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天才魔法使いは自由気ままに旅をする  作者: 背伸びした猫
~6章~ リントブル聖王国
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天才魔法使い、真実の一端を知る

 勇者三人が我に返るまで少し待ってから、エルミス王子は再び語り始めた。



「後、僕が見たのは魔族と連絡を取り合っているところです! これを見ていた所で見つかってしまって……」



 ふむ。というと、やはり魔族と連絡を取り合っていたのはこの国の人間で間違いないようだ。と、僕なら推測できるのだが、魔族の印象が相も変わらず討伐対象となっている勇者からしてみれば混乱するには十分すぎる事象だった。

 ロイドがひざを折り、震えながら声を発した。



「そんな……。一体僕らは何のために戦っていたんだ……」



 うん、それは本当に分からない。予想するにガノード島近くで見つけた船にあった資料に書かれていたらしい邪神とやらの復活とかかな? 邪神の名前は聞いたのがずいぶん昔のせいで思い出せない。え~っと……駄目だ、出てこない。



「なんで私たちが必死になって戦っている魔族と連絡を……」



 信じてもらえるか分からないけど、取り敢えず理由は話しておこう。と、思ったのだが僕が話そうとしたタイミングでモンドが話し出してしまった。



「いや、そもそもそんな魔道具があることさえ僕らは聞かされていない。もしかしたら僕らはただの都合のいい手駒だったんじゃ……」



 テンションの下がり方が尋常じゃないな。いや、今まで勇者としてそれが正しいと信じていたものが一気に壊れているんだからそれも無理はないのか。

 取り敢えず理由を……理由聞いて皆は正気を保てるのだろうか。



「あのですね皆さん、僕はその理由何となく分かるんですけど、聞きます?」



 一瞬驚いた表情をした後に、真剣な表情をして頷かれたので僕はそのまま話した。僕がメノード島で見聞きしたことを。例の地下にあった謎の魔道具関連のこと以外は大雑把にではあるが。黒い霧を纏ったドラゴンや魔物の話はロイドがしてくれているみたいだったので、最後に邪神の話を付けて話を終えた。

 そう言えばロイドは邪神とやらの話はギルドマスターから聞いていなかったのだろうか。まあ、ちょろっと話に出て来ただけだし覚えてなくても無理ないけど。そもそも聞いていないのならギルドマスターが内々にしないといけなかったからリントブル聖王国側の人間であるロイドに必要最低限の情報しか渡していないとかかな。



「「「「……」」」」



 どうやら皆さん放心状態のようで、全く微動だにしない。



「リク、見つけました」


「今夜の食事は期待しておるのじゃ」



 どこで食べるかも決めていない今日の食事を期待されてもなぁ。



「じゃあ行こうか」



 話について行けない他の四人を代表して、ロイドが口を開いた。



「リク、どこへ行くんだ?」


「あそこです」



 そう言って僕はエリンが映し出してくれている映像の方を指で差した。

 そこには真っ黒な直径数メートルほどの球体と、その手前でそれを恍惚とした表情で見つめている法皇服に身を包み、十字架のネックレスを身に着けた老人の姿があった。腰のあたりまである真っ白長髪をしていて、同じく真っ白で胸のあたりまである立派なひげを蓄えている。そんな姿を見て、エルミス王子がぼそりと呟いた。



「父上……」



 まぁ想像通りだからその言葉に驚いたりはしないけど、そんな何とも言えない表情をされると何か声を掛けずらい。

 エリンやシエラには大して興味のないことのようではあるが。……いや、エリンの表情は珍しく強張っているように見えなくもない。そんな心配もつゆ知らず、エリンは躊躇いなく口を開く。



「エルミスと言いましたっけ? ここから先は邪魔になるので出来る限り足手纏いにならないようにしてくださいね」



 いや、あの……間違っては無いんだけどさ。もう少しオブラートに包んでもらえないかな。仮にも一国の王の息子に邪魔って……。足手纏いって……。



「そうは言うが主様よ。こやつは今父親に見放されておるのじゃから、そもそも王子ですらないと思うのじゃが」



 ドラゴンが人間に対して敬意を払うなんてこと出来ないよね。知ってたけど。

 自国の王子が文句を言われれば勿論黙っていないのもいる。ロイドは実力差が分かっているせいか口を出すつもりはなさそうだけど。



「あなたたち、何様のつもりなの? 助けてもらったことは感謝するけれど、そこまで言う必要はないでしょう?」


「レイスの言う通りだと思います。それに、エルミス王子の事ぐらい僕らで守ります」



 そうしてもらえると助かるには助かるんだけど……。



「何を頭のおかしなことを言っているのですか? そもそもあなたたちが弱――」


「エリン、ごめん。ちょっと静かにしてて」


「……はい」



 エリンは一つ深呼吸をしてから僕の肩に座り直した。この子の煽りスキル、もう少しランクダウンしてくれないだろうか。それにしてもいつもならここまで感情的にならないんだけどな。先程の様子を見るに、この国に何か恨みでもあるのかと思うレベルである。

 それはそうと、エリンの言う事は別に間違っているわけでもないので僕の方からも言っておく。



「もし皆さんが危なそうになったらエリンの転移魔法で強制的に他の場所に移動させます。そのタイミングは僕たちで勝手に決めさせてもらいます」


「ふざけないで! 私たちは――」



 何かを言いかけたレイスをロイドが制した。



「僕らは連れて行って貰えさえするのならそれでいい」



 本当に助かります。まぁ、反対させた所でこの決定事項は揺るがないし、そもそも彼らにそれに抵抗する手段なんて多分無いんだけども。そもそも、今のこの瞬間にも彼らを転移させることはさほど難しくない。寧ろ簡単まである。それをしないのは少々付き合ってもらう必要があるからである。本人たちには何も言っていないが、助けてあげたお礼としてこれぐらい許してほしい。

 だが、そんなロイドの意見が他の者に簡単に届くわけもなかった。



「ロイド、これは僕らの国の問題なんだ。彼らの手をこれ以上借りなくてもいいんじゃないか?」



 こいつ、メガネかけて知的な雰囲気出してたから勝手に頭いいと思い込んでたけど、実はそうじゃなかったりするのだろうか。もう他の国に迷惑かけてる時点で少なくともこの国だけの問題ではない。



「ダメだ。第一、僕ら三人で一度返り討ちにあっているだろう?」


「そ、それは彼らの変な魔道具のせいで……」



 ? よく分からないけど、多分メノード島にあったあの杖みたいな感じだろうか。剣術特化のロイド、感知しかできないモンド、魔法特化のレイス。モンドに関してはそれ以外知らないので何とも言えないが、勇者である以上、それ以外についても様々な面で長けているのだろう。そんな彼らが三人がかりで返り討ちだったのならもう無理だろう。モンドとレイスに関しては瞳の奥になにか怒りのようなものを感じる。……あぁ、どこかで見たことあると思ったらロイドが僕のところに二度目の戦い(笑)を挑みに来た時と同じ目だ。どうしてこうも力のあるものは負けたことを認めようとしないのか。

 モンドが押し負けそうなのを察して、今度はレイスがロイドに言い返した。



「第一こいつらが信頼できるとも限らないじゃない! それに、例のエンシェントドラゴンだっていないじゃない!」



 そんな言葉にロイドはシエラの方を少し見た後、僕の方に視線を向けてきた。その視線にはシエラのことを話してもいいのかという質問が見て取れた。

 許可をしようと僕が口を開くよりも早く、レイスが口を開いた。



「何よ。その銀髪の弱々しそうな女が何か関係あるの?」


『……食う』



 駄目に決まってんだろ。



『主様よ、妾にも我慢の限界と言うものが――』



 今そんな場合じゃないんだよ。いや、確かに勇者の方にも問題はあったけど。

 そう思いながら勇者の方を向くと、そこには腰を抜かしたレイスの姿があった。ちょっと何があったのか分からない。取り敢えず声を掛けてみる。



「あ、あの……大丈夫ですか?」


「……」



 返事は無く、ただただ顔を青くしている。

 首を傾げる僕に、エリンが説明をしてくれた。



「リク、彼女はシエラの殺気にやられたのだと思います。この場で影響を受けていないのはリクと私ぐらいです」



 言われてみればエルミス王子は勿論、ロイドとモンドもどこか顔色が悪いような……。

 ま、まぁ、静かになったし悪いことではない。さてと、彼らが元に戻るまでにちょっとした作戦会議でもしておこう。



「シエラ、エリン。もし僕が合図したら――」

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