第73話『第3層 灼熱荒野 1日目』 第2節
今回はルールの説明回となっております。
後ほど活動報告にもルールを載せるつもりです。
巨大な岩石、ゴツゴツした小石、風に舞う砂。周りを見渡す限りのそれら茶色の大地が広がっている。
だけど、それにしても、なんにしても……。
「あっつぅぅ!」
真上にある真っ赤な太陽から、そして地面とどこからか風に乗って熱気が吹いてくる。日本の夏のような湿気のあるものではなく、乾いた風がまるでドライヤーでいつも吹き付けられているようなそんな暑さだ。
さっきの中間層がものすごく快適な気温だったこともあり、汗が滝のように流れ出る。
「アズ、早く外套を着て!」
カズのその声を聴いて、虚ろな目で周りを見ると、全員分厚い外套を頭からかぶっている。
そういえば、テレビとかでも暑い地域の人たちはこういう格好をしていたなと思い出し、あたしもカバンの中から外套を取り出し上にはおる。確かに影が出来て直接熱風が肌に当たらないだけましだけど、クソ暑い事に変わりない。
来て早々うんざりした気分になっていると、突然目の前のかなり離れた場所に黒い大きな門が開かれる。
現れたのは金色の毛並みに漆黒の鎧、それに緑の外套をなびかせた狼人族だった。その姿を見た瞬間に他のみんなの緊張感が一気に上がったのが、あたしにもわかる。
なかでもルーは震えながら、数歩後ろに下がってしまっているくらいだ。
金色の狼人族アンブロイズを先頭にして、2人の長い手足の狼人族、それに虎人族、熊人族などが姿を現し。一番最後に出てきたのは背が低いが体は筋肉質で、巨大な斧を持ち顔から長いひげを生やした、迷宮角鷲亭にもいたドワーフ族だった。
敵と思われる獣人族とドワーフ族合わせて32人程は、すぐにこちらを見ると武器を構え始める。こちらもすでにみんな剣や弓矢を構え、臨戦態勢を整えている。
緊張感と周囲の熱気で知らないうちに呼吸が荒くなっている。向こうの獣人族の強さはどのくらいか分からない。でも先頭にいるアンブロイズは見ているだけで鳥肌が立つほど威圧感を感じる。
このままお互いが全力でぶつかれば、両方にかなりのけが人や、いや悪ければ死ぬ人か出るかもしれない。そう思うと途端に怖くなる。
そんな緊張が途切れたのは、入ってきた時からいたが暑さと緊張感に、いつの間にかそっちに意識がいっていたために、いつの間にか無視する形になってしまっていた男が突然話し始めたからだ。
黒い上下のタキシードに耳の上に大きな角という、第2層のオイロスと似た風貌の男。しかし唯一違っているのがオイロスとは逆側である右側に、泣き顔の仮面をつけている事だった。
「いやいや、皆さぁんどうぞお待たせいたしました。おやぁどうされましたか、そんなに皆さぁん殺気立っておられるようですがぁ?」
その声はもオイロスと同じようなものだった。だけどなんだか話し方は多少前より軽いし嫌味な感じがするけど。
「申し遅れましたぁ。わたくしが今回GM兼FMを仰せつかりましたぁ。エイロスと申しまぁす。以後お見知りおきを」
そんな軽い言葉と胸に手を当ててお辞儀している様子を見ていると、なんだか緊張しているのがバカバカしくなってくる。
「あ!お先に言っておきますがぁ。この階層では戦闘行為、対話、協力何でもありでございまぁす。た・だ・し。ちゃんとわたくしの話を聞いた後にしてくださぁいね。でないと来て早々監獄行きになってしまいますからねぇ」
監獄?ってあの囚人が入る監獄だろうか?そんな変なものがここにあるのだろうか?この暑くて何もなさそうな場所で監獄に入れられるなんて想像したくもない。
「よろしいですね。では説明を始めさせていただきまぁす。まずこの第3階層、灼熱荒野そのまぁんまでございますね。ここではどちらかのチームが全滅するかぁ、獄卒炎鬼の全滅がぁこのゲームの終了条件でござぁいます」
「ちょっとよろしいでしょうか?」
そう言って手を挙げたのはアルゴスだったが、エイロスは手のひらを突き出して待ったという風なジェスチャーをして言葉を止める。
「質問は最後にちゃあんと聞きまぁすので、今はこちらに説明させてくださぁい」
「これは失礼いたしました」
「では続けさせていただきまぁす。まぁ説明いたしますより、お見せした方が早いでしょう。獄卒炎鬼のみなさんどうぞ!」
そう言ってエイロスが右手の指でパチンと打ち鳴らすと、まるで影のような物が柱のように6本立ち上り、その中から6体の巨大な影が出現する。中から現れた怪物は、近くにいるだけで熱気を受けるほどの一つ目の怪物だった。
そして体のいたる所をオレンジ色の炎で覆い、頭には1体ごとに1~6本の小さな角を生やしており何より恐ろしいのが、二階建ての建物ぐらいある体の大きさと、持っている巨大な剣・盾・槌だ。
獄卒炎鬼の一匹がこちらをギロリとにらむ。それだけで嫌な汗が出るほどで、いるだけで迫力がある。
「皆さんにはこの獄卒炎鬼の皆さんを倒してもらいまぁす。倒した数が多いほうが勝ちですので、どんどん倒してくだぁさいね。それに倒せばこの戦いの終了後に、多くポイントがもらえてお得ですので、はりきって倒してくださぁいね。しかぁしこの獄卒炎鬼の武器は特殊なぁ物でして、皆様の体にある程度ダメージが入ったと判定されると、強制的に監獄に送られまぁすので気を付けてくださぁいね!」
あんな炎で覆われていて、巨大で、しかも武器を持っている化物なんかに勝てるのだろうか?全くイメージが浮かばない。周りの騎士やエルフも同じような考えか、さっきより後ろに下がっている人が多い。
「おやおやぁ?みなさぁんこんなのに勝てるわけがない、勝てたとしても被害が大きすぎると思っておいでではぁないですか?どうぞご安心ください。それではこちらをお受け取り下さぁい」
そう言ってアルフレード様と金色の狼人アンブロイズの手元に空中より突然現れたのは、鉄でできているのか鉛色で色々な絵柄が描かれている、薄いカードのような物だった。
「そちらにございまぁすのは、闘技札と申しまぁす。そちらは剣・盾・槌の3種類が6枚づつの、計18枚ございまぁす。そしてそのカードは3すくみの関係、つまり剣は槌に強く、槌は盾に強く、盾は剣に強いという性質がございまぁす。どうです?ここまで話せばわかっている方もおられるかもしれまぁせんが、獄卒炎鬼もその関係にありまぁす。獄卒炎鬼の持っている武器と比べまぁして、強い性質のカード3枚を出し獄卒炎鬼の目の前で決闘!と言ってもらえれば、獄卒炎鬼の動きを一定時間止めることができまぁす。どうでしょう、これで倒せそうではありませんかぁ?」
そう言ってエイロスは手を広げながら笑いだしている。ほんとに何がおかしいのかと思うぐらいの笑いで、周りの暑さもあってものすごくイラっとくる。
「おっと、失礼いたしましたぁ。なにぶん説明に慣れていないもので、ついつい楽しんでしまぁいました。それでですね、このカードもっと面白い使い方がありまぁす。なんとコレ、プレイヤー同士でも使うことが出来るんですねぇ。この場合はカード1枚を手にもっていただきまして、決闘と叫んでいただければ強い性質を持ったカードを持っている方の勝利!相手は監獄に送られてしまいまぁす。いやぁ~怖いですねぇ」
「ちょっと!あんたいい加減にしなさいよ!こっちは暑くってイライラしてんだから。もっとちゃんと話しなさいよ!それにさっきから言ってる監獄って何なのよ!」
あたしは暑さとエイロスのイライラする喋り方から、ついに叫んでしまう。だってしょうがないじゃないこんな絶対40度近くある場所で永遠と長い話聞かされてるんだから、キレる権利ぐらいあたしにだってあるはずだ。
そんなあたしをカズやルーがまぁまぁとなだめられ、やっとあたしは少し冷静になる。いつもなら何か言ってくるイザベラさんも何も言ってこない所をみると、イザベラさんの似たような事を考えていたんだろう。
「おやおや、せっかちな方ですなぁ。まぁみなさんがそれでよろしいのであれば、説明はこれにて終了させていただきますが?」
「ええ!ああもう!すいませんでした!説明を最後までよろしくお願いします!」
あたしだってこの説明を聞かずに、ゲームに参加するのはダメだってちゃんとわかってる。
あたしが90度近く頭を下げると、エイロスはやれやれと言った様子で首を振っている。このゲームが終わったら絶対に文句言ってやる!
「では説明を続けさせていただきます。次は監獄についてお教えいたしまぁす。監獄はこの階層に2か所ございます。そこには獄卒炎鬼に一定のダメージを負わされたもの、闘技札によって負けたもの、ゲームの進行を著しく阻害するものが、強制的に飛ばされまぁす。しかし、しかしご安心ください。監獄はある方法をとれば脱獄することが出来まぁす」
ある方法って何なのよ?早く教えなさいよ!
「ある方法とはぁ……ご自分たちで見つけて下さぁい!」
「ちょ!そこまで言うんだったら、最後まで教えてくれてもいいじゃない!?」
「いやいや、それでは面白くないでしょう?面白くないゲームなど、この世に必要ではありませんよ。というわけでこれからは質問の時間にいたしましょう。さっきの事以外で何か質問のある方はいらっしゃいますか?」
さっきのあたしのツッコミは流されて、エイロスは右手を挙げて質問が来るのを待っている。多分手を挙げて質問してほしいって意味なのだろうけど、何だか芝居じみていてホントに嫌味だ。
それで手を挙げたのは4人だった。
アルフレード様にアルゴス、アンブロイズそれにドワーフの中で一番ガタイが大きい男がそろって手を挙げている。エイロスは迷ったように何やら考えて一人を指し示す。
「それではまず、そちらの体が大きなドワーフさんにいたしましょうかぁ?」
「ありがとうございまする。ワシの名前はジクムント・バイエルと申します。それでは質問させていただきまする。闘技札は相手の人に対して使った場合、相手が有利なカードを持っていた場合は、同じカードを持っていた場合はどうなるんですかのう?」
「これはぁ良い質問です。まず相手が有利なカードの場合、不利なカードを持っている方が監獄行きです。そして同じカードの場合は両者何も起こらず、双方のカードが消滅いたしまぁす。どうですか答えになりましたか?」
「ありがとうございまする。重ねてもうひとつお聞きしたい。もし2名以上、複数人でカードを使った場合どうなるんですかの?」
「それはまぁ、使ってみてのお楽しみという事で、何事もやってみることですよぉ!」
「分かり申した。ご回答ありがたくお受けさせていただきますじゃ。」
そう言ってイカツイ無骨な鎧を着たドワーフが頭を下げる。ドワーフは迷宮角鷲亭で何回か見たことあるけど、あんなに迫力のあるドワーフを見るのは始めてだ。あの人がドワーフのリーダーなのだろうか?
「それでは他に質問のある方はいらっしゃいますかぁ?」
オイロスの問いかけに、今度はドワーフのジクムント以外同じ3名が手を挙げる。
「ふむ、じゃあ今度はバランスを取って、エルフ族の方にいたしましょうかぁ?」
「ありがとうございます。私の名前はアルゴス・ヴェニゼトスと申します。よろしくお願いいたします。私がお聞きしたいのは2点です。まず獄卒炎鬼は6体おりますが、倒した数が同数の場合はどうするのでしょうか?また監獄は2つあるとおっしゃっておりましたが、監獄に入れられるのはどちらかなど決まりがあるのでしょうか?」
「なるほど、なるほど。これまた鋭い質問ですね。もし同数3匹と3匹の場合は、皆さんの中で監獄にいなく、戦闘不能になっていない生存している人数で決まりまぁす。まぁ最初から人数で多少有利・不利はあるかと思いまぁすが、こちらは人数を集めて挑戦してくださいと言っている以上、許容範囲内でしょう?そして次の質問、これにつきましてはご自分たちでお調べくださぁい。ランダムかもしれませんし、何か決まりがあるのかもしれません。色々考えられてあなた方も面白いでしょう。フフフッフフッフッ」
「お答えいただき、ありがとうございました。神族の皆様を楽しませられるよう、微力ではございますが尽力する所存でございます」
エイロスはアルゴスのその言葉にうんうんと頷くと、突然パンと手を打ち鳴らす。
「はい、これで質問タイムは終了でございます。それではこれより、わたくしが消えたと同時にゲーム開始です。皆さま後悔なさらぬように楽しいゲームをお願いいたしまぁす。……それでは皆様良きゲームを!」
その言葉と共に、最初以上の肌が痛くないほどの緊張感が戻ってくる。
目の前には炎をまとった一つ目の巨人、その奥には獣人とドワーフという最悪な状況で、あたし達の3度目のゲームはスタートしたのだった。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
評価をいただきました。本当に感謝です。
それから最初のプロローグ部分の1~3話を削除し4話が1話になる予定です。
話の内容は変わりませが部分数は変わってしまうのですが、ご理解いただければと思います。
これからもよろしくお願いします。




