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天才魔法使いは自由気ままに旅をする  作者: 背伸びした猫
~3章~ ガノード島
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天才魔法使い、殺虫する

「主様よ、このままではずいぶんと時間がかかるのじゃが」


「もう少し速度上げてもいいよ」


「じゃが、主様はともかくアイラとルカにはきついかもしれんのじゃ」



 海の上に出てすぐ、シエラとそんな会話をしていた。

 確かにあんまり早すぎると二人には厳しいかもしれない。とりあえず結界でも張っておこう。



「はい。もう速度上げてもいいよ」


「……なぜ結界を使えるのじゃ」


「え? お兄ちゃんだからじゃないの?」



 その理由で何でも通せると思うなよ……。



「そういえばリク様に一度結界で守ってもらったことがある」



 そういえばドラゴンに襲われたときにアイラを結界で守ってたんだっけ。

 結界はそもそもドラゴンにしか使えないと言われている。僕が使っているのは模擬的な結界で、かかる圧力に反応して、それと同じ圧力を外側に掛ける風魔法的な何かだ。



「妾の結界とそう変わらん防御能力がありそうなんじゃがこれで模擬的とは……」


「お兄ちゃんってもしかしてドラゴン?」


「リク様ならあり得る」


「あり得ないから!」



 最近になってアイラの口数が少しずつ増えている気がする。少し前はこんな冗談言う事なんてなかったのに。アイラの成長を感じながら僕らは空の旅を楽しんだ。





「ぐすん……、もう一回……」


「いや、まぁ暇だからルカがやりたいのならいいんだけどさ」


「これで何連敗?」


『お主ら、妾の背中の上でトランプをするのはやめてくれんか』



 僕らは今、大陸の北側にあるデルガンダ王国から、北西へ向かって海を渡っている。そして、大陸からガノード島へはそれなりに距離がある。

 つまるところ、いつまでも同じ景色でさすがに飽きてしまったのだ。そこで、ババ抜きをしようとルカが提案してきたのだが、結果はこの通りである。



「あぁ、そうだ。ルカ、これ付けてみて」


「……仮面?」


「街ぶらついてたら誰かがくれたやつなんだけど……」



 ルカに渡したのは顔全体を覆った仮面だ。これでポーカーフェイスとか関係ないはずだ。





「か、勝った……」


『主様、仮面はまだあるのか?』


「後であげるからよそ見せずに飛んでくれ」



 首を曲げて自分の背中を見るとは器用な奴だ。



「仮面があったらどれがババか分からない……」


「アイラ、それが普通だから」


「っ、これで練習すればいつか仮面無しでも勝てるようになるもん!」



 そうだといいな。





「それで、そろそろ着きそう?」



 実は僕のバフ系の魔法マシマシの状態だったりするので、こんなにかかるとは思ってなかった。



『普通に飛んだら3日は掛かるところを半日で着くのじゃ。十分早かろう』


「まぁ、確かに」


「お兄ちゃん、暗くて手元が見えなくなってきたから魔法で照らしてくれない?」


「はいはい」


「ババ抜き止めてもいいと思う」


「まだやるの!」



 僕は適当な位置に光の球を出した。が、一つ問題が発生する。



『主様よ、なんかいろいろと集まって来とるのじゃが』


「え? 何が?」



 次の瞬間、海から何かがこちらに向かって飛び跳ね、それをシエラが華麗に躱した。



「「「……」」」


『主様でも驚くこともあるのじゃなぁ』



 シエラが一人で感心している。誰でもあんなの出てきたら驚く。飛び跳ねてきたのはもちろん魚ではあるのだが、そのサイズが異常だった。ドラゴンの半分はある。



「光に向かって飛んできたのか」


『そのようじゃな』


「ルカ、悪いけどトランプはここまでね」


「う、うん」



 ルカが少し怯えている。見た目が地上に挙げられた深海魚並みにすごかったのは無関係ではないだろう。



「あの大きさ……、捌ける自信がない……」



 アイラは一人だけ思考の方向が違う。僕としては自信がないだけで捌けないと言わない事に驚きだ。切断ぐらいなら魔法で手伝ってやろう。そんなことを考えていた時だった。



「っ!」


『主様? 今の魔法、妾にあたりかけておったのじゃが……』


「お兄ちゃん、もしかして虫苦手?」


「旅の途中も虫が入らないように魔法使ってた」



 先程の魚の半分ぐらいのサイズの蛾が飛んできたのだ。そんなの飛んで来たら跡形もなく燃やすのは常識だろう。



『そんな常識あるわけないじゃろう』


「お兄ちゃんの火属性の魔法初めて見たけど、相変わらず異常な威力だよね」


「私も頑張らないと」


『主様を基準にするのは間違っていると思うのじゃ』



 シエラが失礼なことを言っているが、今はそれどころではない。



「シエラ、いったん止まってくれ」


『それは良いが、何をするんじゃ?』


「殲滅する」


「お兄ちゃん、目が怖いんだけど」


「リク様、魚は置いといて欲しい」


「大丈夫、虫しか殺らないから。シエラ、結界お願い」


『う、うむ』



 シエラが僕らに球状の結界を張る。ドラゴンの結界は何ものも通さないらしい。僕の模擬結界では熱は防ぎきれないため、こちらの方がいいのだ。



『主様の魔法が直撃したら一瞬で壊れそうじゃがの』



 僕は右手のひらを天に向けた。



「お兄ちゃん、太陽並みに……、というか太陽以上に眩しいんだけど!」


「凄い……、昼間みたいに明るい」


『主様! 早くするのじゃ! こんな威力の魔法、近くにあるだけで妾の結界じゃ長く持たんのじゃ!』


「任せとけ」



 僕らの上空に現れた巨大な火の球からあちこちへ火の球が飛んでいく。明るくなって気が付く。周りにかなりの数のでかい虫が集まっていた。視界に入るものはすべて消し炭にしたので、暫く遭遇することはないだろう。



「これは定期的にやらないとな……」


「お兄ちゃん、それ普通に環境破壊だと思うけど」


『ちょっと待て、一応食料にもなるのじゃぞ?』


「流石にアレは料理したくない……、でもリク様が言うのなら――」


「いや、ゲテモノ料理に手を出すつもりはないから。あれは料理なんてしなくていいよ」



 オーク以上に食べたくない。それにあんな感じの虫は無駄に生命力が強いから僕が多少殺虫魔法使ったぐらいで全滅することはないと思う。



『さっきの殺虫魔法じゃったのか!?』


「虫というか人も簡単に殺せるよね、今の魔法」


「虫が人より強いんだからしょうがない」



 虫を殺すための魔法なら殺虫魔法と呼べるだろう。ならば今のも殺虫魔法だ。



『それは暴論過ぎると思うんじゃが』


「今のは私でもお兄ちゃんが何考えてるか分かった気がする」


「リク様と一緒に居たら分かるようになる」



 超能力者を増やしてしまった。

 もう少し僕のプライバシーに対して気を遣ってほしいものだ。



「何あれ?」



 ルカが水面を指さしているが、暗くて全く見えない。

 この辺の虫は殲滅したし大丈夫だろう。

 そう思って僕は魔法を使って辺りを照らした。



「船?」


「こんなところにお兄ちゃんなしで航海なんて凄い」



 僕のこと兵器か何かと勘違いしてない?

 というか凄い大きさだな。魚と同じぐらいはある。……まぁ、この辺の魚の大きさ考えたらこのぐらいじゃないと航海なんてできないか。



『妾がまったく気配に気づかんとは……』


「ねぇ、向きから考えてガノード島からユーロン島に向かってるよね。そんな奴に一つ思い当たる節があるんだけど」



 皆もすぐに気づき、顔を見合わせる。



『主様、妾がやってもよいか?』


「悪いけどあいつらの目的知りたいからここは僕が――」



 僕がそこまで喋った時、船が爆発した。

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