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天才魔法使いは自由気ままに旅をする  作者: 背伸びした猫
~7章~ これからの世界
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リントブル聖王国

 ゼハルが倒された後、少しずつではあるが闇霧は晴れていった。だが、闇霧を纏った魔物は依然闊歩したままで、僕ら人間が生活していた場所も魔物で溢れかえっていた。それもさっさと倒してしまおうとしたところ、陛下たち国のトップに止められてしまった。何でも一人に頼りすぎるのはあまり良いことではないらしく、今後のためにも自分たちでやらして欲しいとのことだ。それならばと僕は手を出さずに、他の面で出来ることをやっていた。具体的には魔族側の兵士に魔力の扱いを教えたり、リリィと一緒に人や物資をユーロン島とメノード島間で移動させたりと言った具合である。魔物の数も異常だったために少しずつではあったが、人と魔族は確実にユーロン島から魔物を排除していった。僕がゼハルを倒せなかった時のために渡しておいた賢者の遺産である武器が活躍しているというのを風のうわさで聞いた。

 初めにリントブル聖王国に蔓延っていた魔物を殲滅した時、エルミス王からとある頼みごとがあると通達を貰ったので僕はエリンと共にエルミス王の元へと向かっていた。……いや、今はもう王子ではなく王だったかな。



「本当にいいんですか?」


「はい。今までの制度はゼハル一派が作り上げたものです。変えないと同じことを繰り返す気がするので。ここを拠点にするのに邪魔でしかないですしね。それに――」



 エルミス王は覚悟を決めたような表情で言葉を続けた。



「僕は誰かが虐げられるような国にするつもりは無いですから」



 エルミス王から頼まれたのは、国の中を区切っていた壁の破壊である。規模が規模のためにそう簡単に破壊することは出来なかったらしい。まあ、それが出来ないように作られているのだろうから当たり前ではあるのだが。



「それで、地下の施設はどうするんですか?」



 地下の施設。それはかつてエルミス王や勇者三人組が捉えられていた牢獄を含めた場所である。そこには貴重な素材や魔道具が眠っていたらしい。



「活用できるものはそうするつもりです。ただ、闇霧に関連する魔道具や書物に関しては破棄しようと思っています。僕たちが後世へと伝えるべきは起こった出来事とその対処法でいいと思いますから。これは僕だけじゃなく、他の国の王とも同意見です」



 つまりは闇霧の活用するためのモノをこの世界から消してしまおうという事か。



「それで、僕の頼み事は――」


「いいですよ。エリン、手伝ってもらっていい?」


「はい、構いません」



 僕はエルミス王に国全体が見渡せる場所を教えてもらい、ともにその場所へと向かった。それは城の最上階の更に上、敵襲を国全体に知らせるための大きなベルが取り付けられている場所だ。

 両手を肩の高さに上げて力を込めた。相も変わらず手加減が苦手なので、過剰な魔力はエリンに削ってもらっている。聳え立っていた壁は上の方からパラパラと砂のようになって風に流れていき、やがてその姿を消した。



「この国、こんなに広かったんですね……」



 確かに壁がある前と比べたら、かなり大きく感じる。皆壁が消えたことに驚いている様子ではあったが、すぐに僕の仕業だと察したらしく辺りをキョロキョロと見渡し始めた。やがて、少しずつではあるが僕らのいる場所へと視線が集まり始めた。城の大きさのせいもあり、国内のほとんどの場所からこちらが見えているらしい。

 それを見たエリンが口を開いた。



「これだけ広くて人が多いのなら、その上に立つ人はさぞ立派な人なのでしょうね」


「それは……」



 いや、エリンさん? いまそう言う事を言う場面ではないと思うんだけども。そんなことを考えていると、背後から突然声が掛けられた。



「大丈夫ですよ、エルミス王。僕たちもお手伝いさせていただきますから」


「ロイドだけじゃありません。私やモンドだって全力で手伝いますよ」


「だから一人で抱え込む必要はありません。僕たち三人がエルミス王が自信を持てるように支えます」


「みんな……ありがとう……」



 僕とエリンがなぜここに勇者三人組がいるのかと首を傾げていると、それを察したロイドが口を開いた。



「城の中にいた兵士にエルミス王がリクと一緒にここへ向かったと言う話を聞いたんだ。きっと何かするつもりなんだろうと興味本位で来てみたんだけど……これは流石に予想外だったな」



 興味本位かよ。エルミス王を心配してとかそんな感じの理由だったら少しは格好も付いたと思うんだけど。



「僕が頼んだんです。今まで作られていた制度を変えたかったから……」



 そう自信なさげに答えたエルミス王に、レイスとモンドが声を掛ける。



「私はいいと思いますよ」


「エルミス王が考えてそうしたのなら、僕らはそれを全力で応援するだけです」



 そんな二人に続いて、ロイドも口を開いた。



「エルミス王が間違っていたらきちんと指摘するので、好きにしていただいて構いませんよ。エルミス王がこの国を良くしようと思ってくれているのは僕らだけじゃなく、国民全員が理解している事ですから」



 ロイドの言葉を聞いて少し目を潤した後、エルミス王は僕の方を向いて口を開いた。



「リクさん、頼み事ばかりで申し訳ないんですけど、僕の声をこの国全体に届けてもらえませんか?」





『皆さん、僕はこの国の王になったエルミスです。突然壁が無くなって驚いた方もいるでしょうが、それは僕がリクさんに頼んでしてもらった事です。今までこの国では壁を起点として大きな格差を認めていましたが、僕はその制度を取り払いたいと思っています。

 この国を取り戻すのを手伝って下さった魔族の皆さん、この恩を僕は忘れません。この国はこれから先、人と魔族と言う違いを受け入れ、あなた達を歓迎します。

 これから取り戻そうとしている国で生活していた皆さん、僕らはあなた方に全力で助力します。今までは国同士で地理的な意味だけでなく距離がありましたが、これを機に親しい関係を気付きたいと僕は考えています。

 そしてこの国で生まれ育った皆さん。僕はこの国を少しでも良くするために力を尽くします。ですが、それは僕一人でできることではありません。皆さんの協力が必要なのです。まだ幼く頼りないかもしれませんが、頼られるような存在になれるように努力するので、どうか協力をお願いします。

 この国をそんな国にするためにも、次は他の二国を取り戻さなくてはなりません。人と魔族、手を取り合って明るい未来のために共に頑張りましょう!』



 そう締められたエルミス王子の言葉に拍手喝采が起こった。この反応から察するに、エルミス王子は王として皆に受け入れてもらえたのだろう。



「エリン、戻ろうか」


「もういいのですか?」



 そう言われて、僕は拍手喝采に手を振って応えているエルミス王の方をちらりと見た。



「僕はあくまで手伝いに来ただけだからね。それに、陛下たちが言っていたようにこれから先の事を考えれば、あまり僕が手を出し過ぎるのもよくないだろうし」



 エルミス王にはこれから先、きっと大変な生活が待っている。だが、それは王として必要な事であり、出来るようにならなければならないことだろう。だからこれ以上僕は手助けをするべきではない。無論、手を貸してくれと頼まれたら貸すけれど、きっとそれはエルミス王本人も望むところではないだろう。

 そんなことを考えながらその場を離れようとしたところで、ロイドに声を掛けられた。



「リク、ありがとう。君には助けられてばかりだな。初めて会った時はこんなことになるとは思っていなかったよ」



 それは僕も思ってなかったし、礼を言われて頭を下げられることになるなんて想像も出来なかった。というか、ロイドを避けていたこともあった気がする。



「いえ、気にしないで下さい。それに、大変なのはこれから先でしょうし」


「あぁ、そうだな」



 そう言いながらロイドは辺りを見下ろした。そこにあるのは人と魔族が共にいると言う、少し前から考えれば何とも奇妙な光景である。一番魔族を毛嫌いしていたリントブル聖王国だから尚更だ。



「全部終わったらまた遊びに来てくれ。歓迎するよ」


「楽しみにしてます」



 そう言って僕とエリンはその場を離れた。

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