冒険者、王都防衛戦に参加する
「なっ!」
陛下が驚きの声を上げる。国の北門に来てみれば、避難を呼びかけたはずの国民が大勢集まっていたのだ。
「私たちはこの国を捨てる気はありません!」
「兵士が頑張ってくれてるのに俺たちだけ逃げるなんてできねえよ」
「この戦い、見届けさせてください!」
陛下と王子の人望のなせる業だろう。師匠の影響で感覚が狂ってきているが、ドラゴン一匹でも十分国が亡ぶ可能性はある。本来、倒せるのは勇者ぐらいなのだ。それが複数で迫ってきているというのに、ほとんどの国民が逃げずにいる。
「心配するな。勇者である僕も参加するんだ。万に一つも負けはない!」
師匠がここを去ってから再び息を吹き返した勇者が高らかに声を上げる。師匠のお陰で周りからの目は期待を込めたものではなく呆れや哀れみが籠ったものだが、それでも実力者であることに違いはない。今は頼りになる。
「お主たちがあやつの弟子か」
ギルドマスターが私たちに声をかけてくる。師匠の知り合いはどうしてこうも権力者が多いのか。
「儂らギルドの人間も戦いに参加する。お主たちの師匠のお陰で自分の非力さを思い知って考えを改めたものも多くてな。皆やる気に満ちておるよ」
国の兵士や魔導士に加え、勇者、冒険者までいる。これ以上ないぐらいの戦力。そして、王都に国民が残っていることで私たちの士気は高まっていた。
☆
門を出て王都から少し離れたところで私たちは集まっていた。戦いの被害を減らすために王都から少し離れた、開けた場所を戦闘の場所として選んだのだ。
「皆の者、よく聞け! 儂は負けるなんて微塵も思っておらん。今ここに居るのは城の兵士と勇者、そして冒険者。この国の最大戦力だ! それに後ろには愛すべき国民がいるのだ。負けるわけにはいかん。この国を、民を守るために皆の力を貸してくれ!」
「「「「「「「「「「おおおぉぉぉぉぉ!!!」」」」」」」」」」
陛下の声で全員の士気が更に高まる。3匹のドラゴンがこちらに向かって飛んでくるのが見える。
「全員、俺に続け!」
勇者が声を上げながら走り、魔力を込めた剣でドラゴンの翼を切り落とした。大地を一蹴りするだけでドラゴンのいる高さまで飛んでいけるあたり、いかに勇者の身体能力が桁外れていることが分かる。落ちてきたドラゴンに他の者が向かい、勇者は次のドラゴンを落とすべくそちらへと向かっていく。
「ユニ!」
「分かってる」
もう一匹のドラゴンがユニに気付き、こちらに向かってくる。ユニが魔法でドラゴンの目を眩ませる。そして、魔力を込めた矢を番えたヴァンがドラゴンのもとへと地上、そして空中を一蹴りしてドラゴンの顔の前へと出る。ユニの身体強化の魔法のお陰もあって、ギリギリ届いたようだ。
「これでも喰らえ!」
ドラゴンが目を開けた瞬間、目に向かって青い筋を描きながら矢が飛んでいく。ドラゴンは落ちていき、そのまま息絶えた。
「儂も行ってはダメかのう」
「それはだめです。なので代わりに僕が」
「二人ともダメに決まってるじゃないですか!」
陛下と王子の発言に近くにいた護衛の兵士が声を荒げる。陛下と王子は最低限の護衛を付けて後ろに下がっていた。二人は実力で見れば本来前に出て戦うべきなのだろうが、その地位ゆえに許してもらえなかったようだ。今の戦況を見ている限りでは二人が出なくても問題はなさそうだ。
私とゼルはと言えば、二人の護衛として後方からみんなの戦いを見守っていた。片方では勇者が一人でドラゴンの相手を、もう片方では翼を落とされたドラゴンを相手に他の皆が相手をしていた。
「おい、あいつら二人でドラゴン仕留めやがったぞ!」
「くっ。あんなガキ共に負けてられるか!」
「俺たちだって同じ冒険者なんだ! やってやる!」
ユニとヴァンの活躍を対抗意識を燃やし、戦いにさらに熱が入る。ユニとヴァンの手助けをしようと二人について行っていた人たちは驚きの表情を浮かべている。師匠から見た私たちもあんな感じだったのだろうか……。
「勇者って本当に強いんだね……」
「師匠と今までの行動のせいでそんなイメージなかったよね」
勇者は一人でドラゴンを相手に翼を落として戦っていた。ドラゴンの体には無数の傷が刻まれていた。
「これで終わりだ!」
勇者がドラゴンの眉間に剣を突き刺し、絶命させる。こんな時にこんなことを考えるべきではないのかもしれないが、なかなか絵になっていた。
「「「「「「「「「「うおぉぉぉ!!!」」」」」」」」」」
3匹のドラゴンは無事に倒し、全員で歓喜の声を上げていた。だが、陛下のいる場所へと全員で向かっていた時、それが視界に入った。
「なに……あの数……」
私たちの目に飛び込んできたのはこちらへと迫ってくる数千のドラゴンだった。まだかなり距離はあるからここに来るまでしばらく時間はあるだろう。
「皆の者、よく聞け! 逃げられる者は全力で逃げよ! 兵士たちは民の誘導を頼む!」
陛下がそう言うと、陛下と王子はドラゴンが迫ってきている方へ向かって歩き出した。
「陛下、王子、何をしているのですか!」
「あの数で迫られたら逃げ切れない。殿は必要だろう?」
王子がさも当たり前のように答える。
「それなら私共が」
陛下が兵士の言葉を遮る。
「儂らは民を見捨ててまで生き残ろうとは思っとらんよ」
国の兵士や魔導士からは笑い声が聞こえてくる。陛下や王子の人望が厚いのはこういうところがあるからなのだろう。皆が静まり返り、それぞれが考えを巡らす中、勇者が声を上げた。
「僕も行こう。人々を守りのが僕の仕事だからね」
今回の戦いや言動を見ていれば、誰がどう見ても立派な勇者に見える。だが、今までの素行がすべてを台無しにしている。
次に国の兵士長が声を上げた。この人は確か、ガロンさんだ。
「お供しますよ、陛下、王子」
「私も!」
「俺も!」
国の兵士たちが次々と声を上げる。そして、私たちも声を上げた。
「私たちもお供します」
「師匠ほどではないですが、力になれるはずです」
「孤児院のみんなが、逃げる時間ぐらいは、稼いで見せます」
「俺たちだってこの国を守りたいんだ、です」
それらが収まった頃、ギルドマスターが冒険者たちに声を掛けた。
「冒険者諸君には強制はせん。自分でよく考えて行動してほしい」
その言葉を聞いた冒険者たちは、それぞれに悩んだ。
☆
「諸君、すまない。正直言って、今回はかなり勝算が低い。それでも尚、参加してもらった皆には感謝している。だが、ここに来たからには誇れる戦いをしようぞ!」
この戦いに参加した冒険者はさっきの半数だ。逃げることを選んだ冒険者たちは、後ろめたさもあったのか王都の人々の避難の誘導を快く引き受けくれた。陛下の言葉を聞いた私たちは、それぞれに戦いの準備を始めた。
先ほどの戦いで消耗したものはポーションを仰いでいる。
「君たちには出来れば逃げてもらいたかったのだがな。リク殿には恩もあるしの」
「気にしないでください」
「そうですよ。それに、ここは僕たちが生まれ育った場所なんです。僕たちが自分の意思で守りたいと思ったんです」
気に掛けてくれる陛下にゼルと答える。ゼルの言う通り、純粋に王都の人たちを守りたいのだ。ほとんどが孤児院で会った人だが、知り合いも多い。
「君たちは本当に頼もしいな」
「師匠に会ったから、だと思います」
「俺もいつか、あのぐらい強くなって見せるぜ」
話を聞いていたマルクス王子もこちらへ来てくれた。ヴァンの言う通り、私たちは師匠みたいに強くなりたいのだ。このくらいで諦めるわけにはいかない。こちらに向かって刻一刻と迫ってくるドラゴンの群れを見ながら、私たちは気持ちを切り替えた。




