第32話『第2層 水禍劇場』 第4節
俺たちはルールの確認と作戦の立案のために作戦会議を開くことになった。
そこでまず口を開いたのはアルフレードだった。
「まずみんなに言っておくことがある、士気を下げることになるかもしれないが、これからのゲームはかなり厳しい事になるそれだけは覚えていてほしい」
「ちょっと待てよ!確かにこっちは戦力的に厳しいのかもしれないですけど、そこまで厳しいようには思えないんですが。それにこのゲームって直接戦うわけじゃないですよね?だったらこっちにも勝ち目があるんじゃないですか?」
話し合いが始まってからいきなりの弱気な発言に俺は食い気味に物言いをつける。
確かに相手がヤバい奴だっていうのは身をもって知っているが、やらなければわからないだろう。
「確かにゼン君の言うのはもっともだ。だが相手はあの魔族なのだ。何らかの対策がなければ厳しいのは騎士たちならばわかっているはずだ」
その発言に騎士たちは無言で頷いている。
「俺たちは魔族がどんなものかも知らないんですよ。勝手に納得しないほしいんですけど」
「そういえばそうだったね、君たちは遠い異国から来たのだった。そこではまったく魔族について聞いてないのかい?」
「え?えっと、なんとなくのイメージはあるんですけど、具体的なことは何も知らないですかねぇ」
アニメやゲームではかなり悪役なイメージが強い、それに人間とは違う異形の存在という感じだろうか?
そんなイメージを膨らませる俺にイザベラさんが話しかけてくる。
「魔族の特徴はその部族によって異なります、固い甲殻に覆われた種族や鱗などに覆われている種族など多種多様です。彼らは普段ヴァロ大陸の中で勢力争いしているため、会うことがありません。しかし稀に他の大陸に姿を現したときに、彼らは私たちにとっての災害と同様の存在になります」
「災害!?」
「はい、彼らの身体能力も人族や亜人族に比べて高く、獣人以上か同等と言われています。しかし何よりも危険なのが呪術による攻撃です。これについては技術体系が違いすぎるためハッキリしたことは申し上げられませんが、相手を死に至らしめる危険なものが多く。例えばドワーフの国バサーラ帝国では一個旅団が全滅したと報告書で呼んだことがあります」
「ちょっと待って……下さい、俺も呪術については少しは知ってます」
どうもやっぱりイザベラさんは苦手だ、うちの姉に雰囲気がにすぎでうまく言葉が出てこない。
だけどここでメイドのテセラから聞いた情報を教えなければ、勝敗にも関係してくる。俺はなんとか言葉に詰まりながらも説明を行う。
「なるほど相手を動けなくする魔眼の使い手というわけですね。そして精神力が強く、護符のような物があれば防げるかもしれないと」
「ええ、そうです」
「そうですか、それに黒いうろこに蛇のような鱗に爬虫類の爪ですか、噂話程度には魔族にそのような種族がいるというのは聞いたことがありますが、具体的にどのような呪術を使うかは残念ながらわからないです。それに護符のような物は残念ながら装備の中にはありませんね」
その言葉で話は途切れてしまい全員が押し黙ってしまう、そうしている間にも時間は刻一刻と過ぎていき、砂時計の砂はすでに半分を切っていた。
その時に口を開いたのはカズだった。
「今は魔族の事は置いておきませんか?それよりもゲームの攻略の事を考えましょう」
「そうですね、時間もありませんから」
「でもあっちの魔族っていうの?すごいヤバイ奴じゃない!何の対策も立てなくてもいいの?」
同意するイザベラさんと対称にアズは反対の声を上げる。
どちらも正論なのだが、今は時間がないのは確かだ。
「アズ、今は時間がないんだって。今戦略を決めなきゃまずいんだっての!」
「私だってそんなことわかってんのよ。でも怖いじゃない……」
「ゼンそれにアズ喧嘩しないでよ。アズ気持ちはわかるけど今は時間がないから対策を立てるのは後だよ。今は早く次のゲームの人数の決定、挑戦する人の選定をしなくちゃいけないから」
「そうだな。済まない、私もいつの間にか臆病風に吹かれてしまっていたようだ。カズ君きみの言う通り、今は相手の対策より、ゲームに関する対策を考える時だろう」
今まで喋らなかったアルフレードは自分を恥じる様にそう言うと、その後はアルフレードとカズが話し合いを先導するように進められていき、俺たちは最初の戦略を立てていった。
そして砂時計の砂がすべて落ち、GMのオイロスの面白がるような嘲るような声が響く。
「それでは皆様時間終了となります。それでは周回側のハウソーン同盟部隊の皆さま、参加人数を教えていただけますか?」
「それでは我々は3名で臨みたいと思います」
それを聞いたジャッバールは笑い声をあげる。
「フハハハハハハ、羽虫がそのような人数で我々の攻撃をしのぎ切れると思っておるのか!よかろう我々は1人で行ってやろう、羽虫相手にはそれで十分だ。アリム前に出よ」
「ハッ、殿下ここに」
その声でジャッバールの後ろからローブを目深にかぶり奇妙な形の杖を持った男が前に出ていく。
男は顔はあまり見えないが、口元は邪悪な笑みを浮かべている。
「貴様が出よ、全力でかかれよ。間違っても相手に勝ちを与えるな!!」
「かしこまりました。ガリブ家親衛隊の名誉にかけまして、必ずや殿下に勝利を!」
そして俺たちの人選だが。
「それではいいかな三人とも」
「ああ、大丈夫だ任せとけ!」
「大丈夫だぜ隊長、相手は魔族でおっかねぇけど、まぁほどほどに頑張りますわ」
「隊長、ガルド聖王国騎士の名に恥じぬ戦いをすると誓いまする」
そう俺ことゼンとオッサンことロドリゴ、それに騎士団の中でも巨漢のブルーノという大きな盾を持った、前の階層で俺が引きずりながら階段に放り込んだオヤジだ。
そんな俺たち三人が前に出て並ぶ。
まぁ人選にはそんなに意味はない、本来はアルフレードの提案で最初は様子見として少人数で騎士団から二人ということになり、機動力のあるロドリゴに盾役としてブルーノを提案して、みんなそれを認めたのだが、俺がどうしても出たいと言い張りこんな感じになった。
カズとアズの方に視線を向けると、カズは呆れたようなそんな顔をしていてアズも怒っているような心配しているような難しい顔をしている。
しょうがないじゃん、俺はもう逃げたくないし嫌なことに自分から飛び込んでいくことにしたんだから。それにジャッバールとかって奴の鼻を明かしてやらないと気が済まないのだ。
参加する人間が出そろったことを確認したのか、GMのオイロスは楽しそうに笑いながら話を始める。
「参加者は出そろったようでございますね、それではあなた方をステージまでお連れいたします」
そしてオイロスはパチンと指を鳴らすと地面を覆っている水の中から、オイロスが乗っている石よりかなり大きめだが同じような石が浮かんでくる。
「それでは参加者の皆さまはそちらにお乗りください。」
その指示に従い俺たち三人と、ジャッバールの部下であるアリムは石の上に大人しく乗る。
するとまるで水上をすべる様に石は動き始め、振動など特になくまるで雲にでも乗っているかのようにふわふわとした浮遊感を味わいながら俺たちは赤い足場付近に到着し、そちらに飛び移る。
そのすぐ後に数秒遅れてアリムも中央の足場に降り立った、これで準備は完了だろう。後はGMのオイロスの掛け声があればゲームスタートだ。
「それでは皆様よろしいですね、確認になりますが赤い足場にいるときは攻撃をできません。もし攻撃しても結界に阻まれます。そしてこちらの砂時計の砂が落ち切った時に終了となりますので周回側の方はお気を付け下さい」
その最後の確認が終わると俺たち三人とアリムの間に緊張が走っているのを肌で感じる。
隣のオッサンからもいつものお気楽な様子は見られず、ピリピリとした殺気の様な嫌な感じを受けて肌が粟立つ。
そんな様子を楽しむようにオイロスは弾むような声で
「それでは始めましょう、第1ゲーム開始です!!」
その言葉で俺たちは一斉に動き出した。
読んでいただきありがとうございます。
本来であればステージについて図解したいのですが、絵が絶望的に下手なので書けませんでした。
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