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天才魔法使いは自由気ままに旅をする  作者: 背伸びした猫
~1章~ 旅の始まり
2/120

天才魔法使い、奴隷を買う

※2018/05/02 誤字・脱字を修正しました。

※2018/05/03 お金の単位を変更しました。

※2018/07/09 ルカによるリクの呼び方を変更しました。

「うおぉぉぉ」



 僕は街中を全力疾走していた。朝起きて宿の女将さんにご飯が美味しいところを聞いてみたところ、北側の港近くで朝早くからとれたての新鮮な海の幸を使った料理が食べられるとのことだ。女将さんの話だとすぐに売り切れるということらしいが、ここ数日は人が少なく、今からでも急げば間に合うのだそう。ナイスタンピード。



「お兄ちゃ~ん!」



 屈強そうな兵士を護衛に着けた青い髪と目をした少女がこちらに向かって手招きをしている。しかし、今はそれどころではない。僕は申し訳なく思いながら目的地へと足を速めた。





「すまんな兄ちゃん、全部売り切れちまった」


「いや~、今日は久しぶりに客が多くてね」


「すみません、今日はもう店じまいなんです」



 そんな馬鹿な……。女将さん情報では昨日はこの時間でも大丈夫だったはずなんだが。一体何があった。その答えは近くを通った冒険者らしき人たちの会話から知ることができた。



「スタンピードを一人で片付けた魔法使いってどんな奴なんだろうな」


「あの子の話だと魔法一発で全滅させたらしいぞ」


「俺は信じてないけどな。そんな魔法聞いたこともないし。でも斥候が確認しに行っても魔物の姿なんてなかったって言ってたし、少なくともスタンピードをどうにかしたのは本当なんだろうな」


「俺はギルドから報酬をもらえたからどうでもいいけどな。お陰で朝っぱらからこんなうまい飯食えたんだし」


「全くだ。他の奴らも同じこと考えてたみたいで朝から混んでて大変だったけどな」



 ……キレそう。明日は絶対に港で朝ご飯を食べる。宿に戻って朝ご飯の魚の煮付けを食べながら、僕は心の中でそう誓った。





 さて、気を取り直して旅の支度だ。まずはテント。魔法でもっと頑丈なの作れるから必要ない。用を足した後に土をかけるためのスコップ。魔法でどうとでもなるから必要ない。飲料水。魔法で作れるから必要ない。ランプ。魔法で照らせるから必要ない。……魔法って便利だなぁ。

 結局僕が買ったのは敷布団と掛布団だけだ。それらを『アイテムボックス』に入れて僕は街に繰り出した。ふと着替えがなかったのを思い出し、服を何着か買った。ついでにとばかりに旅人向けの歩きやすさ重視のブーツも買った。何となく武具も見に行こうと思い武具屋に寄ってみた。



「何だこの便利コートは……」



 そこにあったのは真っ白な生地にところどころふさふさの毛の装飾が施されているフード付きのコートだった。お値段驚きの15万ゴールド。普通のコートなら1万ゴールドあればいいのが買えるのだが。その値段の理由は付与された魔法にある。



『魔力を流すと奇麗になります』



 僕はお店の人に頼んでキープしてもらおうとしたら、そんな必要はないと言われた。なんでも



「こんなコートに15万も使うもの好きなんてあんた以外に居ねぇよ」



とのこと。失礼な。僕はギルドに残りの魔石を買い取ってもらいに向かった。僕の出した魔石の量に受付のお姉さんが驚いていた。この前渡したの2割くらいだったからね。無事40万ゴールドを手に入れた僕はコートを買った。ついでにその隣にあった刀も購入した。お値段20万ゴールド。こちらにも魔法が付与されていた。その効果は



『鞘に納めて魔力を流すと刀が奇麗になります』



だそうだ。お店の人に聞くと作ったのは同じ人らしい。うん、いいセンスしてるわ。武具屋の店主には防御力に優れたコートや魔法耐性のあるコートでさえ15万もかからないとか、20万もあるのなら攻撃魔法が付与された武器を買えだのと言われたが気にしなかった。

 その後、お昼に魚の塩焼きを頂きながら、旅路での食料を準備していないことに気が付いた。女将さんに聞いたところ、奴隷を勧めてくれた。魔物を倒す実力があるなら調理できる奴隷を買えばいいとのこと。女将さんめっちゃ物知り。泊まりに来たお客との会話を人生の楽しみにしているらしいからそれが理由だと思う。





と、いうことで奴隷商にやってきた。



「どのような奴隷をお探しで?」


「魔物を捌いて料理ができる奴隷をお願いします」


「少々お待ちください」



 しばらくすると、奥の部屋に入っていった小太りの奴隷商のおじさんが一人の少女を連れてきた。



「今はこの子だけですね。1万ゴールドになります」



 安っ。安くて5万ゴールドくらいって聞いてたんだけど。そんな僕の心情を察したのか、おじさんが説明をしてくれた。



「ほら、これが理由です」



 そう言っておじさんはその子のマントを脱がした。その子の頭には短い茶髪の中から猫のような耳が顔をのぞかせており、尻尾も生えていた。見た目からして年齢は10歳にも満たないと思う。本来なら元気に走り回るような年齢なのだろうが、その面影はなかった。体中に大きな爪痕や歯形がある。魔物に襲われたときに着いた傷らしい。顔色も悪く、もう長く持たないらしい。所々にまかれた包帯には血が滲んでいる。魔物に襲われたとき家族に身代わりにされた挙句、奴隷として売られたらしい。



「どういたしますか? 数日は持つと思いますが……」


「この子でお願いします」



 僕はその場でお金を渡し、その子を引き取った。多分このくらいなら治せる。魔力を使って毒を抜いたり、傷を癒したりするのは野生の動物で練習済みだ。宿に連れ帰り、この子の分の一泊の3000ゴールドを払い、部屋に戻った。他の部屋は、昨日誰かさんがスタンピードが片付いたことを言いふらしたせいで埋まっているらしく、一人用の部屋に二人で泊まることになった。ベッドに座らせた後、猫耳少女に手のひらを向けて魔法をかける。少女の体が輝き、光が徐々に収まっていく。その後、確認のためにコートを脱いでもらった。変な意味はない。傷はちゃんと治っていた。自分の体を見た少女はその場に崩れ落ち、泣き出してしまった。僕が慰めているとすごい勢いで扉が開かれた。



<バンッ>


「お兄ちゃん!」



 そこにはルカ立っていた。部屋の中の様子を見たルカは顔を赤くした。



「へ、変態、最低!」



 そういってどこかへ行ってしまった。騒がしいやつだ。せめてドアを閉めろよと思いながら、僕はドアを閉めて鍵をかけた。……鍵をかけていなかった僕が悪いのか? その後しばらくして少女が落ち着いてきたので、とりあえず名前を聞いてみた。奴隷商で既に聞いているが、本人から直接聞いておきたかった。何となく。



「名前を教えてくれるかな?」


「……アイラ。ご主人様の名前も教えてほしい」


「リクだよ。あとご主人様呼びはなんか恥ずかしいから止めて欲しい」


「ならリク様」


「リクでいいよ」


「それはダメ」



 アイラの謎なこだわりに負け、僕はリク様と呼ばれることになった。さて、晩御飯まではもう少しあることだし、アイラの分の旅道具を揃えますか。奴隷商からの帰りに買っておいたアイラ用の服にアイラを着替えさせて、僕らは街に出た。

 アイラの分の寝具と調理道具や調味料を一式買って、残るお金は2万ゴールドとなっていた。僕らは晩御飯に一人2000ゴールドのお刺身定食を食べて、宿に戻った。アイラは自分のことにお金が使われそうになると「私なんかのためにお金を使わなくても」と言って抵抗していたが、それでは僕が困るからと言って黙らせた。

 明日朝一で朝ご飯を食べに行った後、街を出ることをアイラに告げた。日が落ち、寝ようとした時になってベッドが一つしかないことに気が付いた。どうしようかと迷っていると、顔を赤くしたアイラが話しかけてきた。



「一緒のお布団がいい……」



 親の愛情を知らずに生きてきたから、人肌が恋しいのかもしれない。それに、そんな顔で言われたら断れない。僕が10歳にも満たない少女に欲情するようなロリコンではないことを加味すると断る理由なんて無い。僕はアイラと共に床に就き、明日の朝ご飯を楽しみにしながら眠りについた。

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