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天才魔法使いは自由気ままに旅をする  作者: 背伸びした猫
~4章~ ストビー王国
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天才魔法使い、次の国へと向かう

 デルガンダ王国で騒がしい一日を過ごした翌日、予定通り僕らは次の国へと向かうことになった。見送りにはラエル王女とリエル様が来てくれた。



「ラエル王女、リエル様、行ってくるね!」


「またいつでも来てね」


「ルカちゃん、ずいぶんと楽しそうですね」


「だからちゃん付けで呼ばないでって言ってるでしょ!」



 その後、ラエル王女は僕の方に向き直り、真面目な顔で口を開いた。



「リントブル聖王国は極端な実力主義者の国と言われていますが、ストビー王国やデルガンダ王国とはほとんど関与していないので内情はよく分かっていません。気を付けてください」


「わざわざありがとうございます」


「リク様なら何があっても大丈夫」


「私もついているので大丈夫です」


「羽虫はともかく妾がおったらどうにでもなると思うのじゃ」



 まあ、確かにシエラとエリンほど頼もしい存在も他にいないだろう。皆の言葉を聞いたラエル王女は納得したように微笑む。



「余計な心配だったようですね。ではお気をつけて」


「次帰ってきたときは旅の話聞かせてね」


「任せといて! お兄ちゃんの武勇伝と一緒に聞かせてあげる!」



 後半のは必要ないと思うんだけど。

 二人に手を振って城を出た。姿を変えた状態で街を出て、元の姿に戻る。



「ねぇ、お兄ちゃん。どうやって次の街まで行くの?」


「歩きで――」


「却下じゃ。妾が連れて行ってやるのじゃ」


「それなら私の転移魔法の方がいいのではないですか?」



 転移魔法とか言う旅の醍醐味である道中での楽しみを全否定する魔法。



「転移魔法は却下」


「なぜですか?」


「リク様が旅の道中を楽しみたいから」


「……それはトカゲに乗っても無理なのではないですか?」


「それ、お兄ちゃんの妥協策なんだよね」



 僕は普通に歩きたいのに、シエラが駄々をこねるからそうしたのだ。



「歩くと何日かかると思っておるのじゃ」



 その後も多少話し合いは続いたが、結局シエラに乗っていくことで落ち着いた。ここを譲ってしまったら自分でも旅人を名乗る自信がなくなるので、ここだけは譲れない。



(それは今更だと思うのじゃが……)





「そういえば、ルカはリントブル聖王国って行ったことあるの?」


「あの国は使者がたまに来たり、魔道具で連絡がきたりするぐらいだから行ったことない。ストビー王国も同じじゃないかな?」



 ずいぶんと周りとの接触が薄い国だな。



「それ僕らは入れるの?」


「中々外には出れないけど、中に入るのは難しくないらしいよ。でもお兄ちゃんなら簡単に抜けられるし大丈夫でしょ?」



 なんか急に行きたくなくなったんだけど。



「では戻りますか?」


「いや、一応行ってみよう。やばそうならすぐにUターンする」


「主様がやばいと思う時点でどうにもできない状況の様な気がするのじゃが」



 まあ、世の中何があるか分からないし。



「リク様はリントブル聖王国の後はどうするの?」


「魔族のところに行くつもりだけど」


「「「え?」」」


「なんじゃ? 魔族のところに行くのは大変なのかや?」



 そういえばずっと他の島にいたシエラはこっちの事情とか知らないのか。



「いやその、人間と魔族って戦争してるしさすがのお兄ちゃんでも――」


「エリンに姿変えてもらったら大丈夫じゃない?」


「それは……そうかもしれないけど」



 それに魔族だって全員が人間に対して敵対意識を持っているわけではないのだ。

 そんなこんな話していると日が暮れてきたので、野宿の準備に入る。



「……はっ! 野宿が始まった時に転移魔法で街に戻って朝になってから戻ってこればいいのではないですか?」


「それは私が料理をする機会が無くなるから困る」



 予想外の方向から予想外の理由で援護射撃が来た。



「私はそれ以外役目がないから」


「ちょっと待って、じゃあ私は? 何もないんだけど。……ねえ、なんで皆そんな目でこっち見るの?」



 そんなこんなで賑やかな野宿をしたり、途中みんなでシエラの背中で昼寝して文句を言われたり、シエラがどこかで狩ってきた魔物を捌いて食べたりしながら進み、関所に到着した。



「……なにこれ?」



 関所が異常にしっかりした作りをしている。真っ白な石造りの見事な建物だ。その隣に立っている申し訳程度の木でできた小屋は一体……。



「あの小さいほうがストビー王国の関所にいる兵士が寝泊まりする場所だと思うよ。デルガンダ王国との国境もこんな感じだから」



 僕の中でのリントブル聖王国に対する好感度が右肩下がりだ。自己顕示欲が強い人とか自分に溺れている人ってなぜか好きになれないんだよね。性格が激変する前の勇者とか。いや、豹変する性格と言うのもどうかと思うけど。……確か勇者ってリントブル聖王国の出身じゃなかったっけ? ああいうのばかりの国なら即撤退しよう。

 そんなことを考えながら関所へと向かった。





「ではここに手をかざせ」



 関所に入った時から思ってたけど何でこんな上から目線なの? 取り敢えずこの丸い透明な水晶に手をかざせばいいのだろう。これはその人の魔力の強さや量を見ることが出来る魔道具らしい。体術と魔法どちらが得意かと聞かれ、魔法と答えたらここに連れてこられた。かなり高い品なので、この国にしかないらしい。この結果でこの国での扱いが決まるとか何とか。



「エリン?」


「いえ、気にしないでください」



 姿を変えて人間のふりをしていたエリンがそっと僕の後ろに隠れ、アイラとルカを手招きしている。僕とシエラはそれを不思議そうに眺めていたが、すぐに理由が分かった。



「「「「「っ!」」」」」



 一瞬、水晶から辺りを包み込むほどの光が放たれた。その後すぐに音を立てて水晶が割れ、辺りに破片が飛び散る。

 ……これ弁償とかさせられるのだろうか。



「おっ、お前何をした!」


「言われた通りにしただけなんですけど」


「嘘をつくなっ!」



 えぇ。なにこれ僕が悪いんですか?



「リク、少し魔力を貰ってもいいですか?」


「え? うん、いいけど何するの?」


「大したことじゃないですよ。後、私が前に出たらそこにある水晶の破片を片付けてもらえますか?」


「え、うん」



 僕の返事を聞いたエリンはリントブル聖王国の兵士の方へと近づいて行った。



「「……」」



 二人の間に沈黙が降りた。その間に僕はアイテムボックスに水晶の破片を片付ける。だが、リントブル聖王国の兵士はそれを見ても一切反応しない。暫くして沈黙を破ったのはエリンだ。



「いいですか、水晶はこの人に対して最大の反応をしました」


「……はい」


「あなたはその前提で手続きをします」


「……はい」


「水晶は一週間後に急に無くなったことにしてください」


「……はい」



 それを見た僕らは肩を震わせていた。何この子超怖いんですけど。

 兵士はふらふらと奥の部屋へと向かう。



「終わりました」ニコッ


「あぁ、うん」



 エリンに逆らうのはやめておこう。



「あまり私たちがここにいるとその人に気付かれるかもしれないのですぐに出ましょう」



 と言われたのでストビー王国の方の兵士に挨拶をしてからリントブル聖王国の領地へと足を踏み入れた。何でも一時的なものなので、時間が経ってから何かきっかけのようなことがあれば思い出してしまうかもしれないとのこと。逆にそんなことがなければずっと勘違いしたままになるらしい。もし精霊が悪意を持った人間と契約することになれば、人間の世界の征服なんて案外簡単だったりするのかもしれない。

 新しい国には入れて楽しいはずなのに不安の方が大きい気がする。気のせいであって欲しい。そう願いながら次の国へと足を踏み入れた。

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