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エスケープ・ダンジョン~オルガニア迷宮へようこそ~  作者: ほうこう
第三層 灼熱荒野攻略編
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第61話『追憶と臆病』 第1節

 中間層に来てからすでに1日たったけど、ゼンイチイチが回復する見込みはほぼない状態だった。

 迷宮角鷲亭めいきゅうつのわしていの治療室に運び込まれて、神族のアステリさんによる再生魔法の治療を受けたものの魂の欠損を直すことはかなわず、アステリさんからも治療法は分からないと言われたからだ。


 治療室の中には複数の木のベッドが並んでいて、体の一部がなくなっている人や痛みで苦しんでいる人が大勢いて、まるでドラマなんかでみる戦争中の野戦病院のようだ。


 そんな中に治療が終わりベッドに横たわっているゼンイチイチを眺めていると、いつもは顔色がよく少しかっこつけた髪型でよく冗談を言っていたのをなんとなく思い出す。でも今はそんな面影はなりをひそめ、髪の毛には白いものが混じり顔色は土気色に近く一気に10歳は年を取ったように見えた。


 ゼンイチとの付き合いはそんなに長いわけではない、というかかなり短い部類だろう。

 そんな短い付き合いだというのに、あたし、カズト、ゼンイチの3人はまるで小さいころからの友人のように何でも話し合える仲になっていた。多分3人とも学校の中では浮いた存在で、そういう色々めんどくさい事を理解してくれる、そんな友人だと何ともなしに理解してたんだと思う。


 そんなあたしがゼンイチの看病(とは言っても見てるだけしかできる事はないけど)をしていると、治療室の扉が開かれてルーがきょろきょろと辺りを見渡しながら入ってくるのが見えた。


「ルー!こっち!」


 あたしは手を挙げてルーを呼ぶと、その声でルーは喜こんでいるのか耳をぴくぴくと動かしながら、こちらにトコトコと走ってくる。

 だけどちょっとあたしの声が大きかったのだろう、オートマタの看護師の一人が口に人差し指を立てながらこちらをじっと見てくる。


 あたしはペコリと頭を下げると改めてルーの方に向き直り、今度は小さな声で話すようにする。


「どうしたのルー、今日は外の森に行ってくるって言ってなかったけ?」


 そうあたしは朝からゼンイチの事を見てくるとみんなに言って、朝ご飯を食べて急いで出てきた。

 その時にルーはこれからまたドルイドの力を使うかもしれないから、森に入ってくると言っていたのだ。


「うん、でもやっぱりボクあずさの事、心配……だったから。身体の事もあるし……」


「うん!ありがとうルー、あたしは大丈夫だから!それにしてもルーはホントに可愛いなぁ」


 あたしがそう言いながらルーの犬耳が付いた頭をなでると、ルーは照れたように笑っている。そんな様子を見てると、なんだかあたしもうれしくなってくる。

 こんな風に落ち込んでいても始まらない、もしかしたら治せるヒントがどこかにあるかもしれないんだから今は行動あるのみ!


 そう思ってすぐに立ち上がり、オートマタの看護師にゼンイチの事をお願いして治療室を後にした。

 とはいってもどこに行けばいいか考えていたわけではない、自分で言うのはなんだけどあたしはこういう考え事が特に苦手だ。答えがあらかじめ決まっていてそれを覚えたりするのはまだ大丈夫だけど、答えの出ない問題を考えるのはとてもストレスがたまり、もういいやと行動してしまうのがあたしの悪い癖だ。

 それを直そうと思ってはいるけど、そう簡単に治るわけもなく、だったら答えは一つ。

 そういうのを考えるのが好きな人に考えて貰えばいいだけだ。


「ねぇルー?カズって今どこにいるか知ってる?」


「ゴメン、ボク知らない。でもボクがご飯を食べ終わった時は、みんなと一緒にいたよ。」


「そっか、じゃあいつもアルフレード様が借りてる会議室の方に行ってみようか?」


「うん……。」


「あっ!ご、ごめんね別にルーが悪いわけじゃないからね?」


 あたしはいつもこんな調子だ、ルーはずっとイジメられていて今は役に立てることを喜んでいる。そのことはちゃんとわかっていたはずなのに、いつもあたしは言葉が足りない。だけどルーは気にしていないようで、嬉しそうにあたしの横をトコトコと歩いてくる。

 次はもっとちゃんと相手の気持ちを考えて話そう、そう反省の意味も込めてもう一度ルーの頭をなでる。


 そんな感じでルーと色々話しながら歩き、二階に上り入口の前に立っている若い騎士(確かダミアンさん)にあいさつをして会議室の中に通してもらうと中は思いのほか閑散としており、豪華な内装の中にアルフレード様とイザベラさんがいるだけで他の騎士たちの姿はなかった。

 アルフレード様とイザベラさんは、椅子に座りながら対面に向き合っていて、多分重要な話をしているのだろう二人ともとても険しい顔をしている。そんな真面目な光景だと頭ではわかっているのだけど、気が付くとアルフレード様とイザベラさんはどんな関係なんだろうと下世話な事を考えてしまっている自分がいた。


 そんな会議室の中へ、何も言わずに入ってきた私たちにすぐに気付いたアルフレード様は、笑顔で対面の席に座ってほしいと促してくる。

 あたしたちは言われた通りにアルフレード様の目の前に座ろうとすると、自然な流れでイザベラさんは席を立ちアルフレード様の隣に座ることになり、何となく釈然としないものを感じながらもそのまま席に座った。


「やあ、よく来たねアズサくん。何か用かな?」


「いえ、あの……特に理由はないんですけど。カズの事さがしてて、もしかしたらここにいるんじゃないかなぁと思っただけなんですけど。」


「そうか……、もしかしてゼンイチ君のことかな?」


 そう言われたときの顔はものすごく分かりやすいものだったのだろう、驚いた顔にアルフレード様もイザベラさんも微笑ましいといった笑顔を浮かべていて、あたしは途端に恥ずかしくなる。


「いや、そんなに驚くことではないと思うよ。君は朝からゼンイチ君の所に行っていたのは知っていたし、君がゼンイチ君を大切に思っているというのも分かっているからね。」


「別に大切とかそんないい感情じゃありません!あっ……すいません。」


「いや、大丈夫だよ。私も言葉が過ぎてしまったようだ。」


 なんだかアルフレード様の前ではものすごく空回りしてしまっていて、とても肩身が狭い感じがする。それにこれ以上ここで話していると、あたしの恥ずかしい性格がばれてしまうような気もする。

 そう考えたあたしはいとまを告げようと腰を上げようとしたところで呼び止められる。


「すまないがアズサくん、君には聞きたいことがあるんだ。もう少し話につき合ってもらってもいいだろうか?」


「え?あっ……はい、わかりました。」


 最初声を掛けられたときはなんだか少しうれしかったが、声のトーンが低いのを感じて真面目な話だと思いすぐに気持ちを切り替え座りなおす。


「すまないね、君にも用事があるのだろうと思うけど。」


「いえ、大丈夫です。」


「ではすまないが、やはりどうしても気になるのだが単刀直入に聞くがあのドラゴンの体になれるというのは君の魔法なのかな?それとも魔族の様に先祖返りし変身するというものなのかな?」


「ええっと、それはその何というか……。」


 その当然と言えば当然だが、今更になって思い出した当然の疑問だ。いきなり仲間がドラゴンになればそう思うのも当然で、あの時は時間も無かったからてきとうに誤魔化したけど。


 あたしはどう答えていいのか分からなくなってしまう。確か第2層でゼンイチが説明していたように思うけど、逆にその事が嘘というわけではないけど、何かを誤魔化していると思われているのかもしれない。


 それもそうだ異世界からきてその時に殺されて、その殺した張本人から能力をもらいましたなんて言って信じてもらえるとはとても全く思えない。それが本当の事だとしても。それにあたし達でさえ良く分かっていない能力の説明など本当にどうすればいいか戸惑うばかりだ。


「君らにも何やら秘密があるというのは分かっている。ゼンイチ君の常人離れした動きにカズ君が持っている見たこともない道具、それに君のドラゴンに変われるという能力。君らがバロールと名乗る者に連れてこられたと言っていた事もある、それら全てについて我々には理解しかねる事だ。確かにゼンイチ君から一応の説明を受けたが、どうかもう一度説明してくれないだろうか?」


「あたしも……あたし達にも良く分かってないんです。ここに来たのだって無理やりだったんです!それでも……信じてくださいあたしたちは敵じゃないです!」


「隊長、ここで彼女に詰め寄って話を聞き出そうとしても、いい結果が出るとは思いません。彼らに話し合いをする時間を与えるべきでは?」


 あたしの必死の言い訳の効果があったのかなかったのか、イザベラさんはこれ以上話を聞いてもいい答えは聞けないとでも思ったのだろうか、それかアルフレード様の様子が少しおかしい事も気にしているのかもしれない。


「そう……だね。すまなかった、ちょっと部下の騎士たちの事を考えていて冷静さを失っていたようだ。恥ずかしい限りだよ。我々に必要以上に君たちを詮索する権利はないだろうし、そもそも前のゲームは君たちのおかげで勝利できたようなものだ。本当にありがとう」


「そんなことは……」


 そう言って軽く頭を下げるアルフレード様とイザベラさんに、あたしは戸惑ってしまう。

 本当にそんな事はないとあたしは思っている。だって一応あたしのドラゴンになるという最初エスリンに聞いたときはなんだそりゃと思った能力だけど、使ってみるとみんなに役に立つ能力で良かったと思ったし、あの能力が役に立ったのだってみんなの協力があったからこそだと思う。

 それにあたしにもっとドラゴンの力をうまく使いこなすことができたなら、もしかしたらゼンイチも助けられたかもしれない、そう思うと素直に喜ぶことなんてあたしにはできなかった。


エスリン(・・・・)


 考えてみれば色々バタバタしていて肝心なあたしたちを連れてきたやつの仲間である、エスリンに詳しく治せない理由を聞いていない事を思い出す。

 それにもしかしたらエスリンなら何かゼンイチを助ける手立てのヒントを得られるかもしれない。ならあたしだけでなくカズと一緒じゃなければ、あたし一人だとせっかくのヒントも生かせない!

 そう考えると居ても立ってもいられなくなる、アルフレード様ともう少し話したい気持ちもあるがそれは後でも十分だ。


「すいません!あたし用事があるので失礼します!」


 あたしのその突然の行動にアルフレード様とイザベラさんは面喰ったように驚いたみたいだったが、あたしの動きに何かを感じ取ったのだろう、理解したとでも言うように笑い返してくれる。

あたしはそのまま立ち上がると、ルーにも行こうと呼びかけて部屋を後にしようとする。でもふと言わなければいけない事を思い出し、ドアに向かう途中で立ち止まり二人の方に振り返る。


「あたしたちの事、今はちゃんと説明できませんでしたけど……、でもまた改めてちゃんとあたしたちの事ちゃんと説明しますから!だから待っていてくれませんか!」


「そうか……わかったよ、君たちは我々の仲間だ。説明してくれるのを信じて待つことにするよ。それから言いそびれてしまっていたのだが、先ほどのゲームで助けられたお礼というほどの事でもないのだが、アステリ様から浴場を借りられるように話をつけてある、そこで疲れをいやしてほしい」


「はい!わかりました!それじゃあ失礼します!」


 浴場ってお風呂ってことだよね?

 こっちの世界に来てからちゃんとお風呂に入ってないことを思い出し、かなり体がにおってるんじゃないかと少し恥ずかしくなった、けどお風呂にはいれるというだけでラッキーだ。

 あたしはエスリンから情報を得られるかもしれないという期待と、久々のお風呂にあたしの足取りはいつの間にか軽くなっていた。


読んでいただきありがとうございます。

続きも読んでいただければありがたいです。

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