第3話『ようこそ異世界迷宮へ』 第2節
ミナスの説明が終わった広間の中は騒然としていた。
ある者は仲間と何かを話すとすぐにパーティーメンバーと扉をくぐった。
ある者は近場にいる人々に話しかけメンバーに誘い。
ある者は何かの契約を他の者に持ち掛け。
ある者は全てを悟ったかのように俯き退場していった。
その中で俺たちは……普通に路頭に迷っていた。
「なあ、俺たちも早く扉に入ろうぜ」
「いやいや、あんたさっきのミナスって女の話聞いてなかったの?3人じゃ無理に決まってんでしょ。あたしら普通の高校生なんだよ?こんな良くわからないゲームなんか、3人で参加できるわけないでしょ!」
「つってもこんなかに俺たちの知り合いなんているわけないんだし、俺たちと一緒に行ってくれる人なんてどうやって見つけんだよ?」
「ほらいたじゃんさっきの金髪イケメン!!あの人に頼めば大丈夫なんじゃない?すごいいい人そうだったし」
アズサの発言に俺とカズトは一緒にため息をつく。
このスイーツ脳はほんとに困ったもんだ、アズサは必ず先に外見を全力で好きになりそして話して内面を全力で嫌いになるというのを繰り返している面倒な奴らしい。かくいう俺も最初の内はすごいキラキラした目で話しかけられたりしたのだが、二三度会話していると次第にこちらを残念なものを見る目で見てくるという失敬な奴なのだ。
「アズのスイーツ脳はいいとして、確かにさっきの人なら何とかなりそうかもな人がよさそうな感じがしたし」
「でしょ!?あたしの女の勘がそういってるの!それに見た!?あのさわやかな笑顔にサラサラの金髪、ほんっっっっとに王子さまっているんだなと思ったわよ」
「お、おう」
「うん、そうだね。あの人なら交渉できるかも」
「だよねだよね。……ってだれがスイーツ脳よ、股間蹴りつぶすわよ!」
「やめてくださいしんでしまいます。というかツッコミおせぇよ」
マジで一瞬ヒヤッとした主に股間辺りが。
それはともかく今はこんな事してる場合ではない、頭がお花畑のアズサは放置してカズトと作戦を練ることにする。
「ここってさ、やっぱ異世界なのかね?」
「そうだと思うよ、エルフにドワーフ、ハーフリングに獣人とか日本じゃいないだろうから」
「だよなぁしかも言葉もちゃんと通じるみたいだしな、どうなってんだか」
「う~~ん、このオンガニアの迷宮に秘密があるんだろうけど……、ここの階層をクリアしたら運営側の人に聞いてみたらいいんじゃないかな」
「まぁそうだな。今考えたって仕方ねぇよな」
ここは異世界なんだろう、今まわりにいる人々も人間じゃない人ばっかりだ。
それに手から出している光の玉もたぶん魔法なのだろう、元の世界じゃなかったものばかりだ。
「それよりさ、お前さっき交渉できるかもって言ってたけど具体的にどういうことだよ?俺たちが相手に何もできないのに協力関係を築けるもんなのか?」
「うん、まだ何とも言えないけど可能性は高いと思う」
「マジか!?俺たち何にもできないけどそれでも大丈夫なのか?」
「僕たちが何かできる必要はないよ、相手がこっちを役に立つと思ってくれればいいんだよ。」
横目で金髪イケメン名前はアルフレードだったか?を確認する。
今はハーフリング族の男と何やら話しているようだ、話し終える様子はないのでまだ大丈夫だろう。もし扉に向かうような感じになったらすぐに呼び止めるしかない。
俺とカズトは広間の隅っこに移動して、これからの作戦を話し始める。
「まず僕たちのアドバンテージはなんだかわかる?」
「え?そうだなぁ……あ!あれだろ現代の知識を持っててファンタジー世界で無双するってやつだろ」
「うん、まぁそれもあるかもしれないけど、まず僕たちにはクリアして望みを叶えなくてもいいってことがあるでしょ」
「は?いやいや俺たちだってクリアして生き返らせてもらわなきゃいけねぇじゃねか、それにバロールの奴に……まぁそれはいいや」
「うん……それでさ、他の人たちはみんなゲームをクリアして、願いを叶えてもらうってことが一番にあると思うんだ。でも僕たちは最悪何も願いを叶えなくてもゲームをクリアしさえすれば、バロールが契約を守ってくれるのなら生き返らせてくれるから、最低限僕たちの願いは叶う」
「なるほどな、それはわかったけどそれってそんなに重要なことか?そんなことぐらいで仲間に入れようと思わねぇだろ」
カズトの言うことはもっともだけどこれは命を懸けるゲームだ、そんなのを足手まといを連れていく意味などあるのだろうか?
それに変な奴らと一緒にいって、ゲームをクリアできないとなったら……そう思うとネガティブの事ばかりを考えてしまう。俺は是が非でも二人を生き返らせてやりたいのだ何としても。
「うん確かに仲間には入れてくれないかもしれない、でもミナスは人数は多い方が有利だと言ってたよね。だから囮や人柱、それにもしかしたらの時に何かに役に立つと思わせることが重要なんだと思う」
「囮や人柱って響きすげぇネガティブだな、でもそれしかねぇのかもなぁ……」
「それに僕たちにはさっきゼンも言ったように現代の知識もあるし、それにこれもあるしね」
そう言いながらゼンイチはリュックを下ろす。
俺たちは洋館に行った時のままの格好と持ち物でここにいる、つまり一応探検できるような恰好なわけだ。
しかし俺はショルダーバッグに懐中電灯、食べ物と飲み物、テッシュとハンカチそしてポケットに携帯と財布ぐらいしかもっていない、それはアズサも同じようなものだろう。
「そういえば聞いてなかったけどお前なに持ってきてるんだ?結構大きいリュックだけどさ」
「うん、傘とかデジカメに手回し充電器がついた懐中電灯とか、後は防寒具他に小物とかだけだけどね」
「そんなもんで大丈夫なのか?」
「うん、何とかなるんじゃないかな、もし駄目でも違う人を探せばいいだけだよ」
「ちょっと!私を除け者にして話を進めるのはやめてくれる!!」
先ほどまで妄想の世界に入り浸っていたアズはいつの間にか戻ってきたようで、俺たちの後ろに立っていた。
俺たちだけで話し合って一人にしてしまった事を怒っているのだろう、唇を突き出し眉間にしわを寄せて変な顔をしている。
「ああ、悪かったよ。アズがああなると、なかなか戻ってこないからな。それにしても…っふ、何お前の顔ふざけてんの?」
「私の顔のどこがふぜけてるっていうのよ!ウチでは天使のように可愛いっていっつも言われてんのよ」
「ゼンもアズも、もうやめよう。アズの変な顔はいつもの事なんだからさ」
「何気にカズが一番ひどいこと言ってんな、天然は怖えぇな」
「うん、すっごい胸を抉られた気がする」
「それは元々だな胸が抉れてるのは」
「ハァ?あんたマジで殺すわよ」
そういってアズサは襟をつかんで引っ張ってくる。
まぁなんにしても洋館での事が後を引いてなくて良かったと思う。この様子ならアズサはなんとかゲームクリアまで頑張ってくれそうだ。
ただカズトは少し様子がおかしい気がする。
「なぁカズ、お前ここに来てからちょっと変じゃないか?お前ってそんなに喋るやつじゃなかったよな」
「それは……」
そう言ったカズは苦悶の表情を浮かべてうつむいてしまっていた。
俺はまたやってしまった、いつも気を付けているつもりなのにふとした拍子に相手の弱いところを平気で触れるような真似をしてしまう、俺の以前からの悪い癖だ、直したつもりだったのにな。
「あっ……と、別に変な意味で言ったんじゃないんだ、お前が変に無理してんじゃないかと思ってそれで……」
「ううん、別にいいんだ。ただ僕は役立たずだから、もっとみんなの役に立てるようになりたと思ったから。頑張ってしゃべらないとと思って」
「そんなことねぇよ!俺の方が……」
「あんたらいつまでそのくだらない話してんの?早くしないと金髪イケメンがどっか行っちゃうじゃない。早くしてよ」
「お、おう、そうだな」
「うん、そうだね行こう」
やっぱり俺にもカズトにも洋館での事は心に引っかかっている、まあアズサの事はわからないが。
それでもこれからのゲームを死ぬ気で頑張らなければならない、みんなで生き残るために。
幸い金髪イケメンのアルフレードはハーフリング族(小人族)とまだ話しているようだった。
これからアルフレードとかいう人に一緒に連れて行ってもらうように頼まなければならない、正直俺にはどうしたらいいかはわからない、なんとかなればいいけどな。
読んでいただきありがとうございます。
本筋のゲームまでもう少しかかります、気長にお付き合いお願いします。




