天才魔法使い、お茶会に参加する
あれから数日、拘束されるのも覚悟していたのだが、膨大な量の証拠を確認するのに時間がかかるとのことで僕らは街を散策して数日を過ごした。
結論から言えば、僕が散々頭を悩ませていたのは無駄に終わった。3人の貴族は裏でやっていたことが明るみに出たせいで、これから先は日の光を見ることのできない生活を送るらしい。彼らのことを知りながら黙っていた使用人などもそれなりの罰を受けるのだとか。もちろん、悪事が明るみに出たのは僕が屋敷で回収したものを全てラエル王女たちに差し出したせいだ。
そして、アイナのように無理やり働かされたり、貴族たちのストレスの解消の道具にされていた人たちは国の方で支援をするそうだ。お金の援助ぐらいならしてもいいかなと思ったが、地下の金庫にあったお金で十分らしい。
僕はあれだけ暴れたにも関わらず、アイラの事情を聞いたラエル王女の助力によりお咎めは一切なかった。
「――と、言った感じになりました。本当にありがとうございました」
ラエル王女は一通りの説明を終えるとペコリと僕に頭を下げた。
「いえ、なんというか、ただの成り行きだったので」
お昼下がり、約束通りラエル王女と話をするために僕とエリン、ラエル王女とリエル様で机を囲んでいた。僕はしたことがないので知らないが、こういうのをお茶会と言うのだろう。エリンは僕の肩に座って小さい果物を頬張っている。
他の皆は街へと出ている。勿論、姿は変えている。ルカ以外は変えなくてもいい気がするが、一人だけ仲間外れみたいになるのでやめておいた。
「そういえばデルガンダ王国と結んだ条約ってどのようなものなのですか? 手紙には詳しい内容については書いていなかったので気になったのですが……」
「えっと、こんな感じです」
僕がアイテムボックスから取り出したのはいつかの誓約書的なやつだ。和平条約という文字がでかでかと書かれている。これと全く同じものがデルガンダ王国にもう一つあるはずだ。
それを見たエリンが口を開く。
「これって一方的な降伏宣言ですよね?」
「いや、和平って書いてるし仲良くしよう的な感じじゃないの?」
「でもこれ実質敵対しないで下さいって国がお願いしてるのと変わらないと思いますけど」
言われてみれば確かにそう見えなくもないかもしれない。
「私たちもこうするべきなのでしょうけど、私の独断でこんなもの出せませんね……。屋敷が消滅したという話やデルガンダ王国での出来事もリクがやったと信じていない者もいるようですし」
「いや、別にこんなもの無くても敵対したりしませんから」
「……これ少し預かってもいいですか?」
「別に構いませんけど、こんなの何に使うんですか?」
「デルガンダ王国の大臣は優秀な者が多いので、彼らの判断となればうちの大臣たちも少しは考えてくれるかなと思いまして」
王族があれだけ自由にしていて国が機能しているのは大臣たちが優秀だったからか。
「コホンッ。それでは約束通り魔力についてのお話を聞いてもよろしいですか?」
「はい。それでは魔法の説明から――」
☆
「なるほど。これは凄いですね」
「ちょっと難しいね」
なんて言いながら2人は魔法を使っていた。今まで教えてきた人の中でこんな短時間で、しかもこんな簡単そうに魔法を使えるようになった人はいなかった。
「僕からも精霊についていくつか聞きたいんですけどいいですか?」
「そ、それなら私もエリンさんに聞きたいお話が!」
エリン、気持ちは分かるけどそんないやそうな顔はしないで欲しい。
「お姉ちゃん、まずはリクさんのお話を聞くんだよ」
「分かっています」
とは言ったものの、どこから聞いたらいいか分からないな。
「精霊と契約しているとどういった魔法が使えるんですか?」
「大きく分けて二つありますね。一つは精霊にしか使えない魔法で精霊魔法と言われています。こちらは契約者の魔力は必要ありません」
あれ、でもエリンが魔法を使うとき魔力もってかれてる気がするんだけど。そう思ってエリンの方を見ると、クリームを口元に付けたまま答えてくれた。
「私たち精霊は大地の力を利用できますが、契約者の魔力で補えば短時間で発動させることが出来るのです。転移魔法なんかはもの凄く魔力が必要なので使える人も限られているのです。大地の力を使うにしてもある程度時間がかかるので」
なるほど、納得。
「もう一つは私たちの使う魔法を強化してくれるものですね。契約紋を通して契約者の魔法に干渉して威力を強めます」
僕が逆の使い方してるやつのことかな。
「そういえばお2人の精霊は出てこないのですか?」
「精霊を呼び出すには相応の魔力が必要なのです。あなたと初めて会った時は悪意がないのを調べる目的で出てきてもらってました」
この子ずっと出てきてるんですけど。無言で甘々なスイーツに手を伸ばしているエリンの方に視線を向ける。
「リクの魔力ならこのぐらい問題ないと思いますけど」
「まあ、確かに問題ないけど」
「リクさんは凄いですね。私たち何てせいぜい2、3時間が限界です」
普通はそんなものなのか。転移魔法の話を聞いた時、時間を掛ければ誰でも出来そうだななんて思ったけど、時間制限があるのなら出来ない人がいるというのも納得だ。
「少し話は変わりますけど、『アイテムボックス』って使えますか? 出来れば使うところを見せて貰いたいのですが……」
「構いませんよ。これでいいですか?」
ラエル王女は手元のスプーンを使ってアイテムボックスから出し入れするところを見せてくれた。
なるほど、魔力を使って物を入れる空間を作り出しているのか。空間を作っている間常に魔力を使っているので少し燃費が悪そうだ。
随分と時間は空いたがちゃんと理解できてちょっとスッキリした。
「アイテムボックスはリクも使えるのではないのですか?」
「僕のは少し違うので」
「「違う?」」
「えぇ。実は――」
僕は自分が使っているアイテムボックスの仕組みを簡単に説明した。
「そんなことが出来るものなのですね」
「リクさんにしか出来ないんじゃないですか?」
出し入れするときにそれなりに魔力は必要だが、それさえ出来れば簡単に使える気がする。……いや、その魔力量がかなりの難関か。
話がひと段落したのを察したラエル王女の目線がエリンをロックオンする。と、同時にエリンがブルリと体を震わせる。
☆
隣でラエル王女が物凄い勢いでエリンにいろいろと聞いているので僕はさっきまでエリンがパクパク食べていたスイーツに手を伸ばした。
「すみません、お姉ちゃんが……」
「いえ、僕は聞きたいことが聞けたので寧ろ感謝しています」
「リクさんは旅をしているんですよね。次はどこへ行くんですか?」
「リントブル聖王国へ行こうかと思っています」
僕がそう言うと、顔を近づけて小さな声で話してくれた。
「あの国は実力が全ての国で貧富の差が激しいのです。旅人に対する扱いもよくはないと思います。お気を付けください。それに勇者の育成や魔王と戦うための軍事力のためにかなりの大金をこの国やデルガンダ王国から徴収しているのです」
「わざわざ教ええてくださってありがとうございます」
「いえいえ。これが役に立つかは分かりませんが、一応と思いまして」
そういえばデルガンダ王国の陛下もあんまり好意的なことは言ってなかったような気がするな。でも実力主義の国が育てたのが勇者だとすれば、大して問題もないような……。
「は、話は変わりますが、マルクス様はお元気でしたか?」
「えぇ。ドラゴンの騒ぎの時も陛下と共に先頭に立っていたらしいです。国民思いのいい王子ですよね」
「そうなんです!」
机をバンッと叩いてリエル様が立ち上がる。
「マルクス様は――」
物凄く鼻息が荒い。あと物凄く顔が近い。やはり姉妹か。マルクス王子が好きなのが物凄く伝わってくる。
視界にこちらを見てフッと笑うエリンの顔が入る。スイーツのためにラエル王女からの攻撃から一切助けなかったの、根に持ってるのかな。そんなことを考えている間にもリエル様のマルクス王子の話は止まらない。
……この話いつ終わるんだろう。




