第47話『第2層 水禍劇場 第4ターン』 第3節
第4ターンはジャッバール達の予想外の動きで始まろうとしていた。
こちら側ハウソーン同盟部隊は7名、ジャッバール達ガリブ家親衛隊側は14名となっており、うまく落とすか足止めしなければかなりマズイ事になる。
それに魔族が使っていた防御手段の事もある。
一応俺たちで防御手段の予想と、その対抗策は話し合ったけどそれが本当に当たるかどうかはわからない。それに俺はこのターンには参加できない、攻撃はアルフレード達に任せるしかないだろう。
そんな祈るような気持ちで、空中に浮かんでいるモヤに映る映像を眺めていた。
隣には双子の内の一人エミリーとメアリーのどちらかは未だに分からないけど、『キバリやー』と必死に応援している姿がある。
俺も応援した方がいいのかもしれないが、そんな恥ずかしいことできるわけない。他のみんなも同じようで、双子の片割れをただただ温かい目で見ている。カズトも同じように見ているようで、俺はその様子を見て不意にアズサの事が気になった。
映像から視線を外して、アズの横たわっている場所を見ると苦しそうに呻く人たちの横で静かに眠るアズサの姿があった。
そんな大丈夫そうな様子でなんだかホッとする。
もうあんな姿は見たくない。俺たちの力だけでこの状況を切り抜けなければならない、そんな使命感にも似た気持ちが湧き上がってくるように感じる。
「なぁカズ、俺たちみんなでこのゲーム勝たないとな」
「うん、そうだね。その為にもアルフレードさん達がなんとか魔族の防御手段を解明してもらわないと」
「だな。だけどさ俺たちの予想正しかったのかね?」
「僕も確実なことは言えないけど、かなりいい線いってるんじゃないかなと思うけどね」
「それもこれもアルフレード達があの対抗策を実行できるかどうかが鍵だな」
そういくら考えてもそれを実行できるかどうかが問題だろう。
上手くやってくれればいいけど……。
「そう言えばお前アズの能力についてどう思った?」
「どうって?」
「だってドラゴンになったんだぞアイツ、俺は最初はカッコいいし羨ましいと思ったけどさ、あんな風になるんなら……ちゃんと止めるべきだった。そう思うだろ?」
「ゼン……。あれは誰にもわからない事だったんだよ。それにあの能力を使うって決めたのはアズ自身なんだ、だからその責任も代償も背負わなければいけないのはアズだよ」
「でも!お前がもしアズがあんな風に痛がるってわかって、あの能力を使おうとしたら止めるだろ?」
「僕は止めないよ。アズだってそういうことは承知の上で覚悟して使っているはずだから、それを止める権利は僕にはないよ」
「それはないだろ!友達だったら友達が無茶しそうなのを止めるべきじゃないのかよ!」
「うん普通の時だったらね。でも今はみんな命懸けだし、アズだっていつまでもゼンにばっかり頼りっきりになりたくないって思ってたはずだよ。僕だって……!」
「それはそうかもしれなけどさ、だけどやっぱりダメだろ!俺はもうアズのあんな姿みたくねぇよ」
「そうだね、できれば僕も見たくない。でもアズも悩んでるっていうのは分かってほしいんだ」
カズの言葉は俺の気付いていない心の隙間を確実に捉えていた。
俺はそんな事今まで全く考えてなかった、俺が頑張っていいところを見せれば他のみんなも認めてくれるしカズやアズたちも守ってあげられるそんな風に思っていた。
それが2人を追い詰めていることになんて考えてもみなかったのだ。
「なぁカズ、俺さ……」
「あんちゃんらさっきからやかましいわ!こっちは真剣に見てんねんから静かにしてや!」
「「はい、すいません」」
俺とカズは小さいハーフリングの女の子だというのに、その迫力にうろたえてしまう。
双子の姉妹の片割れはこちらを一度睨み付けると、すぐに映像が映っている方に向き直り、『いけー、いったれー!』と大きな声で応援し始める。
俺たちはちょっと無駄話をし過ぎたと反省しつつ、ゲームを映しているもやを再び眺めはじめる。
どうやら敵味方両方とも足場に到着したらしく、GMオイロスが降りてきて説明を行っている様だった。
まもなくゲームが始まるのだろう、アルフレードを筆頭に攻撃陣形を組んでいつでも攻撃できる態勢をととのえている、その反面ジャッバール達は悠然とした様子でその場に立っているだけだが、アルフレード達を見る瞳には殺気のようなものを出している様に見えた。
それを感じているのかいないのか、アルフレードも猛禽類の様な鋭い視線でジャッバールを威嚇するように見据えている。
そしてGMオイロスがいなくなると、すぐにスタートの合図が鳴り響いた。
最初に動いたのはジャッバールと侍従が6名ほどだった。前と同じように相手の攻撃など意にも介さないと言わんばかりに、無警戒に跳躍しスタート地点を離れる。
なるほど人数が多いからどのように進むかと思いきや、半分に分かれて最初の集団をジャッバールが、その次の集団を侍女のサニヤが先頭に立ち二組に別れて進む作戦のようだ。
確かにこうすれば大人数でも確実に進めるし、もしかしたら攻撃も分散できるかもしれない。
「俺たちも大人数でこうやった方が良かったんじゃないか?」
俺は近くにいたカズにも話を聞いてみる事にする、カズは厳しい顔をして難しいんじゃないかな?と呟く、それにどうしてだと聞こうとしたが、その前にカズは続きを話し始めた。
「いざとなったらああいうのもありだけど、まず僕たちは自分たちを守れる手段があまりないし、攻撃をすべて避けるなんてこともできないよ。だけどあっちは影のようなものでいくらでも自分の身は守れるし、こっちの攻撃を無視して移動することも出来るから、ああいう作戦もできるだけじゃないかな」
「なるほどな。俺たちじゃ誰かが壁で守ってくれなきゃ、すぐ全滅だもんな」
カズの言っていることは的を得ているが、いざとなったら俺たちもこの作戦を取るのも悪くないと俺は思う。
そうしている間にも戦局はどんどん進んでいく。
ジャッバールたちの集団が次の足場に移動すると同時に、最初の場所から動かなかった侍女のサニヤの集団が出発する。
だがそんな隙を見逃すほどアルフレード達も甘くない、ジャッバール達が次の足場に飛び移ろうとしたところで下から突き上げる様に水流が襲い掛かる。
だがその水流も黒い靄によって弾き飛ばされ、その水の勢いに押されるように足場に到着する。
これは俺達の考えた黒い靄に対する対抗策の前段階に過ぎない、うまくハマってくれることを祈るしかなく見てる事しかできない歯噛みするような気持ちで映像を見つめていた。
アルフレード達はジャッバール組の行動を妨げるために、ルーが用意した種を放り投げ、その種が足場に落ちると魔法のように一瞬で木の根のようなものが数本、天を貫こうとするように伸びはじめた。
それを見たジャッバールは鬱陶しそうに一瞥すると、侍従に命じてそれを切り倒すよう命令を下している。だがその動きが止まったところに、アルフレード達は攻撃を集中させた。
オッサンの投げる投擲武器やハーフリングの双子の片割れが土魔法で作られた大きめの石を、凄い速さで投擲しそれに合わせてダメ押しの水魔法が敵目がけて殺到する。
しかしその攻撃も中には当たるものもあるが、ほとんどが黒い靄にさえぎられてしまう。
だがその攻撃の中に気付かれない様に玉状にしたあるものをロドリゴのオッサンが投擲武器と一緒に投げている。
これが今回の作戦の肝だ。
その球状にしたあるものは、バレることなくジャバールたちの所に飛んでいくと黒い靄のようなものに当たる、しかしその瞬間に破裂し荒い粒の白い粉が敵を覆い隠すように広がっていく。
そうそれは煙幕用にロドリゴのオッサンが持っていた小麦粉の塊だった。
その小麦粉が先ほど使った水魔法の影響で湿った体に付着して、見えてなかった何かがわかるだろうというのが防御方法を見破るための作戦だ。
しかしこの方法ではみえない防御を破る事はできはしない。だがどのような手段を使っているのかわかるというだけでもかなり重要なことだとアルフレードとカズトは話していた。
そして霧のように広がった小麦粉がすべて落下した後に出てきた、まともに白い粉を被りローブのあちこちを白く染めた侍従の姿に防御手段はハッキリと現れていた。
まあ分かってしまえば簡単なことだ、誰しもがやっぱりそうかというだろう。
しかしそこにはそれをわからないほどの、身体能力と呪術があったのは認めるしかない。
そうジャッバールの侍従の魔族の男のローブの背中より下の方から、小麦粉のせいで斑に装飾されたトカゲのような根元が太く、先の方に向けて短くなっている尻尾が体を守るように動いていたのだ。
言われてみれば簡単だが、俺たちには全く気付けなかったのには訳があったのだと改めて気付かされる。
まず動きがかなり早く、体を守ることだけにほぼ自動的に出てきてそれが終わったらなくなる。そしてローブを着ているのももしかしたらそれを隠すためだったのではないかと思い至る。
体の体形を隠すようなローブによって尻尾の事を気付かせず、尻尾を出すための穴もローブなどであれば気付かれにくい。
ましてや特殊な呪術で見えにくくしていれば、今回の様な事がない限りバレる事はまずないだろう。
さぁこれでジャバールたちの防御手段のネタは分かった。
後はどのように攻略するか、一応みんなで考えたが本当にやってみなければわからないだろう、俺はアルフレード達が何とかしてくれるだろうことを祈りながら、ゲームを見守っていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
これからも頑張って書きますのよろしくお願いします。




