第44話『第2層 水禍劇場 第3ターン』 第5節
アズサ(翼竜)によってゼンイチ達は首吊り状態になりながらも赤い足場の中間地点に到着し、なんとか着いたと心の中で安堵したのも束の間、ゼンイチはアズサ(翼竜)によって投げ捨てる様に放り出されていた。
「ふげぇ!」
「あ!大丈夫ゼン、ちょっとまだこの体慣れないのよね、力加減がわからないっていうか?」
「だからってだな、もうちょっとゆっくり下すとかあるだろ!」
「うっさいわね!ここまで運んでやったんだから、それだけでありがたいと思いなさいよ。なに?あんたあそこに置いてって欲しかったわけ?」
そう言いながら翼竜の姿をしたアズは太い2本の足で立ちながら、すねる様にそっぽを向いてるのだ。
おまえ今ドラゴンになってんのわかってるのか?そんな仕草してもまったく可愛くないぞ、むしろ威厳があってカッコいい。写メを撮ってSNSにアップしたいぐらいだ。
「ちょっとそんなにジロジロ見ないでよ!この変態ハ虫類マニア!」
「誰が変態ハ虫類マニアだ!しょうがねぇだろドラゴンなんて始めて見たんだから、しかも翼竜って奴だろ?こんなの見て興奮しない男はいねぇって!」
「やっぱり興奮してんじゃないこの変態!私がこんな格好……てか私の服はどこいったのよ!私何も着てないじゃない、こんなんじゃ元に戻れないわよ……」
翼竜になっているアズはドスンドスンと地団太を踏みながら怒っていたのが、今度は頭を抱えて丸くなっている。アズはドラゴンになってもうるさい奴だとこんな時だというのに、なんだか笑ってしまった。
そんな時左袖を引かれる感じがして、左側を向くとルーは困ったような顔で俺の事を見つめ返してくる。
「どうかしたのか?ああ、アズだったら大丈夫だ。こんななりだけど、普通に話せるし」
「違うの、あっち……」
ルーにそう言われて指さした方を見ると、どうやらGMオイロスとイザベラさんが何やら口論をしているのが目に留まった。
そうして辺りを見回すとハーフリングのブレントと弓の騎士がまだこちらに渡りきれていない事にようやく気付いた。先ほどまでは赤い足場の中間地点までもう直ぐの所まで来ているのが見えたから、もう先についているのだと思っていたがまだ着いていないようだ。
まさか水に落ちてしまったのだろうか、今立っている足場から一つ手前の足場までロープが伸びており先の方は足場の陰に隠れてみることが出来ない。
「なぜですか?部下の危機なのにどうして助けに行ってはいけないのですか?もしかしたらこのロープの先に部下が掴まっているかもしれません」
「はぁ~先ほどから言っているでしょう?助けてはダメだと行ってるわけではないのですよ。ただあなたがたぐろうとしているロープの先はすでに水の中にあるかもしれません。それですとルール上お仲間の方はもう脱落者とみなされますので復帰は無理ですよ、ということを言いたかったのです」
「分かりました、私はそれを考慮したうえでロープをたぐりよせ部下を仲間を助けます。それでよろしいのですね?」
「はい、お好きなようになさってください」
そう言うとGMオイロスは薄ら笑いを浮かべながら、そのままその場を去っていく。
イザベラさんはそのまま何も言わずにそこを離れて、来た方に戻ってロープを手繰り寄せようとしているようだった。それを俺は慌てて呼び止める。
「イザベラさん、待ってください。今から戻って助けるなんて無茶ですよ。第一そこのロープの先に仲間がいるかどうかもわからないじゃないですか?」
「そんな事は……そんな事は分かっている!だが部下がアルフレード様よりお預かりしている部下を簡単に見捨てるわけにはいかないのだ!」
「でもなんか……イザベラさんらしくないですよ。なんか熱くなりすぎというか……」
「貴様に何がわかる!私の何を知っているというのだ貴様は!」
そう言いながらイザベラさんが俺の胸倉をつかみながら青筋を立てて激怒している表情が、いつもとあまりにも違い俺は茫然として次に続く言葉を見失ってしまった。
俺のその表情に気付いたのか、イザベラさんは掴んでいた手を放しくるりと向きを変えてロープの方に向かおうとするが、その途中で立ち止まる。
「悪かったですね。ですが覚えておいてください。あなた方の事はアルフレード様同様ある程度認めています。ですがあなた方はどこの誰とも知れない者たちであることを、もしアルフレード様に敵対するようでしたら問答無用で排除いたします。お忘れなく」
そう言い放ったイザベラさんは、かぎ爪のついたロープを引っ張っていくが、その先には水にぬれちぎれたロープがつながっているだけだった。
それを見たイザベラさんは一度舌打ちをするとすぐにもう駄目だと判断したのかアズとルーの方に向かって歩いていく。その背中には焦りや怒りといった感情をぶつける場所を見つけられずに、さまよっているように俺には感じられた。
・
・
・
それからすぐに次にどうするかを4人で話をすることになった。
最初に口を開いたのはアズだった。
「イザベラさん、ハーフリングの人と弓を持った騎士の人はどうなったんですか?」
「ああそうだな。君らにも言っておく、彼らは私たちが空にいる間に水に落ち脱落してしまったようだ。だが気にしないでほしい彼らは死んだわけではない、私たちがクリアできればすぐに戻してくれる。心配するな」
「でも……いえやっぱりいいです。それになんかイザベラさん変わりましたね。雰囲気とか何かが」
「いや私は変わっていない。ただそこの男に自分のやらなきゃいけない使命を改めて自覚させられただけだ。私は元々こんな感じだ、アルフレード様の前では取り繕っているがな」
「ゼン!あんたイザベラさんに何したのよ!今言えば許してあげるから白状しなさいよ!」
「なんで最初から俺が何かした前提で話してんだよ。俺はなにもしてないっての!」
「どうだかね~」
「無駄話はその辺でいいか?事態は切迫しているんだ、余計な事は喋るな」
「「はい、すいませんでした。」」
そのイザベラさんの迫力に俺は冷汗をかき、アズはドラゴンになっているくせに気を付けの姿勢をとって少し震えている。
「ではこれからどうするかだが、我々は幸か不幸か人数が4人という移動には好都合な人数になった。アズサ君あなたには我々3人を乗せてゴールに向かってほしい。できるな?」
「え?はい、まぁできますけど……」
「けどなんだ?」
「いえ、なんでもないです」
「ちょ、ちょっと待ってくれません。まさかまた俺は首の後ろをくわえて飛ぶとか言わないよな?な?」
「ゼン君、何か問題が?」
「いやあれものすごく苦しいんですって、だからなんか別の方法を考えてくれませんかね」
「では背中では?背中にも乗せられるんだろう?」
「乗せられますけど、ゼンを乗せるのはちょっと……」
「オイ!俺はなんで乗せられねぇんだよ、理由を言え理由を!」
「え~なんか気持ち悪いし~」
その言葉は俺の心を折るには十分だった。
恥ずかしいからとか体に触られるのが嫌とかそんな理由でなく、なんか気持ちが悪いという漠然とした生理的嫌悪感を思わせる言葉に、俺は思わず膝をついてしまう。
なんだよなんかって、もっと具体的に言ってくれよその方がまだ笑って流せるからさ……。
俺のそんな落ち込んだ様子に関係なく話は決まって、結局俺は右足に余りくっつき過ぎないという注文付きで、左足にイザベラさん、背中に首にしがみつくようにルーが掴まるといった感じで進むことになった。
「それじゃあ行くよ。みんなちゃんと掴まっててね。」
その声で翼竜になっているアズは、バタバタと羽ばたきはじめぐんぐん高度が上がり3,4mほど上に揚がったところで、今度は滑空を始めた。
すぐに赤い足場の外へと飛び出していく。そこにまるで見計らったように魔族の呪術でできた7つの長い首を空中まで伸ばした、まるで多頭竜のような黒い蛇が、俺たちを水に叩き落そうと襲い掛かってくる。
アズは正面からくるのを右に避けようとするが、それを追いかける様に蛇の首が襲い掛かってくる。それをかわすために滑空を止めて、翼をはためかせてホバリングする。
その間にも黒い蛇は襲い掛かってくるが何とか右に左に躱していく。
あともう少しでゴールにたどり着くというのに、それを防ぐように黒い蛇が邪魔をして通ることが出来ない。
「アズ!何か攻撃方法は無いのか?」
「分かんないわよそんな事、あたしができるのは飛んだりすることくらいよ!」
「じゃあどうすんだよ、このままじゃ絡みつかれて水面に落とされるぞ!」
「ホントにもう……!この蛇ウザいわね!あたしだって何とかしたいわよ!」
アズはかわすのがやっとで身動きが取れない。俺たちが何とかしなければ行けないが俺には方法なんて思いつかない、だがそんな時にアズに必死につかまりながらルーが声を上げる。
「ボクが……ボクが何とか……しますぅ!ボクを信じて……目を閉じてください!」
その声で俺はすぐに目を閉じた。
それはアズやイザベラさんも同じだろう、それぐらいルーの声には必死さとなんとかできるという自信が感じられた。
そして次の瞬間、目の前をまばゆい光が覆いつくす。目を開けていれば目がつぶれるかもしれない、それぐらいの光が突如目の前に現れたのだ。
それから光が少なくなったと思ったころ、俺は恐る恐る瞼を開ける。
すると目の前にいたはずの黒い多頭の蛇は薄く灰色になっていて先ほどまでのちからを感じられない。
「おいアズ!チャンスだ、全力で突っ込め!」
「へ?いや全然前が見えないんだけど、大丈夫なの?」
「いいから、今ならいける!」
「わかったわよ!みんなちゃんと掴まってなさいよ!」
そういうと再び滑空をはじめものすごい速さでゴールへと飛んでいく、灰色になってしまっている蛇は力を失っていて、魔族たちは黒い影の刃を放ってくるがそれが高速で飛ぶアズサを捉えることが出来るはずがない。
そして俺たちはゴールの赤い足場にまるでぶつかる様に突っ込んでいったのだった。
読んでいただきありがとうございます。
ブックマークや感想などいただけるとありがたいです。
次の更新は幕間になります、よろしくおねがいいたします。




