第49話『第2層 水禍劇場 第5ターン』 第1節
4ターン目は一方的な結末を迎えた。
確かに途中まではこちらの作戦が功を奏して、相手の防御手段の判明と防御手段の突破が可能だということがわかったし、そのおかげで侍女のサリムの足止めをすることが出来たと言ってもいい。
しかし終わってみると、大敗と言ってもいいかもしれない。
ジャッバール組への攻撃はほとんど意味がなく、強引な突破力と機動力で瞬く間に突破されてしまった。 という印象だ、サリムたちにかかりっきりになってしまったというのも大きな理由かもしれない。
サリム組は足止めに成功、しかしその足止めの効果はそんなに続かず土魔法の戒めが破られてからは、アルフレード達が再び足止めと場外への押し出しを行ったが、結局落ちたのは3人で残りは時間切れまで足止めするのに精いっぱいだったというのが、今回の第4ターンだった。
その結果に言葉が出なかった。
別にアルフレード達を責めようとは全然思わない、だが敵と自分たちの力の差そして現在の点数の差を思い愕然としてついつい責めるような言葉が沸いてくる。
時間制限になってしまったため、GMオイロスが上空より降りてきて終了のターン終了のアナウンスをする。
「みなさま制限時間となりました。攻撃の中止と周回側の方はその場で立ち止まってください。皆さまお疲れさまでした。それでは結果をお伝えします、周回達成者7名に場外脱落者3名よって、ハウソーン同盟部隊に3点、ガリブ家親衛隊に21点が与えられます。よって現時点の点数はハウソーン同盟部隊18点、ガリブ家親衛隊36点になっております。点数は2倍近い開きがございますが、まだ逆転は可能でございます。どちらもご健闘くださいませ。」
そう言って一礼すると、アルフレード達とジャッバール達を回収するために足場を出す作業に入っている。
気になってアルフレード達の様子を見てみるが、全員項垂れていて苦渋に満ちた表情を浮かべていることが分かった。
今の攻撃に直接関わっていない俺でさえ、もっとちゃんと上手く作戦を立てていれば、もっといいアイディアがあったんじゃないかと自分を責めているというのに、直接かかわった彼らがどれくらい責任を感じているかは想像したくないほどだろう。
それはここにいる攻撃に参加できなかったメンツもそうだろう。
映像を見る表情はみな一様に暗く、すでに負けてしまったかのように沈んでいるのがわかる。
「なぁあんちゃん、うちら負けてまうんかほしたら……ほしたらうちら……。」
「お、落ち着けって。まだそうと決まったわけじゃないぞ。まだ勝ち目は……あるはずだ。」
「そんな気休めいらん、うちは……うちはまだ死にとうないんや、まだ友達だって助けてないんやで、それに村に帰って踊ったり、歌ったり、笑ったりしたいんや……。」
そう言ってうずくまっているハーフリングの少女は、嗚咽を漏らしながら後悔の言葉を呟き泣いているようだった。
こんな時に気軽に大丈夫だよ俺たちは絶対に勝てる、だから信じろなんて軽々しい言葉を言えればどんなに楽だろうか。
俺にはそんな言葉言えなかった、だって俺自身そんな言葉全く信じないしそれを他人に言うほど、無責任なことはないそう思うのだ。
そんな中でまだ諦めてないというよりも、まだ負けていないそう思っている奴がいるなんて思っていなかった。
「あのさ、まだ全然勝てると思ってる僕は変なのかな?」
そんな言葉をいつもの暢気そうな表情でそうのたまうカズが目の前にいて、俺は頭の中が急激に沸騰するように血があつくなるのを感じ、いつの間にかカズの胸倉をつかんでいた。
「お前っ!適当な事言ってんじゃねぇぞ!なんなんだよお前、勝算もないくせに適当なこと言ってんじゃねぇよ!お前の適当さと無責任さが人を余計に傷つけんだよ!」
「あの、その……ごめん、でも僕は適当に言ったんじゃなく、勝算だってちゃんと……。」
「ハァ?適当じゃなかったらなんなんだよ、ジャッバール達のあの動きお前だって見ただろうが!それにな18点も差がついてんだぞ!それでどうやって勝つんだよ!」
「それは……具体的なことはまだだけど……それでもまだ勝てるよ!」
「まだ言ってんのか!てめぇ……!」
「ちょっと……あんたら止めなさいよ。今はうちらが……ケンカしてる時じゃないでしょ!」
「アズ!お前大丈夫なのか、まだ寝てないと……。」
俺がカズの胸倉をつかんでいる時に、いつの間に起きたのか俺の肩を辛そうにつかみながら荒い息をしている。
「大丈夫なんかじゃないわよ、体は所々まだ痛いしさっきの事を思い出すとまだ怖くて体が震えてくるのよ。でもアンタらが喧嘩している近くでゆっくり寝られるわけないでしょうが。この馬鹿野郎ども!」
その言葉に俺は少し頭が冷えて、すぐさま手をはなす。
なんか最近俺は自分でも知らず知らずの怒りっぽくなっている気がする。
いやというよりも、自制が利きずらくなっているのだと思う。
これも能力の影響なのか俺にはわからないけど、今後気を付けなくてはいけないそう思ってカズへの怒りを鎮めることに集中する。
アズは疲れて立っているのも辛いのか、座り込み近くにいる目を赤くして鼻をすすっている双子の片割れを撫でている。
そんな中で俺とカズは無言で気まずい空気が流れていく。
そうしているうちに、アルフレード達が戻ってきていた。
しかしその顔には負けるかもしれないという絶望的な表情よりも、能力の使い過ぎによる疲労感の方が目立っているように思えた。
「アルフレード様ぁ、大丈夫ですかお疲れさまでしたぁ!」
「起きたんだねアズサ君、かなり辛そうだったが大丈夫かな?」
「はい全然大丈夫です。」
「それは良かった。それではこれからのターンについて作戦会議を行おうと思う、全員私の近くに集まってくれ。副隊長、全員に今の事を伝えてほしい。」
「了解いたしました。」
その命令を聞いたイザベラさんが伝えるために、走るとアルフレードは難しい顔でステージの方を睨んでいるが、かなり疲れているようで近寄りがたい雰囲気を感じた。
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それから1、2分後動ける人が全員集まり、会議を行うことになった。
最初のターンで負傷していた重装騎士のブルーノと、さきほどまで寝ていたアズもたっての希望で参加することになった。
「全員集まってくれて感謝する、まずは現状はみんな分かっているだろうが、かなり厳しい状況になっていると言わざるを得ない。」
「へっなんか他人事だな隊長、あんたのふがいなさと指揮能力のせいでこんな風になってんじゃんぇのかよ!」
「ロドリゴ貴様口を慎め、隊長のせいではない!我々の力不足のせいだろうが。」
ロドリゴのオッサンの言葉に突っかかるように、重装騎士のブルーノが反論の言葉を口にする。
「そうですかねぇ、あの時女の侍従に攻撃するんじゃなく、魔人の方に攻撃してりゃあこんな風にならなかったんじゃないんですかねぇ。それって指揮してた隊長のせいだろ?」
「貴様!それ以上言ってみろただじゃおかんぞ!」
「やれるもんならやってみやがれ。」
「二人ともやめよ!その様な事を今話し合っている余裕はない。疑義があるようならこのゲームに勝ってからにしてほしい!いいかな、ロドリゴ君。」
「へいへい、了解ですよ隊長さん。」
ロドリゴのオッサンはまだまだ何か言い足りないようだったが、もう言っても仕方ないとでもいうように少し離れたところに座りなおして目を閉じている。
「では話を戻そうか、このような状況になってしまったが我々はまだ諦めない、いや諦めるわけにはいかないその為にも皆にもこれからどうすべきか、どのような作戦をとるべきか一緒に考えてもらいたい。」
決意を込めた表情でそう言った後、みんなを安心させるためか無理やりな笑顔を見せる。
だがその笑顔で、逆にみんなは自分たちはどれくらい追い詰められているか、知らされた気分になった。
「それで何か考えがあるものは……。」
そこでカズはいつもの臆病な感じではなく、強い意志をもって手を挙げていると示すように手をぐっと伸ばしてアルフレードの方を見ていた。
「カズト君なにか思いついたことがあるのかい?」
「はい、ただし皆さんは反対するかもしれませんが……。」
「いい、大丈夫だ。言ってみてほしい。」
その言葉に背中を押されるように、カズは言った。
「次のターン、僕たちのチームは全員で周回しませんか?」
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