第77話『第3層 灼熱荒野 1日目』 side:カズト班
話し合いの結果決まった獣人族たちの追撃の勢いをころすための作戦で、三手に別れたハウソーン同盟部隊はそれぞれが一路もっとも近い獄卒炎鬼へと向かい突き進んでいた。
その中の1つにカズトがリーダーという事が決まり、通称カズト班はあたしにルー、冴えないオッサンのロドリゴ、いかついオッサンのヨティス、それにおまけのハーフリングのうるさい双子というなんだか先が思いやられるパーティーで道中を進んでいた。
他の班は南や北に逸れて移動しているが、カズト班は真っすぐ直線で獄卒炎鬼へと向っていた。
「そいでな?バイロンのオッサンたらほんまウケんねん。あの炎の怪物見たらな。目玉飛び出そうやな自分!ちゅうくらい驚いてんねん。ホンマあの顔はケッサクやったで」
「ケッサク!ケッサク!」
「ほいでな、アルフレードはんが逃げろ言わはったやろ?それでうちも逃げようとしたんやけど、そいで周り見てみたらなバイロンのオッサンがどこにもおらんねん。でな遠くを見てみたらな、もうホンマ遠いところまでうちら置いて逃げとんねん!あれはアルフリードはんが言う前に絶対逃げとったで!!」
「ゼッタイ!ゼッタイ!」
うるさい。とてつもなくうるさい。
たまに喋っているのは聞くけど、ここまではこんなに喋ってなかったような気がする。多分お目付け役であろうバイロンがいない事でタガが外れてしまっているのかもしれない。さっきからほぼ喋りっぱなしだ。
しかもこの暑さだ。じめじめとした日本の暑さではなく、乾燥した頭の上からあぶられているような暑さはまさにトースターで焼かれているパンはこんな気持ちなのかとそんな事を考えさせる暑さだ。しかもうるさいし。
もちろんあたしも最初は『もっと大人しくしてよ!うるさいわよ!』と文句を言っていたのだが、今はそんな元気も今は全然わいてこない、暑さと喉の渇きでまったく喋る気力が沸かないからだ。
そんな状況を見かねた冴えないオッサンであるロドリゴは、ボリボリと頭をかきながら双子に声を掛けている。
「お嬢ちゃんら、あんまり喋ると体力使い果たしちまうぞ。こっちはもしお嬢ちゃんらが倒れても、助けてやれねぇんだからなぁ~」
「なんや、おっちゃんいたんか。冴えなすぎて気付かんかったわ」
「サエナイ!サエナイ!」
「さっきから思ってたんだが、その意味もなく繰り返してんの何なんだよ?意味が分からんぞ?」
「あぁん?意味なんてないわ!アホか!おっちゃんはノリってもんを理解しとらんのかいな?」
「いやいや、分かるわけないわそんなもん!しかも結構な感じですべってるからな!誰も言わないが!!」
「ああ~おっちゃん、言ってしもうたな。世の中には言っていい事と悪い事があるんやで!」
「おお!上等じゃねぇか!どうするてぇんだ、ええ!?」
止めに入ったオッサンが一緒に仲間に入って騒ぎ始めている。ミント取りがミントになるという奴だ。いや、なんか違うきがするけどそんな感じだろう。そんな光景をあたしは止める気も起らず、カズやルーもそんな気がないだろうから、あたし達はもうただただこの熱気と騒音の中をトボトボと歩くしかない。
そんな誰もがかまいたくないと思っている状況で、勇敢にも話しかける男がいた。エルフのオッサン、ヨティスだ。
「お前たち、そろそろ騒ぐのをやめにしろ。それに人族の男、たしかロドリゴと言ったな。貴様まで騒いでどうする?恥を知ることだ」
「お堅いなぁ、エルフさんは。ああ、騒いで悪かった。俺はもう喋んねぇよ。お嬢ちゃんはどうすんだ?」
「はぁ、しゃあないわ。おっちゃんら2人がそうまで頭下げて頼むんやったら、聞くしかあらへんわな」
「下げてねぇよ!!いいからお前もう黙ってろ!」
そう言いながら、ガルルルとにらみ合っている3人に、ヨティスがにらみを利かせるとしぶしぶそれを止めて前を向いて歩きはじめていた。これでやっと静かになった、この暑いのにあの3人はどうしてあんなに元気なのか不思議でしょうがない。
そんな時ふいにあたしの右横を見ると、いつものように杖を握りしめながら歩くルーは、ハァハァと暑さのためか荒い息をしているのがわかる。体の毛が多い分獣人はあたしたち以上に暑いのかもしれない。
そのままフラフラと歩いていると日が少し落ち始めているが、暑さは相変わらずだ。そんな中ロドリゴがもうすぐ野営の準備をしようと言い出したことで、あたし達は適当な岩陰に隠れて野営することになった。
とは言ってもこの少ない人数ではテントを持ってくることは出来なかったので、風除けの布を棒で立てかけたような簡単なものだ。こんな状況であんまり不満を言うわけにもいかないけど、これはちょっとひどいように感じる。まぁ言わないけど。
ともかくルーと一緒に野営の準備をしていると、ルーは何があったのか突然立ち上がり先ほどまでかぶっていた頭のフードを取り、耳をピクピクと動かしながら周囲を見回している事に気付く。
「どうかしたの?」
「多分……近くに、獣人がいると思う」
「え!?ホントに?」
「足音、獣人の足音は……特徴的だから。ボクには……良く分かる」
「カズ、どうする?戦った方がいいの?」
あたしの問いかけに、少し考えた後カズは首を横に振る。
「いや、ここだと不味いかもしれない。相手の人数が分からない状態で囲まれれば、かなり危険だと思う」
「多分、いるのは……3人。狼人族が1人に、他の種族が2人……だと思う」
「ルーさんはすごいんだね。それも足音で分かるの?」
「はい……」
そう言いながら、照れてうつむきながらも耳は常にピクピクと動かしている。
「ともかく、じゃあどうすんのって事よ!何か案でもあるの?」
「う~ん、いや全然。こういう時はプロに聞くのが一番だよ」
「プロって言うとあの冴えないオッサンといかついオッサンの事でしょ?あの人たち頼りになるの?」
あたしが顎で指し示した先には、周囲を警戒するために立っているオッサン二人の背中がある。
「僕たちだけで考えていても仕方ないからさ、みんなに意見を聞かないと。……よっと!それじゃあ移動しようか」
そう言いながら立ち上がったカズの後に仕方なくあたしも立ち上がり、それに続いてルーも立ち上がり最後に歩き疲れてつかれて眠いのだろう双子も、なんだか良く分からないながらも目をこすりながら付いてくる。
あたしたちがロドリゴに近づいていくと、彼はなんだか嫌そうな顔で音でこちらに気付いたのか振り向いている。
「ロドリゴさん、ちょっとお話いいでしょうか?」
「はぁ~俺は面倒ごとはイヤなんだがなぁ。そういう話はお堅いエルフさんに話してくれると助かるんだが」
「あんただって、この班の一員でしょうが!それにあんただって騎士だっていうんだから、戦い慣れしてるんでしょ?」
「まぁな、お前らに比べればそりゃあそれなりに場数は踏んでいるけどな。だけどな俺は平和主義だからな。あんま無用な争いはしたくねぇんだよ」
「そんな事知ったことじゃないわよ。とにかく話を聞いて!」
「へいへい、それじゃあお話を聞かせていただきましょうかね」
そうしてルーが言った状況を、なるべく同じように伝える。その後ルーに他に分かることは無いか聞くと大体の方角が分かるという事で、どうやら3人は別々の場所で囲むようにいるらしい。だがそのことを聞いてもオッサンは慌てる様子もない。ただただ嫌そうにボリボリと頭をかいている。
「なるほどねぇ、狼人族がいんのかよ。相手が獣人野郎だって聞いてた時からこんな風になることは、何となく感じてたんだがな。これは結構まずい状態だよなぁ。今すぐ逃げた方がいいんじゃないか?」
「逃げるのは無理だと思います。逃げている所に襲い掛かられると危険ですし、もうじき夜になります。そうなればもっと危険になると思います」
「まぁそいつはそうかもな。でもよ、俺たちには奥の手が2つもあんだろ?」
今の答えでオッサン、いやロドリゴの考えが何となくわかった。
私の能力を使って逃げる気なんだろう。確かにあたしもいざとなったらためらわないで使う気ではいるけど、そんなに何でもかんでもやらされるのはなんだかイヤだ。体の事もあるけど、気持ち的になんだか気に入らないのだ。
そんなあたしの気持ちがを知っているのか、カズト始めに口を出した。
「奥の手はホントに最後の最後まで取っておくものでしょう?今はまだその時じゃないのでは?」
「そうかねぇ、狼人族の怖さを知ればそんな事言えなくなると思うんだがな。まぁいいや、だったら正攻法しかねぇんじゃねぇか?何か盾になるもの作って、籠城戦とかな?朝になったら奴らだって諦めるだろうぜ」
「それしかないですかねぇ」
そんな風にオッサンとカズが話している所で、ヨティスが周囲を警戒しながらもこちらに近寄ってくるのが分かった。
「おい!敵はどうやら日が沈むと同時に仕掛けてくるようだぞ!」
敵がいることをあたし達は話してもいないのに、どうやって敵がいることを知ったのかは分からないけど、ヨティスは敵が攻めてくる気配を感じ取ったのだろう。あたし達が言うよりもかなり説得力がある言葉にその場の緊張感は一気に高まっていった。
背後に岩を置いて一番前にヨティスとロドリゴがいるが、先ほどまで軽口を言っていたロドリゴの顔は引き締まり、その後ろにいるルーもいつにもましてオドオドとしながら耳を動かしている。
それから何も動きはないただ自分の鼓動と、周りの人たちの息遣いばかりが聞こえてくるそんな時間が過ぎていく。
そしてまるで太陽の陰りが合図であるかのように、3人の獣人たちからのあたし達への攻撃は始まったのだった。
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