第64話『可能性と微かの希望』 第2節
「えっ!?ルーはバロールに連絡を取る手段について何か知ってるの?」
あたしはルーに飛びつくように、肩をがっしりと掴み問いただすように見つめる。
するとおびえたように口をパクパクと開いたり閉じたりしてしまっているのをみて、しまったと思いあたしは慌てて手をはなす。
「バロール様という神様は……僕には分かりません、でも……もしかしたらエルフさん達の力を借りれたら、『神おろしの秘儀』が……出来るかもしれません!」
「かみおろしのひぎ?」
「なるほどなぁ!確かにその方法なら可能性はあっかもなぁ。」
エスリンはポンと手を叩いて、納得したように頷いている。
だけどあたしには何のことか良く分からず、首をかしげてしまう。
「もしかしてその『神おろしの秘儀』って神道でよくある降霊の儀式みたいなもの?」
そのカズがルーにした問いかけに、ルーは突然声を掛けられたのと聞かれた意味がわからないとで、あわあわとあたしを見たりカズの方を見たりしている。そんなやり取りを見かねてなのか呆れてなのかエスリンが話し始める。
「カズよぉ!神道なんて言ってもこの犬っ子に分かるわけねぇだろ。だがカズの言ってる事はあながち間違ってねぇぜ。いわゆるシャーマニズムってやつをこの世界の濃いマナを使ってやるからな、神を完璧に憑依させることも理論上可能だろうぜぇ。」
「なるほど。で、それを行うには魔術が得意なエルフ達の力が必要という事ですか?」
「だろうなぁ。俺様はエルフ達が使う独特な魔術なんかは良く知らねぇからなぁ。だがその犬っ子はドルイドだろ?そいつが言ってんだからあるんじゃねぇか?」
「ちょ、ちょっと待って!勝手に話を進めないでよ!あたしにはいまいちよく分からないんだけど、つまりエルフ達に頼んで『神おろしの秘儀』とやらをやってもらえればゼンは助かるかもしれないって事でしょ?」
「まぁな、可能性は十分あるだろうよ。」
「だったら今すぐ……。」
「ま、待ってください!」
ルーのいつもと違う声に、驚いてすぐに足を止めてあたしはルーの方を見た。
「あのぅ……。多分行っても……その……話を聞いてもらえないと……思います。」
「それってどういうこと?」
「それは……。」
それからのルーの話は長くて、あたしには結構難しい話だったけど、だいたいこんな感じだ。
今は死んでしまっていないルー育ててくれた司祭様は獣人の国でも有名なドルイドで、色々な人を治療したり占いをしたり、たまに政治の世界にも関わっていたらしい。
そんなある日、司祭様をたずねて海の向こうにあるエルフの国から使者がきて、作物が取れなくて国民が困っているから一緒に来て『神おろしの秘儀』を手伝ってほしいと言われたらしい。それで手伝う代わりに様々な財宝を渡され人々を助けるために司祭様はエルフの国に向かったらしい。それから一年ほどしてエルフの国から帰ってきた司祭様は『神おろしの秘儀』が危険なものであって二度と使ってはいけないとまるで死人のような顔で言って、エルフの国でもそれから二度と使われないことになった、そんな話だったように思う。
「でも、その時はそうだったかもしれないけど、今聞いてみたら大丈夫って言ってくれるかもしれないんじゃない?」
「それは……わかりません。でももう一つ……難しい理由があるんです。」
「えっ!?まだあるの?」
「はい……。」
ルーは苦しそうに呟くと、いっそう悲しそうな表情になる。
「それは……、ボクが……半人前だから……です。司祭様みたいにドルイドの力もうまく使えませんし、『神おろしの秘儀』についても昔司祭様に話を聞いた以上は……知らないんです。」
「そっか……。でもそれじゃあルーも良く分からないことが多いのよね。だったらエルフの人に一度話を聞いてみてもいいんじゃない?司祭様の話も聞けるかもしれないし。」
「それは……わからないけど。」
そう言って煮え切らない、困った表情を浮かべているルーの手を、強引に大丈夫だと示すためにきつく握りしめる。
「それじゃあ行こうよ!行って聞いてみなきゃ始まらないって!」
「……はい!」
ルーをとりあえず納得した感じにさせたあたしは、部屋の中にいるもう一人の方を見てみる。
どうやらあの男は何を考えているか分からないが、まだ腕を組んで何やら考え事をしているようだ。
一人にしていても一日中ボーっと何かを考えているそんな奴なのだ。ここは誘ってあげるべきだろう。間違っても2人で行ってエルフとちゃんと話せるか不安なわけでは決してないのだ。
「ちょっとカズ、あんたはどうするの?ここでこうしていても仕方ないでしょう。一緒に行かない?」
「う~~ん、そうだね。アズを一人で行かせるのはかなり心配だし、エルフの人に迷惑をかけちゃうかもしれないからね。これは一緒に行かないと不味い!」
「な、何よそれ!べ、別にあたし一人で行っても全然大丈夫だけど!せっかくだから一緒に行こうって言ってるだけでしょ!」
「あ、はい。そうですね。それじゃあ僕も一緒に行かせてもらってもいいですかね?」
「しょうがないわね、ここにいても暇そうだから付いてきてもいいわよ!」
そんなやり取りですぐにでもあたし達がエルフの所に向かうと分かったのだろう。エスリンは不機嫌に足をばたつかせている。
「オイ!テメェら出てきてやった俺様に礼もなしかよぉ。ったく近頃の奴らは……。」
「ごめんごめん!教えてくれて助かったわ。そうだ!あんたも一緒に行く?」
「ゴメンだね!テメェらと一緒だと面倒な事ばっかりだ。それじゃあな俺様は戻るからな。せいぜいゼンの奴を治せるよう頑張ることだなぁ!」
そう言ってエスリンは不機嫌そうに立ち上がると、一瞬にして消えてしまっていた。
それを見届けたカズは何も言わずに立ち上がり、何か言うでもなく扉から出ようとしている。
「ちょ、ちょっと早いっての!行くなら行くで、もうちょっと何かリアクションしてよ!」
「ああ、ゴメンゴメン。それじゃあ行こうよ。今何時なのか良く分からないけど、日が暮れたりしたらあんまり出歩けなくなるよ。」
そう、この中間層は異次元空間?とやらにあるらしいのだが、ちゃんと朝昼晩があって所々に魔法による明かりがあったりするものの、日本のように電気があって昼間のように明るくなったりしないので、下手に外を歩けなくなるのだ。
「分かってるわよそんな事!ルー行こう。」
「は、はい!今行きます!」
カズは何の迷いもなく部屋から出て、スタスタと廊下を歩いて行くのをあたし達は慌ててそれについていく。
それにしてもカズの歩き方には迷いはない。あたしはエルフに会いに行こうといったものの、行き当たりばったりで特に何か考えがあったわけではないのだけど、そんな言い出しっぺのあたしよりも速く歩いているのだから何かあてでもあるのだろうか?。
「それでどこ行くの?あたしはエルフのいる場所とか知らないけど、もしかしてアルフレード様の所?」
「ううん、この場所に一番詳しい人の所だよ。」
「一番詳しい人?う~ん、あ!アステリさんか!」
「うん、その通り。多分今頃だと酒場棟のホールにいると思うから、先にそこに行ってみよう。」
こうしてあたしたちはエルフ達に会うために、先ほどここに来るまでに通ったホールに再び戻ることになったのだ。
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