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エスケープ・ダンジョン~オルガニア迷宮へようこそ~  作者: ほうこう
第三層 灼熱荒野攻略編
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第70話『エルフとの会談』 第2節

今回少し長いです。

 エルフとの会談が始まろうとしていた。

 こういう話し合いとか、会議とかそう言うのは苦手だし、あたしがそういうのに参加して何か意味があるのか分からない、それでもあたしにしかできないことがあるのかもと信じるしかない。


 迷宮角鷲亭の入口ホールで、あたし、カズ、それにイザベラさんはエルフ達を出迎えるために待っていた。

 そもそもこの話し合いの席を作った当事者であるあたしとカズ、それに案内役としてイザベラさんという感じだ。ただ待つというのは何だか落ち着かない。さっきジュースを一杯頼んで飲んだけど、もういっぱいぐらい飲んでもいいかなんて思えるぐらいには緊張していた。

 隣にいるイザベラさんも、少し緊張しているのだろうか腕を組み指でトントンと腕を叩いている。


「イザベラさん、エルフとの話し合いは上手くいきそうなの?」


「分からない。私たちもエルフ達とは付き合いがあるわけじゃないわ。でも普段、他種族と交流を拒むエルフが話し合いに応じるというのだもの。可能性はあると思うわ。」


 アルフレード様や騎士の人たちがいる中では、敬語だけどそれ以外だと普通にしゃべる。そんな姿を見るたびにイザベラさんもいろいろ苦労してるんだろうなぁと思えてくる。


「なんかすいません。あたし達が勝手にやって、こんな事になっちゃって。」


「もういいわ、謝罪は昨日受けたから。それにどこかと手を組まなくてはいけなかったのは、ホントのところだったから丁度いい場面でもあったわ。」


「そうですか……。ところで今日の話し合いはどうするの?あたし何も聞いてないんだけど。」


「アズサは……特に何もしなくてもいいわよ。話の流れや交渉材料なんかは昨日のうちに考えてあるから。」


「一応あたしも参加するんだし、ちょっとぐらい……。」


 あたしがしゃべっている途中で、軽やかな鐘の音が鳴り響く。

 多分今のが三時課の鐘、元の世界で言うと9時ぐらいの鐘らしい。あらかじめカズが言っておいたのはこの時間らしいので、もうそろそろ来ると思うんだけど。


 そんな風に考えていると、目の前のにいるイザベラさんが姿勢を整えて、外の方を見ているのに気づく。あたしもあわててそちらを見ると、遠くの方から緑色の服を着た三人ほどの人物たちが、ゆっくりと歩いてきているのに気づく。

 あたしも一応姿勢を整えて待つことにする。近づいてきて顔が見える位置まで来ると、来たのはどうやら昨日会った人たちと同じらしいと分かる(俳優似のイケメンはいないけど)。


 真ん中にいるのはアルゴスだ。

 昨日見た服と同じだろうけど、外にいるからか軍服のような服に施されている刺繍がキラキラと光っているのがわかる。

 そして右隣にいるのが昨日より一層顔を険しくしているイカツイ男、ヨティスだ。鎧を着こんでいるため分からないけど、下にはアルゴスと同じ軍服を着ているみたいだ。最後に左隣にいるのは、最初は気付かなかったけどよく見るとコリーナだろうか?昨日は金色の髪をそのままおろし、動きやすそうな布の服を着ていたのだけど。今日は長い髪を後ろで縛り、アルゴスたちと少しデザインが違う軍服を着て、後ろに弓を背負っていた。


「ようこそいらっしゃいました。今回、会談場所までの案内を受けたまりました。ガルド聖王国騎士のイザベラ・ミランダと申します。残り2人のことはご存知かとございますので、紹介は省かせていただきます。それであなた様がアルゴス・ヴェニゼトス様でよろしかったですか?」


「いかにも、お出迎え痛み入ります。あなたのような可憐な女性に案内していただけるとは、とてもうれしく思いますよ。」


「稀代の魔術師で四元素の使い手(エレメント・マスター)にそう言っていただけて、とてもうれしく思います。」


「はぁ、有名だというのも考えものですねぇ。結構昔の通り名で、今では誰も知らないと思っていましたが。」


「中佐殿の名前は、魔術師で知らない者はいないと思いますが。」


 アルゴスの白々しいセリフに、コリーナは生真面目に答える。その様子にアルゴスは優しく笑いながら、一度あたしとカズを見て、再びイザベラさんの方に目を向ける。


「それでは、案内していただこうかな。我らは3人だが問題ありませんかな?」


「はい、問題ございません。ではご案内いたします。私の後についてきていただけますか?」


 そして手はず通りに、イザベラさんが一番前その後ろをエルフ3人が続き、最後にあたしとカズが付いていっている。前の三人は特に警戒するという様子もなく、堂々とした足取りで歩いている。

 歩いていると周りから視線を向けらえているのを感じた。入口ホールの酒場前のカウンターのテーブルから、一階上のキャットウォークから、数人がこちらを眺めているのを感じる。

 なるべく気にしないように、いつも通りに歩いていく。そのまま2階へ上り、いつも使っている会議室の前に近づく。するとイザベラさんが一度頷き、それを確認した若い騎士が一度のノックし、扉を開けて入りやすいようにそのまま待機する。その横を通って全員が部屋の中に入ると、若い騎士が扉を閉めて出ていく


「隊長!エルフの方々をお連れいたしました。」


「皆様ようこそいらっしゃいました。私はガルド聖王国聖騎士、アルフレード・デ・シルヴァと申します。以後お見知りおきを。」


「ご丁寧なあいさつ痛み入る、シルヴァ殿。私はマギア共和国軍、アルゴス・ヴェニゼトス中佐です。本日はよろしくお願いする。」


 部屋に入ったあたし達を出迎える様に立っていたアルフレード様が、長テーブルにある椅子をすすめると、真ん中にアルゴスそして両隣には残り2人が座っていく。あたし達も決められた場所(長テーブルの端)の空いている席に座る。


 それから少しの沈黙ののちに、アルフレード様の隣にいるイザベラさんが全員の着席を確認してから議事進行を開始していく。

 最初にエルフ側が自己紹介などを行い、次に同席しているハーフリングのバイロンが自己紹介を行っていく。自己紹介が終わったところで、オートマタの少女が部屋に入ってくる。その手にはトレーとカップ、それにティーポットを乗せている。


「これは何かね?」


「私共よりの歓待の証です。どうぞお飲みください。」


 オートマタの少女が手際よくカップを用意していくと、そこに緑色の液体を注ぎ。それを全員の所に1つずつ配膳されていく。

 カップの中に注がれているのは緑茶だ。昨日のうちにルーがあたしが食事の時にお茶の事を言っていたのを思い出して、森の中で見つけたから取ってきたとルーは言っていた。

 ドルイドがよく飲んでいるお茶の葉を取ってきたらしく、それをいぶしたりして出来たのがこれとのこと。いつの間にかカズがルーにおねがいして、エルフ達が飲ませるために分けてもらっていた。

 配られたお茶をアルフレード様が先にのみ、続いてあたし達が最後にエルフ達が飲んでいく。


「ふむ、エルフの国の物とはいささか違うようだが、これはこれで中々おいしいですな。」


「喜んでいただけてこちらもうれしいです。では早速本題に入らせていただきたいと思います。イザベラ君頼む。」


「はい隊長、今回皆様においでいただいたのは他でもありません。我々との協力ひいては同盟関係を結ぶためにお呼びいたしました。」


「ちょっといいかね?」


「はい、どうぞ。」


「そもそも昨日我々の野営地に来たのは、そこにいる彼の独断と聞いているが。今は全体の総意と考えても良いのかね?」


「はい、確かに彼らの独断ではありましたが、元々我らは戦力の拡充を計画していました。彼はその事を察して、あらかじめ動いていただけにすぎません。」


「ものは言いようですな。しかしそれについては分かりました。どうぞ、話を先に進めていただけますか?」


「はい、では話を進めます。先ほども言いましたが、我々ハウソーン同盟部隊は今新しい戦力を必要としています。これは先の階層での損耗が激しかったためというのもありますが、これから先の階層でさらなる苦戦が予想されるためです。これについてエルフ族の方々はどのようにお考えですか?」


「その前に我らの事は405中隊と呼んでいただけますかな?エルフ族という広義な呼び方では正確さに欠けますからな。」


「ではその様にいたします。」


 そう言って、イザベラさんは少し頭を下げる。


「ありがとう。それで我々の見解だが、皆さんとあまり変わりないと思っていただければ結構です。」


 アルゴスのその言葉で、その場の緊張が少しだけゆるんだ気がした。


「だが協力関係を結ぶためにも、お互いの事を知らなければならない。でなければお互いの行動を邪魔しあい協力関係など結ばなければ良かったとなりかねない。違いますか?」


 そのアルゴスの言葉で場の緊張は、先ほど以上に高まったかのように見えた。


「確かにそうかもしれません。できるだけお教えするつもりではいます。しかしあなた方の知りたいこととはどのようなことですか?」


「まず我々が知りたいのは、どのように魔族に勝利したのかという事なのです。一応そこの彼に説明は受けましたが、しかしそれだけではすべて信用することが出来ない。改めてあなた方に聞きたい、昨日彼が言った事はすべて真実なのかね?」


 昨日カズが説明して納得してもらったと思っていたのだけど、やっぱり納得してなかったようだ。

 まぁしょうがない。だってあたし自身あまり信じることが出来ないし、しかも勝った方法があたしがドラゴンになってみんなを運んだからだなんて、もしあたしがエルフ達ならそう言われても信じないかもしれない。


「それは全て真実です。彼女が初めて使えるようになった、ドラゴンに変身できるという能力によって、我々は魔族たちの猛攻をしりぞけ、勝利を収めることができました。バイロン殿そうですね?」


 アルフレード様に話を振られて、ビックリしたのかハッとした顔をして、慌ててうなづく。


「え?ああ、ほんまやで。あの嬢ちゃんごっつでかい竜になっとったわぁ。ワシなんてもういつ食べられてまうか、ほんまハラハラしてたわ。ガハハハハッ」


 このオヤジは余計な事を喋りやがって。ほらみんなの笑顔が引きつってるじゃない、どうしてくれんのよ!

 そんな雰囲気を変えるため、さっきからイザベラさんが必死に咳払いしてるし。


「オホン、そろそろ話を戻させていただきます。今の話でご納得いただけましたか?」


「え、ええ。いまだに信じがたいですが。嘘が苦手なハーフリング族が言っているのをみると、納得せざるを得ないかもしれませんね。ヨティスはどう感じましたか?」


「私はこの目で見た物しか信じません。ですが中佐がおっしゃるんでしたら、納得はします。」


「まぁ落としどころはそんな所でしょう。私も全てを信じたわけではありませんが、このような場で嘘をつくとは思えませんから納得することにしましょう。では次に知りたいのは、あなた方はゲームをクリアした場合に望むものは何かという事です。あなた方は大雑把に言えば3組が合わさった組でしょう?であれば、3つ願いがあるはず。それであればそもそも我々が手を組むというのも無理ではありませんか?」


「それについては問題ありません。我々が叶えたい望みは2つだけです。内容については……。」


 イザベラさんの目配せに、アルフレード様が一つ頷く。


「分かりました。我々ガルド聖王国騎士隊は不老不死の霊薬を欲しています。そしてバイロン君たちは。」


「ワシらはな出来れば、万病・身体を治す薬やな。まぁそれがあきまへんなら、巨万の富を生み出す壺でもええですわ。」


「それで君ら二人には無いのかね?」


 そう言ってアルゴスはカズとあたしの方を疑惑のまなざしで見つめる。


「はい、僕たちはクリアしてもらう報酬が目的ではなく、クリアすること自体が目的ですから。」


「しかし君らもクリアを目指すからには、報酬に興味があるのではないのかね?」


「確かに興味はあります。でも僕らはこのハウソーン同盟部隊に入れてもらっている身ですからね。余り贅沢は言えませんよ。」


「ほう、強欲な事よりはいいが、謙虚すぎる事は美徳にはならないと思うがね……。まぁいいでしょう、あなた方の事はなんとなくわかりました。」


「申し訳ないが、こちらからも聞かせてほしい。あなた方の望みは何でしょうか?」


 そう今までエルフ達のペースだったのを取り戻すように、アルフレード様が問いかける。


「我々の望みは……、まぁここで言わないのもフェアじゃありませんね。まず一つ目にドワーフや魔族たちがクリアするのを防ぐこと、それに植物豊穣の種を手に入れる事になりますね。」


「中佐!よろしいのですか?!」


「いいのです。ここまでくれば、隠し立てするような事ではありません。」


「……左様ですか。中佐のお考えであればもう何も言うことはございません。」


 そして話がいったん切れたことで、静まり返るがアルフレード様が話を切り出す。


「それで他に我々に聞きたいことはございませんか?」


「いいえ、我々の疑問は晴れました。ですがハッキリ言ってあなた方と組むのが、余りメリットがないような気がしています。なのであなた達と組むことによって、我々405中隊が得するという点を具体的に最後に教えていただきたい。」


「それは……、そもそも我々と組まなければ、他と組む機会はないかと思いますが?」


「それならそれで我々はいいと思っています。最後の一人が倒れるまで死力を尽くすだけの話です。」


 そのアルゴスの言葉には嘘など一切含まれておらず、そのまるで刃物のような抜き身の言葉にアルフレード様もどのように返せばいいか迷っているのか、言葉を返さずアルゴスの顔を見ているしかない。


 ここまでの話で予定通りで、この質問さえうまく切り抜けられる気がする。

 昨日もみんなで遅くまで真剣にエルフ達と、どう交渉しようか話し合っていたのだ。あたしにだってこの話し合いが大切なのは分かっているつもりだ。だから何か言わなければと思うけど、ホントに言ったほうがいいのか分からない。

 あたしはいつも空気を読まずに、言わなくていいところで余計な事を言ってきたのだから、今回もそうなんじゃないかと怖くなる。


 でもそんな時にやっぱりカズの言葉を思い出す。


『笑って後悔したいから』


 今言わずにこの場が流れてしまえば後悔する。でも言いたいことを言うことが出来れば、みんなに笑われながらも笑って後悔できるような気がするのだ。

 そう考えてあたしの覚悟は決まる。後は何を言うかだけど。そう考えて、すぐにアステリさんの顔が思い浮かぶ。ちゃんとヒントをくれていたではないか!


「あの!」


「なんでしょうかな?今は重要な場面ですが、それに値する話ですかな?」


 立ち上がって声を出したあたしは、きつい口調で言われて、あわてて周りを見回すとみんなが心配しているのか呆れているのか、こちらをじっと見ているのに気付いてしまう。だけどもうあたしは決意してしまった。もう後戻りできないのだ。


「あたしとカズは、アルフレード様たちとは全然違う遠い遠い国から来ました。そこでは科学というものが発展していて、だからそのあの、エルフ族の人たちが知らない知識をいっぱい持ってるんです!!だからあたし達と手を組んだら、それを教えます。だからあたし達と手を組んだ方が絶対お得なんです!!」


 後半自分でも何を言っているか良く分からなかったけど、言いたいことは言えたと思い、力が抜けてゆっくりと腰を下ろす。


「ふむ、なるほど。知識ですか。それは考えていませんでした。あなたがその知識を教えてくれるんですか?」


 あたしはそう言われて、あわてて首を横にふる。


「ち、違います。このカズが教えます。ね?そうでしょ?」


 あたしのその突然の無茶ぶりにも、カズは動じずに答えを返す。


「はい、多分みなさんの知らない知識を僕は知っていると思います。例えば……。」


 そう言って、雑学のようなものを喋りはじめると、全員がカズの話を真剣に聞いているようだった。そしてその話が一段落すると、アルゴスは納得したように頷く。


「なるほどこれは興味深い。わかりました、いいでしょう。能力の問題も利益の衝突もありませんし、豊富な知識を持っているあなた方と協力関係を結びたいと思います。」


「それはありがたい。あなた方が協力していただけるのなら頼もしい。」


「ただし、一つ条件があります。」


「何でしょうか?」


 手を差し出すために、立ち上がりかけたアルフレード様が、いぶかしそうに問いかける。


「我々は一応協力関係は結びますが、基本的に別々に行動させていただきたい。もちろんあなた方が助けがほしい時は手伝いますし、こちらが助けていただきたい時は手伝っていただきますが。」


「しかしそれでは作戦行動に支障が……。」


「イザベラ君、いいんだ。」


「ですが……、わかりました。」


「それでは今の条件をのんでいただけるということですね?」


「はい、もちろんそのつもりです。これからよろしくお願いします。」


「ええこちらこそ。」


 こうして、最後の条件にモヤモヤした気持ちを抱えながらも、あたし達は無事にエルフ族の405中隊の人々と協力関係を結ぶことになったのだった。


読んでいただきありがとうございます。

これからもよろしくお願いします。

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