第34話『第2層 水禍劇場』 第6節
口が悪い妖精のエスリン12はこの緊迫した状況だというのに、いつもの調子で返事をしてくる。
最初はかなりイラッとしたのだが、なんか聞いてるうちに許せてきてしまうし、何だか緊張感が和らいでいくから不思議だ。
(おいエスリン!なんで何回も呼んでんのになんで返事しねぇんだよ!!)
『うるせぇな、てめぇの女の連れがギャアギャア騒ぐから聞こえなかったんだよ!文句があったらそいつに言うんだなぁ』
アズの事だろうか?ここまでは聞こえなかったが、いつもは強気なアズだがこういう場面には弱そうな感じはしていた。でもあずはここぞという場面で強いと思う、だから大丈夫だろう。
そんな事より早くこの状況を打破する方策を見つけなければ、全滅は必至だ。
(まぁいいや、それよりも早く能力の解除をしてくれ。このままじゃやられる)
『まぁあわてんなよぉ。今やっている念話は現実の時間と、意識の上の時間じゃ進み方が違げぇんだよ。前にも言ったろぉ?』
そう言われて改めて辺りを見ようとする、だが体がほとんど動かないのがわかる。体も首も眼球も動かすにはものすごく時間がかかる、つまり俺は意識だけが高速で動きそれ以外はスローモーションで動いているということだろう。
だがそれでも今はこれは、起死回生の手段になる。
(なぁこの念話っていつでもどこでも使えるのか?)
『アァ?まぁなテメェが俺に呼び掛けて、それに俺様が答えればいつでもできんぜぇ。それがどうしたんだぁ?』
(いや、なんでもない。でも今後俺が呼びかけたら、いつでも答えてくれるのか?)
『ハァ?テメェのわがままに俺様がずっとつき合わなきゃなんねぇてのかよぉ。ごめんこうむるね』
(そう言わずに頼むって、この念話がないと不味いことになるんだって。俺たちが負ければお前も困るだろ?)
『チッ、しゃあねぇなぁ、だがあんまり何度もやるんじゃねぇぞ!』
(わかってるって、ありがとうな)
『ハッ、礼なんか言うんじゃねぇよ、気持ちわりぃ』
エスリン12はなんだかんだ言いながら、結構助けてくれる奴だっていうのは短い付き合いだけどわかる。いや~ほんとちょろ可愛い妖精が仲間で良かった。
まぁそんな事より今は対策を考えないとな。
(なぁエスリン、お前呪術に詳しいんだろ?この呪縛の術の解き方ってわからないのか?)
『んなの知るか!!テメェで考えろや!!』
(そんなこと言うなよ、ん~~それじゃあヒントは!なにか呪術に関してわかることを教えてくれよ!)
『ホントうるせぇなてめぇ、わぁったよメンドくせぇが教えてやる。呪術ってのはマナを使って精神や魂に影響を及ぼす術だ。魔法はマナを使って自然に干渉して力を使うもんだ。つまり全くの別物ってわけだぜぇ』
(それじゃあ、このいまかかってる呪縛の術も精神や魂を影響を及ぼして足を動かなくしてるってのか?)
『ああそうじゃねぇか?俺様だって細かいことは知らねぇよ。』
(じゃあ抜け出すにはどうしたらいい?何か条件があるのか?)
『そうだな、体から魂や精神を切り離すってぇのが定番の抜け出す方法かもなぁ。お前の能力みたいによぉ』
そう俺の能力は体から魂を切り離し、そこから体を操作する能力を便宜的に模倣魂操と名付ける。ちょっと中二病入ってるが、まぁこの際どうでもいいか。
それはいいとして体から精神を切り離すから、呪術の影響からは抜け出せるって事か?まぁこれはやってみないとわからんな。
(じゃあ他の奴はどうしたらいいんだ?なんかいい方法ないんか?)
『さぁな、思いっきりブッ叩けばいいんじゃねぇかぁ?』
(なんだそりゃ、ホントにそれでいいのかよ?)
『ハッ、後はテメェが決めるこったぜ!!もういいだろぉ、それじゃあ能力制限を解くぜ。後はお前の好きにしやがれ!!』
(いやちょっとまてって、心の準備が……)
俺のそんな切実な呼びかけを完全に無視して、エスリン12は呪文のように機械的に言葉を連ね始める。
『能力起動回路生成……成功、能力リミッターの解除……成功、能力起動プロセス……成功。能力発動しますか? YES/NO』
(ああもう!!、YESだ!)
『起動承認を確認、能力を解放します』
その声で俺の意識は一瞬で闇の中に溶ける様に消えていく。だけどこの感覚は前にも体験した、だから怖くはない、と思う。
そして次の瞬間にはぼやけている視点がだんだんとあっていくように、徐々に風景が開かれていく。
目の前にあったのはまず俺の体、だがさっきとは違い俺の体は立ったまま、力が抜けたように腕を伸ばしている。多分俺の魂が切り離されたために術が解けたのだろう、まるでゾンビのように脱力し膝をついている。
それを見ている呪術師のアラムはいぶかし気にこちらを見ている。そしてロドリゴのオッサンとブルーノは俺の少し遠いところに後ろ向きで立っている。そのため俺の事が見えていないはずだけど、俺の様子が変な事に気付いたのだろう音か何かで気付いたのだろう、俺に何か呼びかかているようだ。
しかし俺はいま魂の状態で切り離されていて何を言っているかは聞こえない。
念話はすでに解けてしまっている、早くしなければ今すぐにでも敵は攻撃してくるだろう。
俺は前のゲームと同様に意識を集中して、ゲームのコントローラを想像する。具体的にはっきりと正確に自分の思い描いているものを創造していく。
すると目の前にこの前と同じく、某有名企業の据え置きゲーム機の黒いコントローラが現れる。
ここまでくれば後は簡単だ。すぐにそのコントローラから、俺の魂と体をつなげるケーブルをするすると伸ばし、自分の体に繋げる。
そうすると感覚的に自分の体が動かせるようになったことがすぐにわかる。
俺はすぐに前の設定したボタンで立ち上がり姿勢を元に戻す。
そしてなんとそのコントローラから体の周囲の音が出ていることに気付く。まさかそんなところまで再現できるとは思わなかったのだが、コントローラ内蔵のスピーカーも再現されており、そこからオッサンとブルーノの声が聞こえてくる。
しかしなんだか少し聞き取りにくい、そう思いマイク付きのヘッドセットを作り出してコントローラにイヤホンジャックを差すようにイメージする。これで音も聞こえるし、しゃべることもできるはずだ。
どんどんボリュームを上げる様に、周りの音が聞こえてくる。
「おいゼン聞いてんのか?さっきから何もしゃべらないが大丈夫か?おいゼン?!」
「そんなに言わなくても聞こえてるってオッサン」
「大丈夫だったのか?なんか突然何も喋らなくなったが」
「大丈夫大丈夫。つうか俺の術解けたみたいだわ」
「なっ!?どうやってやったんだ!俺たちのも解いてくれ!!」
「そうあわてんなって、ブルーノ……さんはどうなんだ?まだ戦えそうなのか?」
「ブルーノでいい、ワシはもう戦えんだろう。動けるなら先に行ってほしい」
ということは動けてゴールまで行けるのは俺と術を解ければオッサンだけかもしれない。
それでもこのままブルーノを放っておくことはしたくない。残り時間は砂時計の半分より少しあるかないかぐらいだ。
だとしたら取れる作戦はこれしかない!!
「なぁオッサン、それにブルーノ。俺に作戦があるんだけど……」
だけど俺は言ってみて気付く、俺は二人に信頼されてもいないし信用されてもいない。まして命がけの場面で命を預けられる存在でもない、そんな奴の作戦にはたして二人は乗ってくれるのだろうか?
「お前が作戦ねぇ。大丈夫なのか?確かに第1層では助けてもらったが、お前さんの作戦ってのはどうもなぁ……」
「やっぱり……そうだよな」
「いいだろう……、ワシはその作戦とやらに乗ろう」
「おいブルーノ、こんな子供の作戦に乗ろうってのか?お前どうかしてんぞ」
「ふん、このままでは全員死ぬ。だとすれば一度はこのゼン少年に命を救われた身だ。もう一度命を懸けても問題なかろう」
「はぁ~そうなんだよなぁ、俺もこいつに助けられたんだったなぁ。仕方ねぇ、だったらまぁ今度はこいつを助けてやるとするか」
「二人とも……ありがとな。じゃあ作戦会議と行きますか」
そんな不器用な俺の言葉に、顔は見えないが笑っているのが背中を見ても分かる。俺はそんな二人に作戦の概要を、できるだけ簡単に説明する。
だけどそんな事を待ってくれるほど敵も甘くない。
「オイオイ、さっきからごちゃごちゃと話しちゃってよ。俺っちを無視するとはいい度胸じゃんか。こっちの準備はもう整ったぜ。次に狙って欲しい奴はどいつだ!」
そのイライラとした声を出しているのを聞きながらも、俺は必死に二人に説明を行った。
二人は納得したようなしてないような微妙な感じだったが、最後にはわかったお前に任せると言ってくれた。
こんなに誰かに信頼されて任されるということが初めてだった俺は、なんだか涙が出そうだった。でもそんな青春ごっこをしている場合じゃない、作戦ができる事に決まったら俺のやることは一つだ。
「おいそこのヘンテコ魔族、お前は呪縛の術とかって術で俺たちを嵌めなくちゃなんもできないチキン野郎なんだろ!それになお前の攻撃の血を飛ばすとか、ホントに気持ち悪からな魔族がこんなのばかりとかマジで背筋がぞっとするわ!!」
「テメェ!!俺っちたち魔族に対して劣等種族の人族ごときが!!……死んで償えや!!」
見るからに青筋を立てて怒っている呪術師アリムは腕を挙げて右手を開き、俺に向かって空中に血の塊を浮かべていく。
そうだいいぞ!俺を狙ってこい!
「それじゃあ死ねや劣等種!呪血の飛礫!!!」
呪術師アリムは勝利を確信した、どす黒い笑みを浮かべて手を振り下ろす。それと同時に赤黒い飛礫が俺を殺戮しようと殺到する。
よし!狙い通りだ!それじゃあ行くぜ、起死回生の作戦スタートだ!!!
読んでいただきありがとうございます。
次はなるべく早く更新できるように頑張ります。




