第37話『第2層 水禍劇場 第2ターン』 第1節
俺が敵陣を見ていると信じられないような光景が目に入る。
ジャッバールはうずくまる呪術師アリムを殴り飛ばしていた。
いやそれは正確じゃないかもしれない。俺から見えない何かによって、呪術師アリムはその何かがぶつかるたびに右に左に転がっていく。
「貴様は、我に、恥を、かかせたのだぞ!我は全力で、敵を潰せと、言ったはずだ!」
「……申し訳……ガフッ……ありません、殿下」
「謝って、すむと思って、いるのか?この愚か者が!今、我があのような羽虫の集団に負けておるのだぞ!この偉大なる血筋を持つガリブ家の末裔である我が、一時でも負けることなど許されていい事ではないのだ!」
「お願い……します。もう一度……機会を……」
「貴様もよく知っておろう、我は人に物を渡すことが何よりも嫌いなのだ!それが一度の機会であろうとな!」
その事は従者なら誰でも知っていたのであろう、全員が押し黙っている中、一人の老人と思われる腰が曲がっているためだろう他の物より背が低いが、時たま垣間見える目には、他の者より理知の光の様なものがある気がした。
「殿下、いや若様ここは儂の顔に免じて、このゲームが終わるまで不問にしてもらえませぬか?」
「ハーキム老、貴様老いに頭でもやられたか?こやつの所業は許されるべきではないものだ!」
「儂は許してほしいとは言っておりませぬ、ただこのゲームは人数が少なければ不利になりますじゃ。ですので終わるまでは、見なかったことにしていただきたいのですじゃ」
「このような無能がこれからも役に立つと?考えられぬな、こやつはやろうと思えば一瞬で羽虫どもを殺せたはずだ。それをしなかったこやつは万死に値するのではないか?」
「確かに若の言う通りですな。この馬鹿弟子は罪に値するでしょう。しかしながらですじゃ。相手の羽虫も我々の想像以上に頑張っております。ですので、確実に羽虫めを皆殺しにするためにも人数は必ず必要ですじゃ」
その老人の言葉にジャッバールは今までにない真剣な表情で悩みだす。
そしてすぐにその答えは出た。
「よかろう。ハーキム老の顔に免じ今のところは不問にし、もしこやつが期待以上の物を我に献上できればそのまま忘れよう。しかしそうでなかった場合は分かっておろうな?」
「はっ……承知しております。……必ずや殿下の期待にお答えいたします」
「期待せずにおこう。では次は周回側とかいったな、それは我が直々に出向いてやろうではないか」
その言葉に周囲の者たちは騒然として必死に止めようと必死に言葉を投げかけるが、それを聞く様子はジャッバールにはまったく感じられない。
「うるさいぞ!貴様らが全くと言っていいほど役に立たぬから、我がいくのだ。それにあの羽虫どもがどれほど頑張るか、我が直々に見てやろうではないか。サニヤ付いてこい」
「はっ!殿下の仰せのままに」
◇◇◇◇◇
どうやら向こうは、ジャッバールにその侍女のサニヤ、それから4人ほどの男の従者が行くようだ。
「どうやら向こうは、あの魔人の男が出てくるようだね」
俺が気付かぬ間に一緒に見ていたアルフレードが、俺の肩に手を置きながら優しいほほえみを浮かべ話してかけてくる。
やめろよ男相手だっていうのに、少しドキドキしたじゃねぇか!
「魔人ってなんだよ?」
「ああ、魔人は俗称だよ。ヴァロ大陸を支配している十貴族の中で、力の強いものを私たちの大陸の者は畏怖を込めて魔人と呼んでいるんだよ」
「へぇ~魔人ねぇ」
確かにジャッバールは魔人と呼んでもおかしくないほど、人間とはかけ離れた雰囲気を持っている。
あんなのを止める手段とかあんのかよ。俺には全く思いつかない。
「それで俺たちは誰がいくんですか?なんか遠距離攻撃ができる奴じゃないと厳しいと思うんですけど?」
「そうだね、第二小隊の魔法を使える者も第一のゲームで二人脱落している、魔法を使えるのは私にイザベラ副隊長に第二小隊の三名、そしてルー君の6人だけだ。この内4人程で次の攻撃に出ようと思っている」
「アルフレードさん、魔法だけではなく弓矢や石の投擲なんかも攻撃手段で入れるべきではないですか?」
その話に入ってきたのはカズだった。
確かにカズの言う通り魔法だけじゃなくて、弓矢や石なんかも有効な手段かもしれない。まぁ向こうが簡単に攻撃を受けてくれるかどうかは別問題だ。
「それなんだが、我らの中には弓を好んで使うものは1人しかいない。普段、我々は近接は剣、遠距離は魔法を使うことが多い。一応我々は弓も使えるのだが、戦闘で使えるかというと心もとない」
「じゃあオッサンとブルーノも魔法で戦うのか?」
「いや、ロドリゴは投げナイフなどの投擲が得意だと聞いた。ブルーノは完全に仲間を守ることを得意としているので、弓も魔法もあまり得意ではないようだ」
「じゃあ戦力に入らないか……」
その俺の評価に遠くから、うるせぇ誰が戦力外だ!というオッサンの声が聞こえてくるが、まぁ無視しておこう。
それにしても遠距離の攻撃で有効そうなのが7人だけというのは心もとない、俺たちニホン組は当然魔法も弓も使えはしない。
どうしたものかと考えていると。
「ちょお待ってください、ワイらだけ何もせんわけにいかんでしょう?ワイらにも協力させてください」
「「協力させて~な!」」
話かけてきたのはハーフリングたち4人だった。まぁ若干一名まったく口を開いてないが。
そんな俺の視線に気づいたのであろう、バイロンは説明するように話し始める。
「あぁすんまへん、ブレントの奴極度の人見知りでな、決まった人としか口きかへんのや。まぁそれはともかくな、ワイらも戦えるんやから使ってくれへんか?」
「いや、弓矢とか魔法とかあんま使えそうにみえねぇんだけど」
「私も失礼ながらハーフリングについては詳しくありませんが、そのようなことは聞いたことがありません」
「僕も聞いたことないかな?」
「あんさんらホンマひどいですわぁ。ワイらハーフリングは手先が器用で有名なんやで、石投げやって百発百中なんやで!」
「「百発百中や!」」
バイロンそれにエミリーとメアリーはどや顔で、全員同じように胸を叩きながら言ってくる。
信じないわけじゃないが胡散臭い、バイロンはまぁわかるが双子は良く分からない。その後ろで何もしゃべらずただ立っているだけのブレントって奴の事はなお良く分からない。
「カズはどう思う?こいつら戦力になると思うか?」
「う~ん、わからないけど、もし遠距離攻撃ができるならそんな人たちは無駄にできないんじゃないかな?」
「それもそうだよな。けどさぁ~」
「それではバイロンさん?次の攻撃回で力を見せてもらって、それで決めるというのでいかがですか?」
「ええですよ。いやぁ~燃えてきましたわ!それじゃあエミリーとメアリーは大人しゅうお留守番してるんやで」
「ええ~何でオッチャンだけやねん。あたしらも行きたいわ」
「行きたい行きたい!連れて行けやこの禿オヤジ!」
「誰が禿オヤジやねん、みてみぃフサフサやろが!」
ハーフリング三人はギャアギャア騒いでいるが、そこに割って入るほど俺もバカじゃない。
「それじゃあアルフレード……さん、他のメンバーはどうするんですか?」
「そうだね、ではまず私とイザベラ副隊長、魔法が得意なルシアとジョアン、それに弓が得意なジルベルトそれにハーフリング族のバイロンさんで行こうと思う」
「アルフレードさんがいく必要はないんじゃないですか?直接の攻撃はないにしても相手は何をやってくるか分かりませんし」
カズがアルフレードに苦言を呈していると、イザベラさんもいつの間に来たのやらアルフレードの近くに立ち、それに同意するように頷いている。
それにアルフレードはその質問に答えようと口を開くのだが、GMのオイロスの次のターンを告げる声にかき消され、その答えが俺たちに届くことはなかった。
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