。リリィはそんなこと気にせずに幸せそうな顔をしている。
「そ、そういえば、あのモンドとか言う勇者魔族を亡ぼしたら魔物がいなくなるとか言ってなかった?」
「うん、そうだね」
え? それだけ?
「リク様、それがどうかしたの?」
「いや、魔族滅ぼしたって魔物がいなくなるわけじゃないじゃん?」
「「「え?」」」
シエラとリリィ以外がそんな反応をする。シエラは興味がないだけだろうが。
「お兄ちゃん、魔物って魔族が作り出してるんじゃないの?」
「違うと思うけど。というかそれ、誰に聞いたの?」
「りりぃはそんなことしてないのに……」
リリィがシュンとする。
「誰にって言われても……」
「私はそういうものだと思ってた」
「私もそういうものだと……あれ、なぜそんなこと思っていたのでしょうか?」
質問を質問で返すのはやめていただきた。僕の主観ではあるが、魔物は簡単に言うと動物が魔力を取り込んだものだと思う。その取り込んだの魔力の源が魔石だ。その証拠に魔物の中には魔法のような特技を持った個体もいると聞く。あったことないけど。それに、魔物が強いほど魔石が大きいというのも、魔力を多く宿しているから強いのだろう。
「お兄ちゃんは何でそんなこと知ってるの?」
「魔物の中の魔力の流れを感知して、そうかなって思っただけ」
「それならリク様だけじゃなくエリンも分かるはず」
「私はてっきりそれを魔族が仕組んでいるのものかと」
思い込み激しいな。何だろうこの違和感。そういえばガノード島関連の勇者の噂とかもシエラから聞いた話では違うかったんだっけ。勇者や魔族などの絶対的存在や敵に対してはそう言った思い込みもあり得るのだろうか。
「ごめんね、リリィちゃん」
「ごめん」
「私としたことが思い込みで……。申し訳ないです」
「りりぃはこのぐらいきにしません」
さて、そんな雑談をしている間にもかなりの速度で飛んでいるのだが、なかなか目的地に着かないな。
『そんなことはないぞ、主様』
シエラに促されて遠くをよく見ると、船が十数隻浮かんでいた。
近づくにつれてその大きさに圧倒される。ある程度近づいたところでリリィが反応する。
「あれおとうさんのふね!」
この距離ではリリィが指さした先にあるのがどの船かは分からないが、多分、周りの船と比べて一際大きい船だろう。魔法で望遠鏡代わりに指でわっかを作ってそこから覗いて相手の状況を見てみる。
「何それ! 私もやってみたい!」
とルカに言われたのでルカの手元にも魔法をかける。
「「」」クイッ
無言で訴えてきたのでアイラとリリィの手元にも魔法をかける。
ちなみに、エリンは僕に顔を近づけて一緒に覗いている。
『完全に戦闘態勢じゃな』
「ドラゴンがいたら誰でもそうする」
「そのドラゴンの上にいるお兄ちゃんが一番やばいなんて誰も思ってないんだろうね」
そのやばいって言い方はやめてもらえないだろうか。
「リク、どうしますか?」
どうしよう。何か合図を送れればいいんだけど。いっその事、リリィだけ転移魔法で船の上に転移させて僕らはUターンでもいいのではなかろうか。とも考えたが、リリィがこちらに送られたということは、送ってきた相手はメノード島にいるということになる。ちょっとリスキー過ぎる気がしたので止めておこう。
「シエラ、取り敢えず止まってくれる?」
『了解じゃ』
僕らが止まって考えていると、向こうも止まった。下手に進んで変にごたごたしても嫌だなぁ。僕がそんなことを考えていると、一隻の船がこちらに近づいてきた。その船は僕らからある程度離れた距離で止まり、船員が声を掛けてきた。
「エ、エンシェントドラゴンが我々に何か御用でしょうか?」
そういえばエンシェントドラゴンが会話できるというのは周知の事実だった気がする。シエラってすごいんだなぁ。
『馬鹿にしておるのか?』
「してない」
兎に角、シエラという周知の強敵がいれば相手も警戒して下手に動かず、どうにか会話は出来そうなので早い所リリィを引き渡そう。僕の予想通りにリリィの父親である魔王が動いているのならこの船の団体は人間の大陸に攻めに行くためのものということになる。もしそうなら丁重にお帰り頂かなくてはならない。




