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エスケープ・ダンジョン~オルガニア迷宮へようこそ~  作者: ほうこう
第三層 灼熱荒野攻略編
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第82話『第3層 灼熱荒野 2日目』 another side

 灼熱の太陽がすべてを焦がすように照らす中、黄金の獣はまるで暑さを感じさせない王者の風格を感じさせる足取りで赤茶けた錆のような大地を様々な獣人、ドワーフを引き連れ歩いていた。


 だがそんな余裕を見せているのはごく一部で、多くの獣人とドワーフは暑さによって今にも暴れだしそうな気配さえするほどだった。


 そもそも獣人族が暮らしている場所は、多くが木々が生い茂るジャングル、沼地などの湿地帯、低い草木が生い茂るサバンナのような場所で、水や草木があまりない所に住む獣人などほんの少数しかいない。なので多くの獣人は体温調節機能があまり良くなく普通の獣よりはまだましだが、こまめに給水しなければ熱中症になることがとても多い。


 そのため現在の状況は最悪だ。

 直射日光と毛皮の中にこもる暑さに、外套を纏ってはいるものの屈強な獣人達も徐々に体力を失っている。このままいけば戦わずして負けるという事にもなりかねない、そんな事が誰しもの脳裏を掠めていた。


 そんな時に白く手足が長い狼人族の双子の副官、シモーヌはアンブロイズ・オーレリアンがこの後どう動くつもりなのか知るため、それに少しの不安のためかアンブロイズに話しかけた。


「オーレリアン隊長、この後我々はどう動こうとお考えなのですか?」


 その心配そうな声を聴いた黄金の狼人は、いつもと変わらない威厳ある態度で話し始める。


「心配することはないぞ、吾輩らであれば必ず勝てる。吾輩を信じよ。」


 何か説明されたわけではない。それでも彼らの忠誠心がそうさせるのか、それだけの言葉で彼女の心配はかなり和らいだように見えた。だがやはり完全には不安をぬぐい切れていないと判断したのだろう、アンブロイズは全体に進軍停止を伝え、急いで天幕を張らせた。


 そして天幕内部に一同を集めて、その前にアンブロイズとドワーフのジクムントは立っていた。


「諸君昨日の戦いはご苦労であった。思った以上の苦戦を強いられたが、まだ吾輩の想定の範囲内である。このまま順調にいけば必ずや勝てるであろう」


「オーレリアン殿、ちょっと待って下さらんか。オーレリアン殿がリーダーであるゆえ、ここまで何も言わずについてきてしもうたが。そろそろ儂らにもちゃんと分かるように説明してくださらんか?」


 そういって話し始めたのはドワーフたちの長であるジクムント・バイエルであった。

 他のドワーフと比べても、分厚い筋肉に一回り高い背丈、長いひげが特徴的だが、やはり何よりも百戦錬磨であろうその風格によって獣人達からも一目置かれる存在であった。


「アンブロイズで大丈夫だぞジクムント殿。心配召されるな、これより吾輩がこれからについて説明いたす。まずここまでの道中皆大義であった。このような過酷な環境の中、死と隣り合わせのものであったが皆ついてこれたことを誇りに思っておる」


「なにをおっしゃいますか、ここまでこれたのはあなた様がいらっしゃったからでございます」


 そう尊敬と言うより崇拝という感じで言ったのは、アンブロイズの側近の副官であるシモーヌであった。

 それを受けて男は大仰に頷き、続きを話始める。


「ではこれよりの計画を話す。猫人族と鳥人族の斥候のおかげで、獄卒炎鬼の大体の居場所は掴めておる。ここより向える場所は中央、中央から北、中央から南西の三か所となっておる。普通であれば二か所もしくは一か所づつ攻めるであろうが、吾輩はすべてをほぼ同時に攻めようと思っておる」


 獣人たちからはおぉ~と歓声が上がるが、ドワーフたちは沈黙を保っている。

 ジクムントは険しい顔をさらに険しくし声を上げた。


「しかしアンブロイズ殿、確かにあの獄卒炎鬼めの攻略法が分かった今、少ない戦力でも対抗可能かとは思うのじゃが。それでも三隊は分けすぎではなかろうかのう?しゃくではあるが、相手にはあの|四元素の使い手〈エレメントマスター〉たるアルゴスもおるのじゃ。なめてかからん方が良いと思うが?」


「それも想定しておる。そこでだジクムント殿には中央を頼みたいのだ」


「なぜ中央なのじゃ?確かに北と南西はここより少し遠いと思うが、ワシらドワーフの鈍足でも十分早くつけると思うのじゃが?」


「吾輩の考えでは相手は必ず二手に分かれ、中央と南東を攻めるであろう。吾輩でもそうするからな。だが頭の良いものほど考えは読みやすい、よって中央を攻めるのはエルフとなるだろう。ドワーフと相手がわかればなおさらであろうな」


「ふぅむなるほどのう。じゃが|闘技札〈ポレモスカルタ〉は先ほどの獄卒炎鬼との戦いで、槌のカードを使いきってしまったであろう?中央の獄卒炎鬼は盾を持っておると報告があったのじゃなかったか?であれば中央を取れる可能性は少ないであろう。中央を攻める意味はあるのかのう?」


「そこでなのだジクムント殿。ハッキリ言ってしまえば中央は落とされても、こちらは確実と言わないまでも勝てる可能性は高い。そのためにもこちらは、確実に向こうの人数を減らす必要があろう。であれば中央をこちらでもし落とすことが出来れば|僥倖〈ぎょうこう〉。落とせないまでも相手の人数を削ってさえ下されば、後は吾輩ら獣人族で北と南西を確実に落とせば、人数の差で勝ちは確定する。そのためにも防御に特化したジクムント殿達に中央を任せたいのだ。どうであろう引き受けてもらえるか?」


「う~む、アンブロイズ殿の深き考え驚嘆いたした。このジクムント、必ずや期待に応える働きを約束しましょうぞ!それに相手はあの憎らしいエルフどもだと聞けば、手を抜くドワーフ儂らの隊にはおりませんじゃ!ガハハハハッ」


「うむ、よろしく頼む。ジクムンド殿の奮戦がこれよりの戦いの鍵になるであろう。では人員の選定と準備はシモーヌ、アンドレそちら双子に任せる。よきに計らえ」


「「かしこまりましてございます」」


 そうして白い狼人の双子を中心に入念に話し合いが行われ、準備が着々と整えられていった。そして人員が振り分けられていく。

 第一部隊はアンブロイズを中心として双子の副官の一人シモーヌを入れた獣人6人、第二部隊はジクムントを中心とした獣人3名を加えた13名、第三部隊は双子の副官の一人アンドレを中心としてドワーフ3名を加えた8人という部隊分けが行われた。

 第一部隊は相手への偵察と削りを目的として別働していた5名と、後で合流するため実質的には11人だ。


 準備が整うと天幕は片付けられ、すぐに出発となった。

 部隊ごとに綺麗に整列すると、前にはアンブロイズとジクムントが立っている。


「では皆のもの、この作戦は時が重要である。時を逸したものは敗北が与えられる!この原理はここでも吾輩らの国でもある獅子王領域とて変わらぬ!だが吾輩らは屈強な戦士だ、脱落者を出すことも絶対にするな!諸君であればできるはずだ!!そして全速力で目的地を目指すのだ!よいな!!」


「「「オオッッッ!!」」」


「良かろう。では皆のもの、隊の長に従い速やかに行軍を開始せよ!!」


 その掛け声と共に3隊は別々に動き始める。

 第1部隊は北へ、第2部隊は中央へ、第3部隊は南西へと行軍を開始していった。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 アンブロイズは身軽になった隊を引きつれて北を目指している。

 日はまだ鬱陶しく頭上から照り付けているものの、先ほどよりも傾いてきている。そのため気温は下がり始めそれにより自然と行軍速度は上がっていく。そのまま北へ進んでいくと大きな地面の亀裂にぶち当たる。幅が100メートル近くもあり、流石に獣人でも飛び越えられない為、そのまま大人しく亀裂に沿うように北上していくことになった。


 一応、第一部隊は獣人の中でもこの暑さに強い猫人族、それに自分と同じ種族である狼人族で構成された部隊であり、かなり練度があるため無理な行軍でもついて来れるだろうと期待していた。しかし疲弊してしまっているのは見るからに明らかで、機を逸するといくら屈強な兵士でも病気やケガで動けなくなるのは明白だった。


 短期決戦それしか手はないだろう、長期戦では不利になるだけである。なるべく早く移動し獄卒炎鬼を素早く倒し、後は他の部隊が上手くやってくれるだろうことを信頼する。そうアンブロイズの中では結論を下していた。

 だがこれで良いのかという疑問も少なからずある。相手が予想外の力を隠し持っていた場合や、こちらの予想と違う動きを見せた場合には作戦の練り直しも必要になってくるかもしれない。


 その様な事を考えていつの間にか怖い顔になってしまっていたかもしれない、心配するようにシモーヌがこちらへと話しかけてくる。


「オーレリアン様、何かご不満な事でもございますか?わたくしめにできる事なら何なりとお申し付けください」


「なに大したことではない。吾輩のいつものくせでついつい考え過ぎてしまっていただけだ。気にするな」


「かしこまりましてございます」


 その命令に対して忠実なシモーヌの様子を見て、どうしても聞いてみたかったことが今になって気になり。思わず口をついて出ていた。


「してシモーヌ、お主に聞きたいことがある。今回の主命の件どう思っておる?」


「どう、と申されましても。我らは主命に従い命を懸けそれを遂行するだけにございます。そこには一切の私情はございません」


「そうであったな。野暮なことを聞いた、許せ」


「とんでもございません。お聞きになりたいことがございましたら何なりとお聞きになってください」


 それだけ言うとシモーヌは隊列に戻っていく。

 この隊は大半が獅子王勅命隊であり、シモーヌの考え方こそが正当であり主命に対して余計な考えを持たない事こそが一流の兵士として重要な事それは十分に分かっているが、疑問が浮かばずにはいられなかった。


 そもそも獅子王領域は獣人の部族がいくつも集まっている場所の事であり、国というと少し違う。だがそんな集団の中でも決まり事を決めなければいけない事は出来てくる、そんな時に創設されたのが部族長会議であり獅子王という称号と役職であった。


 部族長会議は様々な問題を議論する、しかし色々な獣人が棲む獅子王領域では簡単に決まることがない。そのために獅子王と呼ばれる幾つもの試練を乗り越え、部族長会議の選定を受けた者が次代の獅子王へと決まり。その獅子王が最終的な決定権を持つというのが獅子王領域の掟となった。


 そして今の獅子王はすでに引退に近い、だが次代に選ばれるであろう候補者は多くが好戦的で領土拡張のために戦いもやむおえないというものが多い。それを|憂〈うれ〉えた今代の獅子王が別の候補者を擁立するために、迷宮の宝物によって今の獅子王が望む次代の獅子王を、後継者にしようと組織されたのが今回の勅命隊であり、建前では獣人族の更なる発展を促すためという事になっている。


 アンブロイズ自身も獅子王の忠実な部下であると自負している。

 だがそれでも獅子王の個人的な感情で、候補者を意図的に仕立てる事が良い事なのかと疑問を感じずにいられなかった。


 だがそういったことを考えるのも、この勝負に勝ってからの話だろう。圧倒的に有利だとしても油断すれば隙が生まれそこから全ては瓦解しないとは限らないのだから。そう考えアンブロイズの表情は一層引き締まる。



 そうして何度か休憩を挟みながらも、着実に前に進んでいき。そして日が暮れてからも時間を短縮するため進み続け、気温がかなり下がった頃に遂に野営することになった。獄卒炎鬼はもう目と鼻の先だろう、だがこちらの体力もギリギリのため挑むのならば体力が回復してから出なくでは不味い。


 こうしてアンブロイズは様々な疑念を抱えながらも、明日の戦いのために休息し朝を迎えることになった。

 そんな決戦の当日の朝に、アンブロイズは驚愕のものを目にすることになった。南東の方角から何か黒い鳥のようなものが獄卒炎鬼に向かい飛行しているのだ。

 そして近くまでそれが来てようやく気付く、獅子王領域でもほぼみられることがない翼を持った黒いドラゴンがものすごい速さで向かっているたのだ。

投稿日時を一日間違えてしまっていましたOTL

とにもかくにもここまで読んでいただきありがとうございます。


これからもよろしくお願いします。

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