前編
短編投稿です。ストーリー的には前話 (有)鈴華 業務内容は転生です の数年後であります
百花繚乱の異世界転生
やれ勇者だ、やれチートだ。神様たちは自分の世界を救うため、はたまた自分の世界で楽しむため。
あの手この手で人を送り込む。
ただし、それは無法に行われているわけではない
輪廻転生というシステムがある。
生命体の魂はすべてこのシステムの流れの中にありそれは神とて例外ではない
ただ、神は超高位管理神より世界の管理者たるものとして使われる者であるだけに過ぎない。
新たに生まれる神は輪廻の中より上位魂から無作為に選ばれ管理者権限を習得され神として働くだけに過ぎない。
そして宇宙のとある事情によりところどころに神力空白地帯が存在する。
そこにある世界では魔法能力が一般に使われることはなく結果物理機械文明が発達する。
そんな世界のうち地球、そしてその中の日本という国は娯楽としての中の魔法、そして特撮CGによるエフェクトイメージ、普通にある教育水準、それらが重なり。異世界転生の苗床として全宇宙より注目を集めていた。
20世紀では多くなかったゆえに放置されていた異世界転生ではあるが、昨今の需要にこたえるため、地球の神はある組織を立ち上げる。
異世界転生管理局。そしてその窓口として民間の体をした有限会社 鈴華 である
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「ありがとうございました」
にこやかに微笑み一礼する。清楚な佇まいのうりざね顔。黒髪を結い上げスレンダーながらもモデル体型の美人である
礼を受けたのはきっちりとしたスーツ姿であるが彫りの深い金髪の男。ギリシャ彫刻といってもいい容姿であるが服装は現代サラリーマンである。
「ありがとう、こちらこそいい取引だったよ。ところでどう?仕事終わったら食事でも?」
にこやかに微笑みながら拒絶され男は帰っていった。
「モテモテの稲倉さん。休憩入っていいわよ」
それを見てニヤつきながら隣の席の女性が言う。
ジト目で睨み返すもどこ吹く風。あきらめてはーいと返事をし休憩に入る。
書類を片付け行先は休憩室。ではなくなぜか資料室と書かれている部屋。
ノックをし入室を告げる。
中には男が一人机に向かっている。手前にある簡素な応接セットのソファーにもたれかかるように座った稲倉は
「あーもう!あのセクハラ神~~!」
「荒れてるね、稲倉さん」
慣れた調子で部屋の主が言う。
三条正蔵。見た目は稲倉と同じく20代半ばのサラリーマンではあるがとある事情により3階級特進。別部署を任されることになった男である。もっともその事情の発端が仕事の出来る男を探して稲倉が目を付けたことが発端だとは気づいてはいないのであった。
「そんなこといいますけどね。そもそも取引相手の手を握って君の瞳はきれいだ、とかいいます?なにしに来てやがんだ!って蹴りを入れたいのを何度抑え込んだことか!」
怒りの形相で言いながら机をたたく!しかし一転妖艶に微笑み
「三条室長なら、いつでもOKですよ?なんならオフィスラブだってい・・」
言い終らぬうちに後ろから頭を掴まれる
「オフィスラブだって・・・どうしたの?みこちゃん?」
平坦な口調ながら圧倒的威圧をにじませながら出される声。
「イタイ!痛いってば頭割れる!髪型崩れる放して!沙羅!」
その声を聴き解放される。頭を押さえ涙目になりながら振り向く
ふくれっ面になりながらジト目で睨む女性。美人ではあるがその目には敵意はなく悪戯を咎めるような色が浮かぶ
三条沙羅、職場恋愛で結婚し、現在一児の母である。結婚当時は会社も規模が大きくなく産休対策の応援要員として美琴がこの職場に来て以来親友と呼んでいいほど仲が良くなっている。彼女らにとってはほぼコミュニケーションである
「飯出来たか?じゃあ食うか」
笑いながら立ち上がる三条。
「あ、その前に。」
席を立った三条を制する沙羅
「三条室長、そして稲倉主任。昼食後社長室に集合との連絡です。じゃあ食べましょうか、あなた」
仕事とプライベートはきっちりと分ける沙羅であった
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その後昼食を終えた3人は社長室に集合する。
因みに沙羅の作ってきた昼食は3人分。美琴は早々に自炊をあきらめているので材料費負担を条件に沙羅に作ってきてもらうのであった。
「おう、来たか!まあ座れ」
社長室に入ると見知った顔が先に数人いた。顔を見て沙羅の肩を抱き即座に踵を返す
「失礼しました」
「待ちなさい!あたしだけを置いていくんじゃない!」
美琴が三条の首根っこを摑まえる
「いや、稲倉君くらい置いていかないととばっちりが来るじゃないか」
「男ならか弱い女性を見捨てていくんじゃない」
首を絞めながら言うのは理不尽である。
「人の顔を見るだけで出ていこうっていうのはひどい男だね三条君」
「気のせいですよ、北方さん」
あきらめて戻る三条、そのまま逃げようとした沙羅もしっかり美琴に捕獲されている。とはいえ美琴もできれば関わりたくない相手である。
部屋にいたのは社長である片野、営業部長である住吉、そして転生管理局局長の楢祀。
最後に北方と呼ばれた男。彼は転生管理特捜部所属。
異世界転生とは死した魂を転生の前に掬い上げ肉体を与え異世界に落とす転生パターンと肉体をそのまま使う転移パターンが存在する。後者の場合神隠しと言われ昔からおなじみであるがそれは往々に異世界転移で攫われたというものである。
しかし今現在は異世界転生はすべて許可制となっている。潤沢なマナを持つ世界がマナはないが適性の高い人間を欲する。世界の修正も含め膨大なマナと交換という図式が成り立っている。
とはいえそのルールも順守されているわけではない。
手続きを無視し魂を攫って行く神も多い。
それを追跡し処罰をするのが特捜部である。基本構成員は上級管理者を持ち一般管理者を処罰する権限を持つ。
しかし本部特捜の北方がここまでくる、そのことは面倒な事案の発生を示していた。
「ちょっと複雑な案件でね。ぜひ協力をお願いしたいんだよ。三条君達に」
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「このたび隣に引っ越してまいりました。三条と申します。よろしくお願いします」
「蓬莱です。よろしくお願いします」
引っ越しのあいさつで隣家に来ている。正蔵、沙羅、そして息子の虹汰の手を繋いでる
挨拶に出てきたのは隣家の奥さんだったがすぐにご主人を呼んできてくれた。
年齢的には20代後半の夫婦そして双子の女の子という家族のようだ。
新興住宅地のようで今建っている家は二件だけなのであいさつも一つだけで終わっている。
人当たりのいい夫婦のようで好印象である。いつの間にか子供同士は遊んでいて奥さん同士の話も弾んでいる。楽しそうにしている彼女らを見ながら亭主同士も仕事や趣味など話し込んでいる。
その時電話がかかってきたのを機にその場を辞する。
虹汰はまだ遊びたがっていたが抱えて帰ってきたが、まあそれも含め首尾は上々。
とりあえず対象との接触は成功した。
時間を少しさかのぼる
「対象は蓬莱悠二。28歳 彼の保護が最優先事項だ。」
北方が言う。
「同時に注意すべきは異世界ビートダイズの管理者たちだ」
「えっ!?」
美琴が急に声を出す。口を押えるが視線は集まっている。
「それって今日のセクハラ神の世界ですけど・・、きょうの契約完了って何か問題あったんですか?」
不安げに美琴が問う
「いや契約自体には何も問題はないよ」
横からの住吉の声にホッとする美琴。
しかしその言葉を引き継ぐように片野が言う
「そう、それ自体は真っ当な契約だ。しかしあの世界はもともと何度も契約不成立で今回ようやく契約できたというのは知っているか?」
「はい、確か今回で五回目にしてようやく契約成立であったかと・・・あ、その蓬莱さんって確かビートダイズが一番最初に申請してきた人だったような。」
片野の言葉に美琴が返答する。
異世界転生で選択された魂が許可されないということは基本的に無い。
ただ唯一の事例が魂のランクが高すぎる場合である。
魂には下からN、R、SR、URの4ランクが存在する。
通常はN,稀にRここまでのランクは異世界転生に出すことに問題はない。
URは管理者ランクなのでこれもあり得ない。
問題はSRと呼ばれるランク。通称英雄ランクである。
アカシックの役割として世界を動かすために転生された魂。その世界での役割が明確に存在する人物のことであり。万が一にも異世界転移などしようものなら世界修正力すら及ばない不具合を起こす可能性のある必要にして不可欠な魂である。
パーソナルアカシックを見れば一目瞭然の為、通常異世界転生の申請がされることはあり得ない
「確か4度連続SRの申請を行ってきたんです。それで今回ようやくN申請だったので書類が通ったはずなんですが」
その時の書類データを検索し表示する
【星崎悠一 魂ランクN】 高校生であと二週間後に病気で死亡となっている
個人としてみれば問題のないことではあった。
「あからさまとしか言いようがないな。あの世界では人があまりにも数を減らし過ぎている。おそらくほしいのは発展させる英知。なけなしのマナを使って召喚してもおそらくは発展に回せる分はなくなるはずなんだよ」
言葉にデータ表示が変わる
異世界ビートダイズにおけるマナ管理データである
当然、宇宙の理にかかわることであるのでマナの踏み倒しが起きるかもしれないことは許容できない。
かなり厳密に世界管理状況の精査が行われるのが常である。
「中位帯宇宙のわりにマナが少ないですね。まあ黒字とは思うけれどこれで世界転生は厳しくないですか?」
三条が疑問を口にする。かつては転生審査等をメインにしていた彼にとってはすぐに読み解けるデータである。その疑問に対し住吉は答えた。
「無理ではないよ、ただ文明レベルそして魔獣の脅威がないという観点では比較的安全だ。管理者権限を使うからと言われれば審査上問題はない。ただしこれだけならばね」
振り向き楢祀に向く。そして彼は言葉を引き継いだ
「閲覧用データベースの履歴によると、断られてからも彼らは執拗に蓬莱の個人情報にアクセスしている。そしてその周辺での申請ばかりが上がってきていたわけだ。つまり・・・彼らの目的は最初から蓬莱一人と推測される」
「それがわかっているなら申請却下とかはできないんですか?」
沙羅が聞く、そこまで見越されてまで彼の世界に転生させる理由などありえない。
「まあ、それは沙羅の言う通り蹴とばしてもいいんだがな」
片野が口を開く
「いわゆる口利きってやつだ、あの世界は基本的にうちの系統とは違う。お偉いさんからの推薦を執り付けられたら無下にはできないってわけだ。」
「ということだ、そのお偉いさんは私の方で受け持つ、あとの警護関係をお任せしたい」
北方がそう締めくくる。
きいて三条はやはり厄介ごとだとため息をつきながらも了承する。
どちらにしてもあきらめるなどという選択肢もないし譲ってやる必要もない
出来ることはただ魂を守ることだけである。
その後、三条夫婦はプライベートの護衛も兼ね彼らの隣に引っ越す。念のために封印も一段解除の許可が下りていた。美琴の方は異世界神方面を担当。こちらは非常に難色を示した。
「あたしはああいうイタリアジゴロみたいなのが生理的に大っ嫌いなのよ!」
「とはいっても君がだめならあとは沙羅しか残ってないぞ?」
「稲倉君、頑張ってね」
「早!、ちょっとそこの亭主バカ、嫁に過保護すぎ!」
「いや、そんな女の敵なんか一ナノメートルでも近づけたくないな」
「あたしなら、どうなってもいいの?」
「稲倉君なら大丈夫、多分」
「信頼が投げやり過ぎる!」
目を細める北方を見て笑いながら片野が号令を出す。
遊んでいる暇はないのだ。さっさと動け
多分、後編で終わります。