天才魔法使い、対峙する
翌日、見送りをされるのはなんか照れくさいので適当なタイミングで勝手に出てきた。昨夜、夕食時に見送りを断る話をすると、異様なほどすんなりと受け入れられた。エリンがにやりと笑っていた気がしたが、きっと気のせいだろう。
そんなこんなで現在、僕らはシエラの背中に乗って移動していた。僕は賢者の村で見つけた黒に金の刺繍が入ったコートに刀の形をした賢者の武器。エリンは……服装は変わってないから多分今までと同じ服に何魔法陣を仕込んだのだろう。シエラはと言えば――。
「主様よ、これ暑苦しいのじゃが……」
「私がわざわざ作ったものに文句を付けないでくれますか?」
「そう言う事はもっと動きやすい装備を作ってからにするのじゃ!」
「何を言っているのですか? あなたの図体が無駄に大きいせいで私がどれだけ苦労したと――」
うん、二人は闇霧の直前まで来ても通常運転だ。シエラが先程から文句を言っているのは、ドラゴンの姿での鎧のせいだ。ドラゴンの姿になると自力で付けられないので僕が付けた。正直言って凄く面倒だった。無論、闇霧対策であるエリンの魔法陣付きだ。と言っても防御力は必要最低限なのだが。今回の作戦ではシエラに防御力とか必要ないし。
「そろそろ喧嘩やめてくれない? 出発できないから」
「そうじゃな。そろそろ羽虫に付き合うのも面倒じゃと思い始めた所じゃ」
「本当に口数が減らないトカゲですね」
うん、もう喧嘩は百歩譲っていいとして取り敢えず闇霧の中に入ってくれないかな?
「うむ、了解じゃ」
そのまま何事もなく闇霧の中へと入ったのはいいのだが……。
「ごめん、僕効果あるか分からない」
そもそも闇霧で体の調子が狂い始めるまで時間のかかった時点でお察しではあるのだが、僕は自身へと降りかかる闇霧の効果を認識できない。これはこれで厄介な所なのかもしれない。
「妾もどうにも分からぬな」
シエラもか。となると後はエリンだけど……。
「問題なさそうです。きちんと魔法陣の効果は発動しているようですよ」
流石にエリンなら分かるか。というかそもそも分からなかったら闇霧を無効化する魔法陣とか作れないか。さてと、後は――。
「じゃあエリン、手筈通りにお願い」
「分かりました」
そう言うとエリンは転移魔法でデルガンダ王国の上空へと僕らを転移させた。下を見ると、建物はほぼ半壊、魔物が国中を闊歩するという景色が広がっていた。
「これは後始末が大変そうじゃな」
「そうですね。まあ、それはこれを終わらせてから考えましょう」
「そうだね。じゃあシエラ、こっちは任せたよ」
「うむ。善処はしよう」
それと同時に僕は空中に足場を作ってエリンと共にシエラの背中から離れた。
「変態脳筋トカゲにしてはやけに自信なさげな反応ですね?」
そのシエラのニックネーム、凄く久しぶりに聞いた気がするのは気のせいだろうか。
「主様の魔法じゃからなぁ」
「それは……確かにそうですね」
僕を理由にされているのは何とも言えないが、喧嘩にならなかったので取り敢えずは良しとしよう。
「では主様よ、頑張るのじゃぞ」
そんなこと言われても頑張る以外の選択肢がない気がするけど取り敢えず頷いておこう。
僕の反応を確認すると同時に、シエラは海の方へと向かって飛んでいった。それと同時に僕らはガノード島へと向かい、ちょっとした仕掛けをした。それから少し時間を置いて、エリンが口を開いた。
「リク、準備はいいですか?」
「いつでもいいよ」
エリンが珍しく緊張の面持ちで転移魔法を使った。視界が切り替わると同時に僕らの目の前に現れたのはリントブル聖王国だった。それからすぐに城の頂上で退屈そうにあたりを見渡しているゼハルと目が合う。それと同時にゼハルはぎょっとした。
「随分と懐かしいものを見せられたな。それはお前が作ったのか?」
「僕の先祖のおさがりだ」
「なるほどな、まだそんなものが残っていたとは……」
まずい、凄い警戒されている。取り敢えず動きを止めないといけないのに、そう簡単には行かなそうだ。背中の翼をばさりと広げると同時にゼハルは翼をはためかせて僕から一定の距離を取って止まった。次の瞬間、鉤爪を思い切り振り切ってきた。それと同時に弧を描いて斬撃が飛んでくる。
「っ!」
相変わらず早い。ギリギリ刀を抜いて受け流すことは出来た。だが――。
「あ」
目下にあるリントブル聖王国へと飛んでいき、建物を容易に切り裂いた。これはまずい。なんて考える暇を与えてくれるはずも無く、ゼハルは動き回りながらあらゆる方向から斬撃を飛ばしてきた。
「リク、今は街を気にしている場合ではないです。早く移動させるべきです」
「そっちの方が被害も少なそうだしね」
僕は斬撃を出来る限り最小限の動きで受け流しながらゼハルとの距離を徐々に詰め始めた。それに従ってゼハルからの斬撃に黒い魔法が混じり始める。見た目以上の威力をしているそれらを防ぐためにもこちらもそれなりの威力の魔法で相殺する。そのせいで視界が少しずつ悪くなり、気が付けばゼハルに背後を取られていた。
だが、驚いたのはゼハルの方だった。
「なっ!」
ゼハルの鉤爪による思い一撃を刀で受け止めると同時に、僕らの真下には巨大な魔法陣が現れる。エリンの転移魔法は発動するまでに少なからず時間がかかり、範囲にも制限はある。ゼハルなら普通にそれをしても逃げられる。だが、勢いそのまま突っ込んできたこの状況なら――。
ゼハルは全力で僕と距離を取ろうとしているが、エリンの不敵な笑みがそれが無駄であることを物語っている。
☆
視界が切り替わり、僕らの目線の先には海。そして目下には殺風景な島があった。
「取り敢えずは成功かな」
「本番はここからですけどね」
ドラゴンが一匹もいないせいで実感はないが、ここはガノード島上空だ。エリンに頼んで島の中心にあった魔法陣を書き換えてある。それは生き物を遠ざけ、闇霧を無効化する魔法陣。お陰でこの辺りに生き物は存在せず、視界もクリアだ。
「エリン」
「援護は任せてください」
最悪島が消える可能性はあるが、それに目を瞑れば誰かに被害が及ぶという事は無いはずだ。そもそもそのためにこの場所に来たのだからそうでなければ困る。何にせよ――。
「これなら本気で魔法を使える」




