天才魔法使い、王都を観光する
「今日はどこに行くか決まっておるのか?」
「いえ、適当に街中を歩いてみるだけですね」
「ルカも行く!」
「お姫様が街に出るのは色々危ない。自重するべき」
というかこの前攫われたところだしね。僕らは今、城で王族の3人と共に昼食をとっている。ルカが攫われたことを反省して、もう少し他人を警戒した方がいいと思う。
「リク殿がおるのなら大丈夫だろう」
「そうですね。恐らくですが、この国で一番安全なのはリクの近くだと思います」
「それに、リク殿の実力は多くの者が目にしておる。手を出してくる輩もおらぬだろうしな」
「買いかぶり過ぎですよ」
いや、本当に。もうちょっと自分の国の兵士に自信持って下さい。ほら、そんなこと言うから後ろにいる護衛の人が悔しそうな顔しちゃってるじゃないですか!
「リク殿ならこの国くらい簡単に落とせるのではないか?」
「いやいやいや、流石にそんなことはない……と思います」
例え出来たとしても「はい、落とせます」なんて陛下の前では絶対に言えない。
「あのねお兄ちゃん、スタンピードを一撃で魔石だけに出来ちゃう人がそんな謙遜しても誰も信じないよ?」
そんなやれやれみたいな言い方されても困るんですけど。
「陛下の前であなたの国は私一人で落とせます。なんてこといくらリク様でも言えない」
「いくらリク様でも」ってなんだよ。アイラの中の僕の評価どうなっているのか気になる。まぁ、アイラの言う通りではあるんだが。そんな会話をしながら食事を終え、僕は念願の観光へと向かう。僕が話を聞いた村に来ていた旅人も「街を見て周るのは面白い」って言ってたし。それはさておき、今は観光だ。
「さあ! 行くよ、お兄ちゃん!」
「本当に来るの?」
「なんちゃってお姫様はこれだから」
「何よ! ちゃんとお父さんと兄貴の許可も取ってるもん!」
「もん」って……。アイラに子供だと言われるのもこういうところなんだろうなぁ。ちなみにルカの護衛の兵士は付いてきていない。不安しかないんだが。
さて、いよいよ街に出てきたのだが。
「お、おい。お姫様の横にいるのって……」
「……誰だ?」
「知らないのかよ。勇者を魔法一発で仕留めたっていう……」
街を歩くだけで周りからの聞こえる声量のひそひそ声が聞こえてくるのだ。というか仕留めたとか言うのやめてくれません? あの勇者生きてるから。縁起でもない。この国を出たら目立たないように行動する。僕はひそかに心の中でそう決意した。
「ふふん。みんなお兄ちゃんに恐れおののいているようね」
「いい迷惑」
「なんでよ! すごいじゃない。街中の人がお兄ちゃんを凄いって認めてるのよ?」
ルカとは気が合わない気がする。
「やあ、お兄さん。そこのお嬢さんたちにこんなのどうだい?」
そこで売られていたのはネックレスだった。今手持ちが10万ゴールドくらいしかないから安そうなやつしか買えないな。王族のルカにこんな安物をプレゼントするのもあれだが。ルカには奇麗な蒼色の、アイラには緑色の水滴の形をした宝石が付けられたネックレスを買ってあげた。両方3万ゴールドの安物だ。ドラゴンの素材を売ったお金が入っていたらもっといいのが買えたのかもしれないが、二人とも喜んでくれたので良しとしよう。アイラには落ち着いた青色もいいかなとも思ったが、ルカと被るので緑にした。
「ありがとっ! お兄ちゃん!」
「リク様、ありがとう」
「どういたしまして」
プレゼントでこんな顔をしてくれるなら買ったかいがあったというものだ。
その後、適当にお店を見て回ってから喫茶店で少し休んだ。
「値段高いな……。王都だからか?」
「北側は貴族とかが来る店が多いから値段が高いんだよ?」
そういうことは早く言ってほしかった。道理で宝石店が多いわけだ。正直、屋台とかが出ているところを期待していたので内心がっかりしていたのだ。ここら辺にあるのは出店ではなく、見た目が高級そうなレストランや喫茶店ばかりだ。
「リク様、あんまり楽しくなかった?」
「お金がないせいでほとんど見るだけだったからね」
「お父さんにお小遣い貰ってこればよかったなぁ」
ここら辺で買い物できる金額のお小遣いって……。王族ってすごいなぁ。喫茶店のメニューの金額に驚いて僕とアイラは飲み物しか頼めなかった。ちなみに、ルカは躊躇いなくパフェを注文していた。お金払うの僕なんだけど。
喫茶店を出た僕らはドラゴンのギルドに向かった。周りからの目線が少しきつかったが、楽しい一日だった。
「お兄ちゃん、明日も街を見て回るの?」
「そのつもりだよ。明日は南側に行こうかな。ドラゴンのお金が手に入ったら北側にもまた来たい」
思った以上の値段だったせいで、欲しいと思っても手が出せなかったのだ。喫茶店でルカが食べてたパフェとか僕も食べてみたい。ここの観光は後回しにするべきだった……。
「南側には食材が売ってあるところが多いって言ってた」
「そういえばお店の人がそんなこと言ってたね」
「北側は宝石とか貴族が通う店が多いんだよ。南側は……何かあったら助けてね、お兄ちゃん!」
ちょっと待て、最後の一言で行く気が無くなったんだが。ルカに話を聞いてみると北側は南側と違って冒険者や平民が多くいるそうで、富裕層が集まっている南側より治安が悪いらしい。……どうするかな。
「リク様。旅の間の食事のためにも行っておきたい」
王宮の料理食べてからアイラがかなりやる気になっていたので、多少高級な調味料や調理器具でもためらわずに買ってあげたい。
「よし、行こう」
「リク様、ありがとう」
「さっすがお兄ちゃん!」
ちなみに料理に関しては僕がからきしなのでアイラに任せきりである。
☆
「なに……この量……」
ルカとアイラが固まる。アイラは声すら出ていない。僕も少し固まってしまった。貧乏な村の出身としては固まるには十分すぎる光景だった。僕らは今ギルドの応接室にいる。ギルドマスターとの間にある机の上には、見たことがない量のお金が積み上げられていた。
「これ、いくらあるんですか?」
「30億ゴールドじゃ。じゃが、実際のところはこれだけではない。このギルドにある現金ではこれが限界なのでな。今のところはこれで勘弁してもらいたい」
「あのドラゴンいくらになったんですか?」
「50億ゴールドじゃ。ドラゴンの素材は貴族や商人の間でかなりの高値で取引されておる。しかも今回は成竜じゃからのう。少なくとも儂の知る限りでは市場に出回ったことはおろか、同罰されたということもないのう。肉も売ればあと10億ぐらいは増えたじゃろうがの」
一人の人間が一生に稼ぐお金が3億ゴールドぐらいだっけ? ……使い切れる気がしないな。機会があれば弟子たちがいた孤児院にでも寄付してあげよう。残りのお金は他のギルドに行けばもらえるとのこと。金額が金額なので、できるだけ大きい街のギルドにして欲しいらしい。僕が『アイテムボックス』にお金を仕舞ったところで、ギルドマスターが話しかけてきた。
「そういえば、これはお主の武器かの?」
僕の身長の半分くらいある腕くらいの太さの鉄の棒が運ばれてきた。頭部がない釘みたいな形をしている。
「なにこれ?」
机の上に置かれた銀色の棒にルカが触ろうとしたところを腕を掴んで止める。
「リク様?」
「ギルドマスター、これはどこに?」
「ドラゴンの頭に刺さっておったよ」
「僕のではないのですが、少しお借りしてもいいですか?」
「あぁ、それは構わんが、どうかしたのか?」
さっき運んできた人が触っている時、この棒から妙な魔力がその人に流れ込んでいた。あからさまにやばそうな代物だ。というか、これがドラゴンの頭に刺さってたってことは、脳の近くか脳に直接刺さってたってことだよな。一応ギルドマスターには話しておいた方がいいと思い、推測を立てて話してみた。
「成竜が操られていたとでもいうのか!」
ギルドマスターが息を荒くして立ち上がる。気持ちは分かるけどもう少し落ち着いてほしい。唾が飛んで来ている。……汚い。
「ただの推測ですけどね。何か分かったらまた来ます」
「あぁ、頼む。それと、この話は内密に頼む。余計な混乱を生むわけにはいかんからな」
「分かりました。それと、これに触っていた人は少し様子を見た方がいいかもしれません」
「あぁ、お主の言う通りにしよう」
調べるだけ調べたら勇者に丸投げしよう。彼も実力者らしいし、大丈夫だろう。一応早めに調べといたほうがいいと思うし、アイラには悪いけど食料調達は明後日かな。そんなことを考えながら僕らはギルドを後にした。