天才魔法使い、謎に迫る
デルガンダ王国のギルドマスターが一つ咳ばらいをして話を始めた。
ちなみに、ストビー王国の大臣も何人か来ている。もちろん、それに応じて護衛の数も増えているのでかなりの大人数である。
「まずこの魔石を見て欲しい。黒い霧に包まれていた魔物の物じゃ」
そこにあったのは真っ黒な魔石だった。魔物によって多少強弱はあるが、僕が今まで見てきた魔石は赤色だった。
「ガノード島でシエラ殿が聞いた話から考えて十中八九、負の感情を使った物じゃろう。じゃが、これに関しては集め方も使い方も儂たちには分からん」
まあ、それは仕方ないよね。
「せめて敵の情報が掴めれば……」
「一人でも敵の一人を捕まえられればもしかしたら……」
そんな周りからの声に反応してルカがこちらを見る。
「……何?」
「お兄ちゃんが船の爆発抑えられてたらなって」
えー。それは僕悪くないと思うんだけど。
「主様もまだまだじゃなぁ」
「ねぇ、あの時僕に『妾がやってもよいか』みたいなこと聞いてきたの誰だっけ」
「だ、誰じゃったかな?」
そう言いながらシエラが顔をそむける。
「どの道あれは仕方ないと思う」
「証拠も回収できたようですし、変態脳筋トカゲに任せるよりは良い結果になったのではないかと」
「その場にいなかった羽虫が何を偉そうに……」
「その場にいても何も出来なかった変態脳筋トカゲが何を言っているのですか?」
何でそんな喧嘩腰になるかなぁ。
周りが話を中断してまで僕らに耳を傾けている中、ストビー王国の人々は頭の上に疑問符を浮かべていた。
その理由は、陛下がすぐに説明してくれた。
「まだ全てを細かく説明できているわけではないのじゃ。後で儂らの方から説明しておこう」
「この間全てを話してくれたのではなかったのですか?」
「大雑把にしか話せておらん」
その返事にラエル王女が不本意そうな表情を浮かべる。
「お主がリクが国の兵士に魔力の扱いを教えたのを聞いてから上の空じゃったから大雑把に説明するだけにしたのだ」
「それは……そうですが……」
国があんな危機に陥ったら国力の強化を焦るのも仕方ないと思う。
「さて、もう一つ伝えておくべきことがある。これを見て欲しい」
ギルドマスターが皆の前に出したのは一辺50㎝ぐらいの正方形の真っ黒な何かだ。真ん中で奇麗に二つに割れている。
「恐らくこれが魔法を使えなくしていた原因じゃろう。例のごとく仕組みは分からんが……」
……あぁ、これ僕が割ったやつか。
皆が首を傾げる中、ラエル王女が口を開く。
「リクはあの時魔法を使っていたように見えたのですが……それにエリン様やシエラ様も」
「多分、それの効果が魔力を属性に変換するのを妨害するものだからだと思います」
何かみんなの頭の上に疑問符が浮かんでるな。
「えっと、魔力については皆さんご存知ですか?」
「デルガンダ王国は全員知っておるぞ」
「ストビー王国もリクが扱いを教えるときの負担を減らせるとルカちゃんから聞いたので教えています」
「ちょ、ちょっとラエル王女! ちゃん付けで呼ぶのはやめてって言ってるでしょ!」
「ルカ、話の腰を折らないで」
「え、何で私が悪いみたいになってるの?」
確かに話は逸れたけどルカが悪いかと言われればそうではないような……悪いのかな?
取り敢えず本題に戻ろう。
「例えば、火の魔法を使うときには魔力を火に変換します。それを妨害されているんだと思います」
「ではリクはどのように魔法を?」
「魔力をそのまま使えばいいんです」
僕はトンッと軽く飛び、魔力で作った足場に着地する。その後、武器に魔力を込めて青い光を纏わせた。
「こんな感じで魔力をそのまま使わなければその影響は受けませんでした」
周りからふむふむとかなるほどとか聞こえる。なんかそういう反応を一斉にされると本当に全員が理解してくれているのか不安になるのは僕だけだろうか。
「それでは、エリン様とシエラ様が魔法を遣えたのは?」
「シエラとエリンのはそもそも僕らと同じ魔法ではないので。シエラみたいに人間の体や竜の姿に変化する魔法なんて僕らには使えませんし、精霊魔法は魔力こそ僕らが提供していますが実際に実行してるのは精霊で僕らが同じ魔法を使えるわけではないので」
なんか説明するの難しいな。長くなってしまった。そんなことを考えていると、僕の言いたいことをギルドマスターが簡潔にまとめてくれた。
「要は属性を持たない魔法、ドラゴンの魔法、精霊魔法の3つが影響を受けずに使えると言う訳じゃな」
普段、何かあった時冒険者に説明したりしているせいか、話をまとめるのが上手くて分かりやすい。そのスキル、少し分けて欲しいものである。
ギルドマスターによれば分かったのはその二つだけ……というかそれ以上調べる手段がないのですぐに報告することになったのだそう。言われてみれば前回と比べてギルドマスターの顔色がいい気がするし、調査結果が分かるまで随分と早かった……というか一日しか経っていない。
「話は以上じゃ」
さてと、アルたちの話をしにゼルたちを探しに行きますか。
「ラエル王女、僕は少しここで用があるのですが先に戻りますか?」
「いえ、陛下たちと今後のことについて話し合いをしたいので後でお願いします」
首脳会談? いや、大臣もかなりいて二人じゃないから首脳会談じゃないのか? いや、そもそも首脳会談って大臣いても当てはまるのか? 国のトップの首脳の会談だから首脳会談。なら当てはまる……のか?
……なんか首脳会談がゲシュタルト崩壊してきた。
「リク様?」
「いや、何でもない」
「お兄ちゃんが難しそうな顔をするなんて珍しいね」
「リク、大丈夫ですか?」
「いや、主様は本当に下らんことを考えておったから気にする必要はないのじゃ」
それは黙っといて欲しいんですけど。
「リク、何考えてたのですか?」
「ごめん、聞かないで」
気を取り直してラエル王女の方に向き直る。
「いつ頃来たらいいですか?」
「そうですね……夕食前にお願いします」
「分かりました」
☆
城の訓練場に当たり前のようにいた4人に声を掛けて、アルの希望を言ってみた。
「と、言う訳なんだけどどうする?」
「「「「師匠の一番弟子として受けて立ちます(立つぜ)」」」」
その一番弟子に対するなそのプライドは何なんだろう。ちなみに、肩に座っているエリン以外は姿を変えて街に遊びに行っている。
「それでその子は強いんですか?」
「アルの方はその日のうちに剣に魔力込めれたし、フェリアもその日のうちに一人で魔法使えるようになってたかな」
4人が驚きの表情を浮かべる。ま、そうなるよね。僕も驚いた。
「でも2人は今まで戦闘経験が皆無だから……」
「分かった! 俺たちに天狗になってる鼻をへし折ってほしいんだな」
そこまでは言ってない。
「ストビー王国の兵士に、魔力の扱いを教えるのに、どのぐらいかかるん、ですか?」
「う~ん、多分1週間ちょっとかな。2週間はかからないってラエル王女が言ってた気がする」
「じゃあそれまでは冒険者業を休んで練習しないと……」
まだ冒険者業やってたんだ。なんかいつ来てもここに居るからてっきりやめたものかと思ってた。
「俺たちギルドには結構頼りにされてるんだぜ」
「師匠のお陰で私たち結構有名になって、たまに難易度の高いクエストを頼まれるんです」
「おぉ。そういえば今の冒険者ランクは?」
「「「「Aランクです!」」」」
ということは実力もそれなりについているのか。師匠として誇らしい限りである。
ここでそれまで口を閉ざして僕の方に座っていたエリンが口を開く。4人ともちらちらとエリンの方を見ながらも何も言わなかったのは僕から言い出すのを待ってくれていたんだろうか。
「あの時のSランク冒険者のせいで凄さを全く感じませんね」
「えっと、この子は精霊王でエリンって名前なんだ」
「さすがリクの一番弟子ですね。いい目をしています」
「「「「……精霊王?」」」」
「う~ん、どこから説明しよう……」
と、少し一人で考え込む。
「師匠がこの街を出てからのこと聞きたいです!」
「……少し長くなるけどいい?」
4人とも頷いてくれたので、デルガンダ王国を出てからの話を始めた。




