第45話『第2層 水禍劇場 第4ターン』 第1節
赤いゴール地点にまるで追突するように到着した俺達は追突した勢いで、頭が殴られたように頭がぐらぐらしているがなんとか意識は保っている。
俺は痛む体をなんとか起こしつつ周囲を見渡すと、イザベラさんとルーもなんとか無事な様でゆっくりと体を起こしている。
そしてアズサの方を見てみるとまだ変身が解けていない、ドラゴンの状態になっているアズサがぐったりと横たわってるのが目に入る。
もしかしてぶつかった衝撃で気絶でもしているのだろうか?
俺はふらふらする頭を押さえながら、ゆっくり立ち上がりアズサの方に近づいてく。
「おい、大丈夫かアズ?おいってば!」
その呼びかけにもアズはぐったりと横たわったまま動くことがなく、次第に不安な気持ちが込みあがってくる。外見はドラゴンだが、中身はアズな為触ってしまっていいか戸惑うが、翼の所を少し強めに叩いてみると、表面は黒いうろこに覆われていて少しだけ体温を感じるものの大きな動きがない。
原因なら決まっているこの姿になるための能力の影響だろう、だったら一番良く知ってる奴に聞くしかない。
(エスリンさ~ん!おいってば、聞こえてんだろぉ?)
『アァ?どうしたんだよ、テメェら無事にゴールできたんだろぉが、まだ何か用があんのか?』
(いや、そんなに重要な事じゃないんだが、アズがさっきから全然動かないんだ。これって大丈夫なのかと思ってさ)
『ヘッそりゃ能力の影響だな。体中の細胞を能力を使って無理やり変質させたんだ、体に負担がかかるのは当たり前だろぉ』
(でも元に戻れるんだろ、アズはそう言いってたぞ)
『まぁなとは言っても、元に戻れるって言い方は正確じゃねぇな』
(どういうことだよ!)
『時を巻き戻すみたいに元に戻るってのは不可能だぜぇ、そんな力はねぇ。だがな前の状態と同じに体を変質させることは出来るって事だぜぇ』
(でもアズは元に戻れるって……)
『あの嬢ちゃんは俺様の話を全然聞かねぇからなぁ。いいから早くしなさいよの一点張りで聞く耳をもちゃしねぇ』
エスリン12は若干疲れたような声でため息をつきながら話す、その話になんかアズらしいなと毒気を抜かれてしまったような気分になる。
色々小難しい事があるのだろうが、元に戻れるということを聞いて少しだけ安心した。
(まぁいいや、一応元に戻せるみたいだしさ。それでエスリンお前が勝手に能力を切る事って出来ないのか?)
『そりゃあ無理だな、俺様はスイッチを持っているだけでそれを押すのはテメェらだ。そのルールは変えられねぇな』
(え~~、どうにか……)
『オイ、ちょっと待て。お嬢ちゃんが起きたみたいだぜ』
(本当か?じゃあスマンが念話を解いてくれ)
『ヘイヘイ、注文の多い野郎だぜぇ。そんじゃあな』
その言葉と共に先ほどまでゆっくりと流れていた視界が、通常の視界へと戻りさっきまでピクリとも動かなかったアズが眼を開きその巨体が体を起こし首を持ち上げる。
「おいアズ?お前大丈夫か?どっか痛むのか?」
その呼びかけに一度俺の方を向くも、その後辺りを見渡してから俺に向かって喋りだしてたのだが
「グガァアウガウ?ガガウグガガガウ」
「お前人間の言葉喋れなくなってんぞ!早く戻れ、戻れなくなるぞ!」
「グガガウアウ、グウアッウアウ」
マジかよなんでいきなり言葉がしゃべれなくなってんだよ、これも能力の代償なのか?
アズが何を言おうとしているかはさっぱりわからないが、焦っているのはなんとなくわかる。
アズはバタバタと腕を動かし頭を抱えている。
そして一瞬動きが止まる多分エスリンと念話でもしてるのだろう、するとすぐにみるみると体がしぼみ始め俺と同じくらいの身長になっていく、だがそれからアズは突如としては悲鳴をあげてうずくまる。
「グウウウウあああああああ、痛い痛いいたいたい。やめて何なのよこれ私がわたしの体が痛いいたいの、タスケテェェぁぁ!!」
「おい!アズしっかりしろ!おい!」
その悲鳴は今まで聞いたこともないほどの狂気をはらんでおり、まるで傷口に手を無理やり入れられているようなこちらに痛みまで伝わってくるような悲鳴に、まるで自分自身に大丈夫だと言い続ける様に呼びかけるしかできない。
アズの異変に気が付いたルーとイザベラさんも血相を変えて走り寄ってくる。
「アズサ君どうしたんだ!しっかりしろ、何があったんだ!」
「アズゥ……しっかりしてぇ死なないで。ボクがすぐに……すぐに薬を作ってあげるから、だから……」
「私のわたしのからだ、熱い、暑い、あつい体が溶けそうなのよ!誰か誰か何とかしてぇぇ!」
イザベラさんもルーも必死で介抱しようとするも、どうすればいいのかさえ分からない。
それもそうだろうアズの体は姿かたち自体は人間の姿に戻ってきてはいるが、体に残っている竜の鱗がまるで溶ける様に剥がれ落ちていくのだ。
それを前にして対処法など誰も分からず、全員見てるしかなかったのだ。
そうした様子は数分ほど続き、収まった時にはアズは最初のこのゲームに参加する時の体と服装に戻り。
なんとか落ち着いた様子で気絶したように眠り始めた。
そのアズの右手を心配そうに握りしめながら、良かった良かったとルーはしきりに呟いている。イザベラさんは俺に対して、後で説明してもらうからなと言い捨てるとアズサを介抱するために戻っていく。
俺だって何が何だかわからないのだ、エスリンはちゃんと戻ると言っていたはずだ!
それがまさかこんなことになるなんて全く思っていなかったのだ。
そんな光景を見ていると、GMオイロスが楽しそうに笑いながら石に乗りこちらのゴールの足場と敵側との間に降りるといつものように声をあげる。
「参加中の皆様お疲れさまでした。ゲーム終了の時間となりました。そして今回のゲームでの周回達成者は4名、脱落者が3名よってハウソーン同盟部隊に12点、ガリブ親衛隊側に3点が与えられます。よって今までの点数の合計はハウソーン同盟部隊17点、ガリブ家親衛隊15点となっております。ゲームも終盤戦になってまいりました。両チームとも死力を尽くして頑張っていただきたい次第でございます。では参加者の皆さまは石の上のお乗りください。」
それからアズはイザベラさんが背負い、石に乗って移動することになった。
俺が背負うと言ったのだが、イザベラさんは君はいいから我々に説明する内容でも考えてくれと言われて俺は黙ってそのまま乗ることにした。
いまでもさっきのアズの苦しみ方を思いだして、背筋が凍る思いがしていた。
もしまたアズが能力を使ったらどうなってしまうのだろうか?俺の代償は精神と肉体とのかい離で、俺の能力でさえ自分が自分じゃなくなるような感じがして、ハッキリ言って相当きつい。
それがドラゴンの変身する能力など、どれくらい代償があるかわからない。
そんな物思いにふけっていると、俺の心の準備など知らず味方陣地に到着する。
それを待ち構えていたのだろう、アルフレードが指示を出しアズを簡易の寝所に寝かせ、ルーがケガなどないか見ている。
その様子を俺が見ているのとほぼ同時に石が水の中からせりあがってくる。
途中で脱落した中性的な女騎士と弓使いの騎士、それにハーフリングのブレントが石の上に乗せられて運ばれてきていた。それイザベラさんが指示を出し全員で手分けして運び、他のけが人と共に寝かせている。
だがやはり敵側と同じに寄生虫に寄生されているのだろう、皆同じようにお腹を押さえ苦痛のうめき声をあげていた。
そんな様子をただ茫然と見ていた俺の所に、カズが心配そうな様子で歩いてくる。
「ゼン、アズは……?」
「すまん、俺のせいでアズが……」
「ゼンのせいじゃないよ、それより何があったの?それからエスリン12と何を話したのか教えてよ」
「そう……だな」
「ちょっと待ってくれないか、わたしたちもそれを聞きたいと思っていた。ゼン君が最初のターンで我々にもできないような動きで、魔族の攻撃をかわしていたことについてもだ。最初は君の特殊な魔法の様な物と思っていたが、アズサ君の変貌ぶりを見て確信したよ。君らは何か特殊な存在なのかもしれないとね」
アルフレードはイザベラさんを引き連れ、それに続くように話を聞いていたハーフリングのバイロンと先ほどまで看病をしていたルーが、他の騎士に看病を代わってもらったのか、皆一様に難しい顔をしてこちらの話を聞こうと集まってきていた。
だがこれは話すべきなのだろうか?もしかしたら気味悪がられるかもしれないし、理解してくれないかもしれないそんな思いが俺の心をよぎる。
そんな俺の思いを感じ取ったのか、カズが諭すように口を開いた。
「ゼン、僕たちは絶対にこのゲームで勝たなくちゃいけない、それにこれからもみんなでこの迷宮を攻略していくそのためにも僕は話した方がいいと思う」
「そう……だな、カズの言う通りかもな。それに……俺って秘密にするのとかって苦手だしな」
俺がそう言うと、カズはそうだねと笑いながら頷いた。
その様子に勇気をもらって、俺は俺たちの状況や能力などを話し始めたのだ。
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