第69話『エルフとの会談』 第1節
エルフ野営地から帰ってきたあたし達は、さっきの事をアルフレード様たちに報告しに行くことになった。というかまさかカズが、エルフと協力しようなんて言うと思わなかったし。しかもアルフレード様たちに何も言っていなかったとは思わず。聞いたときは話の流れについていけず、口を挟むこともできなかった。だけどよくよく考えてみるとかなり不味い事はあたしにでもわかる。
そんな状況で、戻ってアルフレード様に伝えた時に、イザベラさんが今まで見たこともないほど怒るのはわかっていたことだけど、本人を目の前にして実際にみるとものすごく怖い。
何故そのような勝手な事をするのか。行動した結果、こちらの情報が敵に流れてしまうことかんがえていなかったのか。そもそもこの部隊の代表はアルフレード様と決まったはずで、あなた達が勝手に決める権利はない。などなど一々もっともな事を、長々とお説教してくるので途中からうんざりして、あまり聞いてなかった。
というかそもそもこんな話になったのはカズが言ったからで、あたしにはあんまり責任はないと思うんだけど。まぁゼンを治すためにしょうがない流れだというのは何となくあたしでもわかったから、何も言わなかったけどさ。
それでもアルフレード様に『あなた方の気持ちは何となく分かります。しかし我々はちゃんとした協力関係だと思っていました。ですがあなた方はそう思っていなかったとは残念です。』というその言葉と残念そうな顔を目の当たりにして、あたしは思った以上にショックを受けた。
違うんです。あたしはそんな事思ってなかったんです!と言おうかと思ったけど結局は何も言えなかった。
そんな風に怒られはしたが、結局今の現状では騎士達の損耗も大きく、エルフ達との協力関係が結べればこちらも利益につながる為今回は認めるが、次からはちゃんと相談してほしいという事で、その話は終わった。
その後腹が立って。
「エルフと最初から手を組むつもりだったのなら、最初からアルフレード様に言えばよかったでしょ!」
とあたしがカズに言うと。この男は涼しい顔で。
「相手はエルフで亜人だからね。最初に話していたら、駄目だって言われたかもしれないよ?」
と、さも当然と言った顔で言ってきた。ホントにこいつは昔から何を考えてるか良く分からないわね。
でもエルフ達と協力関係が成立すれば、ゼンが助かる可能性は上がるしそこまで話を出来たのもカズのおかげだと思うと、何か言うのもバカみたいだ。
それからエルフが明日の三時課の鐘(だいたい09時ぐらい)の時刻に、いつもアルフレードさんが使っている会議室を使うという事をカズが話すと。アルフレード様はハーフリングのバイロンを呼び、カズも一緒になって緊急会議を行うことになった。
多分会議では難しい事を話し合って、色々決めるんだろう。だけどあたしも役に立たなきゃという気持ちで、会議の準備を手伝っていた。そんな時、扉をノックする音が聞こえてそちらを向くと、騎士の一人が扉を開けその前を、オートマタの少女が部屋に入ってきていた。
「アズサ様お探しいたしました。アステリ様がお呼びになっております。調理場までお越しください。」
「え?なんでそんな……。あ!」
そうあたしは昨日アステリさんに料理を教えると約束したのだ。今の今まですっかり忘れていたし、いつという約束もしていなかったから、こんなに早く言いに来るとは思わなかった。
だから何の料理を教えるかなんて、まるで考えていない。どうしようかとあわててカズの方を見るけど、彼も苦笑いしているだけでだ。そりゃそうだ、今から会議があって、その会議の原因を作ったのはカズなのにその張本人がどこかに行くわけにいかないのだから。
「どうかされましたか。アズサ様?」
「え?あ、うん……。わかったわよ!行けばいいんでしょ。行けば!」
「はい?よろしいようでしたら、どうぞこちらへ。」
「じゃあカズ行ってくるから。」
「うん、こっちは任せて。それじゃあ頑張ってね。」
こいつは!自分が関係ないからって、気楽に笑っちゃって!ああ、もう!何教えたらいいってのよ!!
そんな風に心の中でカズに文句を言いながらも、しぶしぶオートマタの少女についていく。今日はエルフの野営地から帰ってきた後、また森に行くと言ってルーと別れたから、ホントにあたし一人だけだ。
一階に降り廊下に出て二度ほど曲がったところに、調理場はあった。
少女がこちらですと案内しそのまま扉を開けると、中は長細い部屋で中央に長いテーブル、端には流し台と思われる青い石が付いた場所が2か所、赤い石が置いてあるコンロと思われるものが4か所、それによくピザとかを焼くために使っているのをテレビで見たことがあるような石窯が1か所あった。
そんな部屋の中をオートマタの少女2人が忙しく歩き回っている。そうした中でウェイトレス姿でその様子を見ていたアステリさんは、あたしが部屋に入ってきたのを見て小走りで尻尾でもあれば振りそうなぐらい嬉しそうに近づいてくる。
「お待ちしておりました。急に呼びつけて申し訳ありませんね。」
「や、まぁ、自分で言いだしたことだしね。」
「そう言っていただけで嬉しいですわ。ささ、こちらへどうぞ。」
そう言って中央の長テーブルの所に案内されると、そのテーブルの上に広がっているのは色々な食材だった。でもハッキリ言って日本で見たことのある食材はほとんどない。黄色や緑の大根のような植物に紫色のトマトのような形の果物?と味が想像つかない物ばかりなのだ。
「ではお願いいたしますわ!!」
そう言ってあたしの方を光るほどキラキラした金色の瞳で見つめてくる。うん、ホント止めて。これじゃ全く考えてなかったなんて言えるわけがないし。言い訳して逃げるわけにもいかないじゃない。
とにかくあたしでも料理に使えそうな食材を見つけなくては!
そう考えてあらためて一つ一つ食材を見ていくと、これは塩だろうか?何だか茶色く薄汚れているが粉っぽいなんだかよく分からないものが2つ並べて置いてある。
「アステリさんこれって?」
「そちらは小麦粉と塩ですわ。異世界では違うんですの?」
「ううん、大体似たような感じだけど。もっと白っぽいというか粉っぽい感じだったから。」
「そうなんですの。」
ほとんど料理をしたことがないというアステリさんには、多分分からない事なんだろう。まぁあたしも料理とか全然しないけど。それにしても困った、あたしにわかる食材はこれぐらいだ。だとしたら小麦粉と塩?確かうどんがそんな材料だった気がするけど、昔調理実習か何かで一回しか作ったことがない物を作れるだろうか?それに……。
「アステリさん、そう言えば調味料って他にないの?」
「チョウミリョウ?チョウミリョウとは何ですの?今の言い方からすると、小麦粉や塩はチョウミリョウに入りますの?」
「へ?小麦粉は調味料に入らないと思うけど。え~と、食材とかに味をつける材料?みたいなものなんだけど?」
とても嫌な予感がする。まさか、まさかと思うけど調味料が塩しかないとしたら。うどんだってタレや醤油で味付けされたものがないと食べられない……と思う。ここに来て、またしても異世界の怖さを思い知る。こんなの海外旅行するより厳しすぎる。
「申し訳ありませんわ。調味料?と呼ばれるものは塩以外にここにはありませんわ。人族や亜人族の方々がそういうものを食事に使っているという情報は持っているんですのよ。でも食事に不可欠なものだとは思ってもみませんでしたわ。ごめんなさいね。」
「いえ、いいんですけど。困ったなぁどうしよぅ。」
あたしが迷っていると、申し訳なさそうな顔をしながらもまだ期待した目でこちらを見ているのがわかる。
困ったあたしは食材を一つ一つ時間稼ぎのために見ていく。それにしてもひどい色の食材ばかりだ。青、黄、緑、赤、黒い食材まである。その中で何だか見覚えのあるようなものを見つける。
「なんだろこれ?真っ赤だけど。なんとなくジャガイモっぽい?」
「そちらは人族の間でイモと呼ばれているものですわね。スープに入れて食べるものとお聞きしましたので、この店では主にスープに入れたり、水でふかしたりしてお出ししてますわね。」
ジャガイモかどうか分からないけど、イモかぁ。そう考えているとあたしの脳裏に幼いころの記憶がよみがえってくる。
あたしの両親は共働きで、うちの母親は結構忙しく料理なんかもあんまりする方じゃなかったから。出来合いの物が多かったのだけど、たまの休みに気まぐれにお菓子を作ってくれたことがあったのを思い出していた。
「よし!それじゃあ、ポテトチップスを作るわよ!」
「なんですかそれは?どのような料理ですの?」
「料理?と言っていいか分からいけど。あたしの親はお酒を飲むときによく食べてたし、料理と言えば料理だと……思う。」
「なるほど、ではお願いしますわ!」
料理をする前にあたしはアステリさんから渡された、オートマタの少女たちが着ているのとおそろいのエプロンを身に着ける。
このエプロン着てみて初めて分かったけど、白い糸で刺繍やらなんやら細かく入っていて高そうなものだった。汚したらまずいかなと思いながらも、汚したら謝ればいいと開き直りつつ後ろのひもをきつく結ぶ。
まずあたしは手を洗い、渡された包丁を握る。
普段料理などしないあたしだけど、イモの皮ぐらい剥けるはずと右手に包丁を持ち、真っ赤なイモを左手に持って皮むきに挑む。最初は全くうまくいかず。何度も手を切りそうになったり、皮にごっそり中身がくっついている始末で、いっきに自信を失いかける。包丁で皮をむくのがこんなに難しいとは考えてなかった。そもそも前にイモを剥いたときはピーラーか何かを使っていたのだ。失敗するはずがない。
2個目、3個目からはコツがつかめてきて、それなりになってきたと思う……多分。そして思い出したようにジャガイモの芽をとったあたしは、それを半分に切り今度はそれを薄切りにしなければいけないことを思い出す。
確かこれもスライサー?とかを使ってやっていて包丁ではやっていなかったはずだ。でもしょうがない、包丁で頑張って切るしかない。あたしは恐る恐るなるべく薄めになるように包丁を入れていく。
しかし全くうまくいかない、めちゃくちゃ分厚かったり薄かったりする、イモの切れ端が出来てくるだけだ。その後も何度も切るが全くうまくいかない。
半ば茫然として、もうこれでいいんじゃないかな揚げれば食べられるでしょ。と投げやりになりながら辺りを見渡していると、オートマタの少女が目に入りピンと閃く。というか最初からそうして貰えば良かった。無理にあたしが料理なんかする必要はなかったのだ。その事にようやく気付く。
「アステリさん、ここからは彼女たちに手伝ってほしいんだけどいい?」
「ええ、もちろんよろしいですわよ。エクシー、エプタ。今やっている作業を一時中断してこちらに来なさい。」
そうあたしが呼んでもらったのは、近くで働いていたオートマタの少女だ。いつも料理している彼女たちならイモの薄切りなんてわけないだろう。
「ご主人様、お呼びでございましょうか?」
「こちらのアズサさんのお料理を手伝うわよ。アズサさんの指示どおりに動くのよ?」
「かしこまりました。」
こうして心強い味方を手に入れたあたしはジャガイモを薄切りにしてもらうことにする。なるべく薄くとお願いすると、ホントに薄く切ってくれる。スライサーなんて要らないぐらいで、彼女たちさえいれば十分だったのだ。そして薄く切ってもらったものを、フライパンの上で熱したひたひたの油に入れてひたすら揚げていく。
そんな様子を見てアステリさんはしきりに感心したようになるほどと呟いていた。
カラッと揚がったら綺麗な布の上にあげて油をとっていく、そして最後に塩を振れば色は赤っぽくて変な感じだけどポテトチップの完成だ。
あたしがやっていた時はものすごい時間がかかったが、彼女たちに頼んでからものの数分での完成した。
「ちょっと食べてみてください。」
「分かりましたわ。ではいただきましょう。」
そう言ってアステリさんはポテトチップの1枚を摘まむと口の中に入れる。パリパリとした音がこちらにも聞こえてきて、なんだかあたしも食べてくなる。もう2枚ほど食べたアステリさんは、嬉しそうな表情をこちらに向けてくる。
「なるほどこれはとてもおいしいですわね。このパリパリとした触感とイモの味の風味、それに塩味がきいていて、作るのも簡単ですし。これなら人気になるかもしれませんわ。教えていただきありがとうございます。」
「いいえ、こんなんで良かったら!」
「それではもう直ぐ晩御飯の時間です。いっしょにいかがですか?お礼もしたいですし。」
「え?それじゃあ……まぁ。」
「それは嬉しいですわ。あまり話してくれる方がいませんから、食事の時に話をしてくれる方がいるだけで楽しいですわ。」
カズたちの会議している内容なんかを少し知りたかったけど、なにかお礼をしてくれるというのだから付き合った方がいいという、なんとも現金な理由であたしはアステリさんについて食堂に行くことになった。
食堂の中はかなり広く、10人以上が座れるほどの長テーブルが自分の存在を主張するように、白いテーブルクロスに包まれて待ち構えている。なんかひと気がなく寂しいが、あたしは促されるままに中央付近に座り、アステリさんは反対側に座る。まさかとおもったけど、こんなに広いのに二人で食べるらしい
座っていると、アステリさんが料理についていろいろな事を聞いてきたため、あたしの分かる事を答えていく。これで料理がおいしくなるのなら全然問題ない。そんな話をしていると食事が運ばれてくる。まぁ思っていたとおりいつもと変わらず、固いパンに豆のスープにふかしイモといういつものメニュー。それにさっき作ったポテトチップが小皿に乗せて運ばれてくる。確かにポテトチップはごはんとはいいがたいが、一つメニューが増えるだけで何だか食べようという気分が沸いてくる。
食事をしていると、ひと段落ついたあたりでアステリさんが話しかけてくる。
「ところで、エルフの方たちとはどうなりましたの?」
「ええっと、それは……。」
正直なんて言えばいいか分からない、『神おろしの秘儀』をお願いしに行ったら協力関係を結ぶことになったとは自分でも言っていてよくわからない。
そのあたしが口ごもってしまっているのをアステリさんは勘違いして話を続ける。
「良いんですわよ。あなた方のチームでの機密でしょうし、話せないとしてもしょうがありませんわ。」
「え?ええ……まぁ。」
「ただ先ほどの料理のお礼に1つ助言させていただきます。エルフは保守的で戒律を重んじる種族で、簡単にこちらの話を聞いてくれる方たちではありませんわ。」
「はい、あたしが行った時もそんな感じでした。」
保守的や戒律がどういった意味かは分からないけど、多分頑固者みたいな意味だろう。
「ですが、彼らは知識に貪欲で自分たちの知らない英知には何を代えてもほしがるような性質がありますわ。なのでもしこれからまたエルフと会うような事があれば、覚えておいても損はありませんでしょう。」
「はい、分かりました。覚えときます。」
少しだけ変わったいつもの食事を食べながら、アステリさんと話をしたあたしは外を見ると結構遅い時間になっていたこともあり、そのまま彼女と別れて部屋に帰ることになった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
次のゲーム開始まであと数話かかります、気長にお待ちください。
これからもよろしくお願いします。




