冒険者、弟子になる
※リク目線ではありません
私たちは皆両親を亡くしているらしい。物心ついた時には孤児院にいた。親の顔も覚えていない私たちにとって、孤児院のみんなが家族のようなものだった。
「姉ちゃん、俺冒険者になろうと思うんだ」
弟のゼルがこんなことを言い出した時は驚いた。ゼルが冒険者を目指した理由は孤児院のためのお金を稼ぎたいから。結局、私とユニとヴァンが一緒についてくことになった。ユニもヴァンも目的は一緒だ。王都には難易度の高いクエストしかないため、私たちは商人の人にお願いして『シートル』の街まで連れて行ってもらった。
そして、『シートル』の街である程度のクエストをこなし、武器と防具がそろってきたタイミングで王都に戻ろうということになった。
☆
「ゼナ! なんか策はないのか!」
「ドラゴン相手の対策なんて知ってるわけないでしょ!」
後ろからはドラゴンが迫ってきている。ヴァンが質問してきたが、こんな状況なので荒い返しをしてしまった。こんなの予想外だ。ドラゴンなんて一人で相手にできるのは勇者くらいだと聞いている。
「姉ちゃん、あそこに人が!」
「このままじゃ、巻き込ん、じゃう……」
ゼルとユニの声を聞いてそちらに目をやると確かに人がいた。旅人にしては奇麗すぎる真っ白なコートに刀という武器を持っている。いるのは私たちの向かっている方向だ。このままでは無関係な人を巻き込んでしまう。私がどうにか巻き添えにすることだけは避けようと頭を回していると、向こうからその人がやってきた。空中を走って。
「何……あれ……」
「姉ちゃん! よそ見してないで走って!」
ゼルの言う通りだ。今はそれどころではない。
「みんな伏せろ!」
ヴァンの声が響く。その声のままに私たちは伏せた。頭上をドラゴンが通過していった。辺りに血が飛び散る。一瞬、さっきの人がドラゴンに食べられたと思ったのだが、顔を上げると、そこにあったのは首を刎ねられたドラゴンの姿だった。私たちはその場から動けなかった。頭が起こった出来事についていかない。目の前ではさっきの人が女の子にドラゴンの肉をはぎ取らせてからドラゴンを『アイテムボックス』に入れている。……え? あれ、『アイテムボックス』だよね? ドラゴンなんかはいるような魔法だっけ?
「ヴァン、さっき何があったか見てたか?」
「あの白いコート着た奴が一振りでドラゴンの首刎ねてた……」
ゼルの質問にヴァンが答える。皆が一瞬唖然とする。落ち着いたタイミングで、お礼を言いにその人のもとへと向かう。近くからいい匂いがしてお腹が鳴る。今日は魔物や動物が全くでなかったので何も食べれていないのだ。今思えば、あのドラゴンのせいかもしれない。
「一緒に食べる?」
「「いいんですか?」」
「いえ、そんな訳には「おい、余計なこと言うなよ!」」
孤児院生まれの私たちには一生手が届かないような代物だ。食べさせてもらえるのなら食べてみたい。
食事のあと、弟子にしてもらおうと頼んだ。私たちはまだ駆け出しの冒険者だ。是非とも技術を教えてもらいたい。ドラゴンを倒せるような人ならきっとすごい技術を持っているだろうし。
☆
私たちは希望通り弟子になることができた。教えてもらうのだから、できる限りのことはしないといけない。旅の途中の食料調達ぐらいは私たちでやろう。4人で相談してそう決めたのだ。ゼルとヴァンが狩りに、私とユニは野草を採りに行った。
「師匠、どんなこと教えてくれるんだろうね」
「分からない。けど、すごく、楽しみ」
初めはドラゴンを刀で倒していたらしいから、魔法使いである私たち二人はあまり期待はしていなかった。けれど、食事をしてからは楽しみで仕方ない。師匠は食事の時、私たちのコップに魔法で水を入れた。それだけならいいのだが、詠唱をしていなかったのだ。詠唱もしないで魔法を発動させるなんて話聞いたことがない。
「姉ちゃん! ユニ!」
「こっちは終わったぜ」
私たちも丁度、必要な量の野草を採り終わったので一緒に師匠たちの場所へと戻った。
☆
みんながそれぞれ、手に持っているものを落とす。我に戻ったゼルが質問をする。
「あの師匠……これは?」
「テントだけど」
私たちの知ってるテントと違う。あとでアイラさんに聞いたら魔法で作ったらしい。こんな魔法あったっけ? その後、師匠に頼まれて私たちのテントを一つ立てた。
「おぉ」
「師匠、馬鹿にしてる?」
「ごめんごめん、そんなつもりはないよ」
ヴァンが失礼なことを言っているが、正直私たちも同じことを思っている。師匠曰く、一度見てみたかっただけとのこと。私たちの分のテント(?)も師匠が作ってくれた。手を向けるだけで土が変形していく。……師匠の修行がますます楽しみになってきた。
アイラさんが作ってくれた夕食を食べ終わり、焚火を囲みながら師匠に魔法の話を聞いてみた。師匠が話してくれたのは、私たちが知っている魔法の全く知らない話だった。
師匠がテントに入っていってから私たちはアイラさんの後片付けのお手伝いをしていた。ゼルとヴァンは役に立たなかったので退場してもらった。
「ありがとう」
「お礼を言うのはこちらです」
「助けてもらったのは、私たち、ですし」
「そういえばアイラさんは師匠とどういう関係なんですか?」
「奴隷と主人」
「「え?」」
二人を見ている感じ、そんな雰囲気が全くなかったので驚いてしまった。アイラさんから聞いた話ではほぼ助からないような傷を一瞬で治したとか。その話を聞いた時、ユニの目がギラリと光ったように見えたのは多分、気のせいではない。ユニは回復などの補助系魔法を使っているので何か感じるものがあったんだと思う。
「アイラさんは奴隷から解放されたいとか思わないんですか?」
「師匠ならしてくれそう、ですよね」
奴隷は主人によって解放してもらうことができる。最も、犯罪奴隷ではないことが条件として付けられるが。
「思わない」
「なんで、ですか?」
「リク様と……離れたくないから」
目をそらしながら顔を赤くしてアイラさんが言う。
((何このかわいい生き物))
「そういえばアイラさんは師匠と同じテントでしたよね?」
「同じ布団で寝てたりするん、ですか?」
こういうことは聞くべきではないかもしれないが、年頃の女の子としては気にせずにはいられなかった。
「今日は布団が二つあるから無理」
「「今日は?」」
残念そうにアイラさんが言う。アイラさんの話では、昨日は宿にベッドが一つしかなかったから同じ布団で寝れたらしい。
「ねぇ、アイラさん。夜這いって知ってる?」
「夜這い?」
寝るのが少し遅くなったけれど、今日一日で私たちはアイラとすごく仲良くなれた。