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小さなテディベアと5人の女王さま(4)

 また地形が変わり、今度は元の塔に戻っていました。柱の陰に隠れたテディ達は蔓の怪物が追ってきていないか確認しながら座り込みました。全員がはぁはぁと息をしています。


「全く、なんなんだあれは」


「ほほほほ本当に、どうなってるの……」


「ほ、が多いわよインチェ様。あたしも聞きたいわ。に、してもこれじゃあ事態は悪化するだけね。ここはやっぱりリップ様に出てきてもらいましょうか」


「そんなことができるのか」


「もちろん。だってあたしはリップ様の代理ですもの!」


そう言って春の力を使おうとしたネラに、テディは慌てて言いました。


「でも、今リップさまは病気なんじゃないの?」


ネラが病気の名前を教えましたが、テディにはよくわからなかったようで首をかしげるばかりだったので、ネラはにっこり笑って言いました。


「でも大丈夫。悪い病気じゃないから」


ネラが右腕をぐるりと回すと、ピンク色の光の輪が現れました。輪の中の景色は急にぼやけ、次にはっきりした景色が広がると、全く別の場所になっていました。それはとある部屋の中でした。床は開きっぱなしの本に覆われ散らかっています。その奥で、1人必死に本を読む女性がいました。


「リップさま!」


最初に声をあげたのはやはりテディでした。


「テディ?」


その声にすぐに気がついたのは、部屋に入って出てこないリップでした。綺麗に巻いていた髪は何も手入れがされていなかったためかボサボサで、疲れたような顔をしています。


「テディ!?」


リップは持っていた本を投げ捨てて、テディの元へ駆け寄っていきました。テディも駆け寄ろうとしましたが、小さく火花が散って輪の外へは出られそうになく、ただリップが来てくれるのを待ちました。リップは輪の中を通って城の中へと入るなりテディを強く抱きしめています。何事かわからない女王さま達でしたが、その時テディには全てが蘇っていました。


「テディ! 良かった。動けるのね! これで、あの時みたいに一緒に……」


その言葉に、テディは言いました。


「どうしてぼく、こんなに大切なことを忘れてたんだろう……」


小さな声で、テディは大切なことをリップに伝えました。


「リップさま、ぼくは王さまに命をもらったの。でも、今日、日が沈むまでの命なんだ。日が沈んだらぼくはぬいぐるみに戻ってしまうんだ」


その言葉に、どの女王さまも驚いた顔でテディを見ました。テディが出発する時に王さまが引きとめた時の事が、女王さま達の脳裏をよぎります。






わかっていると思うが、テディは――



あの時、王さまが言おうとしていたこと、それは、




「わかっていると思うが、テディは日が沈めば元のぬいぐるみに戻ってしまうよ」




ということだったのでした。


「ぼくは王さまの力で1日だけ動けるようになったんだよ。どうしてこんなに大切なことを忘れてたんだろう。だって、ぼくは1番優しくて、いつも泣いてるリップさまを元気にしたいっていつも思ってたんだよ」


テディにとって動ける時間に限りがあること、それは特に問題ではありませんでした。それ以上に、頭の中に蘇ってきた記憶の方が何倍も大切だったのです。


「リップさま、たすかったんだね。ぼくはそれだけでうれしいよ」


笑顔でそう言いましたが、リップの目からはどんどん涙が溢れてきます。


「そんな、そんな……。ごめんなさい……」


テディは首を横に振りました。


「そんなに悲しい顔しないで、リップさま。ぼくはまたリップさまに笑って欲しいの」


それでもリップは


「ごめんなさいテディ……」


と、繰り返すしかありませんでした。


「一体、何があったの?」


アイがそっと尋ねると、リップは話し始めました。





 その日もリップとテディは手を繋いで庭を散歩していました。この時のテディは、テディベアではなく、どこにでもいる子供のクマでした。親とはぐれてしまい、お腹をすかせていたテディをリップが見つけたのが2人の出会いでした。テディベアが大好きだったリップは、かわいらしいクマの子供にテディと名付けました。庭を散歩したり、川に遊びに行ったり、一緒に月を眺めたり、その中で、川に落ちたり、花のにおいを嗅ごうとして花粉を吸い込みくしゃみをしたり、テディは何度もリップを笑わせました。リップもそんなかわいいテディが大好きで、2人はいつも一緒でした。あまり外に出なかったリップがテディをきっかけに、積極的に外へ出かけるようになり、リップはたくさんのものをテディと共有したいと思ったのです。


 事件が起きたのは一緒に散歩していたある日の事でした。その日はとても晴れていて気持ちが良く、手を繋いでバラでできた道を歩いていました。その時、リップがバラの根元に小さな木箱があるのを発見しました。古びた小さな木の箱で、リップは興味津々でその箱を拾おうとしますが、テディは止めます。


「それ、なんだかよくないよ。さわらないでおこうよ」


そう言いましたが、リップはテディが見知らぬものに怖がっているだけだと思って拾い上げました。


「ダメだよ。リップさま、早くそれを捨てて!」


真剣なテディに、怖がりねと声を掛け、リップは木の箱を開けてしまったのです。恐ろしい何かだと思ったテディは木箱のフタが完全に開ききる前にリップの手から奪い取りました。しかし、テディが手に取った時、フタが開いてしまったのです。その瞬間、テディは煙に包まれ地面に落ちました。それも、ぬいぐるみの姿になって。


「テディ!」


事の重大さに気がついたリップはすぐにテディに駆け寄りますが、地面に転がっているのは反応しないただのぬいぐるみでした。


「そんな、大変。すぐに王さまに言わないと!」


涙目でテディを抱き上げて王さまの元へ向かおうとしたリップでしたが、その時ひらひらと落ちてきた黒いバラの花びらに、足は止まります。黒いバラ。それは昔から魔女が怒りを表す時に見せる特別な花びらでした。


「まさか、これは、魔女の呪い……」


テディはリップの代わりに呪いを受けてしまったのです。


「あぁ、私、なんてことを……。早く、早く何とかしなきゃ……」


次にリップの頭に浮かんできたのは、優しい王さまと他の女王さまの事でした。


「この木箱を他の人が見たら、もしかしたら同じ人形になってしまうかもしれない……。私が、なんとかしなきゃ……」


頼るわけにはいかなかったのです。他の女王さま達を想い、リップは1人で問題を解決することを決めました。自分は病気だと言い、女王の代理もしっかり立てて季節がめぐるようにして、テディは寂しくないように皆が集まる部屋に置いて、そして、自分はたくさんの本を集めて必死に呪いを解く方法を探していたのです。寝る間も惜しんでたくさんの本を読みあさっていたため、部屋は開きっぱなしの本で覆われていたのでした。


 ぬいぐるみのテディに、リップは毎日謝りました。抱きしめて、誰もいない部屋で1人泣きながら何度も何度も謝りました。




ごめんなさい




 テディが聞いていたのはまさにその声だったのです。自分の代わりに呪いを受けて動けない体になってしまった事が、ずっとリップを苦しめていたのでした。

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