小さなテディベアと5人の女王さま(6)
「いつまで隠れてるつもり!? いい加減にしたらどう!」
ネラが挑発していますが、リップは1度深呼吸してからスインの手を下ろさせて言いました。
「そうよね。そうだわ。今諦めてしまったら、テディを救うこともできなくなってしまうもの……」
ドラゴンの煙が止んだのを見計らって、リップは全員に言いました。
「あの煙が来ている間はドラゴンに手が出せないわ。何とか煙をそらさなきゃ。煙がそれたら、その瞬間に全員であのドラゴンに力をぶつけるの。ネラは春の女王代理になるほど力は強いけど、私達4人全員の力を同時に受け止めるだけの力はないわ。問題は、どうやってドラゴンの気を逸らすか、ね」
誰よりも賢かったリップはドラゴンに勝ち、ネラを止めるための作戦を説明しました。悩んだ女王さま達の傍で手を挙げたのはテディでした。
「ドラゴンがこっちを向かなければ良いんだね! ぼくに任せて!」
「テディ? 一体何をするつもり?」
テディはこそこそと女王さま達に言いました。それを聞いてみんなが驚いた顔をしますが、テディは自信満々で目を輝かせています。
「絶対だいじょうぶだよ! ぼく、いってくるね!」
と言って、テディはドラゴンに向かって走り始めました。女王さま達がテディの名前を呼びますが、テディは小さな体でドラゴンの方へと走っていきます。
「仕方ないわ! もうやるしかない!」
アイがそう言うのを聞いて、リップは頷きました。
「こっちだ!」
スインの声に反応したドラゴンがまた口から煙を噴こうとしてきました。3人の女王さま達はスインの横に1列に並ぶと、同時に両手をドラゴンの方へと向けました。前から黒い煙が迫ってきますが、女王さま達に当たる前に、まるで目の前に見えない壁でもあるように、煙は左右に分かれました。
女王さま達は煙のことよりもテディの事が心配でした。見ている先にはドラゴンの足からまるで木のぼりをするように少しずつのぼっていくテディの姿がありました。
「うんしょ、よいしょ。いそがなきゃ。がんばれテディ」
そう自分を勇気づけながらテディは一生懸命ドラゴンの頭を目指してのぼっていきます。ドラゴンは女王さま達に夢中なようでテディに気づきません。
ようやく頭の上までのぼりきったところで、テディはドラゴンの頭の上で何度もパンチしました。しかし、テディの手が柔らかすぎてドラゴンは気づいていません。
「大変だ!」
テディは頭の上でジャンプしましたが、固いうろこの上で体が跳ねるばかりです。
「気づいてよ! ほら、ぼくここにいるんだよ!」
ドラゴンはさらに強く煙を噴きつけます。テディはうーんと困ったようにうなってから思いついたようにドラゴンの目に移動しました。そうして片方の目を自分の体で隠したのです。ようやくテディに気づいたドラゴンは煙を噴くのをやめて声をあげ、テディを振り落とそうとします。テディは振り回されて悲鳴を上げながらも一生懸命顔にしがみつきました。
「今だ!」
スインが声を掛けると、4人の女王さま達は一斉にドラゴンに向けて力をぶつけました。部屋が急に真っ白になり、ドラゴンの姿が消えてしまいました。そのため、テディは落ちていきます。
「うわわ! たすけて女王さま!」
テディが床にぶつかってしまう前に抱きとめたのはリップでした。やわらかいテディを力いっぱい抱きしめます。おかげでテディは床におしりをぶつけずに済みました。
急に景色がゆらゆらしたと思えば、いつの間にか元の季節の塔に戻っていました。ネラの魔法が解けたのです。
「これで全部終わりだ、ネラ!」
そんな2人の後ろで、スインがそう言いました。