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エスケープ・ダンジョン~オルガニア迷宮へようこそ~  作者: ほうこう
第二層 水禍劇場攻略編
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第36話『第2層 水禍劇場』 第8節

 ブルーノが無残に切り裂かれるのを俺は黙ってみているしかなかった。


「おい!何やってんだよぉぉ!!やめろぉぉぉぉ!!!」


 そんな叫びは水に溶ける様に吸い込まれて誰にも届かない。


 その間にもロドリゴのオッサンを守るように、仁王立ちするブルーノに黒い斬撃が殺到する。


 俺はそんな様子を見ているしかない、助けに行かなければいかなければならないだが、俺の心が、魂が、まるで力を失なったように動くのを拒んでいるかのようだった。


 そんな時にけたたましいバスケットボールのブザービートのような音が鳴り響く。

 俺はハッとして、中空に浮かんでいる砂時計を見る。砂時計の砂はすでに落ち切り、上には何も残っておらず上空から水を透して降り注ぐ光が、ガラスを反射して光を放っている。


 そんな光景を茫然と眺めていると、空をすべる様に石に乗ったGMのオイロスが現れる。


「参加中の皆さまゲーム終了の時間になりました、これよりの攻撃は反則になりますのでお気を付け下さい。そして今回のゲームでは周回達成者1名、攻撃達成者0名よってハウソーン同盟部隊様に3点のみが与えられます。次のゲームは砂時計が落ちた時に開始いたします。次のゲームは人数無制限です、皆様でよくお話合い下さい。それでは参加者を回収いたします。足場を送りますのでそちらにお乗りください」


 すぐに俺の目の前に浮遊する石が降りてくる、茫然としながらも石の上に乗りそのまま石に任せるままに移動する。そして石は1mほど浮遊すると、そのままロドリゴとブルーノの方へ移動する。


 俺はすぐに端に移動してロドリゴのオッサンとブルーノがいる方を見る。


 どうやらオッサンは所々傷だらけなようだが普通に動いている。

 問題なのはブルーノだ。見るからに傷は深く、肩から胴にかけて袈裟懸けに交差するように大きな傷が出来てしまっている。血も大量に出血しており、かなり危ない状態だというのは一目でわかる。


「この石もっと速く動かねぇのかよ!」


 そんな叫びは何の意味もなく、一定速度で石は中空をすべる様に動いていく。

 そんな間にもオッサンは血を止めるために布を当ててそれを必至におさえている。だがあのままでは確実に死んでしまう、何とかしなければ。


 それから数十分に思えるような、実際は数十秒を歯がみして待ち、ようやくオッサンたちと同じ足場の上に乗ることが出来た。


「オッサン大丈夫か?それにブルーノの様子はどうなんだよ!」


「うるせぇギャアギャア騒ぐな。俺はちょっと擦りむいただけだ。それよりブルーノの奴、俺をかばいやがった!散々いつもは不真面目だと説教してたくせに何だってんだ、チクショウ!」


「それよりオッサンは治療できんのか?」


「出来ねぇよ!俺ができるのは、傷病兵の血を止めてやるぐらいだ!」


「落ち着けよオッサン。だったらすぐに石の上にのせて自陣に戻って治療しないと不味いだろ?」


 慌てている人物がいると、こちらは冷静になるよくあることだけど、今回はロドリゴのオッサンが慌てているため、俺は冷静になっていた。


「ああ、わかってるよそんなこと!クッソ……わかった、それじゃあ俺が頭の方を持つからゼンは足を持ってくれ」


「うん、わかった」


 俺とオッサンで何とかブルーノを運ぶ、俺は能力のおかげで重さを感じないがオッサンはかなり重いのか、顔を真っ赤にしながらなんとか石の上まで運ぶことが出来た。


 三人が乗るとゆっくりと石は動き出し自陣へと向かう、その間も俺とオッサンで何とか止血しようと傷を押さえるも血は止まらず、俺の手を赤黒く染めていく。ブルーノの呼吸はどんどん小さくなって命が消えていくのを、冷たくなる血が教えてくれているようだった。


 その無様な様子を、楽し気に見て嘲笑(ちょうしょう)する呪術師の姿があった。


「そのデカブツまだ死んでなかったのかよ、早く死ね!死ね!なんなら今からでも殺してやろうか!クハ、クハハハ!」


「うるせぇ!テメェは絶対許さねぇからな!」


「許さねぇのはこっちだ!俺っちに恥をかかせやがって薄汚い人族風情が!!必ずぶっ殺してやるかんなあ!」


 そんな呪術師アリムの声はアリムが自陣の石に到着した途端に消え失せ、すぐに真面目な顔でジャッバールの元へと向かっている。


 俺は奴と罵り合いをしながらも、頭の中は自分自身に対しての責めさいなむ言葉でいっぱいだった。

 あの時一人でゴールせず戻って助けに行ってれば、あの時もっと呪術師アリムを挑発して攻撃をこちらに集中させてれば、いやそもそも俺の作戦がいけなかったのでは?そんな暗い考えが心を支配する。


 だけどそんな時にバカにするようで高圧的だが、どこか優し気にはげましてくれるそんな妖精の声が聞こえて俺は現実に引き戻される。


『……おい……おいってば!聞こえてんのかよ!!おい!!』


(うるさいな、聞こえているって)


『ヘッ、何回呼んでも返事がねぇからな、くたばったのかと思ったぜぇ』


(なぁエスリン?)


『なんだよ気持ちわりぃ声出しやがって』


(俺何にもできなかったよ、ブルーノの事助けられなかった)


『ハッ、てめぇ正義の味方にでもなったつもりかよ。テメェみてぇなカス野郎はできる事が限られてんだ、それが出来りゃあ上出来なんだよぉ!!』


(でもさぁ)


『ああぁ、もううるせぇ!!そういうことはテメェのお仲間にでも聞くんだなぁ。俺様はただ終わったんだったら能力を切るぞって言いたかっただけだぜ。それでどうすんだぁ?』


(ああそうだな、……そんじゃあ能力切ってくれ)


『ケッそれじゃあそうさせてもうぜぇ。それじゃあな!!』


(ああ……ありがとう……)


 エスリン12の言葉通り、ゼンイチの意識は一瞬途絶え、すぐに通常通りのゼンイチの肉体の視線に戻る。だが戻った瞬間に体中に激痛が走る。筋肉や骨を無理して動かしたせいだろう、筋肉が電気が走ったような痛みを感じ、骨からは動かすたびにきしんでるような感じがする。


 俺は痛みに耐えるためにくちびるをかみしめていると、少ししたころには体は大分ましになった。


 そうしている間に俺たち三人が乗っている石は自陣へと到着する。


 するとすぐにアルフレードや騎士たちがブルーノを担いで自陣の中央に移送していく。

 そこには治療専門の騎士たちが待ち構えており、早速治療に入っている。ロドリゴのオッサンも所々傷を負っているため一緒に治療を受けているようだった。


「水魔法をつかえるものは血流を操作して出血を止めなさい、火魔法を使えるものは熱湯の準備、医療知識があるものは傷の手当を行いなさい!早くしなければ仲間が死にます、時間が重要です。わかりましたね!!」


「「「はっっ!」」」


「他の者は次の攻撃に備えて戦闘準備せよ!!」


 俺が呆然と立ちすくむ中イザベラさんは次々と指示を出し、ブルーノの治療を行っているようだった。

 俺に何かできないか、そんな事を考えてもできそうなことなど思いつかない。


 そんな事を考えちゅうちょしていると、目の前に歩いてくる人物がいることに気付く。


 心ここにあらずでいたために近くに来るまでゼンイチは誰か気づかなかったが、近づいてきたのはアズサとカズト、それにアルフレードだった。


 しかし俺はアズたちの顔を直視できるわけがない、自分の能力を過大評価して俺ならできると勘違いして無理に俺も行かせてもらったのに、こんな体たらくだ。



「なんだよ、何にもできずにいる俺をバカにでもするつもりかよ。そうだよな敵の罠にかかって、俺だけ逃げ出して仲間も助けずに、足がすくんでいた俺は責められてもしょうがないよな。ほらどうしたんだ!笑えよ!馬鹿にしろよ!どうしたんだよ、何か言えよ!」


 俺がバカみたいに喚き散らしているが、向こうが何のリアクションもないことに戸惑いを隠せない。俺は地面を親の仇のように睨みながら、アズたちの反応を待った。


「……やって……よ、しん……させな……よ」


「は?なんて言ったんだよく聞こえなかったんだけど」


「心配させんなって言ってんでしょ!この馬鹿野郎!!」


 その声で俺はあやふやだった意識が色が付くように鮮明として、すぐに見上げるとアズは瞳からあふれるような涙をためながら俺の事をにらみ付けている。


 そんな様子に俺は頭が真っ白になる、どうしてアズは泣いてるんだ?しかも俺をにらみつけながら?そんな少し考えれば理由がわかることを、空転する頭で必死にに考えた。だけど答えなんて出るはずがない、俺が良く分からない状況にきょろきょろと周りを見ていると。


 突然体を包み込むように柔らかい感触と、嗅いだことの有るような無いような良いにおいがした。


 いつの間にか目の前にいたはずのアズは、俺の体にしがみつくように抱擁というにはかなりきつく、拘束と言ってもおかしくないほど、きつく俺を抱きしめてくる。


「ア、アズ?お、お前どうしたんだ?すげぇ苦しいんだが」


「アンタねぇ……ぐすっ……女子に抱きしめてもらって……ぐすっ……感想がそれなの?」


「いやだってさぁ、いやなんでもない。ごめんな……アズ、それにカズも。俺別にあんなこというつもりじゃなかったんだけどさ」


「知らないわよ……ぐすっ……バッカじゃないの?」


 そんな強がりを言うアズの体は少し震えているのが感じられて、俺がどれだけ心配させたのかどれだけの自分が無謀なことをしようとしていたのかを思い知る。

 それとはあまり関係のないが、アズの胸はやっぱり小さいなぁと考えたのはアズには言わないでおこう。



 ◇◇◇◇◇



 それから少しして恥ずかしくなったのか泣き止んだからなのか分らないが、突然俺を突き飛ばすように体を離し、うつむいて耳まで赤くなりながら走り去っていった。


 その後気まずそうな笑顔を浮かべながらアルフレードとカズがやって来た。


 アルフレードは俺に対してまずブルーノを助けてくれた礼を述べ、それから点数を無事に取ってくれたことに礼を述べた。


 俺としては二人を見捨てて取った点数という気がして、素直に喜べないがここで俺が落ち込んでいれば味方の士気を低くしてしまうだろう、俺は無理やりにでもテンションを上げてのぞむことにする。


「それよりブルーノは大丈夫なんですか?」


「いや多分もう今回の戦線復帰は無理だろう、しかし命だけはつなぎ留められた。うちの部下と君たちがよく頑張ってくれたおかげだ。それにルー君の力も借りたからね」


 ブルーノの方を見てみると確かに近くにルーが座り込み、薬のようなものをブルーノに飲ませている。ルーは優秀なドルイドということだから大丈夫だろう。


 それよりもこれから問題なのは次の周回側にまわった時だろう、俺には魔族の呪術を今度は攻略できるのだろうか。今は思い浮かばない。


 なんとかヒントを得ようとジャッバールたちの方を見ると、そこには味方を悪鬼のように吹き飛ばず、黒いうろこの魔人のすがたがあった。


読んでいただきありがとうございます。

次は幕間を予定しています、読んでいただければありがたいです。


それからもしかしたらタイトルを変更するかもしれません、とは言っても良い名前を思いつけばですが。

これからもよろしくお願いいたします。

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