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小さなテディベアと5人の女王さま(3)

 ふとテディが気がつくと、床の上に倒れていました。小さく目をこすりながら起き上って周りを見回してみますが誰もいません。


「あれ? ぼくは夢を見ていたのかな」


テディは座ったままじっと考えてみました。泣いていたのは誰なんだろう。どうしてあんなに謝っていたんだろう。そして、どうしてこんなに悲しいんだろう、と。


「テディ!」


知っている声が聞こえてきて、テディははっと顔をあげました。


「アイさま?」


「テディ、返事して!」


「どこだテディ!」


スインの声も聞こえてきます。テディは立ちあがってもう1度見回してみました。さっきまでお城の入口だったはずの場所はいつの間にか階段になっていました。上も下も階段で、どちらも延々と階段が続いているだけでしたが、上からは女王さま達がテディの姿を見つけて駆けおりてきていました。


「テディ! 大丈夫?」


テディはお尻をパンパンとはたいてから両手を振って無事を伝えました。


「大丈夫だよ女王さま!」


「良かった。はぐれちゃったから心配したわよ!」


誰よりも先にネラがテディを抱きしめました。


「ほら! 諦めちゃダメって言ったでしょ! 諦めなければなんだってできるの! 諦めなければ絶対にここから出られるの! そう、最後まで! この魂燃え尽きるまで!」


と、アイが力説する中、インチェがそっとテディの頭を撫でてあげました。


「心配したのよ」


そんなインチェにテディはごめんなさいと返しましたが、スインは言いました。


「何を謝る必要があるんだ。謝るべきなのは季節の塔をこんな風にした真犯人だろう。私がしめてやる」


「とか言って、スインが1番力の使い方が下手なクセに」


インチェが言うと、スインが睨みます。


「なんだと? この私が下手だと?」


「まぁまぁ、2人とも、今はこの階段から脱出しましょ」


ケンカになりそうな2人をなだめたのはネラでした。延々と続く真っ直ぐな階段を見て、ゆっくり下りようとした時、急に何か音が聞こえてきました。


「何の音?」


階段を見上げてみると、上から幾つも石が転がってくるのが見えました。


「石だわ!」


ネラが言うと、すぐにスインが一歩前に出ました。


「私が止めてやる。皆見ていろよ」


スインは目を閉じ、開くと同時に両の掌を階段に向けるように広げました。


「これが私の冬の力だ!」


掌から、スインの女王さまとして操る冬の力が出てきた、のですが、それはポンッという音と共に小さな雪の結晶が宙に舞っただけでした。その瞬間全員が沈黙しました。手元から出てきた雪の結晶がひらひらと床に落ちるなり同時に階段を駆け下りました。ネラが直ぐにテディの手を掴んで抱えます。その間も女王さま達の言い合いは続いていましたが、テディにはうまく聞こえません。ネラに抱えられながら、テディは後方から迫ってくる石を見ました。距離が縮まるほどそれはどんどん大きくなっているようにも見えて、慌てて声をあげました。


「大変! このままじゃ石に当たっちゃうよ!」


「ちょっと、何とかならないの!?」


ネラが声をあげると、スインが声をあげました。


「もう1度私が行く! これでどうだ!」


転がってくる石に向かって掌を向けると、今度は地響きが聞こえてきました。


「今度は何!」


すると、インチェが後ろを指差しました。


「あれ……」


白いものが迫ってきます。


「まさか、雪崩?」


スインは何も言わずただ前を向いて走っていました。それに対してまた女王さまが非難しますが、テディは後方を確認することに集中します。


「もう雪崩が追いついちゃうよ! 皆準備して!」


テディがそう言うのと同時に全員が雪崩に飲みこまれていきました。テディもまた雪崩に飲みこまれましたが、今度はしっかりとネラが手を掴んでいました。


 床がまたうねり、雪が一気に溶けていきました。また城の中が変形しているのです。テディもまた必死にネラの手を掴みました。雪の中で何度も揉まれ、女王さま達とテディが次に気がついたのは見覚えのあるお城の庭でした。


 バラが左右に並んで道を作っている巨大な庭。数えきれないほどの花が咲いて並んでいて、中央に花時計がありました。その景色はテディにあるものを見せました。







 手を繋いでいたのです。楽しい時間をテディは過ごしていたはずでした。顔が思い出せないその人も、楽しく手を繋いで散歩をしていたはずでした。それは晴れた日でした。ぽかぽかしていて、幸せな時間を過ごしているはずなのに、ひどく悲しいのです。理由はテディには分かりませんでした。ただ、とても悲しいのです。




 それがテディに見えたものでした。一体それが何を意味するのか、テディには分かりませんでした。

女王さま達とテディが落ちたのは、お城の庭でした。


「これは幻だ。見てみろ、この塔の壁が見えるだろ?」


スインが指した先には塔の壁がありました。まるで、塔の中に庭を作ったかのようです。


「結局出方は分からない、のね……」


インチェが残念そうに言うと、アイがまた元気づけようと声を掛け始めました。スインもまた混じってなんだか言い合いになり始めましたが、テディはそっと花に近づきました。


「どうしたの? テディ」


ネラが優しく言いながら隣にしゃがみますが、テディはじっと花をみたままです。


「この花、なんだか知ってる気がするんだ。一体、何なんだろう……」


しゃがんでじっと見ていたテディの後ろで、インチェの悲鳴が上がります。


「な、なに!?」


ネラと同時に振りかえると、バラがみるみるうちに蔓を伸ばし、集まっていきます。それは徐々に足を作り、腕を作り、頭を作り、そして、1つの蔓の怪物になったのです。あまりに大きなその怪物にただただ見上げて動けずにいたテディの傍を誰かが走っていきました。


「ここは私が! 皆早く逃げて!」


アイがインチェの前に立ち、両手を広げました。


「食らうがいい! この私の情熱を!」


両手から吹きだした熱い風が周りに咲くバラの花びらを巻きこんで吹きつけます。蔓の怪物はアイの出す熱い風に、少しずつ押されていき、その間にテディ達は蔓の怪物と逆の方向へ走っていきました。

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