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エスケープ・ダンジョン~オルガニア迷宮へようこそ~  作者: ほうこう
第三層 灼熱荒野攻略編
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第75話『第3層 灼熱荒野 1日目』 side:エルフ班

 話し合いの結果、3つの班に分かれたハウソーン同盟部隊はそれぞれが別々のルートを通り、獄卒炎鬼へと迫ることになった。


 その班の1つ405部隊(通称エルフ班)はヨティスを除くほぼ全員で灼熱の岩ばかりが転がる荒野の中をひたすら(太陽の位置から考え)南に向けて前進していた。頭上にある太陽と思われるものは真上から、まるで生きる者たちを憎悪するかのように厳しい熱線を放射し続けていた。


 普段、彼らは森の中に住み湿気が多い環境はあっても、このような乾燥地帯というのはほとんどない。そのため今のこの状況はエルフ達にとってまるで地獄のような状況だ。


 そんな中を|偵察活動〈スカウティング〉が得意な若いエルフを先頭にして、その後ろにアルゴス・ヴェニゼトス中佐、そこから二列縦隊でコリーナ・メルクーリ准尉、クレトス・カイマン軍曹と続き他のエルフ達10人も同じように隊列を崩さないように、分厚い外套を着こみ黙々と進んでいた。


 本来、エルフの足の速さであれば、獄卒炎鬼までは走れば十分に1日もかからず行ける距離だった。

 しかし日陰もほとんどない灼熱の荒野で走ることは、ほとんど自殺行為に近い。体外へと汗が吹き出し、水分塩分が失われ、あっという間に日射病になってしまうだろう。


 エルフ達はちゃんとした理屈は分かっていないにしても、経験や本能から危険は分かっているため。適度に休憩を取りながら、その中でなるべく早く到着できるよう行軍していた。


 そんな中コリーナは作戦を聞いた時から、どうしても聞きたかったことをアルゴス中佐に休憩の最中に聞くことにした。


「中佐少しお時間よろしいでしょうか?」


「何かな、コリーナ・メルクーリ准尉」


「我々はこれで良かったのでしょうか?あのカードはこのゲームの鍵を握るものだと思われます。それをあんな人族の子供に預けてよろしかったので?」


「ああ、そんな事か。その事は向こうにヨティス中尉が何とかしてくれるでしょう。問題ありませんよ」


「そうですか……。しかしながら3班に別れなければいけなかった理由が良く分かりません。何故2班などではいけなかったのですか?」


「そうだね。まず1つ目はあの人族の子供たちの実力を見るために、協力する存在を減らすため。2つ目に我々405部隊、通称エルフ班が自由に行動するために必要だからだね。これはまぁ後で話すことにでもしようか」


「了解しました。ご教示ありがとうございました」


「良いのですよ。それでは総員行軍を再開する。このまま休憩なしで本日の野営地まで進む。総員そのまま前進せよ!」


 こうして再び行軍が再開される。


 だがやはり隊のみんなの顔色はよろしくない。


 そもそも、この405部隊は軍のつまはじき者の集団だ。とは言っても別に落ちこぼれだとか、能力が低いという事ではない。逆に能力が高すぎて隊のバランスが取れなかった者や、上官に噛みついて隊にいられなくなった者、わたしのように軍に余計な事を|上申〈ジョウシン〉をしてにらまれた者などが、このアルゴス・ヴェニゼトス中佐に認められて405部隊に異動し、今回の任務に着任している。


 つまり何が言いたいかというと、私たちの練度はかなり高いと言える。それでもこの暑さはエルフにはきつすぎるものだという事だ。


 本当に目がくらむような暑さなのだ。外套があるだけまだましだが、日よけをしているにも関わらず日光がジクジクと肌を焼く感覚がある。わたしは何も考えず足を前後に動かすことを考えている。


「いや駄目だ……、周囲の警戒も怠らないようにしなければ」


「准尉。この暑さでは獣人も、あの間抜けのドワーフも動けないのではありませんか?」


 わたしは暑さからか、いつの間にか考えていたことを口走っていたらしい。わたしも相当この暑さにこたえてるのだろう。横にいるクレイトス・カイマン軍曹が何か言いたげにこちらを見ている。


「わたしもそう思いたいが、何事も備えを怠らない事だ。軍学校で習わなかったのか?」


「習ったかと思いますが、俺にはピンときませんでしたね。備えていても予想外、予定外のことは良く起こることでしょう?それが戦場なら特に」


 なるほど一理あると思う。確かに予想外、予定外の事は起こる。しかしだからといって予測できることまで事前に準備しないというのはあからさまな怠慢だろう。そう言ってやろうと口を開こうとしたところで、少佐が声を上げる。


「それは面白い考えですね。しかし予測して準備をしていれば、それは予想外のことが起こっても何らかの形で、いざという時に必ず役に立つのです。私も何度も経験した経験者なのでね」


「中佐殿がですか?それは意外でした。中佐殿が予想されていない事などあり得ないと思っていました」


「それはあり得ませんよ。私は神でも何でもありませんから、あらかじめ予測したもう一段階上の危機を予測し、後はそれ以上のことが起こらないことを祈り。もしそれ以上のことが起こっても取り乱さないよう、気持ちを保てれば結果的に何とかなるものです」


「なるほど、流石中佐殿です。参考になりました」


「いえいえ、いいのですよ。それではお喋りはこれまでにしましょう。死にたくなければですがね」


 それからは無言の行軍が続いていく。自分なりに周りを警戒しながら進んだつもりだったが、敵の気配は感じられなかった。周りの者たちもこの暑さでどの程度警戒出来てたか分からないが、みんなが何も言わないという事は大丈夫なのだろう。


 日が沈み、気温が下がってきたところでやっと本日の野営地に到着する。そこはひときわ大きい岩石がある場所で、野営地には最適な環境だった。


 荒野の夜は寒い。

 遮蔽物があまりなく、乾燥し空気中に水分がなく空にも雲がない状況では、放射冷却現象によって昼間に熱せられた大地の熱はすべて大気中に逃げてしまう。それによって昼間は40度近い気温だった場所が5度や4度といった低温になってしまうことは多くある。


 それはこの階層でも同じだった。先ほどまではオレンジ色に輝いていた太陽は地平線に姿を消し、それと共に急激に温度は下がっていく。しかし唯一違うのは、風にはいくらか熱を含んでおりたまに生暖かい風が吹いてくるために、気温はそんなに下がっていないように感じるのだけが唯一の救いだった。


 野営地に到着した私たちは、手慣れた手つきでテントを張っていく。

 なるべく敵に見つかりにくく、襲撃を受けても即座に逃げられて、夜の低温にさらされない場所という事で周囲が何もなく開けている岩陰が今日の野営地となった。


 テントの設営が終われば数人で交代しながら周囲の警戒を行いつつ、数人が食事の準備を行っていく。

 食事といっても簡単なものだ。水魔法で出した水を沸騰させ、塩と乾燥させた野菜を入れほどよく煮込んだスープに固いパンという質素なものだ。しかしこんな状況ではこれでも豪華な方だ。日数が経てば経つほど食糧は不足していくことになるだろうから。


 そうしているうちに日はもう半分は日は隠れ、先ほどよりももっと気温が下がっていた。日が沈んだ代わりに出てきたのは大きくて丸い血のように赤い月と、海のように青い月が重なり合いながら東の方角から昇ってきており、真っ赤な月はこれからのわたし達の行く末を示しているように不気味に光っている。


 食料は余分に持ってきているはずだが、もってせいぜい5日といったところだろう。食事の準備をしている所に夜用に装備を整えた中佐が歩いてくる。


 それを見ていた見張り以外の者は中佐の方を向き、敬礼の姿勢を取って出迎える。


「総員休んでよろしい!」


 その声で、敬礼の姿勢を保っていたものは休めに姿勢を変える。


「諸君、遂に新たなゲームが開始された。しかも敵は獣人と我らの仇敵ドワーフ族である。諸君らも分かっていると思うが、我らの最も重い任務は、ドワーフ族に宝物を渡さない事にある。奴らは新たに軍事力を拡大しているという噂もあり、今回奴らにクリアされ宝物を渡せばそれを強めていくだろう。そうすれば確実に戦争になり無辜の民の多くが死ぬ結果になるだろう。しかしここで奴らをクリアさせず我々がクリアできれば、戦力が拮抗し戦争になる確率は少ない。全ては君らの尽力にかかっていると言ってもいい!このゲームに勝利出来る者は君達以外に存在しない!!君たちの奮戦を期待する!!」


「「「「ハッ!!」」」」


「よろしい。それから今は戦場の中と同じだと思っていい。なのでこれからは一々敬礼しなくてもよろしい。まぁ君たちが敬礼の練習をしたいのであれば、付き合ってやらない事もないがね」


 中佐のその言葉で何人かの笑い声があがる。当然だが、この隊にいまさら敬礼の練習をしなければならない者など存在しない。


「それでは全員今やっている作業に戻りたまえ。それから周囲の監視をしている者は、注意しておいてほしい奴らが奇襲をかけるのは夜以外にありえない」


「了解」


 それからは見張りと交代しながら、黙々と食事をとり順々に睡眠をとっていく。夜がかなり更けた頃にわたしの見張りの番になり、先に見張っていた4人と交代する。


 今回いるのは13人、4・4・5の3交代で行っていくことになった。

 3人は半円状に広がって周囲の警戒に当たり、残りはテント前で他3人の異常が無いか見張る。


 それにしてもやはり寒い。昼間があれだけ暑かったからだろう、冬のような寒さに身震いしてしまう。だがそれも眠気覚ましだと思えば何とか乗り切れそうだ。


 こうして|立哨〈りっしょう〉していると、どうしてもこの階層に来るまでのダンジョンの攻略の日々を思い出す。


 第1層のあの空中庭園ではアルゴス中佐が早々に神霊文字を解読できたため、指示通りに風魔法で周囲を覆って自分たちの周りから空気の流れ出るのを防ぎながら雲を作ることに成功し、難なく突破できた。


 だが問題は第2層だった。相手はオンダ海洋国で以前からエルフの国、マギア共和国とは交易などで繋がりがあった国でありそのためにこちらへの対策が完璧なまでに取られており、風魔法や水魔法を封じられながら再起不能者3名、重傷者5名、軽症者2名を出しながら、それでもなんとか勝ち残ることが出来たのはやはり中佐のおかげだと言える。


 そして今回の第3層、第2層での消耗が激しかったために人族の力を借りることになったが、それはまだ致し方ないとなんとか思おうとしているがどうしても割り切れない思いが心の中に横たわっていた。そして第三層で始めて見た神族の男、エイロス。それに倒さなければいけない敵、獣人とドワーフ族それに炎を纏った巨人、|獄卒炎鬼〈・・・・〉。獄卒炎鬼についてはホントに得たいが知れない。知識の宝庫と呼ばれるエルフの書庫にもそういった記録はなかったように思える。いやもしかしたら、わたしが見逃しただけかもしれないが。


 ともかくあの獄卒炎鬼には正攻法ではとても太刀打ちできないように見えた。あの|闘技札〈ポレモス・カルタ〉が使わなくては勝てる見込みは少ないだろう。その重要なカードを人族の子供の手に渡すというのは、自殺行為に近いのではないかとそうかんがえてしまう。


 だがわたしは首を振り、今の考えを必死に打ち消す。

 ここまでアルゴス・ヴェニゼトス中佐を信じてここまでやってきたのだ。あの人を信じて任務を遂行することこそがわたしたちの使命なのだ。


 そんな心の葛藤に誰も気づくわけもなく、何事もなく時は進み2日目の日は昇っていった。


読んでいただきありがとうございます!


読みやすいように改稿作業をしております。感想などいただけるとありがたいです。


これからもよろしくお願いします。

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