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エスケープ・ダンジョン~オルガニア迷宮へようこそ~  作者: ほうこう
第三層 灼熱荒野攻略編
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第63話『可能性と微かの希望』 第1節

 カズとエスリンに用ができたあたしは、ルーと一緒に宿泊棟の中を歩いている。

 宿泊棟の中は今は昼間のため人がいないのか、何人かのドワーフや鎧を着た人とすれ違ったがそれ以外に誰も人がいないかのように、建物内はひっそりと静まり返っていた。

 あたしたちはカズとゼンが寝泊まりしている部屋の前に到着すると、カズが決めたあたし達だと分かる合図を思い出しながら、一応その通りにやってみる。


 合図を送ると、中からカズがどうぞと呼ぶ声が聞こえてくる。

 こういう合図とかほんとに必要なのかな?などと考えながら中に入ると、カズは備え付けの机の前にある椅子に座っていて、その机の上にはゴスロリ服を着た金髪の縦ロールの妖精がインク瓶か何かの上に腰かけて、つまらなそうにこちらを見ていた。


「なんだ、ちょうど良かった。カズとエスリンに丁度聞きたいことがあったのよ!」


「うん、だと思った。僕もエスリンにどうしても聞きたいことがあったから、何とか頼み込んで出てきてもらったんだ。」


「へ?カズもあたしが来ると思ってたの?」


「うん。だってゼンを治すための手がかりを持ってるのはエスリン12だけだし、アズも絶対その事に気が付くと思ってたからね。」


「そ、そうなの?さすがねカズは……。」


「おいてめぇら!俺様に用があんだろぉ!早くしろや、早くしねぇんなら俺様は帰るぜぇ。」


 エスリンは瓶の上でイライラと腕を組みながら、足をバタバタと動かしている。

 確かにちょっと話して待たせてしまったけど、それぐらい待ちなさいよと思ってしまう。ほんとにこの妖精とあたしはあまり相性があまり良くないらしい。


「うん、そうだね待たせてしまってゴメン。それじゃあ最初に聞きたいのはアズの能力の事なんだけど大丈夫?」


 そういいながらカズはあたしに大丈夫か聞くように目配せしてくる。別に能力でみんなに話したくない事なんてないと思う。だけど少し心配をかけるかもしれない。そう思うと少し戸惑ってしまう。

 それでもあたしはうんと力強くうなずく。


「ヘッ!いいだろう。別にそんなに大げさな能力じゃねぇ。ただ単に色々な生物に体を変化させることが出来るっていう能力なだけだ。まぁもっともかなり強力な能力だからな、代償もバカにならねぇだろうぜ。あえて名前を付けるとしたら、そうだなぁ……『変異する偽物(フェイクシフター)』って名前だろうぜぇ」


「ちょっと待ちなさいよ!あんたあたしに前に説明したときに、ドラゴンになれるとしか言ってなかったわよね!なんで今になって色々ななんていうのよ。まだほかにも変身できるっていうの?」


 そうあたしは前のゲーム中に、この偉そうな妖精に能力の一応の説明、ドラゴンに変身できるという事を聞いていたのだけど、他にも変身できるというは聞いていなかったのだ。

 それが今になってそんなことを言い出すとはどういうつもりよ!そんな思いでエスリンを睨み付けるが、そんな事を気にした様子は全くなく、逆に不敵な笑みを浮かべている。


「ああ、そんな事かよ。といっても今なれるものなんてのはヤギや馬、牛だぜぇ?まぁそういうのになりたいってんなら止めたりしねぇがなぁ。」


「へ?ヤギ?それに牛?意外とすごい?いや~でもやっぱりそれはないかなぁ。」


「ハッそうだろ?こっちだって、ちゃんと考えて教えてやってんだよ。ちったぁ感謝しやがれこのまな板女が!」


「ちょ!まな板関係ないでしょ!このゴスロリちびっこ妖精のクセに!」


「あんだとコラァ!!」


「ほらほら、そんないがみ合わないで。申し訳ないんだけど、話を進めたいので喧嘩するのは一時中断しようよ。ね?」


 もう少しで飛び掛かり、ホンキの喧嘩になりそうだったけどカズが言うのももっともだと、何とかぐっとこらえ一歩下がり、エスリンを見ない事で怒りを収める。そこで目に入ったのは部屋に入ってから一言もしゃべらなかったルーの事だった。

 ルーはどうやらエスリンの方を熱心に見つめているようで、目は大きく開かれていて小さな声で『始めて見た……』と何やらボソボソと呟いている。


 そこで改めて考えてみると、ルーにエスリンを会わせたのは初めてだったことを思い出す。

 確かにあたしたちの世界では妖精なんておとぎ話の生き物だし、実際にいるなんて信じていなかったのだけど、ルーの世界でも同じように珍しかったりするのだろうか。


「ルー、妖精がそんなに珍しいの?」


「は、はい!ボクを育ててくれた司祭様が昔一度見たって教えてくれたんです。でもボクは一度も見た事なかったから!」


「おいおい、そこの獣人の嬢ちゃんよぉ。俺様をそこら辺の妖精と一緒にしてもらっちゃ困るぜ。俺様とあいつらじゃあ現代人と原始人ぐらい違うんだからよぉ!」


「そ、そうなんでうか!失礼しまうた!ごめんにゃさい!」


「ヘッ!わかりゃあ良いんだよぉ!」


 そう言って緊張からかカミカミで話すルーに、ドヤ顔しだす妖精になんだかあたしは再びイラっとくるが、ルーは喜んでるようだしといことで何とか気持ちを抑える。


「会話に割り込んで申し訳ないんだけどさ、アズの能力の代償って何なの?聞いても大丈夫?」


「ああ、それなぁ。実はなそれなんだがぁ……。」


「あ~、あ~えっとそんな事よりも、そ、そうゼンの事よ!ゼンを治す方法を教えなさいよ!」


「あん?んだよそんなに代償のこと聞かれるのがイヤなのかぁ?」


「ど、どうだっていいでしょ。とにかくゼンの事教えてよ!」


 あたしのしどろもどろの話の振り方にカズは何となく察したようで、それ以上詳しく話を聞こうとはしていないみたいだった。何にしても助かった、あたしの代償は聞いたら多分心配するだろうしその心配のせいで肝心な時に自分が役立たずになってしまうんじゃないかと、そんな事を考えてしまう。


「ハンッ黙ってたっていずれ分かることだってのによぉ……。まぁいいぜ、それになぁ最初に言っとくが俺様にはあいつの事を治すことなんか出来ねぇよ。前にも言ったが今は俺様のちょっとした能力をつかって魂の崩壊を食い止めてるだけだ。それ以上の事は俺様には出来ねぇぞ。」


「でもなにか方法はあるんじゃないの?あのバロールって奴は、あたしたちを別の身体にしてこの異世界に送り込んだり出来たんでしょ?だったらそれぐらい……。」


「バロール様だって万能ってわけじゃねぇ。確かに魂の変質や移し替え、肉体の改造や創造なんかはいくらでもできんだろうがよぉ。魂ってのは唯一無二のもんだ、全ての根源から出てきたそれは肉体に宿るときに最適に変換されんだ。しかもそれは精神と肉体の状態によって変化してくんだ。全く同じものってのはどんな奴にだって不可能だろうぜぇ!」


「それじゃあこのダンジョンをクリアしたって、途中で死んでしまったらもう生き返ることもできないっていうの?」


「まぁそう結論を急ぐなよ。バロール様がそこら辺を考えてないわけがねぇだろ。まぁ俺様は何も聞かされてねぇが……。それでもだなぁあの方の事だ、なんだかんだバックアップ(・・・・・・)を残していることがあるかもしれねぇだろうなぁ?」


「ばっくあっぷ?」


「そうだぜぇ。テメェらの肉体を複製したときに、完全にとはいかないかもしれんがバックアップを取っているはずだ。そのバックアップを使って今の欠損部分を補ってやりゃ、あら不思議!元に戻るって寸法よぉ!」


「それじゃあバロールさんと連絡して、バックアップで魂の欠けた部分を治してもらえれば治るかもしれないってことですか?」


 カズがそう聞くと、エスリンは途端に黙り込んでしまう。

 先ほど笑っていたのが嘘のように、暗い表情にさすがのあたしでもなんとなくわかってしまう。バロールとの連絡が取れないのだろう。だけどそれだけでまだ何も試してないのに、諦めて納得するなんて出来るわけない!


「ちょ、ちょっと待って、まだ何か試せることあるんじゃないの!例えば……そう!念話で呼びかけてみるとかさ!」


「ハッそんなのとっくのとうに試してみたっての。それにな、そもそもバロール様はゲームをクリアした時に出てくると言ってたはずだぜぇ。俺様にとっても同じことだ、役割を完遂してあの方の役に立つまでは元の場所には戻れねぇんだ……。」


 そんな今までのキャラとは違う、自分がただの使いパシリであるかのような言い方に、それ以上聞くのはなんだか可哀そうになってしまっていた。

だけどカズはエスリンに、今まで通り真剣な面持ちで問いかける。


「でも、もしバロールさんと連絡を取ることさえ出来れば、助かる可能性はあるんですよね?」


「ああ、可能性は十分にあんな。ただし、さっきも言ったように俺様にはその手段を持ってねぇ。」


 なるほどと一言呟いて、ブツブツ呟きながら腕をくんだカズは何やら考え事をしているようだった。

 カズだけに考えさせていることに何となく引け目を感じたあたしは、自分なりに考えてみることにする。


 今まで聞いた人たち、アルフレード様やイザベラさん、神族のアステリさん、獣人のルーそれに妖精のエスリンその全員が助けるのは無理だといった。

 だけどエスリンはバロールならできる可能性があると言っているのだ、これだけでもすごい可能性が見えてきた様に思うのは気のせいだろうか。今まで治る可能性は全くないと思ってたのと比べるとすごい前進だ。

 あとはバロールと連絡が取れればいいのだ、だけどそんな方法をパッと閃くような頭は持っていない。数分考えたところで、なんだか頭から湯気が出るんじゃないかと思うぐらい考え込んでいて、なんだか熱が出てきたような気がしたあたしは、潔く諦めていつもよく使う作戦を発動する。

 分からなければ人に聞けばいい作戦だ。

 よく分からなくても自分で考えなさいとよく言われるけど、あたしからしてみればそんなのもう少しで答えに届きそうな人がやることで、自分でいう事ではないけど、あたしみたいにバカでスタートラインにすら立ってない人間は分かりそうな人間に色々ヒントや考えを聞かなければ、そもそも答えなんて出るわけがないと思っている。


 だからこんな時こそ、この方法は有効なわけだ。

 そんな事を考え一人でドヤ顔をしていると。何やら隣でこちらを心配そうにルーが上目遣いで、何やら言いたげにこちら見ていることに気付いた。

 そういえばルーはドルイドだし(といってもあたしドルイドの事なんて良く知らないけど)聞いてみたら案外何か知ってるんじゃないだろうか。

 そんなとりあえず聞いとけ、と言う感じでルーにはなしを聞くことにする。


「ねぇさっきの話の事なんだけど、ルーは何か思いつくこととかない?」


「へ!?あ、あのボク話が難しくてよく聞いてなくてその……。」


「ごめんね!そういえば結構内輪のノリで話してたから、ルーも勝手に分かってると思ったけどそんな事なかったよね。それじゃあ今からあたしが説明するね。」


 あたしはそう言って、何とかルーにもわかってもらえるように話をする。とは言ってもあたしたちが異世界から来たことやらはなんとなく誤魔化しながら、あたしなりに分かりやすく話したつもりだ。


「というわけなんだけど。わかった?」


「……はい。だいたいは分かった気がします。」


「そっか、まぁもしまた何か知りたいことがあったら聞いて。あたし達は仲間なんだからちゃんと教えるよ!」


「はい!ありがとうアズサさん!」


「アズでいいって!それよりもルーもゼンを治す方法考えてくれない?」


 そう聞いたルーは何か真剣に考える様に目を伏せて、手に持っている杖をギュッと握りしめている。

 もしかしてルーはゼンを治すのがイヤだったりするのだろうか?あたしが見ていた限りは仲良くやっていたように見えたし、ゼンも何かひどい事をしているようには見えなかったと思う。いやもしかしたらしていたのかもしれない、あのゼンだし。

 それにルーはそんな事を考える子ではない、そうあたしは信じている。


 ルーはひとしきり考えると、ギュッと握っていた杖を持ち直しあたしの事を真剣に見つめると思いがけないことを話し始めた。


「も、もしかしたら、ボクお役に立てることがあるかもしれません!!」

読んでいただきありがとうございます。

これからもよろしくお願いします。

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