第28話『新たなゲームへのプレリュード』 第6節
入口ホール説明会はアステリさんの美しい一礼から始まった。
その様子をホールにいる一同は固唾をのんで見守っていた。
見つめている人々の眼には期待、欲望、希望、色々な感情などが入り混じった熱い視線を向けている。
そんな事を見透かしているのか、気にしていないのか何も動じることがなく、堂々とした様子で話をアステリさんは続けている。
「それでは早速説明を行っていきたいと思います。ではまずDPとTPについて説明していきたいと思います」
今の今まで忘れていたが一番最初の部屋でそのようなことを言いていたことを、今更ながら思い出す。
確かDPやTPを獲得した量によって望みを叶えられる大きさが違う、というような事を言っていた気がする。
「まずDPはそのままダンジョンポイントの略になります。ダンジョンポイントはゲームをクリアするごとに一定の値が加算されます。TPはタクティカルポイントの略で戦術的な優劣でポイント数が増減いたします」
その言葉を聞いた周りはざわざわと困惑の声を上げ始める。
困惑するのも当たり前だろう、俺たちは何も説明がなく第一のゲームを始めたのだ。後になってからTPの説明をされてもどうしようもなく、納得できるものではないからだ。
「みなさん、ご静粛にお願いいたします。第一層の第一のゲームではTPの加算は行いません、クリアしたことによる100DPのみの加算になっております。ご了承ください。まずDPはダンジョンの階層数×100DPが加算され、そしてTPの加算方法につきましては階層ごとのFMによって管理されています。ゲームが始まる前にFMへの確認をお勧めいたします。」
何かあまり納得いかない部分があるが、これは納得するしかないのだろう。全員同じ条件なのだから変に文句を言うわけにもいかないだろう。
「それからTPには譲渡と移譲のシステムがございます。皆様にはパーティー名とパーティーリーダーを決めていただきました。それはDPとTPを管理するのがリーダーの役目だからです。そしてそのリーダーの権限でTPを、他のパーティーに譲渡と移譲を行うことが出来ます。譲渡はパーティーが何らかの理由で攻略をあきらめた時にTPを渡すシステムです。移譲はパーティーを統廃合する場合にTPを渡すシステムになります。ここまでの説明でわかっていただけると思いますが、我々はパーティーの統廃合やパーティーメンバーの移動などを推奨しております。この先のゲームは人数不足では確実に不利になります。その事をよくご考慮の上次のゲームに進んでください」
GMやFMがこんなこと言っていいのか?これでは優秀な人材の取り合いになったり脅してのパーティーの統廃合などが起ってしまう気がするのだが、もしかして運営はそれを狙ってやっているのだろうか?
「それではこれでDPとTPの説明に終わらさせていただきたいと思います。もう一度聞きたい方はメイドにお申し付けください。ルールの範囲内で話をさせていただきたいと思います。続いてクリア後の報酬であります。願いについてご説明させていただきたいと思います」
ついに来たかと全員が先ほどまでざわざわとしているのをやめ、食い入るようにアステリさんの方を見ている。
「それではこちらをご覧ください」
アステリさんがそう言うと、右手を前面に高く掲げ何かつぶやくとエステルさんの目の前数mの所に透明な板状のものがよく映画であるような立体映像でのように現れ、そこに日本語で文字が箇条書きで現れ、そこの横に数字が書いてある。
「こちらが叶えることが出来る願いのリストになります。横に表示されておりますCPはクリアポイントでクリア時に獲得しているDPとTPの合計になります。そしていま表示していますリストは皆様が一番読みやすい文字で表示させていただいております。もし後でもう一度聞きたいということでしたら、下の酒場カウンターにてお聞きください。口頭に伝えさせていただきます」
なるほど異世界なのに道理で日本語表示されてるのは変だと思った。
そんな事を考えながらリストの内容を読んでいく、内容はこんな感じだ。
【 巨万の富を生み出す壺 800CP
一騎当千の剣 900CP
金城鉄壁の盾 900CP
人心魅了の眼 1000CP
英雄豪傑の力 1000CP
万病・身体を治す薬 1200CP
不老不死の薬(10錠) 1500CP
植物豊穣の種(20粒) 1600CP
知性の木の実(5個) 2900CP
生命蘇生の杖(5回) 3500CP
万物創造の権利(3回) 100000CP 】
といった事が表示されていた。
俺は思わず生唾を飲み込んだ、俺たちは確かに望みを叶えるためにこのダンジョンをクリアするんじゃない。元の世界元の場所で普通に生活するために、そのためにクリアする。それは変わっていない。
だけど
「こんなの欲が出てくるに決まってるだろ……」
そんな独り言が自分の喉から勝手に出てきた。
もし自分が英雄豪傑の力を手に入れたら、もし自分が不老不死の薬を手に入れたら、もし自分が万物創造の権利を手に入れたら、そんな妄想が頭の中を駆け巡る。
他の人間の顔を見ても、欲望に染まりきった顔をしている者や、自分の遂行しなければいけないことを考えて冷静に計算している者、必死で表示されているものをメモしている者と様々だ。
しかしこの中で3つしか願いを叶えることが出来ず、しかもそれはクリアできたものだけの特権だ。
その事を考えて何とか自分を落ち着かせる。
そして全員が読み終わったであろうことを確認したアステリさんは話を続ける。
「皆様いかがだったでしょうか、皆様の望みが叶えられれば幸いです。それではいま表示させていただいてるものは消させていただきます。先ほども言いましたがもう一度お聞きになりたければメイドまでお願いいたします」
そういうと目の前に出ている立体映像は消失した。
するとここに集っている多くの者からため息に似た吐息が聞こえてくる。
その気持ちはすごくわかる、俺も願いが叶う妄想だけで飯が三杯食えそうな感じだったのだ。命がけでここに来ている者なら、誰しもがそんな感じだろう。
「それでは皆様これにて説明を終わらせていただきたいと思います。明朝よりの次のゲームが始まります。参加者の方は迷宮角鷲亭を出たところにあります広場にお集まりください。また戦闘不能状態の方はパーティー生存まではここにご滞在いただけますが、パーティー敗退が決定次第、強制敗北になりますのでお気を付け下さい。そしてゲームに参加しないパーティーリーダーがいる場合も、パーティー全員が敗北扱いなりますのでお気を付け下さい」
まぁつまりはズルしてゲームに参加しないというのは認めないということだろう。
確かに権力を持っている奴が奴隷みたいなやつを使って自分は部屋で寛いで他には戦わせるみたいなことが起こる可能性があるのだろう。
「それでは皆様の健闘をお祈りしております。どうぞ良きゲームを……」
そう言ってアステリさんは優美に一礼すると、背後にあった両開きのドアをメイドさんに開けさせて颯爽と出ていった。
その後俺たちは一度アルフレード達と合流し話し合いを行った後、俺はカズと一緒の部屋、アズはルーと一緒に寝るということで別々の部屋に分かれた。
部屋に運ばれてきた食事は昼頃に食べた食事と一緒で少しだけ残念だったが、綺麗に食べ終え俺とカズはすぐに就寝することにした。
だけど俺はなかなか寝付けずにいた。
頭の中はもしクリア出来たらどうするかということと、明日のゲームはどのようなものになるのかという興奮と恐怖によって勝手に目が覚めてしまっていた。しかし無理やり目を閉じて他の事を考える様にして、そのどうしようもないことを頭の隅に追いやる。
カズやアズの事、エスリン12の事、機械人形の少女テセラの事、アルフレードの事、それに意味深なことを言っていたオッサンの事、すごく濃い色々あった今日を振り返ってみる。
そんなとりとめのない色々なことを考えているうちに俺はいつの間にか眠りに落ちていた。
読んでいただきありがとうございます。
次からはいよいよ第二のゲーム編に突入します。
これからもお付き合いいただければありがたいです。




