第38話『第2層 水禍劇場 第2ターン』 第2節
「それでは皆様準備はよろしいでしょうか?水禍劇場 第2ターンを始めさせていただきます。参加者の方は前においでになってください」
GMオイロスのこの場に似つかわしくない、明るい声が部屋に響き渡る。
アルフレードの答えはまだ聞いていないが、アルフレードはイザベラさんに目配せをするとイザベラさんは人員を集めるために駆けていく。
「それではバイロンさんお願いできますか?」
「ああ!もちろんやで、任せてんか。」
その様子を双子がブスッとした顔で睨んでいるのを、ハーフリングのブレントは肩に手を置いてなだめている。
そうしているうちにイザベラさんが、アルフレードが先ほど言った通りの次のターンに参加する人物を集めきていた。
出てきたのはどこか中性的な感じの軽装の鎧と大きめのローブを着た騎士、それに軽装鎧を着たマッシュルームカットの騎士それにボサボサの金髪に無骨な弓を持った騎士の三名、それにアルフレード、イザベラさん、バイロンの6名が前に出て並んでいる。
その目の前の透き通る水の中から浮かび上がるように足場が現れ、乗り込んだ6人を中央のステージに運んでいく。それと同時に隣の敵陣からも6人、ジャッバールを筆頭に石の上に乗り赤い足場に運ばれていった。
先ほど周回側でゲームに参加している時思ったのだが、この自陣からステージまでは意外と距離があって今どのようなことがステージ上で行われているのか良く分からない。
「なぁここからじゃステージの方良く見えないんだが、どうやって見てたんだ?」
丁度近くにカズがいたので聞いてみる事にした。
「ああそれか、まぁ説明してもいいんだけど……見た方が早いから」
「はぁ?それってどういうことだよ?」
「いいからいいから、すぐに分かるよ」
なんだそりゃ、意味深ですごい気になるんだが。
カズがそこまで言うんだから、まぁ待ってみるかと考え直し、腕を組んで待ってみる。
するとすぐに何か靄の様な霧のようなものが立ち上り始める、大丈夫なのだろうかと思い周りを見渡すも皆は全く動じてないので、俺も黙って待つことにする。
次第に靄は四角く形を変え、そこにうっすらと何か絵が映りだしていく。
「もしかしてこれに映像が映ったりするのか?」
「そうだよ、どうやって映したり撮ったりしてるのかはよくわからないけど、みんなが見たいと思っているところを映してるみたいだよ」
「すげーな、日本でサッカー中継見てんのと変わんないじゃん」
「そうだね」
俺はテンションが上がって映像が映るのをはしゃいで待っているが、カズはずっと難しい顔をして四角い靄を見ている。
何でこんなすごい技術?魔法?でテンションが上がらないのかわからずに、はしゃぎながら映像を見ていたのだが、その理由はすぐに分かった。
映像にアルフレード達6人、ジャッバール達6人が映し出された。
アルフレード達は簡単な陣形を組んで、ジャッバール達の方を見ている。
一番前に背の低いバイロンとぼさぼさ金髪の弓を持った騎士、その斜め後ろに魔法が得意であろう騎士が二人、そしてそれを監督するかのようにバイロンの後ろにアルフレードとイザベラさんという布陣だ。
それと全く逆に、普段と何も変わらない自然体の様子でジャッバール達は立っている。
ただ散歩にでも行こうといった感じで、アルフレード達というか俺たちハウソーン同盟部隊は完全に馬鹿にされている。
GMオイロスが何か参加者に言っているが、それはここからでは聞くことが出来ない。
そして始まりの音が鳴り響いた。
四角い靄にはジャッバールがいる外側から見下ろすような角度の映像が表示される。
しかしジャッバールは中々動こうとしない、相手をじらすように相手をおちょくるようにゆっくりと歩いていく。
それをアルフレードは今か今かと待ちかまえ、手を挙げてその手を振り下ろす機会を待っている。
ジャッバールは足場の端に達すると助走もすることなく、軽々と跳躍を行い、隣の足場に跳ぶ。
だがそれを見逃すほどアルフレード達も甘くない、すぐに弓矢や石、氷魔法で作られた氷の塊が一斉にジャッバール目がけて殺到する。
その攻撃はジャッバールに当たるかに思われた、しかしそれは見えないものに弾き落されて全て水面に消えていった。
周りは唖然としている、今のは確実に当たったかと思った。しかしどうやって防いだのかも判然としないのは不気味だ。
その後二度ほどジャッバールを狙い攻撃を加えるものの全ては肉眼でとらえることが出来ない、影のようなものですべて防がれ、傷一つ付けることが出来ない。
そうしている間もジャッバール達は悠々とした足取りで足場の上を進んでいく、まるで石飛の遊具で遊んでいるような余裕さが表情から感じられた。
その様子に俺はいら立ちが募っていく。
何やってんだよ。あんたらあのぐらいの攻撃しかできないのかよ。相手は全然余裕じゃねぇかよ、もっとちゃんとやれよ。遊んでんじゃねぇぞ!ふざけんな!俺が死ぬ気で点数取ったんだぞ!早く殺せ!
殺せ殺せころせ
コロセ!!
「……ゼン!聞こえてる?ゼンってば!」
「……コロセ……コロセ……コロセ!」
「ゼン!どうしたんだよ!しっかりしなよ!」
ああ、まただ俺の意識は、いつの間にか黒い感情でいっぱいになっている。
前までは体が言うことを聞かない程度だったのに、今度は肉体が精神を汚染するように冷静になろうとすればするほど本能がそれを邪魔してくる。
「うるさい、黙れ殺すぞ!この役立たず、てめぇは何にもしてねぇからそんな風に冷静なんだろうが!もっとテメェ自身何かやったらどうなんだよ、この役立たずのゴミクズ野郎!!」
まただ、また言わなくてもいいことをこの体は勝手にしゃべる。
そしてそれが少しの本音を含んでいるということも自分で分かっている、でも言ってはいけないことでカズには非はほとんどないことも分かっているのだ。
だが本音を言ったせいだろうか、先ほどよりは頭がすっきりとしてくるのを感じ、体のコントロールをゆっくりと取り戻していくのを感じる。
それで俺はゆっくりと周りを見渡す、ほとんどの人が目の前に映し出されている映像ではなく俺の方を心配そうに見ている事に気付いた。
俺は今にも逃げ出したい気分だった、でもどこにも逃げる場所は存在しないのだ。
ここは迷宮の中で10畳ほどしかない石の孤島なのだから。
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