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小さなテディベアと5人の女王さま(5)

「どうしてそんな大切なことを言わなかったのよ!」


話し終えると、アイはそう言ってリップを責めましたが、泣きながらリップは言いました。


「もう誰も傷ついて欲しくなかったの。私が呪いを受けるならまだしも、他の誰かが代わりに呪いを受けるなんて、そんなの絶対に嫌だったの」


「と、とととと解き方は?」


インチェが恐る恐る尋ねますが、リップは首を横に振ります。


「分からないわ……。調べたのに、調べても調べても、解き方が分からないの」


顔を覆って涙をこぼすリップを慰めようと、ネラがそっとしゃがもうとした時でした。


「ふふ」


リップに降ってきた声は慰めではなく、吹きだすような笑いでした。どの女王さまも一瞬理解ができずにネラを見ます。ネラは目元に手を当て、こらえられないとでも言うように肩を震わせています。


「ネ、ラ……?」


「ふふ、ふふふふふ。はは、あははははは!」


ネラが突然笑い始め、女王さま達は驚いて目を見開きました。


「今さら気づいたの!? 魔女の苦しみには気づきもしなかったくせに、自分達のことになれば被害者みたいな顔をして!」


その言葉に込められていたのは悲しみ、怒り、そして深い憎しみでした。


「ネラ、まさかお前が呪いを掛けた張本人だって言うのか?」


スインがネラを睨みますが、それすらネラは笑いました。


「そうだって言ってるじゃない! この為にリップにお花をプレゼントして、楽しくもない話をしては話を合わせてきた。全部全部、あんた達に呪いをかける為に!」


「どう、して……」


リップは悲しみに顔を歪めながら言葉を絞り出すようにして尋ねました。


「本当はあんた達に呪いをかけるだけで良かった。テディにかかってしまったのは悪かったと思っているけど、あたしはもう止まれない。あんた達は知ってる? 魔女達が今国のはずれでどんな状況にあるかを。毎日毎日ひどい扱いを受けるのよ。まるで同じ人じゃないみたいに。魔女達は助けを求めようとしたのに、誰も話なんて聞いてくれなかった。私達の話は無かったことにされたの!」


誰も何も言えず、ゆっくりと歩きながら話すネラをただ見ていました。それはとても怒りに満ちたものでした。






 ネラは魔女に育てられました。男の子として生まれたけれど、心は女の子だったのです。魔女達もそんなネラを大切に育てて優しくしてくれましたが、ずっとひどい扱いを受けていました。ですが、一方で男の人達魔法使いはとても良くしてもらっていました。魔女達はもちろんそれはおかしいと言いましたが、役人は話を聞いてくれません。そうして年月がただただ過ぎていったのです。


 そんな時でした。ネラは思ったのです。女王さま達を人形に変えてしまえば何とか王さま達に気づいてもらえるのではないか、と。ネラは男の子だったので、魔女にはなれませんでしたが、魔女の事が大好きでいつも憧れでした。だからこそ、苦しんでいる魔女達のために何かできないかと考えたのです。


 そして、ネラはリップが通る道に呪いの木箱を置きました。人形になってしまえば、王さまもまた一大事だと思って話を聞いてくれるに違いないと思ったのです。けれど、呪いを受けたのはテディでした。上手く行かなかったことを知って、ネラは次に女王さま達を塔に閉じ込めてしまうことにしました。そうして、全員を人形に変えてしまおうとしたのでした。





「そんなことをして、魔女達が悪者になるとは思わなかったのか!」


スインがこらえきれずに声を上げましたが、ネラは分かっていました。このままでは魔女達が悪者になってしまうことも、自分の命が危なくなってしまうことも。それでも、苦しんでいる魔女達のためになれるのなら、そんなことはどうでもよかったのです。


 ネラは床に掌を向けると、ネラの足元から黒い煙が溢れ始めます。ネラはもう優しいネラではありませんでした。ただただ全てを睨みつけて、声を張り上げます。魔女達には関係がない、勝手に自分が始めたことなのだ、と。


 辺りは季節の塔の大広間に変わり、黒い煙は立ち上り、10メートル程もある巨大なドラゴンになっていました。スインがその場を立ち去ろうとするネラを止めようとしますが、真っ黒なドラゴンが立ちふさがります。


「そう、あたしはどうなろうと関係ない。だって私は、何をしたって魔女にはなれないんだから……」


ネラが歩いていく先には塔の出口が現れ、テディはネラの背中に声をぶつけました。


「ネラさま!」


テディの隣から走り出てきたアイが出口に向けて掌を向けると、出口から炎が噴き出しました。


「逃がさない! そんなことはさせない!」


炎に行く手を阻まれたネラが女王さま達を睨みつけます。


「いいわ。あんた達になんて負けやしないんだから! この目でその最後を見届けてあげる!」


巨大なドラゴンが思わず耳をふさいでしまうほどの声で吠えました。口元から黒い煙が溢れだし、テディは言いました。


「なんだか怖いものが来るよ! 皆隠れて!」


その言葉に女王さま達は直ぐに反応しますが、リップだけはその場に座り込んだまま動きません。ただうわ言のようにネラの名前を呼ぶばかりです。


「早く走れ! 逃げるんだ!」


「ネラ……」


スインがリップの腕を強く引き、柱の陰に飛び込むと、先ほどいたところに真っ黒な煙が勢いよく噴きつけました。


「ネラの話からすると、あの煙に当たったらきっと人形になるのね。やるわよ皆。ネラをこのままにしておけないわ!」


アイが残る3人の女王さまに言いました。スインとインチェがうなずきますが、リップだけはまだショックを受けるばかり。


「信じて、いたのに……」


ドラゴンがまたテディ達を追いかけてきます。その度にテディはドラゴンの居場所を教えました。動物の勘が戻っているのか、ドラゴンが何か攻撃を仕掛けようとするとすぐに察知できたのです。


 何度もドラゴンの噴く煙を柱で回避してきましたが、煙に当たってしまうのは時間の問題でした。アイとインチェがドラゴンに自分の力をぶつけますが、上手く行きません。


「わ、わわわわ私達の中であのドラゴンに対抗できるのは、やっぱり……」


インチェが不意にリップを見ました。


「いいえ。リップだけでは無理よ。4人力を合わせないとあんなの勝てないわ」


すぐさまアイがそう言います。


「ネラ……」


ただただ悲しげにそう言うリップをスインは掴んで怒鳴りつけました。


「いつまで泣き虫でいるつもりだ! ネラを止めればテディだって元の姿に戻れるかもしれないんだぞ! このままじゃ全員人形にされて終わりだ! でもここから出られれば、王さまの力を借りれば何とかなるかもしれない! だから早く力を貸せ!」


涙目のまま耳を貸さないリップの服の袖を、今度はテディが小さく引っ張りました。


「リップさま、ネラさまを止めてあげて。本当はね、こんなことしたくないんだよ。それからみんなで一緒にお城へ帰ろうよ」


その言葉がリップを動かしました。涙を拭いて、リップは柱の陰から見える巨大な黒のドラゴンを見ます。

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