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天才魔法使いは自由気ままに旅をする  作者: 背伸びした猫
~3章~ ガノード島
32/120

天才魔法使い、ガノード島へ向かう

2018/8/5:誤字を修正しました

 窓から差し込む光に刺激されて目を覚ました僕は大きく背伸びをした。外からは鳥たちのさえずりが聞こえる。



「おはよう、リク様」


「おはよう」



 アイラが片手で目をこすりながら朝の挨拶をする。今日はルカの奇襲がないから静かだ。



「お腹空いた」


「ご飯食べに行こっか」



 僕とアイラは着替えて食卓へと向かった。





<ガシャン>



 ルカが手に持っていたフォークを落とす。



「ご、ごめん……」


「夜更かしなんてするからそうなる」


「だって楽しくて……」



 どうやらあの後、トランプが思いのほか盛り上がり、最終的には陛下とマルクス王子を巻き込んでの勝負となったらしい。そのせいで王族3人は凄く眠そうだ。さっきルカがフォークを落としたのは食べながら意識が夢の世界へと行きかけたせいだろう。



「シエラは大丈夫なの?」


「妾は人間と違って2、3日寝なかったぐらいではどうということはない」



 そんなことを言うシエラに周りのみんなはジト目を向ける。シエラは正しい姿勢で椅子に座り、目を瞑っている。そんな状態でそんなこと言われても何の説得力もない。それにしても、座ったまま寝れるとかすごいな。



「勘違いするでない、主様。これは妾なりの食事をするときの作法なのじゃ。食材には感謝をささげんといかんからな」


「昨日はそんなことしてなかった」


「うぐっ」



 アイラの突っ込みにばつの悪そうな顔をする。なんてお粗末な言い訳なんだろう。素直に謝るルカの方が何倍もマシである。



「リク殿、次はどこへ行くつもりなのだ?」


「ガノード島です。ドラゴンが食べている魚を食べに行ってみようかと」


「リクは相変わらず自由だな。僕もいつか自由に世界を回ってみたいものだ」


「王族が国を離れるのは難しいんじゃないですか?」


「そうなんだ。リクがうらやましいよ」



 権利の代わりに自由が利かないのか。マルクス王子も大変だな。



「いや、そんなことはないぞ。儂は若いころ色々な場所を回っておったしな」


「本当ですか!?」



 マルクス王子が両手で机に叩いて立ち上がる。後ろに控えていた護衛の兵士が右手を顔に当て天を仰いでいる。絶対迷惑かけまくってたな。



「何、ちょっと世界を舞台に兵士たちと鬼ごっこをしておっただけじゃよ」



 こんな迷惑な鬼ごっこ他にあるだろうか。



「あの頃は先代の王も生きておったしな。それほど迷惑にはならなかったはずじゃ」



 後ろの兵士の反応を見るだけでそれが勘違いなのは分かる。



「ならば僕も父上が元気な今のうちに!」



 二人がそんな会話をしている間に後ろの兵士は近くにいたもう一人の兵士に頼んでこのことを伝達すべく部屋の外へと駆け出していた。鬼ごっこは無理だな。



<ガシャン>


「……ごめん」


「ここ出るのはお昼にするからそれまで寝てていいよ」



 本当は朝のうちに出るつもりだったのだが仕方ない。ルカはともかく案内役のシエラがあれではたどり着ける気がしない。ガノード島までがシエラが乗せていってくれるらしいので、シエラの体調によっては僕らの命にかかわりかねない。



「主様がその程度で死ぬわけなかろう」



 シエラが目を瞑ったまま僕の心の声に反応する。だが先程とは違い手と口は動いている。器用な奴だ。目を瞑っているせいでちょくちょくフォークが空振りしてはいるが。



「いやいや、海の上じゃ何があるか分からないし」


「主様を死に至らしめるようなものが海に入たらドラゴンなんて滅びとるのと思うのじゃ」


「僕のこと人外の化け物みたいに言うのやめてくれない?」


「心配するでない主様よ、妾はそんな風には思っておらん。人間と認識するのが少し難しいだけじゃ」



 人外認定されてんじゃん。本当に失礼な従魔だ。そんなことを考えていると周りからの視線がおかしいことに気が付く。



「あぁ、リクの心の声に反応していたのか」


「脈絡がなさ過ぎて混乱してしまったわい」



 アイラが悔しそうな表情をしているのは僕が何を考えているのか読み取れなかったからだろう。それが普通なんだから、そんなことで悔しがらなくてもいいと思う。ルカは既に夢の中なので特に反応はなかった。

 その後、お昼まで休もうと思い、アイラと部屋に向かおうとしていた時だった。



「お久しぶりです、リク殿、アイラ殿」


「あぁ、ガロンさん。お久しぶりです」


「久しぶり」


「実は一つお願いがあるのです」



 ガロンさんからのお願いとは、ルカの護衛をしていた兵士達にも魔力の扱いを教えて欲しいというものだった。陛下とマルクス王子が僕らの方に来ていたせいで滞っていた公務を大臣たちと一緒に引き受けていたらしい。



「なんかすいません」


「いえいえ。お二人のあんな楽しそうな顔を久しぶりに見せていただきましたし。殿下の奥様が亡くなってからルカ様ほどではないまでも、お二人も落ち込んでいましたから」


「そんな姿想像できない」



 おそらく元気を取り戻したルカに感化されたのだろう。ルカはあれでムードメーカーなところがあるから。シスコンの兄と、子供大好きな父親ならその影響力は尚更大きいだろう。

 ガロンさんからの申し出は、もちろん断ることなく引き受けた。



「なるほど、これは難しいですね」


「さすが騎士長です!」


「僕らも早く出来るようにならないと……」



 難しいと言いながらも青い光を剣に纏わせている当たり、さすが騎士長といったところか。陛下や王子に引けを取らないほどの才能を持っているのだと思う。



「何でそんなに焦っているんですか?」



 魔力の扱いを練習している兵士たちの顔には焦りの表情が見えていた。



「この間、ドラゴンと戦ったとき、有効打を与えられたのは、リク殿に教えを乞うていた者のみだったのです。それがなければ恐らく王都は陥落していました」



 本当に教えておいてよかった。ルカの故郷がドラゴンに蹂躙されるとか最悪過ぎるシナリオだ。





「今日はありがとうございました」


「いえいえ。この国にはかなりお世話になりましたし」


「むしろお世話になっているのは我々なのですがな。何かお手伝いできることがありましたらいつでもお申し付けください」


「なら、さっそくで悪いですけどお願いが……」



 ガロンさんに竜の肉を料理長に渡すようにお願いをした。アイラに料理を教えてくれたお礼だ。



「リク様、ありがとう。もっと美味しいもの作れるようになって見せる」


「期待してるよ」



 ルカもあまり料理は得意ではなかったようで、これから先もしばらくはアイラに任せっきりになる。シエラのことも考えるとかなりの負担になるわけだし、出来る限り支援はしてあげるつもりだ。



「リク殿、これからもルカ様おお願いします」


「僕に出来る限りで守りますよ」


「リク様が守るのなら国が相手でも負けない」


「確かにそうですな。少なくとも我らでは歯も経たないでしょう」



 この間みんなの前でドラゴンを倒したせいでそんなことないとは言いにくい。謙遜も行き過ぎるの嫌味になってしまう。なので笑ってごまかしておいた。

 ガロンさんと別れた僕らは昼食へと向かった。





「よく寝たぁ」



 背伸びをしながらそんなことを言うルカの口元には涎が付いている。



「ふむ、これで妾も全快じゃ」



 その言葉から察するに2、3日寝なくても大丈夫というのは嘘だな。



「いや待て主様よ、これは言葉のあやというやつでな」


「あ~はいはい分かった分かった」


「見苦しい言い訳」


「ぐっ」



 アイラの言葉がちょくちょくシエラに刺さっている。アイラならシエラを倒せそうだな。暴力的な意味でなく。

 昼食を食べ終わった後、陛下の許可をもらった僕らは城の中庭に向かった。



「そういえば服どうするの? そのままだと破れそうだけど」



 シエラは街の人がくれた服を着ている。別に服がなくても問題ないそうだが、次の街で目立ちすぎると観光がしにくいので着てもらっている。



「それなら問題ないのじゃ」



 話によればドラゴンの姿になると服は消え、人の姿になるとまた現れるらしい。ちなみにシエラが使っているのは魔法ではなく、ドラゴン固有のスキルらしいので僕には使えない。



「主様、少し離れてくれ」



 シエラの指示通り離れると、シエラの体から光が溢れ出し、ドラゴンへと姿を変える。



『主様、さっさと()くぞ』


「お父さん、兄貴、行ってきます!」


「楽しんでおいで」


「皆も元気でな。好きな時に戻ってくると良い。儂らはいつでも歓迎するぞ」


「有難うございます。ルカがホームシックになったらすぐに戻ってきますよ」


「ほーむしっく?」



 周りにいる兵士や陛下、マルクス王子は笑っているが、ルカだけは不思議そうな顔をしていた。

 ルカの辞書にはホームシックという言葉はまだ載っていないのだろう。



「ほーむしっくって何?」


「二人とも掴まって」


「ねぇ、なんで誰も答えてくれないの?」



 そんなことを言いながらもルカは僕に掴まる。



「ルカには難しい言葉」


「むぅ。アイラが分かるのに私が分からない訳ないもん!」



 ルカとアイラを抱え、空中を足場にシエラの背に乗る。



「シエラ、頼んだぞ」


『任せるのじゃ、主様』



 シエラが翼を羽ばたかせると中庭の周りに植えられていた木が根こそぎ倒れていくのが見えた。近くにいた兵士たちが慌てて抑えに向かっている。



「うん、見なかったことにしよう」


「大丈夫だよ、お兄ちゃん。お兄ちゃん相手に文句言える人なんてこの国にはいないから! 後ほーむしっくって何?」


「英雄は多少の粗相も許される」


『なるほど理解したのじゃ。主様の従魔となったことで多少暴れても許されるのだな』



 許される訳あるか! 何にも理解できてないから! ……今まで以上に人に迷惑をかけないように心掛けなくては。

 そこからシエラが飛び出すと、下からは歓声が聞こえた。



「お兄ちゃん大人気だね! それでほーむしっくって何?」


「みんなリク様に感謝してる」


『ここの飯はうまかったからな。主様、またここに来たいのじゃ』


「それもいいかもな~。ルカも里帰りしたいだろうし」


「ほーむしっくって……ぐすん、何?」



 ちょっと遊び過ぎた。反省反省。



「ホームシックってのは――」


「わ、私子供じゃないからほーむしっく? になんてならないもん!」



 ルカが頬を膨らませながら反論してくる。どうやらホームシックという言葉がまだしっくり来ていない様子。

 何はともあれ元気になったようで何よりだ。

 風を全身に感じながら僕らはガノード島へと向かった。

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