表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エスケープ・ダンジョン~オルガニア迷宮へようこそ~  作者: ほうこう
第三層 灼熱荒野攻略編
96/99

第83話『第3層 灼熱荒野 3日目』 第1節

 アズサ達、ハウソーン同盟部隊の第2部隊は日の出前のまだ暗い時間から、中央を目指すために準備を整えていたまだ日の出前のため辺りは薄暗く、風は冷たいままだ。


 準備と言っても、昨日ここまで乗ってきた木の根のゴンドラの用意とこれから使うであろう|闘技札〈ポレモスカルタ〉の用意や今日の戦いに向けての準備などでそこまで大変な仕事はなく、若手騎士のダミアンが中心となりハーフリングの双子それにロドリゴが忙しく動いていた。

 第2部隊の持っている|闘技札〈ポレモスカルタ〉は盾と剣の三枚ずつの6枚であり、少し心もとない数だがこの後合流することも考えるとそこまで少なくもないだろう。


 そんな準備の中アズサは眠気を抑えながら、なんとか意識を保っていた。


 一日目はホントに最悪の夜だった。獣人達に追われて、穴の中に追い詰められて散発的に続く嫌がらせの中ではまともに眠ることもできなかった。

 そして二日目にはなんとか変身して脱出、あの炎の変な奴に体当たりして倒してからは、少し休ませてもらった。だけどすぐにまたドラゴンになって飛んでここまで来たのだ。そうしている間は緊張感で眠気なんて吹き飛んでいた。

 だけどここに来て天幕を立てて一度ゆっくり休むことができたことで緊張がゆるみ、溜まっていた眠気が一気に襲い掛かってきたこともあって、地面にペタリと座りながら舟をこいでいた。


「アズ?大丈夫……ボクがもうちょっと休ませてもらえるか、……聞いてこようか?」


「ううん、だいじょ~ぶ、だいじょ~ぶこのくらいなんともないから」


「ああ~アズそんな地面なんかで……寝ちゃだめだよ!カ、カズトさん、アズが……」


「アズほらもう直ぐ出発する時間だよ。頑張って!」


「うん……。うん……わかってる」


アズサが動きそうもない事を知ると、カズトは彼女に背中を向けてしゃがみ込んだ。


「アズほらおぶさって、少しの間だけど寝てたらいいよ」


「でも……カズだって」


 確かにカズトは戦闘ではあまり役に立つことが出来ていない。それでも作戦の案を出したり治療するときや食事のときに自分から動き色々細かい事をしていたのだ。それにカズトも同じように戦いを潜り抜け、この暑い中動き回っているのだ疲れていないわけがない。


「いいから、僕は何も出来てないんだから、これぐらいさせてよ」


「うん……それじゃあ」


 あたしはそういってカズトの背中に倒れ込むようにおぶさる。

 カズトの背中は見た目に反して意外と広く、この暑さで汗をかいたからかその体臭と外套などの服の匂いが漂ってくるがくさいのはお互い様だ。それ以上に体のぬくもりがあって、なんだかとても快適な背中で一瞬であたしは夢の中に落ちていった。


 それから何分経ったのだろうか。熟睡してしまっていたあたしはカズトの声で目を覚ます。


「アズ、そろそろ起きないと」


「う~~ん、ペタンクはもう食べられないよ~」


「いや、ペタンクは食べ物じゃないからね!そもそもよくそんなマイナースポーツ知ってるね!」


「うん?カズ、もう朝なの?」


「いや、まだ朝日は昇ってないから朝かどうかは微妙だけど。うん、もうそろそろ出発の時間だから起きてね」


「うう、そんなに急かさないでよ。起きるってば……!うん……起きる。」


「いやまた寝てるって、ホントにそろそろ起きないと不味いよ!」


 そう言われて、あたしはしぶしぶとカズトの背中から降りると、ぐっと背中を伸ばす。

 そうしながら周りを見ていると、妙に生暖かい視線を向けられている事に気付き、最初は何かあったのかなと変に思いルーに聞いてみる事にする。


「ルー、あたしなんか変なことしたかな?なんかみられているような気がするんだけど」


「それは……その、アズが……カズトさんとくっついていたから……そういう関係なんじゃないかと、みんな思ってるんだと、ごめんなさいなんでもないです!」


「いやいやいや、あたしとカズは全く全然これっぽっちもそんな事ないからね!うん、全然ないから!!そうよねカズ!」


「うん、そういうの全くないから大丈夫」


「ちょ、ちょっとそういう言い方はないんじゃない?もうちょっと何かあるでしょ?いや、別に何かあるって言うんじゃないんだけどさ!もう、良く分からないけどとにかくその言い方は気に入らないのよ!!」


 あたし自身何言ってるか良く分かってないものの、カズトのあの言い方に少しカチンときて言い訳のような事を言ってしまうが、周りからの生暖かい視線は変わらずにに感じる。なんだか恥ずかしくて今にも逃げ出したい気持ちをあたしは必死に抑えて、無理やりオホンと咳払いして別の話題に持って行こうと頑張った。


「それで、今日は確かあたしがまたドラゴンになってみんなを乗せて、中央で戦っているだろう人たちと合流すればいいんですよね?」


 その疑問に答えたのは、昨日の戦いで傷を負っているため所々包帯を巻いたヨティスだった。


「そういうことだ。我らは貴重な戦力であるコリーナ准尉を失ったが、やるべきことに変わりはない。一刻も早く中央と合流し、第1部隊と合流し獄卒炎鬼を撃破し、そのままの勢いで北へと昇り最後の獄卒炎鬼を獣人やドワーフどもよりも先に倒さなくてはいけない、これが今日の流れのはずだ」


「まぁな、そうやって計画通りに万事上手くいけばいいんだがなぁ」


「ロドリゴ、貴様は何が言いたいのだ」


「別に何が言いたいということもありゃしませんがね。相手は狡猾で獰猛な獣人族と、勇猛で頑強な事で有名なドワーフ族なんだぜ。俺たちの思い通りになんていきゃしねぇと思っただけですよ」


 ロドリゴのその言い分に一理あると思ったのか、ヨティスは腕を組みながら黙り込んでしまう。

 だがそれもすぐに終わり、ヨティスは全員を見渡すように話し始める。


「確かにそうかもしれん。だがなロドリゴ、だとしても我々は作戦通りに動くべきであろう。相手がこちらの予想外の動きをしたとて、こちらが勝手に独断で別の動きを取れば連携が崩れ、もっと最悪な事態に陥る可能性もある」


「わかってるよ、そんぐらいな。だから俺が言いてぇのは、可能性が十分にあんだからそれぐらいの覚悟を持とうぜって話だ。カズトお前はどう思うんだ」


 ロドリゴから話を振られたカズトは一瞬戸惑うが、すぐに前を向き問いに答える。


「はい、ロドリゴさんの言う通りですね。相手はこちらの動きを読み、こちらの作戦を潰すように動いてくるはずです。具体的に言うと獄卒炎鬼を狙うのではなく、ハウソーン同盟部隊を狙ってくる又は彼らが最短で行ける場所三つを同時に攻略する。多分どちらかを狙ってくるような気がします。その事を頭に入れながら動いた方がいいかも知れません」


「なるほどな。了解した、こちらもその事を頭に入れて行動することにしよう」


「おれも了解っすよ。それにしてもカズト、お前さんよくそこまで考えてんなぁ。前の場所でもここでもお前さん意外と頼りになるしなぁ。かなり地味だが」


「そう、ホントそうなのカズって頼りになるのよ!地味だけど」


「「ホンマ地味な兄ちゃんはたよりになるわぁ」」


「あのそんなに地味地味言わないでもらえます。思った以上に傷つくんで」


「話に割って入ってすまんが、そろそろ出発するぞ。今行かなければ合流が間に合わん!」


 そのヨティスの呆れを含んだ言葉で慌てて準備に戻り、5分後準備が終わり出発することになった。

 急いであたしはエスリンに話しかけて、能力を解除しすぐにドラゴンに変身していた。ちなみにエスリンはめんどくさいので今回は出てこないと言っていたから。出てきたら出てきたでうるさくなるそうだからあたしは構わないけど、なんだか楽してる感じがしてズルいなぁとは思う。


 そして今回は背中にルーとロドリゴ、足にはカズトと若手騎士ダミアン、ゴンドラには双子とヨティスが乗ることになり、すぐさま所定の位置に乗り準備が整っていった。


「それじゃあ行くわよ。振り落とされないでよ!」


 あたしのその低くなって威厳が出てしまっている声で、みんなはどう返事をしたか聞こえないものの大丈夫だと判断し翼をはためかせて上空まで昇っていく。

 ドラゴンに変身するのはこれまで何度もやってきたことではある。だけど最初は違和感のような自分の体が変わってしまったという生理的な嫌悪感のようなものがあったけど、今ではそれも少なくなっていた。違和感がなくなったというよりもただ単に慣れたのかもしれないけど、今はこの体がもう一つの自分の体のように思えるし動かせる。


 夜明け前でひんやりとした風はこの体ではあまり感じず、元の体よりも体調がよくそれ以上に体から力が溢れてくるそんな感じさえする。


 その溢れてくる力で翼を動かし、飛び立つ前に教えてもらった方角へと滑空していく。

 眼下には岩だらけの大地が広がり、遠くには大きな地割れと大きな山が見えてくる。だがそれよりも真っ先に目に付いたのは近くとは言ってもかなり遠いだろうが、この階層に似つかわしくない真四角の赤黒い建物が右と左に1つずつ見えていた。


「もしかしてあれが監獄って奴?」


「かもしれないね。でも今は時間がないから行けないよ!」


 あたしの独り言にカズトは律義に答えを返してくれる。

 もしあれが監獄ならコリーナさんを助けに行ってもいいかもなんて思っていた。そんなあたしの考えを読んでいたような答えになんだか笑えてしまう。あたしってそんなに分かりやすいかなと。


 そしてカズトの言葉通りだ。今はそれよりもやらなければいけないことがある。あたしは改めて方角が合っているかどうか聞いてから羽ばたき始める。


 それから十数分飛んだ頃、下に人影が見え始める。

 もう合流場所かなとも思ったが、人影は一人しか見当たらずどうやら違うようだ。その小さな人影は魔法の明かりを手に持ちながらジェスチャーで何かを伝えようとしているみたいだけど、あたしには何のことやらさっぱり分からない。


「あの人影こっちになんかジェスチャーしてるみたいだけど。ねぇカズ良く分からないんだけどどうしたらいいと思う?」


「う~ん、降りた方がいいかな。たぶんあれは緊急の用事があるから下に降りてきてって合図だと思うな。じゃないと合流場所から離れて一人で来る意味が良く分からないし」


「それじゃあ降りるけど、みんないい?」


 あたしの呼びかけに誰も何も反対しなかったので、大丈夫だろうと思い下に降りていく。


 人影に近づいていくと、人影はどうやらイザベラさんだったようだ。そうして彼女の顔がかなり真剣な感じから見て状況が深刻なのはあたしにでもわかる事だった。

 イザベラさんの近くの砂状の地面に砂煙をあげながら、カゴを先に降ろしてなるべくゆっくり降り立つと彼女は走ってこちらに近寄ってくる。


「思っていたより少し遅いですが、今は言っている場合ではありません。これより作戦変更を伝えます。よく聞いてください、一度しか言いません」


 そう緊張感のこもった口調で現在の状況と、これから行う作戦の変更を口早に伝えていく。


 やっぱりカズトの言った通りに、相手は3体を一度に倒すための作戦に出たようで、それに対抗するためこちらは中央にエルフ達で、北にアルフレード様を中心とした騎士たちはすで向かっているらしい。


「という事で、我々はすぐにでも北へ向かわなくてはいけません。そして考えられる相手は獣人族の長、アンブロイズ・オーレリアンとの闘いが待っているでしょう。ヨティスさんあなたはどうされますか?」


「ふむ、相手はあのドワーフ族、しかも鉄壁のジクムントだ。過去の因縁もあるし私も中央の戦いに加わりたいとは思うが……、アルゴス・ヴェニゼトス様は何と?」


「アルゴス・ヴェニゼトス様はあなたの自由にされるようにと言っておりました」


「そうですか。では私はここで第2部隊を離れ、第1部隊と合流することにしよう」


「分かりました。私は第2部隊と合流し北へ向えとの指示をアルフレード隊長よりいただいておりますので第2部隊の皆さんと合流いたします。それから移動速度から言って、アルフレード隊長率いる騎士隊より先に第2部隊の方が獄卒炎鬼へなるべく早く到着してほしいので、気にせず追い越してくれとの言付けもあずかっております」


「分かりました。とにかく僕たちは最短距離で獄卒炎鬼まで先に到着してほしいという事ですね」


「はい、その通りです」


「分かりました。それじゃあアズ行こう!」


「全くホントにドラゴン使い?が荒いわね!それじゃあ行くわよ、早くみんな乗り込んで!」


 あたしのその声で先ほどと同じようにみんな乗り込んでいく。ヨティスさんが乗っていたゴンドラにイザベラさんが交代するように乗り。ヨティスさんはこちらに軽く一礼するとすぐに真っすぐに中央の炎が上がってる場所に向かって歩いていく。


 ヨティスの代わりにイザベラを加えた第2部隊は、再び飛び立ち進んでいく。


 少し飛んだ先でアズサ達の目に映ったのは、獄卒炎鬼を間に挟むようにしてにらみ合う、エルフ族とドワーフ族の姿だった。双方ともに何か攻撃を開始するきっかけがあればすぐにでも戦いは開始されるだろうというのが良く分かる。


 しかし第2部隊はその戦いに加わることが許されていない。

 ただエルフ族の勝利を祈りながら、再び前を見据えて飛ぶことしかできない。


 そして遂にはアルフレード達、騎士隊を追い越して、獄卒炎鬼をハッキリと捉えると嫌が応にも緊張は高まっていく。今だ獣人達は獄卒炎鬼まで到達していないのが見えて一同は安堵していた。




 だがそんな時だった。突如としてアズの体へと物理的な衝撃が走り、空中でバランスを崩したアズサはきりもみしながら地面へと落ちていくのだった。

ここまで読んでいただいてありがとうございます。


これからもよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ