天才魔法使い、ストビー王国へ向かう
同じような生活を続け、昨日兵士たち全員に魔力の感知をさせたので、今日ようやく旅を再開させることとなった。
普通に門から出ると騒ぎになる気がしたので、陛下たちと弟子4人に挨拶をして朝早くこっそりと王都を抜け出した。
「歩くの嫌なんじゃが」
「でも旅ってそんなものだし」
「お兄ちゃんのは旅って言えないほど快適だよ?」
「ルカでも歩けるんだから大丈夫」
「そうそう、私でも……馬鹿にしてる?」
アイラがそっと視線を逸らし、それを見たルカがギャーギャーと文句を言う。相変わらず仲いいな。
が、ギャーギャーと言っていたのはシエラも同じだった。ルカとアイラが遊んでいる間に僕はシエラの方の対応をした。
~1時間後~
僕らはシエラの猛攻に負け、シエラの背中に乗っていた。
ちなみにアイラとルカは既に夢の中である。僕は一人結界の外に出て、風を楽しんでいた。
「……やっぱりなんか違う」
『そうは言うが主様よ、早いに越したことはなかろう?』
シエラとの話し合いの結果、シエラに乗って進むということになったが、一日で着いてしまうと味気ないのでバフ系魔法は使っていない。それでも、三日もかからないと思う。
シエラとの話し合いの結果を二人に話してみると、
「私はリク様が決めた通りでいい」
「お兄ちゃん、これじゃ旅じゃないとか言ってるけど今更じゃない?」
とのこと。……旅楽しんでるの僕だけだったりするんだろうか。
『そんなことないのじゃ。旅の道中で食べる飯は楽しいと思っておるぞ?』
最近はルカもさすがに慣れたのか、唐突に僕とシエラの会話が始まっても突っ込んでこなくなった。これを常識と捉えられるのも何か嫌だな。
『文句ばっかりじゃな。そんなに思いつめると体を壊すぞ』
そんなことを言いながらシエラがくすくすと笑う。
誰のせいだと思っているのか。ま、旅に苦労は付き物だしこれも醍醐味ということで。
『妾がルカやアイラから聞いた旅に比べて主様の旅はむしろ苦労がなさすぎると思うのじゃが』
それはちょっと待って欲しい所だ。始めの街を出てドラゴンに襲われ、王都に入れば勇者とひと悶着があり、王都を出ればすぐに戻ってドラゴンの大群の相手をする。これのどこが苦労がないと言うのだろうか。
『それはあるかもしれんな、普通の人間なら。じゃが、主様は大して苦労しておらんじゃろ』
まぁ……。そうだけど。むしろ美味しいお肉をありがとうまである。
『やはり主様は面白いのじゃ』
シエラが笑いながらそんなことを言う。馬鹿にしてる?
『そんなことないぞ。旅が楽しいかはともかく主様といるのは楽しいのじゃ』
もっと旅を楽しめよ。……いや、移動に空飛んだら旅なんて経験できないじゃん。やっぱりちゃんと歩いた方が――。
『それは却下じゃ』
珍しく、というか初めてシエラと二人でのんびりと会話をして、空が暗くなってきたところで地上に降りていつも通り準備をする。
「ねぇ、お兄ちゃん、ここって何処?」
そうえば暫く道と森しか見えてなかったから場所分からないな。
「シエラなら分かる……かも……」
アイラの言葉がつっかかる。アイラの視線の先を見ると、巨大な何かを両腕でつかんでこちらに飛んで来るシエラの姿があった。僕らの前にドスンとそれを落とす。
丸々太った胴体から首が六本生えてきている。何こいつ?
「アイラ、でかそうな獲物を捕ってきたから早く料理するのじゃ!」
「シエラ、それ何?」
「……知らん。じゃが妾の噛み付いた時の判定じゃと味は中の上ぐらいじゃぞ」
そのよく分からない判定は信用していいのだろうか。
そういえば僕らを下ろした後に「ちょっと出掛けてくるのじゃ。期待して待っておれ」みたいなことを言って再び飛び立っていったが、まさか食料調達とは。これからはシエラに任せようかな。
「そのぐらいなら任せるのじゃ。妾の舌に狂いはないしの」
「シエラさん、ガノード島のあのでっかい蛇はどの位なの?」
「上の下じゃな。アイラの料理が上の上じゃ」
生食と料理比べられても分からない。
というか首が6本もある魔物、よく齧れるものだ。不気味すぎて躊躇いそうなものだが。首が焼けてるのはシエラの炎かな。料理するならもう少し他の方法で倒した方がよさそうなものだが。
「そうは言うが主様よ、あの魔物首を噛み千切ってもすぐに再生しておったぞ。傷口を焼いてようやく倒せたのじゃ」
首が再生するとかえげつないな。サイズはドラゴンの半分ぐらいだろうか。流石のシエラも一日じゃ食べきれないな。
「今日の夜と明日の朝で食べきって見せるのじゃ!」
よく朝から肉なんて食べられるな。王都でいろいろな食材貰って来てるから、朝はアイラにサラダでも作ってもらおう。
陛下から色々なことに対するお礼として珍しい食材や貴重な食材を沢山もらっているので、どれを食べるか明日の朝までに考えておかなければ。
「そんな気負わなくても……」
「リク様のアイテムボックスなら、別に一度に食べきれなくても問題ない」
「それじゃダメなのじゃ。こういうのはその時に食べきるのがいいのじゃ。主様が旅にこだわってるのと同じじゃ!」
そう言われると分からなくも……うん?
「ガノード島の巨大な蛇みたいなやつ、まだかなりの量残ってるんだけど」
「何事にも限度はあるじゃろう」
都合の悪い出来事にはやんわり目を瞑るシエラ。
結論を言おう。シエラがとってきた魔物は普通に美味しかった。見た目があれだったが、アイラの料理として出てくるときには元の姿など想像できないようになっているので気にならなかった。
それにしても何か忘れているような……。
「あ、そうだ。シエラさん、ここってどこか分かる?」
「ん? 主様と初めて会った場所じゃよ」
はっや。僕らがここまで歩いて来るのに何日かかったことか……。
「主様と一緒に王都に戻った時はもっと早かったじゃろう」
確かに。ということはもうすぐ国境かな?
「シエラが飛んで行って国境の人たち驚かないかな?」
「大丈夫じゃない? ほら、私一応お姫様だし。……お姫様だし」
自分で一応って言っちゃったのが失敗だったんだね。ルカなら突っ込むとぐずりそうなのでここはそっとしておこう。
翌日の朝、シエラは見事に残りを食べきった。本当のドラゴンの胃袋って頑丈だな。
また、最近ルカとシエラは寝る前にトランプで遊んでいるので、テントの中は二つに仕切っている。そのため、ルカの襲撃は受けていない。
☆
『国境ってあれのことかや?』
二つの建物が見えてきた。片方がデルガンダ王国、もう一方がストビー王国のものとかだろう。へぇ。関所ってあんな感じなんだ。
「うん。シエラさん、一回下に降りてくれる? 一応報告しないといけないから」
『人間のルールは面倒じゃなぁ』
「ドラゴンみたいに殺伐な世界よりはいいと思う」
『殺伐とは言い過ぎではないか? 弱ければ食べられるだけの至極自然な世界じゃぞ。……な、なんじゃその反応は!』
ま、ドラゴンじゃ人と感覚が違うだろうし、今までそれが当たり前の世界で生きて生きたのなら仕方ないことだろう。そう、例え弱ければ死ぬしかない世界を殺伐と思えなくても仕方ないのだ。
地上に降りて関所の方へ向かうと、関所の人たちが出迎えてくれた。獣人の方がストビー王国の兵士だろう。デルガンダ王国の兵士は全員魔力の感知を教えているので見ればわかる。……旅人が国の戦力把握してるって大丈夫なんだろうか。
「荷物を見せればいいんですよね? アイテムボックスの中身とかどうしたらいいですか?」
「いえ、リク様たちはこのまま通過してもらって問題ありません」
いやいや、ここ管理してるのデルガンダ王国だけじゃないんだしダメでしょ。と、思ったがどうやら陛下が特例を出してくれたらしい。ストビー王国の方も難なく了承してくれたとか。
「あ~、あの国の王女ならお兄ちゃんの話聞いたらそうなるよね」
ルカがすごく気になることを言ったので詳しく聞こうとしたのだが、少し離れたところにいる集団に目が留まる。
そこにいたのは王都で僕に突っかかってきた冒険者と勇者ロイドの姿だった。




