第40話『第2層 水禍劇場 第3ターン』 第1節
ジャッバール達4人がゴール地点である赤い足場に到着したと同時に、スタートの合図と同じ音が鳴り響く。
「皆様、唐突ながら第2ターン終了でございます。周回達成できる方がもうおりませんようですので、これにて終了となります」
制限時間はまだ経過していないが、周回者がいないということで第2ターンは終了になったようだ。
「それでは第2ターンの結果を伝えさせていただきます。周回達成者はガリブ家親衛隊より4名、計12ポイント。ハウソーン同盟部隊の攻撃達成人数は2名の計2ポイントになります。よって現在ポイントはハウソーン同盟部隊が5ポイント、ガリブ家親衛隊が12ポイントになります。若干ポイントの差が開いていますが、まだまだ挽回のチャンスはございますよ。両チームとも頑張っていただきたい次第でございます」
そう|朗〈ほが〉らかにGMオイロスは宣言する。
だがそのポイント差を埋めることがどれほど厳しいかは、先ほど周回側で参加した自分が良く分かっている。次の周回側でも最低3人、周回を成功しなければ、差は埋めることができない。
そしてそれを行うチャンスは後2回しか残っていないのだ。
「これはかなりマズイ状況なんじゃねぇか、俺たち残り2回しか周回のチャンスねぇぞ」
俺と同じことを考えていたのだろうオッサンが、悲鳴のように呟いている。
「いえ、まだ2回ありますから。チャンスは十分にありますよ」
「でもどうするんだよカズ、俺達はまだあいつらの呪術の攻略法も見つけてねぇんだぞ。それに相手は他にどんな攻撃手段を持ってるかもわからないしさ」
「それは一つ一つ潰していくしかないよ。その中でも一番かかってはいけないのが足止めの呪術だよ」
「確かにな、あれにかかるとサンドバッグ状態になるからなぁ。でもあれもどうしてああなったんかよくわかんねぇんだよな」
「僕も映像で見ていたけど、相手の呪術師は立っているだけに見えたけどなぁ。だけどこちらの映像では後姿だけだったんだけどね」
呪術師アリムがやっていたことか、そういや何かブツブツ言ってたような気がするな、それにおかしな形の杖をくるくる回していたかもしれない、でも今はあんまり関係ないかもしれない。
そのほかに思いつくことなんて特にない、もしかして足場に何か仕掛けをしていたとかか?
そんな風にごちゃごちゃと考えてると、気になったのかカズトが話しかけていた。
「何か思い出したことあった?意外なことが条件になる場合があるから、何でも言ってみてよ」
「そうだなぁ、じゃあ関係ないと思うけどなんかブツブツ呟いてたのと、杖をくるくる回してたような気がするな。……ああ!そう言えば!」
「何か思い出したの?」
「いや呪術師の奴、俺たちにこんな呪術ガキしかかかんねぇよって言ってたと思ってさ」
「なるほどね、じゃあその杖をくるくる回しているのが原因なんじゃないかな?」
「はっ!?いやでもあんなので動けなくなくなることはないんじゃないか?」
「いやそうでもないんじゃないかな。この世界では魔法があるくらいだし、催眠術と同じようなことをして相手を動けなくすることも可能なんじゃないかな?ロドリゴさんは杖をくるくる回しているところは見ましたか?」
「あっ!?そうだなぁ……」
いきなり話振ったせいか、オッサンは結構考えている。
いやそんなに考える事か、オッサンもじっくり相手の事を見てたんだから覚えてるだろうに。
「ああそう言えば、杖をクルクルと回すのおれもなんとなく見ちまってたなぁ。あんな事に意味があるなんて俺はおもわかったけどなぁ」
「ですが、そのこと以外に思い当るような事はないはずです。だとしたら考えてみる価値はあると思います」
「価値ねぇ。俺はそう言うの良く分かんねぇから、うちの隊長にでも言ってくれ」
「わかりました」
そうやって俺たちで呪術に話していると、浮遊する足場を使ってアルフレード達が戻ってきている所だった。
アルフレード達は攻撃を受けたわけではないはずだが、雰囲気から疲労困憊の様子がみてとれた。
すぐに待っていた騎士の一人が声を掛けに行くが、覇気のない様子で受け答えしている。
だがそんな時に敵陣の方から怒鳴り声が聞こえてくる。
「どういうことだ神族!我が下僕に何をした!」
ジャッバールの吠えるような叫び声が室内にとどろく。
どうやら水に落ちたと思われる侍従の二人が、大きな傷はないようなのに床へと横たわりうめき声をあげてのたうちまわっているのが原因のようだ。
そこにGMオイロスが半分隠れた顔を笑顔で歪ませながら降りてくる。
「何をしたかと申しますと?」
「この下僕たちは水の中に落ち、お前が引き上げたのだろうが。なぜこのように苦しんでいるのだ、貴様は原因を知っておるのだろう?」
「それは皆様が質問されませんでしたのでお答えしませんでしたが、こちら水禍劇場では水の中に特殊な寄生虫が棲んでおります。死ぬことはございませんが、痛みは当分続くでしょうね」
「なんだと!では今すぐ治すにはどうすればいいのだ」
「一応虫下しの薬がございますので、それを飲んでいただければすぐにでも治ります」
「ではそれをよこせ!」
「申し訳ございませんが、こちらはゲームで獲得したポイントとの交換になっております。虫下し1つにつき1ポイントになります」
「なんだと!貴様が説明せぬからこのようなことになったのだぞ、薬を渡すべきだろう」
「何を言っておられるのですか、ワタクシには説明をする義務などはございません。ワタクシはちゃんと質問をする機会を平等に提供いたしました。それを生かせなかった皆様の責任でございます」
「神族キサマ!……」
再び暴走しようとするジャッバールを老人のハーキムが杖で留める。
「若ここは引き下がり下さい。このような神族などに頼らずともこちらで薬を作りますじゃ。ご安心下され」
「クソガッ、今に見ていろ神族。この迷宮をクリアしたアカツキには我直々にタイバス大陸に乗り込み、神族をこの世から消し去ってやる」
「どうぞご自由に、迷宮を攻略していただければ歓迎いたしましょう。それはそうと次のターンまで時間はございませんので、ご準備のほどをよろしくお願いいたします」
そう述べたのちに、オイロスはすぐにその場を離れていく。
これってやべぇじゃねぇか、攻撃されるのも危険だが、もし水に落ちてしまった場合も寄生虫に寄生され痛みで動けなくなる可能性がある。これはどっちも厳しい、みんなとすぐにでも対策を考えなければ。俺はそう思いすぐにアルフレードの近くに近づく。
「おい、アルフレードさん次の周回はどうするんですか?攻撃受けるのもまずいし水に落ちるのもまずいと思うんですけど」
「ああ、私も見ていた。これはかなりマズイことになった、寄生虫がいるとはね。もし私たちの中で水に落ちたものがいるとしてもポイントは安易に使うことが出来ない。だとするとなんとか落ちずに躱し続け周回するしかない」
「だけどどうするんだ。何かいい案でもあるんですか?」
「いや済まないけど、お手上げだよ。先ほども我々は全力に近い魔法で攻撃をしていたのだが、あちらの不可思議な守りを抜けずに、4人を無傷で通してしまった」
そう言いながらアルフレードはいつものさわやかな笑顔はどこかにいってしまったようで、疲れたようにため息をついている。
そんな時に声を掛けてきたのは獣人でドルイドの少女ルーだった。
「あの……ちょっと、いいで……しょうか?」
「どうしたんだルー?もうブルーノのケガはいいのか?」
「あの……はい大丈夫です。あとはあの人の……生命力次第かと思います」
「そっか、良かった。で何かあったのか?」
「あの……えっと……その」
「ちょっとゼン!ルーは人見知りなんだからそんなにイジワルに話さないでよ!」
いや全然意地悪にはなしてねぇっての。そう思いながらもアズはルーについてはまるで子連れの母熊のようなものだから、無用なツッコミはやめておこう。
アズはルーにほら頑張ってと、小さい子を勇気づける様に話しかけている。
ルーは両こぶしを握り締めながら、決意を秘めた目でこちらを見つめる。
「次の……周回、ボクに参加させてください!」
いつもの気弱な感じではなく、はっきりとした声でそう告げた少女は、まるで別人のように頼もしく見えた。
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